異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第87話──

集計が終わった様で金貨の入った袋を持ったテトが俺達の元に戻ってくる。

時間すげー掛かってたな。

見上げると空は青から茜色に染まり始めていた。

「お帰りー!テト!ねーねー!どーだった?」

ラルフは急かす様にテトに聞くと、テトは苦笑を返した。

「賭ける人はたくさんいたよ。それと、予想してた通り、ネロに賭ける人はいなかったよ。」

「えー!?なんでー!?」

「ネロの事を知ってる人がいないんじゃないかな?ほら、ネロは強いのに冒険者の依頼をあんまり受けて無いからさ。」

「じゃ、俺はネロに賭けるぜ。」

「……セシル。僕達が主催なんだから、賭けてもあまり意味ないよ?」

セシルは金貨一枚をテトに渡すと、テトは受け取りながら呆れた声でセシルに言った。
セシルは大声で笑い、言葉を続ける。

「なら、負けたらネロから貰う事にするさ!」

「……なんだよ、それ。それじゃ、賭けてる意味が本当に無いじゃん。」

「良いんだよ。……ネローっ!!俺、お前に賭けたからぜってー負けんじゃねーぞっ!!」

テトの苦笑にセシルは にやっ と笑うとネロに大声で叫んだ。
ネロは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに意地悪な笑みを浮かべる。

「当たり前だろ。こんな能無しにやられる訳ねぇよ。」

ネロはセシルを見ずに、目の前に座る冒険者を見据えていた。
冒険者の方は怒りを隠そうともせず、顔が真っ赤になり いくつもの血管を浮き上がらせていた。

「て、めぇ!!生意気言ってんじゃねぇよ!クソガキがぁ!!」

「もう、良いから。さっさとやろうぜ。」

ネロは右手を すっ と机の上に置く。
それを見た冒険者は、さらに怒りを表し ガシッ とネロの手を握る。

「おい、クソガキ。てめぇを文字通り握り潰してやるよ。万が一、俺に勝ったら ここにある金、全部持ってっても良いぜ?へへへへへ、まぁ無理だろうがな。」

「お、いいねぇ。……その言葉、忘れんなよ?」

両者が睨み会う中、開始の合図が鳴る。

バンッ!

勝負は一瞬で終わり、周りは静寂に包まれた。

「俺の勝ちだな。」

ネロの声により、我に返った観客から ワッと歓声が広がった。
そんな中、冒険者だけは放心状態になり、意識を取り戻すとネロに詰め寄る。

「てめぇ、イカサマしただろ!!」

「あぁ?あんたが弱いだけじゃねぇの?」

「俺が負けるハズねぇだろうが!」

「……現実を見ろよ、能無し。俺は、本当は弱いんだぜ?怒りで我を忘れて変な所に力が入ったんじゃねぇの?」

「こ、の、クソガキ……っ!」

ネロ、言ってる事メチャクチャだな。
強いって言ったり弱いって言ったり。
笑っちゃダメなんだろうけど……
相手が翻弄されまくってるじゃん。

俺とラルフは笑いを堪えるのに必死になっていたが、テトとセシルは大声で笑っていた。

ネロは口の端を持ち上げると、怒り狂う冒険者に言い放つ。

「だったら、俺が“本当は弱い”って事教えてやるよ。……そうだな。」

それ偉そうに言う言葉じゃ無いと思うんだけど。
いや、まぁ、良いんだけどさ。

ネロは口に手を当て、悩む素振りを見せてから言葉を続けた。

「俺の前にあんたとやったヤツとやってみるか。」

「は?俺か!?」

ネロと目が合ったセシルは驚きの声を上げる。

セシルはさっきから振り回されてるな。
御愁傷様……。

ネロが手招きをすると、セシルは頭を ガシガシ と掻いて、諦めた様にネロの元へ行き、質問をした。

「で、俺は何をすれば良いんだ?」

「俺と腕相撲。」

「…………はぁ。わぁったよ。」

ニヤリと笑うネロにセシルはため息を返すと、すぐに勝負に入る。

ドンッ!

勝負はセシルの勝ちになった。

セシルに勝った冒険者。
冒険者に勝ったネロ。
ネロに勝ったセシル。

観客は皆、混乱気味になっていた。

驚いているセシルを余所に、ネロは冒険者に言い放つ。

「な?本当ならこんなもんなんだよ。」

「な、め、やがって……っ!……おい!お前!!」

ネロに睨みを利かせた冒険者はすぐにセシルを睨む。
面倒臭そうにセシルは冒険者を睨み返した。

「……なんだよ。」

「お前!もう一度勝負しろ!」

「はぁ?」

迷惑そうにしているセシルにネロは意地悪な笑いと共に言葉にする。

「やってやれば?」

「……ったく。分かったよ。」

セシルと冒険者が向かい合い、勝負が始まった。

「俺が負ける訳ねぇんだよっ!!」

「…………?」

バタンッ!

大声で勢いをつけた冒険者だったが、結果はセシルの勝ち。
セシルは不思議そうに自分の手を見ると、俺の方に視線を向ける。
俺はその視線を受け、手を ひらひら とさせて答えると、セシルに笑われてしまった。

ネロは冒険者の方に歩みを進めると顔を近付ける。

「だから言っただろ?今のあんたは怒り過ぎて、変な所に力が入ってるから弱いんだってさ。こいつに一度勝ったクセに今度は負けた。もっと冷静になるべきだったんだよ、能無し。」

「て、めぇ!タダじゃ済まさねぇぞ!!」

「そうだな、そこにある金を全部貰うんだから……タダでは無いな。」

「……ふざけやがってっ!!」

冒険者はネロの胸ぐらを掴み、殴りかかろうとしているが ネロは微動だにせず、相手の目を見据える。

「俺を殴っても言いが……そんな事をして、騎士団に知られるとマズイんじゃねぇの?」

「……っ!!」

「最悪、資格剥奪されるかもしれねぇなぁ。」

「……チッ!!くそったれが!!」

ネロの言葉に冒険者は腹を立てていたが殴りはせずに、掴んでいた胸ぐらを勢い良く投げ捨てる。

冒険者は仲間に声を掛けると態度悪くその場から離れて行った。





















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