報酬ゼロの新米冒険者 ~悪逆非道のブラックパーティを脱退したEランク冒険者は【賢者】の力に目覚めて世界最強になり、新しい仲間と第二の人生を始める~
プロローグ:新米冒険者、ブラックパーティを脱退する
半年ほど前に冒険者学校を卒業した俺は、新米冒険者として『レイジーファミリー』という小規模パーティに所属している。
冒険者学校の卒業生は、ほぼ全員がどこかのパーティに入り、雇われ冒険者としてしばらくの間ノウハウを学ぶ。数年間の下積みを終えた新米冒険者は独立するか、所属パーティの重要ポストにつくことになる。
雇われ冒険者の多くは給料制だ。給料体系は主に以下の二つから成り立っている。
毎月パーティリーダーから支払われる少額の契約金と、クエストごとに発生するクリア報酬の三パーセントの特別報酬の合算金額だ。
契約金・特別報酬ともに雀の涙ほどしかもらえない。新米冒険者の懐事情は真っ当に給料を払ってくれるパーティでも厳しいのだ。
それなのに、ただでさえ少ない給料を払ってくれないパーティも存在する。契約金か特別報酬のどちらか、あるいは両方を契約通りに支払わないリーダーが率いる組織は、『ブラックパーティ』と呼ばれている。
俺が所属する『レイジーファミリー』も、ブラックパーティの一つだった――。
「よーし、今日はみんなご苦労だった! 今回のクエストの特別報酬を配っていくぞ」
冒険者ギルドに併設されている酒場の席。木製の大テーブルには大量の金貨が詰まった麻袋がドンと置かれている。
パーティリーダーのレイジが上機嫌な様子で労いの挨拶を済ませて、今回の特別報酬を一人ずつ渡し始めた。レイジの見た目は、一言で表現すると犯罪パーティのボス。汚らしい無精髭をこれでもかと生え散らかし、焦げ茶の短髪にドクロの剃り込みが入っている。右腕に彫られたタトゥーもドクロのデザインが施されていて、初めて顔を合わせた時は恐怖したものだ。
このパーティに入ってすぐに契約金が支払われないことを伝えられた。その代わり特別報酬を多めに出すということでしぶしぶ了承したが、それさえも一度も貰ったことがない。……そもそも、契約金を支払わないということ自体狂っているのだが。
今回の特別報酬は百万リル。これをメンバー全員で分割する。当然均等割りではない。役職に関わらずクエストごとの貢献度に応じて報酬は変わる。――というのは原則の話。
「まずは俺だ。んんー、俺の貢献度は五十パーセントだと判断した。五十万リルをもらうぞ!」
レイジがにやにやと嬉しそうに五十万リルを懐に入れる。ちなみに、五十万リルは普通の村人が二か月は余裕で生活できる金額だ。これがリーダーの日給。
「次にカイル、ギルスがそれぞれ二十万リルだな。そしてニーニャが十万リル――以上だ」
今回も『シオン』の名前は上がらなかった――。
「リーダー、俺の報酬は?」
レイジは面倒くさそうに眉を顰めて、今回も同じことを言う。
「あ? お前の報酬なんてゼロに決まってんだろ。雇ってやってるだけありがたいと思え」
「しかし、今回のクエストで一番魔物を倒したのは俺です。……それなのに、俺と同期の新米冒険者で一匹も魔物を倒していないニーニャが十万リルも貰えるなんて納得できません!」
ニーニャは俺と同時にこのパーティに入った女性の新米冒険者だ。攻撃魔法を得意としている。
麗しい赤色の長髪と、ガラス細工のように精緻な顔立ち、さらには完璧なプロポーションを備えた美人だが、冒険者としての腕はというと、話にならないレベルだ。
使えるのは初級魔法のみ。剣やナイフ、弓など他の武器は一切使えない。体力が著しく低く、性格にも難がある。
「なに勝手なこと言ってんのよ! 私とあなたを一緒にしないでくれる? 私はここにいるだけでみんなを元気づけることができるの。それだけで十万リルの価値があるの。お分かり?」
