異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第7話──

ふわふわ。
眠りから覚めた俺の最初の感想はそれだった。

手に伝わるぬくもり。
さらさらした手触り、ふわふわとした毛並み。

目を開け上を見ると緑色の瞳がこちらを見ていた。

『起きたか?』

ふっと笑い、柔らかい音色でカインは前足で俺の頭を撫でる。
あまりの心地良さにもう一度眠りにつこうとする。

『ルディが起きたのか!』

声のする方を見ると頬が緩みきったライアの姿があった。
人間の姿だが、耳をぴこぴこと動かし、尻尾はせわしなく左右に揺れている。

物凄く見てはいけない顔をしてるな……
うん、見なかった事にしよう。

顔を戻し、元の位置に戻る。

『な、なぜまた眠るのだ!ルディ起きておくれ。』

一度鏡を見てから出直してくれ。
その顔を見たら、なんか居心地が悪いんだよ。

『ライア。嬉しいのは分かるが、顔が緩みきっているぞ?』

『う、うむ。』

苦笑しながらカインが言うと、ライアは少し照れながら答えた。

『本当は妾が一緒に眠りたかったのだがの……』

『それは、ライアはずっとルディを抱えてぶつぶつ言うもんだから、なかなかルディが眠らなかったからだろう?』

『だってのぉ……どの角度から見ても可愛いのだから、仕方がないではないかっ!』

なぜ怒る。
それは逆ギレではないのか?

昨日の宴で眠ってしまった俺はライアに連れられ、家への逆バンジージャンプで一度起きた後、ずっとライアに抱っこされながら観察されていた。

あっちに揺られ、こっちに揺られ……

全然寝かしてもらえなかったんだよなぁ。

カインが家に戻ってきた時には俺はぐったりとしていた。
見かねたカインが俺を救出してくれなければ、まだ続いていたかもしれない。

人間、睡眠は大切だよな。

『あ~、もうっ!カインばっかずるいのだっ!ルディが起きたのならば、ご飯にせねばならぬだろう?』

な?な?と駄々をこね始めた。
カインは、はいはい。と適当に返事をすると、狼の姿になったライアに俺を渡す。

もうちょっと寝かしてくれよ。
俺は惰眠だみんむさぼりたい。

俺の食事を終えると、カインとライアも食事を始める。
生肉ではなく、ちゃんとした食事だ。
カインが肉と山菜のスープを作って、二人で食べている。
人間の姿だが、耳と尻尾はついている。
この姿は獣人の姿に良く似ているらしい。

俺をテーブルの上に乗せ、暖かな眼差しを向けながら二人はスープを食べていた。

すごく……むず痒い。

視線でこんな思いをするのは初めてだ。

『のお、カイン。午後からイリーナの所へ行っても良いか?』

『良いぞ。昨日はゆっくりと話せなかったのか?』

『いやの、妾達が行った時には息子のラルフが既に寝ておっての。ルディとラルフを会わせてやりたいのだ。』

ああ、あのイリーナの側で寝ていたケモミミ男児か。

『それは良いな。近い歳同士仲良くなれると良いな。』

『うん、そうなのだ。一年も歳が離れておらぬのは奇跡だしの。』

『百歳差位なら近いのではないか?』

いや、百歳は遠いよ。
俺、百歳まで生きられないし。

『そうなんだがのぉ……ルディは人間じゃから、身体が頑丈ではないだろう?もしもの事があっては、と思っての。』

もしもって何?
ライアからそんな言葉が出るなんて不安しかないんだけど。

『そうだな、とりあえず神狼にも慣れてもらわんといけないしな。』

『うむ!まずはイリーナに協力してもらうのだ。』

『程々にしとけよ?わしはこの後少し出るからな。』

本当に、切実に、色々と程々にして下さい。

『どこに行くのだ?』

『応援を頼まれてな。人間の国に行ってくる。すぐに帰ってくるさ。』

人間の国か。
カインは何の仕事をしているんだろう……

『分かったのだ。気を付けて行ってきておくれ。』

『ああ、ありがとう。』

食事を終えると、カインはすぐに出掛けていった。
残された俺とライアは

『ルディ。お主は、ほんに可愛いのぉ!』

無茶苦茶、頬擦りをされた。

カイン、早く戻って来てくれ。
俺の精神が持たない!



