ちゐと狩りの流儀

杞憂

プロローグ。

「英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸だ。」
ソーセージとビールの国の奴が言っていた言葉だと彼女は言った。


「英雄というのはそもそも天性の殺人鬼か周りの手柄をネームバリューで横取りしたやつの別称でしかない。
故に英雄などという都合のいい存在はいない。
人類史にも、私の物語にもな。」
皮肉げに整った口の端を上げて笑う彼女の横で僕は困ったように笑っていた。


校舎の屋上。
学校という社会の縮図の窮屈な空間のなかでもっとも群青色の自由に近い場所にして、普段施錠されている場所。間に合わせのフェンスはそこを飛び越えて今際を急ぐ少年少女を連想させる。


同時に、様々な理由で姦しい直方体の檻の中から逃げ出してきた反抗期ちゃんの行き着く場所でもある。
子供達、と言ってもまだ彼女と僕の二人しかいないのだが。


高嶺の花とこんな童顔チビが水入らずで哲学的討論を繰り広げられている理由はそんなに複雑なものじゃない。
ある日偶然出会った二人は意気投合して職員室からこっそり盗んだ古い鍵で密室を作り出しているだけ。


幸い、二人とも成績はいいので、特に怪しまれることもなかった。
こうして不恰好な二人のアベックは僕が覚えているだけで半年くらい続いたのだが、万象は終わりを迎えることは誕生の瞬間に決定づけられている。
そのきっかけは鍵のかけられていたはずの二人の密会場所に引かれた不規則な白い線だった。


探偵小説好きの彼女はそれに手をふれて、

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