「まったくその通りだ。いいかシオン、よく聞け。お前はここにいる面子なら誰にでもできることしかしていない。……それに、魔物を一番多く倒したということは、それだけ多くの経験をしたということだ。実践経験は何よりも貴重なものだ。新米の間は苦労は買ってでもするべきなんだぞ」
それは、そうなのかもしれない。このパーティに入ってから――社会に出てから少し認識が変わった。
新米冒険者としてパーティで雇ってもらえれば、ソロではできない高難易度のクエストも受けることができる。むしろ貴重な経験をさせてもらえて、報酬まで貰おうというのがおこがましいのかもしれない。
それは十分わかっている。それでもお金が欲しい理由があった。
「でも、このままだと貯金が底を尽きます。……装備も弱ってていつ壊れるかわかりませんし……」
「でもじゃない。貯金なんて尽きてから悩めばいいんだ。俺が新米の頃はもっと苦労してたんだぞ!」
大声でレイジに捲し立てられ、俺は何も言えなかった。
俺の冒険者学校時代は下から数えた方が早いくらいの成績で、なんとか拾ってもらえたパーティだ。あまりリーダーを怒らせて除名でもされたら目も当てられない。
「パーティを抜けようなんて思ってるんじゃないだろうな? お前みたいな無能を拾うパーティなんてここくらいのもんだってことを覚えとけよ! 片目が見えねえ新米冒険者に居場所なんてねえんだよ」
眼のことを言われて、つい背筋が震えた。
俺は、生まれつき左眼が見えない。片目でも冒険者をすることはできるが、両目が見える冒険者に比べてハンデがあるのは客観的事実だ。
傷があるわけではないが、普段は眼帯をつけて隠している。
「……わかってます。拾っていただいて感謝しています」
「ふん、わかればいいんだ」
それから、レイジは嘘のように優しい瞳で俺を見つめた。
「俺もなぁ、ちゃんと報酬は払ってやりたいんだよ。でもな、ここで甘やかすとロクな冒険者にならねえ。立派な男――真の骨のある冒険者ってのは一度は極貧生活を味わわなきゃならねえんだ。お前が一人前になったらこれまでの分も含めてたっぷり報酬を渡してやる。もし独立することになっても、ここで得た経験が糧になるだろうよ」
普通の精神状態なら馬鹿にされていると思うだろう。でも、この時の俺は壊れていた。こんな安っぽい言葉を嬉しいと感じてしまった。
うるっと涙が出そうになる。
「リーダー……そんなことを思って……」
「だから、今は頑張れ。自分を甘やかしたら絶対に成長できねえぞ」
「わかりました! レイジさん、俺頑張ります」
「うむ、誤解が解けて俺も安心したぜ」
リーダーは俺のことを真剣に考えてくれていた。ニーニャを甘やかしているのは、彼女が弱く、成長しないことを悟っているから。
俺はもっともっと強くなって、立派な冒険者になれる。この人についていけばきっと。
――この時の俺は、ある種の洗脳状態だった。普通に考えれば、こんなまやかしに騙される方がおかしい。でも、俺はそれをどこかで信じたかったのかもしれない。
冒険者ギルドを出た後は、ボロ宿の五人部屋で夜を明かすのがこのパーティの日常だ
一台だけ置いてあるベッドはリーダーが使い、他の四人は床で雑魚寝。俺はいつものように毛布にくるまって眠りに着こうとしていた。
でも、なんだか今夜は眠れない。昼間の戦闘で疲れているはずなのに、頭が冴え切っていた。早く寝ないと明日のクエストに差し支えるので、早く寝ないといけないのだが……。
「……ねえ、レイジ。起きてる?」
「起きてるぞ」
草木も眠る真夜中だというのに、ニーニャとレイジの声が聞こえてきた。二人もまだ起きていたのか。
……と、そんなことよりも新米のニーニャがリーダーにため口なんて失礼に当たるのに、レイジはまったく気にした様子ではない。
「さっきシオンに聞かせた話、まさか本当なの?」
ニーニャの質問を、レイジは鼻で笑う。
