スキルメイカー

にこ

閑話1:初代勇者とルーメル

少し時は遡り、竜馬たちが召喚されてから約1週間がたった初めての休日の日のこと。
「本日の休日の過ごし方についてですが、基本的には自由に過ごしていただいて構いませんが。ですが騎士が立っている部屋と白の外にはいかないでください。勇者様方が召喚されたことは1部のものを除いてまだ知られていません。これは勇者様が強くなられるまで魔族に狙われることを防ぐためなのでご理解の方をお願いします」
メイド長であるリリーさんの話が終わるとみんなはそれぞれ休日を満喫しに散っていった。


「さて、俺は図書室にでも行くかな」
転移前はしょっちゅう小説ラノベを読んでいたがさすがにこの世界にはないだろう。だが、何かしらの物語の本ぐらいはあるだろうとの考えだ。


……探し回ること数十分見つけたのは1冊の絵本だった。
「え~っと、“ハイウッド物語”? ハイウッドって高木だよな? 日本人の物語?」
絵本の内容はこのようなものだった。


昔々、まだ人々が種族や民族単位で暮らしていたころ、現在魔大陸と呼ばれるところから魔族が魔物を使役して進行してきた。人々は抵抗をしたが強力な身体能力や能力を持つ魔物や魔族に徐々に押されて南へと後退していった。


そんな状況を見ていた女神ルリアは邪悪な魔族に対抗するために当時のアクト大陸の中央に存在していた世界樹ルーメルの膨大な生命力を1つの魔法陣へと変換をした。
魔法陣が発動すると中から1人の青年が現れた。その青年は強力なスキルを持ち、固有の魔法を使って魔物や魔族を次々に倒していった。
魔族と戦う時に光り輝く剣と魔法を使っていたため、その青年は後に“光の勇者”と呼ばれた。


大陸にいた魔族を倒した勇者はその、後魔大陸に渡り魔族の王、つまり魔王を封印した。
魔王が封印されたことにより魔族は統率が取れなくなり各個勇者に倒されていった。


その後、勇者はアクト大陸に戻り魔族との戦いでボロボロになった人々の為に1つの国を建国した。
世界樹ルーメルの跡地を中心に全種族が平等に暮らせる国、ルーメルと言う名の国を。
そして最後に勇者は平和な世界で人々の囲まれながら幸せに暮らしたと言う文で締めくくられている。


俺は絵本を閉じ棚へと本を戻した。
(この国は勇者が興した国だったのか。全ての種族が平等に暮らせる国か。いかにも日本人が考えそうなことだな)


俺は図書室を出ると考え事をしながら歩いた。
(そういえば王女様も言ってたけどなぜ倒したではなく封印なんだろう。何か倒す事のできない事情があったのか? )
疑問には思っても推測できるわけでも無かった。
そしてもう1つの疑問、絵本では勇者は、となっていた。勇者はなぜ日本に、元の世界に帰らなかたのか。そもそも帰ることはできたのか。
(ま、今考えてもしょうがないしな。それよりも……)


回りを見渡すとずっと変わらない同じ色の壁が左右にあり、通路が真っ直ぐ伸びていた。
窓から見える景色から察するに1階なのは間違いないだろう。
何が言いたいのかと言うと、迷子になってしまったようだった。と、言っても前は扉があり後ろは1本道なので引き返せば知っているところに戻れるだろう。


俺は元来た道を引き返そうとしたが、ふと前の扉が少し開いているのに気づいた。
なんとなく気になったので覗いてみると部屋の中は中庭? のようになっているようで地面に花が咲き、中央に木が1本植わっていた。
部屋に入ってみると天井から光を取り入れていると思っていたが、実際は天井の近くに光を発している球体があった。
おそらくあの球体は太陽の代わりとなっているのだろう。


木の周りに植わっている花を踏まないように近付くと木の根元に人が座って本を読んでいた。
よく見ると王女様のようだった。
本を読んでいるため俺に全く気づいてないようなので邪魔をしないように部屋から出ようとしたが、うっかり地面に落ちていた木の枝を踏んでしまった。


「誰ですか!」
「お、俺です。竜馬です」
「え? リョウマさんですか? はぁ、ビックリしたじゃないですか、驚かせないでください」
王女様は急に音が聞こえたので驚いたようだったが、俺だとわかると少し落ち着いたようだ。


「それでリョウマさんはどうしてここに? というかこの部屋は人避けの魔法がかけられているのですが」
「いや、考え事をしながら歩いてたらいつのまにかここにたどり着いていたんですよ。王女様はいつもここにいるのですか?」
そういうと王女様は少し不機嫌そうにこっちを睨んだ。


