異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第53話──

「ラルフ!?」

ラルフの姿を探すが、爆発で巻き起こった土煙つちけむりによってラルフの姿を確認する事が出来なかった。

俺は魔法で風を起こし、周りにある煙を消し去る。

そこに居たのは、膝をつき男の胸ぐらを掴んだ姿勢のままのラルフだった。
手には男の姿は無く、千切ちぎれた布だけ。

「ラルフ!無事か!?」

俺が駆け寄ると、返り血を正面から浴びたラルフが振り返る。

「あ、ルディ!なんとかねー!」

その姿は男の血なのか、ラルフの血なのか分からない程に血塗ちまみれになっている。
あちこちにり傷があり、顔の半分には火傷の様なただれまで出来ていた。

俺はラルフを立ち上がらせながら、声を荒げた。

「この馬鹿!!下手したら死んでたぞ!?」

「大丈夫だよー!死なない自信があったからね!」

「だとしても、俺の心臓に悪い……。」

「あははははは!【防御膜】もしてたから大丈夫だって!心配しすぎだよー!」

本当に一瞬ラルフが死んだかと思ったんだからな!
少しは反省してくれ!!

俺が声を荒げていても、ラルフはいつもの調子で言葉を返してくる。

「たくっ……すげー怪我してるじゃん。痛くねぇの?」

「痛いのは痛いけど、これくらいなら我慢できるかな!」

俺だったら我慢出来ないレベルだぞ。
ラルフに痛覚つうかく無いのかな……。

「それに、怪我してもルディなら治せるでしょ?」

「あんまり過信するなよ……。死んだ奴は治せないからな。」

「あははははは!うん!分かったよ!」

ラルフは眩しい笑顔で答える。

俺が治せるからって、さぁ。
いや、治せるけど、心臓に悪いのは控えてくれ。
……でも

「ここで治すのは無理だ。『【治癒】は人間に使えるってあんまり知られたく無いし。』宿に帰ったら治してやるよ。」

途中、俺は小声で言語を変えてラルフに伝えた。

「うん!分かった!あ、でも、ルディは何で避けなかったの?」

「ん?何をだ?」

「さっきの男の人だよー!ルディなら避けるか逃げるか出来たでしょー?」

「ラルフが捕まえたいって言ってたから、どうしようか悩んでた。」

「悩まずに逃げようよ!?危ないよ!?」

え、ラルフに言われたく無いんだけど。

「俺よりラルフの方が危なかっただろ。」

「僕は良いの!すっごく焦ったんだからね!!」

いや!
良くないだろ!
俺の心配より自分の心配してくれないかな!?

俺達は数秒、にらみ合った後、どちらからともなく笑い出した。

「ま、今回はお互い様って事で。」

「そうだね!」

「ラルフ、これからは  あんまり危険な事はしないでくれよ?」

「あははははは!頑張るよー!」

それ、絶対約束する気が無いだろ。

俺は大きくため息をこぼす。

その時、野次馬の一部から兵士がこちらに来るのが見えた。

兵士さん、到着が遅くないですかね?
職務怠慢だよ。

「あなたに話を伺いたい。着いてきてもらえるかな。」

質問形式ではなく断言する、その言い方に俺は少し苛立ちを覚える。
だが、言われたラルフの方は何とも思っていない様子だった。

「僕?なんで?」

血塗ちまみれになっている人に話を聞く様に言われているからだ。」

誰にだよ。
この兵士は何様のつもりなんだ?
その高圧的な態度はなんなんだよ。

俺が口を開こうとすると、ラルフに止められた。

「僕だけで良いんだよね?」

「ああ、こっちだ。」

「じゃ、ルディ!ちょっと行って来るねー!」

ラルフは手を振りながら兵士と共に歩いて行った。

俺は何とも言えない気持ちを抑え、その後ろ姿を見送る。

ラルフが連れて行かれる様子を見ていた野次馬は、興味を無くした様に一人、また一人とこの場から離れて行った。

一人取り残された俺は、一先ひとまず店の中へ戻った。

さっきの様子だと、死んではいないが怪我はしているだろうな。

店の中に入ると、オバさんが床に座って店の中を呆然ぼうぜんと眺めていた。

「オバさん。大丈夫?」

「おや、ネロ君が連れてきた〈神の子〉じゃないかい?」

「あ、名前言って無かったっけ?俺はルディ、気軽に呼んで。」

「ルディ君ね。……さっきは助けてくれてありがとうねぇ。」

俺に笑顔をくれるオバさんだけど、左腕が曲がっちゃいけない方向に曲がっている。

「オバさん、腕……怪我してる。」

「そうだねぇ。この腕だと片付けも出来ないから、どうしようか考えてたんだよ。」

「……オバさん。約束守れる?」

「何のだい?」

「今から俺がする事を秘密にするって約束。」

「ルディ君が何かするのかい?悪い事じゃなければ、秘密にするよ。」

オバさんはにっこりと笑い、俺はそれにうなずいた。
俺はオバさんの左腕を持ち上げ【治癒】の魔法をかけた。
腕はみるみる内に元の位置に戻り、顔にあったり傷も無くなっていく。

治療を終えるとオバさんは自分の腕を不思議そうに眺め、俺に顔を向けた。

「やっぱり〈神の子〉は優しいねぇ。」

「俺は〈神の子〉なんかじゃない。ただの……ルディだよ。」

「そうかい。なら、ルディ君は優しいねぇ。」

穏やかに微笑ほほえむオバさんに、俺は何となくむず痒く感じた。

「約束、守ってね……?」

「えぇ、守るよ。ありがとうねぇ、ルディ君。」

「う、うん……。何か俺に手伝える事ある?」

「いいや。治療をしてもらっただけでも有難いからねぇ。これ以上、欲張るとバチが当たってしまうよ。」

「そう?じゃあ、また何かあったら言って。」

「ありがとうねぇ。」

俺はオバさんに別れを言い、茜色に染まる街中を眺めながら、宿へ帰る道を歩いて行く。













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