異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第81話──

数秒間の睨み合いの末、先に口を開いたのは冒険者の方だった。

「はっ、ガキが。いっぱしの口きいてんじゃねえよ。」

「ごっこ遊びしに来る様な場所じゃねぇんだよ、クソガキ。」

「おい、見ろ。ガキがガキのお守りしてやがるぜ。ヒヒヒ」

「…………。」

俺が静かに見つめる中、ゲラゲラと笑う冒険者の一人がショーンを睨み付ける。
ショーンが小さな悲鳴を上げて身を強張らせたので、ショーンを俺の後ろにそっと隠した。

「んだぁ?さっきの威勢はどーしたんだよ?」

「怖くなってチビったか?」

おむちゅオムツはありまちゅかー?」

「…………。」

ゲラゲラゲラゲラ
ヒヒヒヒヒ

下品な笑い声がギルドの中に響く。
いつの間にか他の冒険者達は俺達の様子を静かに見ていた。

なんだろ。
凄く幼稚過ぎる。
Aランクだからって何しても良いとでも思っているのか?
肩書きは良くても中身が幼稚じゃ、救い様がねぇな。
見た目は大人、頭脳は園児。
……うん、救えねぇ。
救う気も無いけどな。

【鑑定】を使って視線だけで周りを見るが、この場にいる中で一番レベルが高いのは、目の前の三人の冒険者。
俺を除いて、だが。

だから手を出そうにも出せないのか。
Aランクと言う肩書きに恐れをなしたのか。

まあ、どっちでも良いか。

俺の反応が面白く無いのか、冒険者の一人が猫耳お姉さんを突如とつじょ掴み、自分の方へと引き寄せた。

「ここは大人が来る場所なんだよ。ガキはパパとママの所に帰りな。」

「なぁ、獣のねぇちゃん。俺達が頼んだ事の方が重要だもんな?」

「ひっ!……あ、あの……」

猫耳お姉さんは目から涙が溢れそうになり、パニック寸前にまでなっている。
そんな様子が気に入らないのか、猫耳お姉さんを掴んでいた冒険者が反対の手を振り上げる。

「つべこべ言わずさっさとやりやがれよ!この獣ごときが!!」

「き、きゃ……っ!」

バチッ!

俺は一歩でその場へ行き、猫耳お姉さんを殴ろうとしていた手を止めた。

止められた事に腹を立てた冒険者は、額に青筋を浮かべる。

「んだよ!クソガキがぁ!!」

ゴッ!!

冒険者は俺が止めた手をそのまま振り上げると、俺の顳顬こめかみにぶつかった。
ぶつかった拍子に俺のフードが取れ、銀色の髪が冒険者の目に止まる。

「なっ!〈呪い子〉っ!?」

それに驚いた冒険者は猫耳お姉さんから手を離し、一歩後ろへ下がった。

「〈呪い子〉が、こんなガキとはな。」

「そういえば、最近〈呪い子〉とその仲間がこの国に入国したんだったか。」

「このガキと一緒にいねぇって事は仲間に捨てられたんじゃねぇか?」

「もしかしたら、既に呪われて死んでるのかもな!ヒヒヒヒヒ」

「こんなガキを育てた親の顔を見てみたいぜ、なぁ?」

「見なくても分かるさ。どうせ、何も考えて無い馬鹿でクズのどーしようもねぇ奴なんだろ。」

性懲しょうこりも無く下品な笑いを上げる冒険者の三人。

……ゲラゲラとうるさい。
逆にお前らの親の方を見てみたいぜ。

冷たい怒りが俺の中に湧いてくる。

──家族や友人を馬鹿にする奴は許さない。

俺が冷たい視線を冒険者に向けていると、猫耳お姉さんが俺の方へ言葉を掛けてきた。

「あ、あの……」
「なぁ、エレナ。」

「は、はいっ!」

その言葉を俺が遮り、猫耳お姉さんに声を掛けると耳と尻尾がピンと伸び、驚いた表情を見せた。
俺は視線を冒険者に戻してから猫耳お姉さんに話を続ける。

「先に手を出したのは あいつら なんだから、俺が手を出しても正当防衛せいとうぼうえい……だよな?」

「え、えと……は、はぃ……。ですが」
「クソガキ!何喋ってんだよ!!」

俺と猫耳お姉さんが会話しているのを目敏めざとく見付けた冒険者の一人が声を荒げ、俺に殴りかかってきた。

その様子に猫耳お姉さんとショーンは小さな悲鳴を上げる。

ドゴォォオオォォォンッ!

「ぐはぁっ!」

俺は風魔法でその冒険者を吹き飛ばした。
その拍子にギルドの入り口が円形状にえぐられ、一人の冒険者は外へと放り出される。

俺は残り二人の冒険者に意識を向けながら、猫耳お姉さんの言葉の続きを促す。

「なに、エレナ。」

「いえ……Aランクの方なのでお強いと思…………な、何でもありません……」

「そう。」

猫耳お姉さんはゴニョゴニョと聞き取りにくい声で言葉を紡ぐが、何でも無いなら気にする事は無いだろう。

残っていた二人の冒険者は、吹き飛ばされた冒険者の元へ行き、安否を確認していた。

猫耳お姉さんとの会話が終わったので、俺が吹き飛ばした冒険者の元へゆっくりと歩く。

俺はギルドの入り口で止まり、三人の冒険者の様子を窺う。

吹き飛ばした冒険者は対面の煉瓦れんがの壁に当たった様で、壁が破損していた。

二人の冒険者は壁にぶつかった冒険者の上半身を起こすのを手伝い、俺を睨み付けてくる。

俺に怒るのは筋違いじゃないかな。
余計な事言うから、そうなったんじゃねぇの?
口は災いの元って言葉を知らないのか、こいつらは。

睨み付けて来る冒険者に俺は睨み返し、言葉を放つ。

「今、謝るなら許してやるぞ。」

吹き飛ばされた冒険者は口の中を切った様で、口の中にある血をプッと吐き出してから声を荒げた。

「ふざけんじゃねぇぞ!クソガキがぁ!!油断した所を狙っただけでイイ気になんじゃねぇよ!!」

「…………。」

油断する方が悪くないか?
あの状況でよく油断出来るよな。
ネロやラルフだってあの場合、油断なんかしねぇぞ?
自分の失敗は他人のせい、ってか?
笑えるね。
腐った奴はどこまでも腐ってるな。

どちらが先に動くか、俺と冒険者達は睨み合う。

「ち、ちょっと!ルディ、落ち着きなよっ!!」

そんな中、声を掛けてきたのは、ネロでもラルフでも無い……だが、俺の聞き覚えのある声だった。




















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