「なわけないだろ。あいつはまだ使える。壊れるまで使ってそのうち捨てればいい。無能なリーダーは使い捨てにしたがるが、俺は違うからな。たまにメンテナンスしてやるのが長く使うコツだぜ」
「ぷぷっ、やっぱりレイジはさすがね! 大好き~!」
気づかれないように薄目で二人を覗くと、暗闇の中で彼らは抱き合い、濃厚なキスを交わしていた。
――そうか、そうだったのか。
俺の中で、何かがプツンと切れた気がした。
給料を払わなかったのは、単にお金を惜しんだから。
たまに甘い言葉をかけてきたのは、俺を引き留めて消耗品として長く使うため。
無能なニーニャを特別扱いしていたのは、二人が特別な関係だから――。
――そうか、レイジはそういうやつだったのか。
怒り、憤り、哀しみ、その他無数の感情が湧いてきた。
そして直感した。こんなブラックパーティに長くいても何の意味もない。時間を失い、使い捨てにされるだけだ。
……いや、もう実は気づいていたのかもしれない。信じたくなかっただけ。現状に甘んじていたいだけだったのかもしれない。
もう、自分を騙すのは限界だ。
こんなパーティにいるくらいなら逃げた方がマシだ。
そうと決めた俺は、二人が寝静まるのをジッと待った。
寝息が聞こえてきたことを確認して、俺は光魔法を使った。手元を照らし、素早く紙切れに文字を書き込んだ。
『今までお世話になりました』
短い書き置きだけを残して、俺は宿を出た。
復讐はしない。復讐からは何も生まれないのだ。正直なところ、復讐する気力もない。それよりも、このパーティにいる間に失った時間とお金を取り戻したい。
ソロでの冒険は危険だし、高難易度のクエストを受けられないというデメリットもある。それでも今よりはマシなはずだ。
夜が明けたら、すぐにソロで受けられるクエストを受ける。ブラックパーティに入ってから半年、皮肉なことに俺はそれなりに強くなった実感がある。
大規模パーティなら当たり前にある新米冒険者への教育がなく、『実践で覚えろ』という方針だったため、危険と引き換えに短期間で強くなれた。
なんとか一人でもやれるはずだ。
冒険者学校の卒業生は、ほぼ全員がどこかのパーティに入り、雇われ冒険者としてしばらくの間ノウハウを学ぶ。数年間の下積みを終えた新米冒険者は独立するか、所属パーティの重要ポストにつくことになる。
雇われ冒険者の多くは給料制だ。給料体系は主に以下の二つから成り立っている。
毎月パーティリーダーから支払われる少額の契約金と、クエストごとに発生するクリア報酬の三パーセントの特別報酬の合算金額だ。
契約金・特別報酬ともに雀の涙ほどしかもらえない。新米冒険者の懐事情は真っ当に給料を払ってくれるパーティでも厳しいのだ。
それなのに、ただでさえ少ない給料を払ってくれないパーティも存在する。契約金か特別報酬のどちらか、あるいは両方を契約通りに支払わないリーダーが率いる組織は、『ブラックパーティ』と呼ばれている。
俺が所属する『レイジーファミリー』も、ブラックパーティの一つだった――。
「よーし、今日はみんなご苦労だった! 今回のクエストの特別報酬を配っていくぞ」
冒険者ギルドに併設されている酒場の席。木製の大テーブルには大量の金貨が詰まった麻袋がドンと置かれている。
パーティリーダーのレイジが上機嫌な様子で労いの挨拶を済ませて、今回の特別報酬を一人ずつ渡し始めた。レイジの見た目は、一言で表現すると犯罪パーティのボス。汚らしい無精髭をこれでもかと生え散らかし、焦げ茶の短髪にドクロの剃り込みが入っている。右腕に彫られたタトゥーもドクロのデザインが施されていて、初めて顔を合わせた時は恐怖したものだ。
このパーティに入ってすぐに契約金が支払われないことを伝えられた。その代わり特別報酬を多めに出すということでしぶしぶ了承したが、それさえも一度も貰ったことがない。……そもそも、契約金を支払わないということ自体狂っているのだが。