「リョウマさん。先日にも言ったじゃないですか。私のことはククルでいいと。そもそもリョウマさんの方が年上ですし、私は皆さんと親しくなりたいのです」
「分かりまし「敬語も不要ですよ」……分かった、それでクルルはよくここに来るのか?」
そういうと王女さ、クルルは笑顔になり肯定をした。


「はい、ここは王城でも、いえ、この大陸でも一番特別な場所なのです。先日にも少しお話ししましたが
今から約600年前、魔王が率いる魔族たちによってこの大陸の全種族が滅亡の危機に瀕しました。その様子を知った女神ルリア様がある樹を魔法陣に変換をして初代勇者様をお呼びしました」
「ああ、さっき読んだ“ハイウッド物語にも書かれてたな」
「あの本を読んだのですか? それならそのあとのお話は省略させていただきますね。初代勇者様は魔王封印後、ルーメルの樹があった場所を中心にこの国、ルーメルを建国しました。ですが、その時初代勇者様はルーメルの樹が植わっていた場所、その根元に1本の若木が育っていることに気づきました」


「もしかしてそれって……」
「はい、世界樹ルーメルの生まれ変わりのような樹ですね。そして初代勇者様はその樹をこの国の守護樹とし、王族が代々守ってきました。つまり今ここに植わっている樹がそのルーメル樹です」
そういわれて改めて樹を見てみるが、世界樹という割には大きくもなくそこら辺の樹と一緒にされれば見分けのつかないような普通の樹にしか見えなかった」
俺がいぶかしんでいるのに気付いたのかククルが説明を入れた。


「見た目こそ普通の樹ですがルーメル樹には大地から余分な生命力を吸収して蓄えるという力があります。その葉はどんな病も治し、その実は寿命を延ばすといわれています」
そういわれて俺は樹を凝視して実がついていないか探したがどこにもついていなかった。
その光景を見てクルルはクスッと笑うと話をつづけた。


「リョウマさん、この樹が実をつけるのは数年から数十年に1つです。それに生まれ変わったルーメル樹のはそこまでの力はありません。実を1つ食べても骨折が治る程度です」
「そうか、それでも果物1つで怪我が治るのはすごいな。葉も病気を治すことができなくなったのか?」
「そうですね、少し体の疲れが取れる程度でしょうか」
そういうと、ククルは樹から葉を1枚もいで渡してきた。
口に含んでみると少し苦みがあったが昨日までの訓練の疲れが少し取れた気がした。


俺は少し気になって久しぶりに鑑定を使った。


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世界樹 ルーメル


大地から生命力を集めて蓄積をする樹
蓄積した生命力を使い、長い年月をかけて成長していく
生命力を凝縮させて果実を作ることもあるが、種を持っていないため増えることはない
生命力の濃度は樹の大きさで変わる




世界樹の葉


世界樹ルーメルの葉
生命力が込められており、空気中に微量の生命力を放出する
エリクサーの素材になる


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「エリクサー?」
「リョウマさん、エリクサーを知っているのですか?」
「いや、今鑑定で見たらこの葉がエリクサーの素材になるって……もしかしてエリクサーってどんなけがや病気も治すとか?」
「その通りです。飲めばどんな病気も癒し、かければ傷を癒す。現在では作り方の失われたとても高価な薬で、1つ手に入れるのに国家予算の1年分でも足りないくらいですよ」


ククルは世界樹の葉を見ながら言うと、ハッと何かに気づいたように俺の顔を見直した。
「リョウマさん、今この葉っぱがエリクサーの材料になるって言いましたか? 確かリョウマさんの持っているスキルは≪物質鑑定≫でしたね」
「あ、ああ。そうだけど」
「実は過去にこの樹を様々な分野から研究をしたことがあるのですがその1人に≪物質鑑定≫を持つ者もいました。もしかして……」
俺はスキルを偽っているのがばれたと思ってとっさにごまかした。
「い、いやたまたまじゃないかな。それともこの樹が成長して説明が変わったとか」
「いえ、その可能性もあるかもしれませんが、私はやはり勇者様のスキルは同じ名前でも性能が違うのかなと」
「え? あ、うん。そうかもしれないな」
(と、とりあえずこの話はばれそうだから何か話を変えないと)


「あ! もうこんな時間だ。ククル、そろそろ夕食の時間だけど、俺、ここに来るのに道に迷ってて分かんないから道案内してもらってもいい?」
早口で俺が言うと、ククルはキョトンとした顔になったが、クスッっと笑った。
「リョウマさんは面白い方ですね。そうですねそろそろ行きましょうか」
「え? 俺今なんか変なこと言った?」
「いえ、そんなことはないですよ」
そういうとククルは扉に向かって歩いて行った。
その後、王女様と一緒に入ってきた竜馬がクラスの男子たちとひと悶着あったとかなかったとか。

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