異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第70話──

ネロは牢獄の中を普通に歩いて行く。

……牢獄って何か怖くない?
この湿っぽい空気と言うか。
薄暗い感じが、さ?

俺はそう思いながらもネロの後に続く。

牢獄は石で出来た壁と床があり、廊下に面している方は鉄の棒で仕切られている。

中は簡易ベッドと木で出来た机と椅子が置かれていた。

ネロは一番奥に行くと、その一部屋に入る。

その場所はベッドも机も無く、真ん中にポツンと床に固定されている鉄の椅子だけがあった。

ネロはローブの男を床に放り投げると、部屋から出て向かいの扉に歩いて行く。
その扉の取っ手を握り、魔力を込めると、扉がうえがっていく。

扉が上がっていくんかい!!
普通、押したり引いたりすると思うだろ!!
なんだ!?
このギミック!!
必要なのか!?

「ラルフ、ここの部屋に色々と道具が揃ってるから好きなの使え。」

「うん!分かったー!!」

ネロが親指で指し示す方向には、何に使うかよく分からない道具が色々と置かれていた。

え。
何コレ。
なんか……。
怖そうな道具みたいなのもあるんだけどっ!!
ラルフ!?
そんな玩具おもちゃみたいに扱っちゃダメじゃないかな!?

「ルディ!これ持っててー!」

ラルフは何かを俺に向かってポイッと投げ渡して来た。

これ、本当に……何?

万力まんりきの様なものが左右についている鉄の輪。

受け取った俺は困惑。

ラルフはいくつかよく分からない道具を持って出てきた。

ラルフが出てきたのを確認すると、ネロは扉の説明をしてくれる。

「開ける時は【鑑定】を使いながら取っ手に魔力を流す。反対側からも開ける事が出来るから閉じ込められる事は無いな。閉める時は……」

ネロは足元にある少し色の違う石をトントンと二回踏みつける。

ガシャンッ

扉が落ちてきた。

……これ、危なくねーか?

「こうすれば閉まる。理解したか?」

「分かったー!ネロ、ありがとーっ!」
「うん……分かった。」

俺が使うかどうかは別として、使い方は理解した。

俺は素朴な疑問をネロに聞いてみる。

「なぁ、ネロ……何で宿屋の地下に牢獄があるんだ?」

「あ?あー……ルディは常識を知らなかったんだったな……。」

なぜかネロに呆れられてしまった。
なぜだ。
解せん。
エヴァンだって、ここに牢獄があるのはほとんど知られてない筈だって言って無かったっけ!?
俺が知らないのも しょうがない んじゃないかな!?

ネロはため息を一つ溢してから言葉を続けた。

「エルフが俺達、神狼族と協力体制にあるって話はしただろ?」

「ん?あぁ、聞いたな。」

「その一つがこれさ。何か問題が起こった時や、神狼族に見てもらいたい奴がいれば、ここで見るんだよ。」

「へぇー……」

見る限り、平和的解決の方では無いよな……。
ん?
でもさ……
「宿屋の地下に牢獄何か作ったら、国が怒るんじゃないのか?」

「そこはエルフ族が適当に理由をつけてやってくれている。どこの国にも大抵、エルフの宿の地下はこうなっているさ。だから、泊まるならエルフの宿の方が良いんだよ。」

「な、なるほど?……国にも牢獄があるんだから、そこを使う事は出来ないのか?」

「出来なくは無いが、人権がどーとか、規則がどーとか持ち出して来たり、俺達のやり方に反抗してきたりするしな。……邪魔だし面倒だ。」

ネロ、本音が漏れてるぞ。
邪魔で面倒だから使いたく無いだけだろ!!
でも……分からなくも無いな……。
何か、そういう風に思う自分が嫌だー!!

「そーゆーもんなのか。」

「そーゆーもんだ。」

ネロとの会話もいち段落し、俺達は道具を持って、再びローブの人がいる牢獄に入る。

「あ、そうだラルフ。クリスが何か謝りたい事があるんだってさ。」

「え?なーにー?」

ネロの言葉に、床に道具を並べていた手を止めてラルフはクリスの方を見る。

「ネ、ネロ様!?」

「今が謝れる機会だと思ったんだけど?」

焦るクリスに、ネロは首を傾げていた。

クリスは深呼吸をし、落ち着きを取り戻してからラルフの方を見る。

「ラルフ様……二度も危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした。ルディ様も……本当に申し訳ありません……そして、ありがとうございました。」

「えー?なんのことー?」
「はぁ……?」

頭を下げるクリスに、今度はラルフが首を傾げていた。

俺にも何の事だかさっぱり分からないので、気の抜けた返事をしてしまう。

ネロの方を見たが、ネロは呆れた様に肩をすくめるだけで、説明はしてもらえそうに無かった。

クリスは頭を上げると、ラルフの問いに答える。

「一度目は、私達が初めて森で出会った時の事です。私は他の魔物と退治した際に重症を負ってしまい……神狼族の方を危険な目に合わせてしまいました。本来であれば、エルフ族の私が人間や獣人から神狼族を遠ざけるべきだったのですが……」

「遠ざける……?」

俺はよく分からずに聞き返すと、ネロが補足してくれた。

「エルフ族は俺達、神狼族を人間や獣人から敵意を向けられない様にしているんだ。もし、出会った場合は攻撃をさせない様にし、俺達から遠ざける様にしているんだ。」

「なんで?」

「は?考えてみろよ。攻撃されたら俺達も攻撃出来るんだぞ?」

「あぁ……。」

俺達を守る為、ではなく。
人間と獣人を守る為の行動に近いんだな。

「まぁ、後、幼い頃は弱いからな。人間に見つかって殺されてしまう事もあるし、大人でも道具を駆使されれば殺される事もある。神狼族の数が減ると、〈闇落〉を狩る奴がいなくなるし……そしたら、人間や獣人の方にも被害が出る。均衡きんこうたもつ為にも必要な事なんだよ。」

ん?
だとしたら神狼族の為でもあるのか?
食物連鎖が崩壊する、的な?
いや、補食したりしないから、生態ピラミッドの方が正しいのか?
どちらにしろ、人間や獣人と神狼族の両方の為に必要な事、なんだろう。
俺が知らないだけで、エルフ族と神狼族は色々と助け合ってんだな。
そう思う事にしよう。
後の難しい事は分からん!!
















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