今回の特別報酬は百万リル。これをメンバー全員で分割する。当然均等割りではない。役職に関わらずクエストごとの貢献度に応じて報酬は変わる。――というのは原則の話。
「まずは俺だ。んんー、俺の貢献度は五十パーセントだと判断した。五十万リルをもらうぞ!」
レイジがにやにやと嬉しそうに五十万リルを懐に入れる。ちなみに、五十万リルは普通の村人が二か月は余裕で生活できる金額だ。これがリーダーの日給。
「次にカイル、ギルスがそれぞれ二十万リルだな。そしてニーニャが十万リル――以上だ」
今回も『シオン』の名前は上がらなかった――。
「リーダー、俺の報酬は?」
レイジは面倒くさそうに眉を顰めて、今回も同じことを言う。
「あ? お前の報酬なんてゼロに決まってんだろ。雇ってやってるだけありがたいと思え」
「しかし、今回のクエストで一番魔物を倒したのは俺です。……それなのに、俺と同期の新米冒険者で一匹も魔物を倒していないニーニャが十万リルも貰えるなんて納得できません!」
ニーニャは俺と同時にこのパーティに入った女性の新米冒険者だ。攻撃魔法を得意としている。
麗しい赤色の長髪と、ガラス細工のように精緻な顔立ち、さらには完璧なプロポーションを備えた美人だが、冒険者としての腕はというと、話にならないレベルだ。
使えるのは初級魔法のみ。剣やナイフ、弓など他の武器は一切使えない。体力が著しく低く、性格にも難がある。
「なに勝手なこと言ってんのよ! 私とあなたを一緒にしないでくれる? 私はここにいるだけでみんなを元気づけることができるの。それだけで十万リルの価値があるの。お分かり?」
「まったくその通りだ。いいかシオン、よく聞け。お前はここにいる面子なら誰にでもできることしかしていない。……それに、魔物を一番多く倒したということは、それだけ多くの経験をしたということだ。実践経験は何よりも貴重なものだ。新米の間は苦労は買ってでもするべきなんだぞ」
それは、そうなのかもしれない。このパーティに入ってから――社会に出てから少し認識が変わった。
新米冒険者としてパーティで雇ってもらえれば、ソロではできない高難易度のクエストも受けることができる。むしろ貴重な経験をさせてもらえて、報酬まで貰おうというのがおこがましいのかもしれない。
それは十分わかっている。それでもお金が欲しい理由があった。
「でも、このままだと貯金が底を尽きます。……装備も弱ってていつ壊れるかわかりませんし……」
「でもじゃない。貯金なんて尽きてから悩めばいいんだ。俺が新米の頃はもっと苦労してたんだぞ!」
大声でレイジに捲し立てられ、俺は何も言えなかった。
俺の冒険者学校時代は下から数えた方が早いくらいの成績で、なんとか拾ってもらえたパーティだ。あまりリーダーを怒らせて除名でもされたら目も当てられない。
「パーティを抜けようなんて思ってるんじゃないだろうな? お前みたいな無能を拾うパーティなんてここくらいのもんだってことを覚えとけよ! 片目が見えねえ新米冒険者に居場所なんてねえんだよ」
眼のことを言われて、つい背筋が震えた。
俺は、生まれつき左眼が見えない。片目でも冒険者をすることはできるが、両目が見える冒険者に比べてハンデがあるのは客観的事実だ。
傷があるわけではないが、普段は眼帯をつけて隠している。
「……わかってます。拾っていただいて感謝しています」
「ふん、わかればいいんだ」
それから、レイジは嘘のように優しい瞳で俺を見つめた。
「俺もなぁ、ちゃんと報酬は払ってやりたいんだよ。でもな、ここで甘やかすとロクな冒険者にならねえ。立派な男――真の骨のある冒険者ってのは一度は極貧生活を味わわなきゃならねえんだ。お前が一人前になったらこれまでの分も含めてたっぷり報酬を渡してやる。もし独立することになっても、ここで得た経験が糧になるだろうよ」
