覚悟の炎をもう一度
一話 変わる日常の始まり
世界は、変わるときにはすぐに変わる。そんな事を思わせるほどに、時代の流れは急だった。一昔前までは、石油やガス、電気などがエネルギーとしては主流で、その中の石油が枯渇してしまったら………や排気ガスの影響で…………などと、色々騒がせていた問題は、ある一人の科学者によって解決してしまった。その日、人類は、初めて、超圧縮された炎のエネルギーの凄さと可能性を目の当たりにした。
この炎の特徴は、まず、酸素を使わず、そして二酸化酸素を排出しない事。その分、人の体力を消耗する。次に、声帯や指紋のように人によって、炎の形や色、性質も若干異る事だ。これにより、セキュリティや契約、身分証明書、パスポートなどに多用されている。そして、最後に、この炎は使用している人の意志の強さや覚悟の大きさに比例して、炎の炎圧が上がるという事だ。具体的な数値は知らんがな。
「まあ、今となれば俺にはどうでもいいけどな」
そう言いながら、俺は寝間着から制服へと着替える。因みに今いるのは学生寮男子棟だ。自分の部屋から出て鍵をかける。
そして、朝飯を買いに某ファミリーなコンビニへと向かう。このコンビニが寮の近くにあるので生徒の大半が利用している。
学校からも近いから、寮の生徒以外も昼飯や学校帰りに利用している。いらっしゃいませ〜という声をBGM にサラダチキンがあるコーナーに向かう。それとInゼリー(マルチビタミン)この二つを買い、イートインコーナーで食し、学校へ向かう。
「はぁー、食ったきしねぇー。弁当にすれば良かった、、、はぁー」
そんな事を言いつつ、俺は今日の日程を思い出そうとした、、、アレ?今日って入学式か?遂にニ年生になるのか!
「そう言えば、確か、今年の一年のトップは炎の力が特殊なんだっけか?まっ、どうでもいいか」
そんなこんなで、何事もなく、学校に着いた。下駄箱で靴から上履きに履き替えて、自分の教室に向かう。あっ、まだ言ってなかったな。俺の名前は緋乃 柊一、陽桐学園の2年生だ。そう思いながら廊下を歩いていると、他の生徒が俺を見るなり小声で
(おっ、今日も懲りずに落ちこぼれが来てるぞwww)
(うわーww本当だwww )
(あいつ、授業もやる気ないらしいぞー何にしに来てんだ?)
などと、陰口を言っている。
「あのなぁ、聞こえる様に言ってたら陰口を言う意味がないんじゃないか?まぁ、どうでもいいか」
何故、俺がここまで言われているのか、さっきも言われていた通り、落ちこぼれで、それでいて授業も真剣にやってないからだ。何で、落ちこぼれと言われているのか、それは俺は炎を使わず、実技の授業を受けているためだ。別に炎は使える。それも、本気を出さなくとも学園トップになるのも容易なくらいに。それ程の力があって、それを使わない理由……それは、俺が中学時代において、炎を使った格闘スポーツ[炎闘技]で負け無しの最強だった。
幼少の頃に見て、憧れ、気がつけば頂点に立って、確かに夢は叶った、達成感はあった、喜んだ。けど、それが中学に入ってから中ニが終わるまで続き、何も感じなくなってしまい、飽きた。まぁ、それだけでもないがな。唯一の救いは、覆面をしていたので、友達や近所の人にバレる事がなかった事だ。誤算だったのは、学園長にバレて学園の先生に知られてしまった事。
そうでなければ今頃は、留年か退学になっているからな。因みにこの学園は世界的に見ても炎闘技やその他分野の超名門校だ。そんな名門校に居れば世界やまだ知らなかった俺より強い奴に出会えるかもという淡い期待があったからだ。
まぁ、目ぼしい奴は今のところいないけどな。
「あっ、でも、一年のトップは気になるな。女子だっけか?まぁいいか」
そうこうしていると、俺は自分の教室の2年Aクラスについた。因みに、クラス分けは実力で決まり、A,B,C,D,Eの五段階評価でクラスが割り振られている。去年もAクラスだったが、これは学園長や教師達による嫌がらせだ。だからこそ、俺は去年から実技では炎を使わないという行動を取っている。まぁ、意味は無いけどな。そんな事を思いながら、自分の席に向かっていると、クラスの奴らは軽蔑の目を向けている。俺は視線が合ったら笑顔を向けるという、異常行動を取ってビビらせる。しばらくして、担任が来て入学式をしに体育館へと向かい、無事に終わった。
