異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

―――第113話―――

 ―――数日後。

 絶賛苦戦中の俺。
 浄水器って案外難しいもんなんだな。

 毒が水に溶けているから、砂利や砂、炭での浄水は効果があまり無さそうだった。

 ショーンに食べさせられた記憶が新しい、麻痺の効果のある赤い木の実を水に溶かした液体を机の上に並べ溜息をつく。

 魔術で毒の排出の陣はなんとかなりそうだけど、魔力供給部分をどうするか……。

 あーでもない、こーでもない、と頭を抱え紙にペンを走らせる。

 宝石を一つ取り出し、そこに最大限の魔力を込めた。

 ピシッ とヒビが入った直後に パァァアァァン と音を立てて粉々に砕け散った。

 宝石にも魔力を貯めこめる上限がある。
 だからこそ“もどき”を作った奴は常時発動させるために“核”を埋め込んだ人間や魔物の魔力を供給する様な陣が施されていた。
 色々と足りない部分の多い陣だったが、発動は出来る。
 発動さえしていれば良いと思わせる様な出来だ。

「何してんだ?」

 俺が現実逃避に空を見ているとネロとラルフが帰ってきた。

「うわー! ルディたくさん書いてるね!」

「全部失敗作。色々と行き詰ってしまってな……前に話した池の水の毒を輩出する道具を作ってるんだけど上手く行ってない所。そっちは?」

「問題なーい!」

「こっちも準備は整った。後はフローレンスの出方を待つだけだ。ああ、それと、隣国の件は話を通したから近々調査に向かうって言ってたな」

「ねぇ! ねぇ! ルディ! この粉はなーにー?」

「ん? あぁ、それは宝石に魔力を貯蓄しようとしたんだけど、必要分の貯蓄が出来なかったから、上限突破させたら砕け散った残骸」

「僕もやってみるー!」

 ラルフは一つの宝石を手に取り うぬぬぬ と魔力を込め始める。
 すると、すぐに宝石は砕け散ってしまった。

「ほんとだー!」

「小さいモンとか粗悪品だからな」
 ネロが粉を指で擦りながら、
「もっと高価な……出来の良いモンだったらこうはならないんだろうけどな」

「そんな金はないッ!」

「はぁ……知ってる」
「あはははは!」

「そこそこの宝石は全部“核”に使ったからな。使えそうなギリギリのモンも全部……だから手持ちはこれだけ」

 宝石の入った袋をネロに向かって投げる。
 ネロが危なげなく受け取ると、横からラルフが覗き込んでいた。

「少なくなったねー!」

「この質の宝石で魔道具が作れるのか?」

「だから今考えてんだろ!?」

「あははははは! この宝石を全部同時に使えたら良いのにねー!」

「ラルフ……あのな、そんな……ん? 待てよ」

 そういえば、前世の学生時代に習わなかったか?
 あれは……そう、理科の実験の豆電球のやつ。

 俺はすぐに机に向き直りペンを走らせた。

 直列と並列の……そう、回路の実験だ。
 魔力を込めた宝石が電池に置き換えたとして……。
 直列の場合、電流は一本の川に水が流れるように同じ分量で、並列は一本の川が分岐されるから流れが分かれる。
 魔力を流れさせるポンプの役割を電圧に置き換えると、並列の場合は二つ同時に同じ力で押せるのに対し、直列は押せる力がどんどんと弱くなる……とすると?

「はぁ……こうなるとルディは当分戻って来ないな」

「だねー!」

「もうすぐ飯だけど、ラルフはどーする? 下で食べるか?」

「んー? 僕は三人で食べたいな!」

「なら、主人に頼んで持って上がれるようにするか」

「さんせーい! ルディは何が良いかな?」

「ルディは何でも食べるだろ……まぁ、強いて言えば肉か?」

「ここの魔物のお肉美味しーもんね!」

「料理が出来上がった時もこの状態だったら先に食べるけどな」

「あはははは! ルディ一人で食べるの、寂しくないかなー?」

「……なら、デザートも頼んでおくか」

「疲れたときは甘いもの、だねー!! ネロやさしー」
 ゴチンッ
「いたーい!? 何で殴るのー!?」

「……さっさと買いに行くぞ」

「殴った理由はー!?」

「……分かった、置いてく」

「えぇ!? 待ってよー!!」

 後ろでわいわいと二人の声がかすかに聞こえてくる。
 でも、この魔道具を早く完成させないと森にいる魔物たちが安心して水を飲むことが出来ない。
 考えを巡らせ、紙の上に陣と文字を書きなぐる。