普通の精神状態なら馬鹿にされていると思うだろう。でも、この時の俺は壊れていた。こんな安っぽい言葉を嬉しいと感じてしまった。
うるっと涙が出そうになる。
「リーダー……そんなことを思って……」
「だから、今は頑張れ。自分を甘やかしたら絶対に成長できねえぞ」
「わかりました! レイジさん、俺頑張ります」
「うむ、誤解が解けて俺も安心したぜ」
リーダーは俺のことを真剣に考えてくれていた。ニーニャを甘やかしているのは、彼女が弱く、成長しないことを悟っているから。
俺はもっともっと強くなって、立派な冒険者になれる。この人についていけばきっと。
――この時の俺は、ある種の洗脳状態だった。普通に考えれば、こんなまやかしに騙される方がおかしい。でも、俺はそれをどこかで信じたかったのかもしれない。
冒険者ギルドを出た後は、ボロ宿の五人部屋で夜を明かすのがこのパーティの日常だ
一台だけ置いてあるベッドはリーダーが使い、他の四人は床で雑魚寝。俺はいつものように毛布にくるまって眠りに着こうとしていた。
でも、なんだか今夜は眠れない。昼間の戦闘で疲れているはずなのに、頭が冴え切っていた。早く寝ないと明日のクエストに差し支えるので、早く寝ないといけないのだが……。
「……ねえ、レイジ。起きてる?」
「起きてるぞ」
草木も眠る真夜中だというのに、ニーニャとレイジの声が聞こえてきた。二人もまだ起きていたのか。
……と、そんなことよりも新米のニーニャがリーダーにため口なんて失礼に当たるのに、レイジはまったく気にした様子ではない。
「さっきシオンに聞かせた話、まさか本当なの?」
ニーニャの質問を、レイジは鼻で笑う。
「なわけないだろ。あいつはまだ使える。壊れるまで使ってそのうち捨てればいい。無能なリーダーは使い捨てにしたがるが、俺は違うからな。たまにメンテナンスしてやるのが長く使うコツだぜ」
「ぷぷっ、やっぱりレイジはさすがね! 大好き~!」
気づかれないように薄目で二人を覗くと、暗闇の中で彼らは抱き合い、濃厚なキスを交わしていた。
――そうか、そうだったのか。
俺の中で、何かがプツンと切れた気がした。
給料を払わなかったのは、単にお金を惜しんだから。
たまに甘い言葉をかけてきたのは、俺を引き留めて消耗品として長く使うため。
無能なニーニャを特別扱いしていたのは、二人が特別な関係だから――。
――そうか、レイジはそういうやつだったのか。
怒り、憤り、哀しみ、その他無数の感情が湧いてきた。
そして直感した。こんなブラックパーティに長くいても何の意味もない。時間を失い、使い捨てにされるだけだ。
……いや、もう実は気づいていたのかもしれない。信じたくなかっただけ。現状に甘んじていたいだけだったのかもしれない。
もう、自分を騙すのは限界だ。
こんなパーティにいるくらいなら逃げた方がマシだ。
そうと決めた俺は、二人が寝静まるのをジッと待った。
寝息が聞こえてきたことを確認して、俺は光魔法を使った。手元を照らし、素早く紙切れに文字を書き込んだ。
『今までお世話になりました』
短い書き置きだけを残して、俺は宿を出た。
復讐はしない。復讐からは何も生まれないのだ。正直なところ、復讐する気力もない。それよりも、このパーティにいる間に失った時間とお金を取り戻したい。
ソロでの冒険は危険だし、高難易度のクエストを受けられないというデメリットもある。それでも今よりはマシなはずだ。
夜が明けたら、すぐにソロで受けられるクエストを受ける。ブラックパーティに入ってから半年、皮肉なことに俺はそれなりに強くなった実感がある。
大規模パーティなら当たり前にある新米冒険者への教育がなく、『実践で覚えろ』という方針だったため、危険と引き換えに短期間で強くなれた。
なんとか一人でもやれるはずだ。
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