今は、帰るために下駄箱の所に向かっていた。すると、俺の下駄箱の前で銀髪ツインテールの女子生徒が立っていた。誰かに用でもあるのか?と思い、スルーしようとしたとき、いきなり話しかけてきた。
「先輩が、[炎帝]で間違いないですよね?」
その問いに、俺はどうしようか考えているわけでもなく、余裕のある表情で
「いいや、違う。俺の名前は、緋乃 柊一だ。で、お前は?あと、何の用だ?」
俺の言葉に彼女は、眉の一つも動かす事なく冷静でいた。
「ふーん、そうですか。私は、一年Aクラス所属のユウリ・ラグレスです。単刀直入に言います……先輩に、炎帝に、私の指導者になって欲しいんです!!」
「はぁ。いや、だからな。俺は炎帝じゃないぞ?人違いだ。他を当たってくれ」
俺がそう言って、下駄箱に手を伸ばそうとすると、彼女は下駄箱の扉を『ガン!』という物凄い力で叩いた。
「人違いではありません!!確かに、覆面をしていたから顔の判断はできませんが、声だけは、この声だけは間違えるハズがありません!!今の今まで、毎日私は炎帝の声を聞いているんです!!そんな私が間違えるハズがありません!!もう一度聞きます、先輩は炎帝ですよね?」
俺は今、どんな顔をすればいいのか分からない。なぜか、目の前にいる後輩がトンデモ発言をしたからだ。
「俺がどうこうって言う話の前に、聞き間違いかもしれんが……今、毎日って言う言葉が聞こえてきたんだが?」
すると、満面の笑みで
「はい!そうですよ?」
「えっ!?」
「えっ!?」
俺が驚くと、彼女もそれに驚くというカオスな状態になった……
「はぁー、まぁいいや。で?他に何をしてるんだ?」
取り敢えず、毎日炎帝の声を聞いてる人間がこれで終わるわけがないという俺の判断のもと、聞くことにしたのだが……
「えーと、まずですね、先輩の中学や家の住所を特定したり、進学先もそうでしたね。あとは、先輩の行動範囲や友人関係、それから恋愛などなど、その他諸々ですね!」
満面の笑み、いやそれ以上の笑みを銀髪ツインテのこの後輩はしていた。それが何を指すのか……そう!!炎帝に対する犯罪行為でさえも、この後輩が口にするだけで、正当なものにさえ感じられてしまう。
結局、何が言いたいのか……めっちゃ可愛いって話。普通の人が見ればそれで終わるんだろうがな。
「はぁー、お前……それ犯罪だからな?」
呆れた視線と声色を向けるが……
「大丈夫です!そこに愛という文字があれば!!」
駄目だー、この子、完全に頭いってるよー
「それは良かったな。じゃあその炎帝って奴を探すの頑張れよー」
そう言って俺は、上履きから靴に履き替えて帰ろうとすると、後輩が両手を広げて道を塞いだ。
「嘘をつかないでくさい!先輩が炎帝なのは分かってるんです!どうして、さも別人のようなフリをするんですか!確かに、私はストーカーで、身の危険を感じるのは分かります。ですが、先輩が学園で落ちこぼれ呼ばわりされているのは納得いきません!どうしてなんですか!」
その場は、静寂に包まれた。外からの夕日が後輩の銀髪とその、エメラルドブルーの瞳をより美しく見せていた。ような気がした。いや、俺がそう感じただけか。
「はぁー、分かったよ。喫茶店にでも行くか?お前の奢りで」
俺は、諦めたという表情と疲れきった声でそう言った。
「私の奢りですね!分かりました!先輩、案内をお願いします!」
後輩は、さっきよりも、嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った後に、なぜか、腕を組んで近くの喫茶店に向かった。
店内はまぁ、いい感じの雰囲気を楽しめるように、落ち着いた音楽を流していた。
俺は水を、後輩はケーキと紅茶を口にしていた。
「それでは先輩、さっきの続きをお願いします。」
そう言った彼女の表情は、とても真剣に見えた。
「はぁー、えーと、俺が落ちこぼれになっている理由が聞きたいんだっけ?」
「はい、先輩が落ちこぼれと“呼ばれている”理由です!」
あちゃー、訂正されちった!テヘ!