 全てが書き終わった頃には、二人とも食べ終わっていた。

 だが、デザートは食べずに待っていてくれた様子で、いつも以上にゆっくりとデザートを食べる二人と共に俺も遅めの夕飯を食べた。

 それぞれのベットの上にトレイを置いて食べるという行儀の悪い食べ方だが、ここにはそれを怒る人はいない。

「ごちそーさん。さて、と」

 俺はさっさと食べた夕飯のトレイをベットに置いたまま机に向か―――

「よし、ラルフ。行け」

「らじゃー!!」

「うわッ! ぶほ!!」

 ―――いたかった。

 ネロの号令にラルフは狼の姿で覆いかぶさってくる。

 毛が口に入るだろうが!!

 その間にネロは全員分の食器を持って部屋を出て行った。

 うん、ネロ。
 食器はありがとう……。
 だけど、何でラルフをけしかけたんだよ!!

「ちょ、ラルフ! 重い!」

「あははははは! 楽しいね!!」

 力づくで押しのける事も出来るが、ラルフ相手に器用に手加減出来ない。
 かといって、本気で相手にしてしまえば、この宿は全壊してしまうだろう。
 ラルフの本気の“遊び”は里でしか出来ない。

「ラルフ! 俺、まだやる事があるんだけどぉ!?」

「もー、ルディはいっつも無理するから、今日はもう休むー!!」

「意味分かんねぇ! ぐほッ!」
「わぁ!!」

 俺の上にさらに重さがのしかかった。

 見なくても分かる、こんな事する奴は……。

「ネロ! お前まで乗るな! 重ぇんだよ!!」

「ふん。さっさと休まねぇ奴が悪い」

「いやいやいやいや!? ネロの方がもっと過酷な生活してただろ!?」

「あはははは! もー、ネロは素直じゃないんだからー……ふぇ??」

 狼姿のネロはラルフの言葉を遮る様にラルフの首元に噛みつくとそのまま ぽーい と投げ飛ばした。

「あはははは! ネロ! もう一回!!」

 投げ飛ばされたラルフは壁に着地すると、そのまま勢い付けて戻ってきた。

 痛いし重い!
 俺の上で暴れるな!!

「お前ら! いい加減降りろよ!」

「ルディが大人しく寝るなら考える」
「ルディー! もー休むー?」

 何故だか、どっと疲れが出てきた。
 これは絶対こいつらのせいだ。

「分かった! もう寝る! 寝るから!!」

「じゃー、僕も寝るー!!」

 ラルフはそのまま俺の上で落ち着き始めた。

「いや、離れろよ!?」

「あはははは! 何か久しぶりだねー! こーやって寝るの!!」

「いっつも重いんだよ!」

 俺の寝る発言をした時に離れたネロがまた戻ってきて、俺の頭の上で落ち着きだす。

「ネロ!? ネロさん!?」

「……んだよ」

「いやいやいや。ラルフをけしかけたのネロだろ! 回収しろよ!!」

「やだよ、面倒くせぇ」

「あはははは! 懐かしーね! 今日はこのまま寝るー!!」

「ふん」

 ネロまで!?
 まじかよ!?

 頭には狼のネロ、お腹には狼のラルフ。
 昔はこうして固まってよく寝ていたし、今回の野宿の時もこうして寝た事も……。
 いや、もう、ラルフの気分で頻繁ではないにしろ、こうして寝ていたな。
 宿に泊まる様になってから無くなったけど。

「はぁ……もう良いよ……」

 俺は諦めて、毛皮に埋もれてそのまま眠る事にした。
 この国に来てから感じなかった暖かいぬくもりともふもふの毛で癒されているなんて、死んでも二人には気付かれたくない。

 まどろみの中、そういえばユニコーンも俺の雰囲気がどーとか……。
 それを二人は感じて……もしかして心配して……zzzzz。


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コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても気になります❗

    0
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