太陽が高く昇るまで、ライアに構い倒された俺は出掛ける準備をしているライアを待っていた。

肩掛け鞄にタオルや布等を詰め込んでいる。

言わずもがな、俺のオムツだ。

宴の時にカインは人間の子育てについて色々と聞き回っていたらしい。

ありがたいんだけど。
それとこれとは話は別な訳でして……。
とにかく恥ずかしいっ!

準備を終えたライアは両腕で俺を抱え、家から飛び降りた。

バンジージャンプだ。

こういう時は無心……無心……。

危なげもなく着地し、暫く歩いて行く。

一本の大きな木の下に辿り着く。

『ここがイリーナの家じゃ。』

俺には全て似たような木にしか見えないんだけどなぁ。
そして、ここから逆バンジージャンプですね、分かります。

重力がかかるのを感じながら無心を貫き通す。

『イリーナ!妾じゃ。』

『いらっしゃい、ライア。どうぞ~。』

扉から出てきたのは丸顔の女性。
もちろんケモミミ付き。

『ラルフ~。お友達が来たわよ~。』

まだ友達にすらなってないと思うんだが。
てか、向こうは俺の事知らないだろ。

『ともだち?ともだちっ!』

勢い良く部屋の奥から走ってきたラルフは、俺の側まで来てテンション高く友達認定された。

そんなに簡単に友達認定はするもんじゃないんだぞ。
将来騙されないか、この子。

ラルフは俺の手を取ったかと思うと、引っ張った。
多分、どこかへ連れて行こうとしたんだろう。
だが、俺はまだ身体を動かせない。
案の定─────落ちた。

もう、それは見事なまでに、顔面から。

痛い。
特に鼻が。

「びぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇん!!」

『ルディ、大丈夫かの!?』

『ご、ごめんなさいねぇ。こら!ラルフ!』

『ともだちっ!あそぶっ!あーそーぶー!!』

ライアは俺を抱き抱え、イリーナは息子を叱る。
だが、ラルフは怒られても気にせず、片言で自分の意見を主張していた。

俺が泣き止むまで、イリーナは叱り続けていた。

まだ俺が動けない事を理解したラルフは部屋の奥へと走って行く。

遊ぶのを諦めたかな。

『ライア、ごめんなさいねぇ。ルディくんもごめんねぇ?』

気にしてないから大丈夫。
ただ痛いだけで……
悪気が無いのは分かるしね。

『イリーナ、気にすることはないぞ?』

『ふふ、ありがとう。こっちに座ってくれるかしら?すぐにお茶の準備をするわね。』

イリーナは部屋の絨毯にクッションを用意し、お茶とお菓子を持って戻ってきた。
俺はライアの隣にあるクッションの上に寝かされている。

『お待たせ。ふふ、ルディくん、可愛いわねぇ』

『そうじゃろ!そうじゃろ!ルディを見ているとな……』

ライアは俺についての自慢を始める。
イリーナはにこにこと笑って見守っているが。

何の苦行だ、これは。
永遠に自分を誉められる苦行ってなに。
どうやったら逃れられるんだろう。
うぷっ!

現実逃避をはじめていた俺の顔の上に柔らかいものが次々に落ちてくる。
良く見るとそれはぬいぐるみだった。
ラルフが手に持てるだけ持って俺の上に落としてきたのだ。

おい、ラルフよ。
俺に何の恨みがある、教えてくれ。

『ともだちっ!あそぶっ!』

テンション高々と俺からこぼれ落ちたぬいぐるみを俺の顔の上に乗せ直す。

ちょ、息がしにくいからマジやめて!

ぬいぐるみを手で払い除けるが、キャッキャッと喜び再び乗せられる。

『こ、こら!ラルフ!』

『良い良い。二人が仲良くなったみたいで、妾は嬉しいぞ。』

『う……ライアがそう言うなら……』

諦めないでっ!
ラルフを止めてくれ!
このままじゃ、冗談抜きで窒息しそうだから!

『ふふ、楽しそうじゃの。』

『そうねぇ。ふふふ、ラルフもはしゃいじゃって。』

そこ、和やかに過ごすのは良いけどね!?
俺の危機って気付いてくれないかなぁ!?












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