「まぁ、簡単に言えば、実技の授業で炎を使わず、それでいて真剣に受けていないからだなぁ」
そう言うと、後輩は何故か呆れた顔をしていた。
「なんだよ。呆れた顔をして」
「はぁー。そんな事は知っています。そうじゃなくて!なんで!先輩が!炎を使ってないんですか!って言う事ですよ!」
「ああ、その事か。アレだ、飽きちまったんだよ。あの学園に入学したのも、俺より強い奴がいるかと思ったから入学したんだがな、期待ハズレだったんだよ。だからかな」
すると、いきなり、目の前の銀髪の子は立ち上がって…瞬間、俺の左頬に平手打ちが向かって来るのが分かった。避けられる。
が、俺は理由を知っている。だから、そのまま打たれようとした。
しかし、衝撃は来なかった、あるのは両頬に暖かく、俺より小さく、細い手の平の感触と目の前に目を閉じて俺の唇ると後輩の唇が重なっている感触だった。
「〜〜」
「ッ!ん!?」
数秒が数時間に及ぶ静寂だと間違える程に…どこか、満たされた気がしていたような、そうでいないような、気がした。
お互い、静かに唇を離した。
「で?俺の初めてを奪った後輩よ、何であんな事したんだ?」
別に怒ってはいない。声色は正常、いや、優しげなのかもしれない。
「私も……は、は、初めてです!!責任とって下さい!!」
はぁ!?まぁいいや。
「で?何であんな事したんだ?」
「スルーですか!?まぁ、後でどうとでもなりますから、いいでしょう。『何で』そんなの決まってます!先輩の事が好きだからです!!ですが、最初は平手打ちをしようかと思ったのですが、先輩は避けようともしなかった。先輩は、自分の言った意味を自覚している。そして、諦めている。そんな先輩を叩いたところで、何も始まりません。なので、先輩に……き、きき、き、き、キスを……しました。」
「言っとくが、俺は炎帝じゃない。俺は緋乃 柊一だ。それ以上でも、それ以下でもない。『それは』ただの冠だ。それでいいなら、面倒を見てやる」
俺は少し、照れながらそう言った。そう、俺は炎帝ではない。炎帝もまた、俺ではない。俺は、緋乃 柊一。炎帝は冠でしかない。
「なるほど。そう言う事だったんですね。先輩って、寂しがり屋なんですか?」
そう言って、微笑んでいた。
「で、どっちなんだ?」
「お願いします。ですが、只の指導者ではなく、将来を誓った指導者になって下さい、実はこのやりとり、私の家の人にお願いして、盗撮、盗聴をしているんです。さっき、キスをしましたよね?」
そう言って、それはもう嬉しそうな表情を浮かべて、いかにも幸せって顔をしていた。怖いよ!何だよ家の人って、金持ちか?
「はぁ、じゃあ、候h「却下です」」
「なぁ、最後まで言ってn「全世界に拡散していいですか?」」
「はぁ、分かったよ。」
「本当ですか!?やったー!!」
「けど、俺は炎帝じゃないからな」
「別に先輩が炎帝だから、こんな事してるわけじゃないんですよ?忘れちゃいましたか?あの試合の時、私は対戦相手の攻撃が被弾しそうなとき、助けてくれたじゃないですか!」
俺はふと、考える。う〜ん。あっ!!
「ああ!あの時の!アレ?でもあの時、お前は対戦相手の事を応援してなかったか?」
「だってあの時は、先輩が初めて優勝する大会で、当時はまだ、無名だったじゃないですか!第三試合のフライド選手は料理家でも有名であり、実力もあったんですからね!」
「確かに、手馴れていた感はあったなぁ。懐かしなぁ。うん?お前、VIP 席にいなかったか?」
「はぁー。先輩の事だから、知らないと思っていましたが、ここまでだとは。ラグレス家は、炎の発見によって次世代のエネルギー[FDC (Fiamma di  compressione )]の暴走などを防ぐために、管理を任されるんです。そして、私の炎の特徴は、炎を凍らせること。今はまだ、少しかコントロールができませんけど、なるべく早くに私一人でも暴走した時に止められる用にしたいんです…なので、よろしくお願いします。」
彼女は、後半になるにつれて、真剣な表情になっていった。当然だろう。彼女の夢の一つなのだから。多分。俺は残った水を飲み干した。
「なるほど、お前が噂の特殊な炎を持つ一年生か。ここだとあまり良くないな。うーん、どうすっかなぁー」
俺が考えていると
「あっ!!先輩、言い忘れていたのですが、先輩は学校と両家族の同意のもと、私と一緒に住むことになりました。」
うん?今なんて言った?
