異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第3話──

『それで、ライア。その人間の子供はどうしたんだ?』

俺が泣いたおかげ(?)で、気持ちに余裕が出来たのかカインが問いかける。

机の上に俺。
左右にお座りの体勢をした狼。
端から見たら食事風景に見えるんじゃないかなぁ……

『この子はの……深淵しんえんの森に捨てられておったのだ……』

『深淵の森だと……?あそこは狂った魔物が多くいる場所だ……よく生きていたな……』

『ふふ。最近、妾が深淵の森に入り浸っておったからの。狂いおった魔物は片っ端から片付けておったのだ。』

『なるほどな……それでこの子は生きておった訳か……だが、あまり無茶をせんで欲しい。わしは、ライアが狂ってしまい人間を拐ってきたのかと思ったぞ?』

『妾がそんな事になる訳なかろうに。もし、そうなったら潔く自害するのじゃ。』

カインは言いにくそうに、口を閉じては開ける。
数秒の沈黙の後、泣くのをこらえ、絞り出すかの様に口を開いた。

『…………わしらの子供が……人間に殺され……亡骸を無惨にも解体した姿を側で見ていたろ……?あの時のライアの姿を見ていれば……心配してしまうではないか……』

『そうかもしれないの……だがの?人間には人間のことわりがある事も理解はしておるつもりじゃ。それに……妾達、神狼族の役目を忘れた訳でも無いのだ……』

ライアは申し訳なさそうに目を伏せる。
お互いに目を合わせずに会話が続く。

『そうか…………わしは、本当の事を言うと、人間の事が憎く思ってしまっておった。だが、わしが狂ってしまえば…………』

『ありがとう……カインも苦しんでおったのだな。妾は自分しか見えておらんかった……気が付かなくてすまないの。』

『いや、ライアの苦しみに比べたら、わしの苦しみは軽いものだ。』

両端の狼が目を合わせ苦笑を漏らす。

えっと……
しんみりしてて、ラブラブなのは良いんだけど……
俺って場違いじゃないかなーって思うんですが、どうでしょう?
それに、心身ともに疲れたから眠くなってきてるんだよな。

『そうじゃ!そういえば、この子は腹が空いておるのであった!』

ライアは空気を変える様に勢いよく立つと部屋の奥へと消えていった。

残されたカインは緑の瞳で俺をじっと見つめていたかと思うと、鼻を頬にぐいぐいと押し当ててくる。

ちょっと力強いんですが。
押される度に首が動いて脳震盪のうしんとうが起きそうなんだけど。
それに、俺は眠い!

「ううー……」

ちょっと怒りを込めた声を出し、右手でカインの鼻を押し返す。
力比べは……比べるまでもなく負ける。

満足したのか、『ふっ』と笑い離れていった。

一体何がしたかったんだろう。

トテトテという足音と共にライアが戻ってきた。
そして、俺の横に

ドンッ!

と、生肉が置かれた。

……人間の赤ん坊は生肉を食べないと思うのは俺だけだろうか。
この世界では、赤ん坊の時は生肉を食べるのが一般的……なのか?
いや、でも、流石に食べる気にならないんですが。

えーっと……どうしたら良いんだろ。

『なんじゃ?腹は空いておらぬのか?』

心配そうにライアが俺を覗いてくる。

タイミング良く俺のお腹から『くぅ~』と可愛らしい音が出た。

なんでだろう、物凄く恥ずかしい。

こっちに来てから何も食べて無いから、確かにお腹は空いている。

空いているが、なんか……恥ずかしい。

『おお!やはり、腹を空かせておるのだなっ。』

自分の予想が当たって嬉しいのか、キラキラと顔を輝かせ、生肉を口に咥え、一口サイズに引きちぎる。

超ワイルド。

その生肉を俺の顔の上に乗せる。

べちゃっと顔の半分くらいまで生肉が襲いかかってきた。

狼の一口と赤ん坊の一口を一緒にしてはいけないと思う。
すげー生臭い。

「うぅ~……」

不機嫌な声を出し、生肉を手で払いのける。

思ってたよりも重さがあったので、何度も手と顔を動かしてようやく生肉を落とす事が出来た。

『なんじゃ?好き嫌いはよくないぞ?』

『……なあ、ライア。人間の子供もソレは食べられないのではないか?』

ん?カインは今『も』って言ったよな。
『も』って事は狼(話を聞いてる限り神狼族?)の子供も生肉食べないんじゃねえの?

『じゃが、妾達は食べておるぞ?』

『ああ、うん。そうだな…………後で長老にでも相談しに行こうか。』

何かを諦めた様子でカインはどこか遠くを見つめていた。

『そうじゃの!なら今すぐに』

『いや、待て。その前にライアはこの子をどうしたいのか聞かせては貰えぬだろうか?』

『??それはもちろん育てるに決まっておるぞ?』

ライアの話を途中で遮ったカインに対し、ライアは何を当たり前な事を、と言わんばかりに首を傾げる。

俺も初耳。
いつの間にその話が決まっていたんだ。
本人に許可を……
あー……コミュニケーションがとれないんだった……

『それは……何となく分かっていた。だがな、わしらと人間じゃ聞き取れる言語が違うんだよ。』

『ああ、なんじゃ。その心配をしておったのか。なら安心せい。神獣王様からの加護がこの子についておるぞ?』

『そ、そうなのか?だが、神獣王様の加護を貰ったとて、わしらの言葉を理解出来る様になるのか?』

『そこは【鑑定】で調べれば良かろう?すぐに分かるはずじゃ。』

こくりとカインが頷くと俺に視線を向け、『【鑑定】』と呟く。
そして、納得した様子でゆっくりとまばたきをするとライアへ顔を向ける。

『確かに、【神獣王の加護】と【魔物翻訳】の固有スキルがあるな。まあ、まだ小さいから、わしらの話は理解出来ぬかもしれんが……』

ごめんなさい、理解しちゃってます。
どちらにしろ理解出来ない前提でさっきまで話てたんだな。
よし、今までの話は聞かなかった事にしよう。
なんだか、重い話だったしな。

『神獣王様の厚意で【魔物翻訳】の固有スキルも付けてくれたのだ。本当に有難い事じゃの。』

優しい眼差しを向けてくるライアに、俺はなんとも言えないむず痒さを感じる。

うぉぉぉぉ……
これはこれで何か照れるぞ……

『カイン、そろそろ長老の元へ行こうではないか。』

『ふっ……そうだな。……あぁ、わしが持とう。』

ライアが俺の布を咥えようとしたが、カインがさえぎり布を咥える。

あの~……
持ってくれるのは嬉しいんだけどね?
いや、嬉しいんだよ?嬉しいんだけど……
下半身に布が無い状態なんですが!
もっと、こう、全体にまんべんなく布が来るように持ってもらった方が安心できるかなーって。

『しっかり捕まっておれよ?』

カインは俺に言うが
どこに捕まれば良いんだっ!
ちょ、待って。
心の準備が……

俺を中途半端に持った状態のカインとライアは小屋を出て木の上から飛び降りた。

うわぁぁぁあぁぁぁ!

俺の身体身体からだと眠気は飛んでいった。














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