幻灯箱の紅い薔薇

きあき

カーブミラーの中の君

ある日
ふと見上げたカーブミラーの中に
ぼくは君を見つけた

カーブミラーの中の君は
一直線に並ぶ電信柱の上を駆けて
高圧電線を飛び越え
モクモクと浮かぶ雲の森へ入っていった

次の日も次の日も
君は車の上を飛び越え
家々の屋根を渡り
毎日楽しそうに街の中を
縦横無尽に遊びまわっていた

カーブミラーの中の君を
ぼくは追いかけた
君の声が聞きたくて
君に触れたくて
君のように自由になりたくて
でも、ぼくの足には鉛のように
日常が吸い付いていて
走っても走っても
君に追いつけない

次の日も次の日も
君に焦がれる夜が続く

夏から秋へ時が流れた

ある平日の午後
カーブミラーの中の君が
真っすぐ僕を見つめていた
君はゆっくりとぼくを手招き
ぼくは有頂天になり
町の声さえ届かなかった・・・

君に招かれるまま
フェンスを飛び越え
青空の雲の森の中へ!



アスファルトの上
赤い水の中から見上げた
青い空の中で君はぼくを見て
ケタケタと笑っていた
薄れゆく意識の中で
ぼくは初めて君の声を聴いた

「重い体を捨てちまえば
あたいのような自由になれるよ」

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