「それは、冗談か?」
「そんなわけありません!本当です!」
はぁー、嫌な予感がするなぁ。これからの日常が……はぁー。
「まぁ、いいや。って事は、荷物を運ばないといけないのか。先に言えよな。もう5時になるぞ!」
「いえ、その心配はありませんよ。私の家の人に頼みましたから。報告によると……なるほど。ふむふむ。おおー。やっぱりですか。先輩の部屋に隠してあった大人の本の傾向が分かりました。だからと言って、私のお母様に手は出さないで下さいね?お母様じゃなくて…私だったら…別に……その…良いんですけど…。」
爆弾発言…恐るべし…
「安心しろって、お前も含めて手を出さないから。それに、アレは中学の時の友達のヤツだからな、俺も処分するの忘れてたなぁ。後で燃やしとくかな。」
「まぁ、知ってましたけどね。先輩って、人『ピー』寝『ピー』ものより、脚『ピー』ですもんね〜。」
「人を勝手に、脚フェチにするな。」
「あ!せっかく“ピー”を入れたのに!」
「知るか。取り敢えず、家に案内してくれ。いつまでも、ここにいたら店に迷惑だ。」
「そうですね。先輩、割り勘じゃあ駄目ですか?」
「金が足らなかったのか?」
「いえ、そっちの方がデートしてるみたいな感じで良いじゃないですか?」
サラっと言ったなぁ。
俺はとりま、無視してレジまで行って会計を済ませて店を出た。
「あ!もう!待ってくださいよ!先輩!でも、先輩に奢って貰っちゃった!なんかカップルみたい!キャッ!!」
「はぁ。あのなぁ、お前はもう少し声を抑えろ。うるさい。」
「あっ!すいません。嬉しくてつい……」
シュンとしてしまった。まぁ、可愛いんだけどな。
「で?どこなんだ?家は」
「えっと。学園の近くにあります。」
学園の近くって事は寮よりも近い場所なのか?それとも同じくらいの距離か?
「なぁ、寮よりも近いのか?」
「そうですね。その近くには、デパートや商店街が少し行った所にありますね。」
「は!?めっちゃ近い所にあるじゃねか!」
「ですね!!これなら、買い物デートとかもできますね!」
そうこうしていると、後輩が歩くのを止めた。どうやら、着いたみたいだ。
「なぁ、本当に、ここなのか?」
「はい。ここです」
そこにあったのは、まさに、大・豪・邸!と呼べる家ではなく、普通の2階建の家だった。庭付きの。ただ、俺が驚いたのはそこじゃなく、表札だった。
柊一・ラグレス(仮)
ユウリ・ラグレス
「なぁ、本当なんだな」
俺は待っていた、テッテレーの板を出す後輩を!なのに、なのに、満面の笑みで……
「そうですよ!今日からお願いしますね。あ・な・た・♡キャッ、言っちゃった!」
恨みがあるのか?もうしょうがない。どうにもならない。
「はぁー、はいはい。よろしく」
こうして、新たな日々が始まったのか。
この炎の特徴は、まず、酸素を使わず、そして二酸化酸素を排出しない事。その分、人の体力を消耗する。次に、声帯や指紋のように人によって、炎の形や色、性質も若干異る事だ。これにより、セキュリティや契約、身分証明書、パスポートなどに多用されている。そして、最後に、この炎は使用している人の意志の強さや覚悟の大きさに比例して、炎の炎圧が上がるという事だ。具体的な数値は知らんがな。
「まあ、今となれば俺にはどうでもいいけどな」
そう言いながら、俺は寝間着から制服へと着替える。因みに今いるのは学生寮男子棟だ。自分の部屋から出て鍵をかける。
そして、朝飯を買いに某ファミリーなコンビニへと向かう。このコンビニが寮の近くにあるので生徒の大半が利用している。
学校からも近いから、寮の生徒以外も昼飯や学校帰りに利用している。いらっしゃいませ〜という声をBGM にサラダチキンがあるコーナーに向かう。それとInゼリー(マルチビタミン)この二つを買い、イートインコーナーで食し、学校へ向かう。
「はぁー、食ったきしねぇー。弁当にすれば良かった、、、はぁー」
そんな事を言いつつ、俺は今日の日程を思い出そうとした、、、アレ?今日って入学式か?遂にニ年生になるのか!
「そう言えば、確か、今年の一年のトップは炎の力が特殊なんだっけか?まっ、どうでもいいか」
そんなこんなで、何事もなく、学校に着いた。下駄箱で靴から上履きに履き替えて、自分の教室に向かう。あっ、まだ言ってなかったな。俺の名前は緋乃 柊一、陽桐学園の2年生だ。そう思いながら廊下を歩いていると、他の生徒が俺を見るなり小声で
(おっ、今日も懲りずに落ちこぼれが来てるぞwww)
(うわーww本当だwww )
(あいつ、授業もやる気ないらしいぞー何にしに来てんだ?)
などと、陰口を言っている。
「あのなぁ、聞こえる様に言ってたら陰口を言う意味がないんじゃないか?まぁ、どうでもいいか」
何故、俺がここまで言われているのか、さっきも言われていた通り、落ちこぼれで、それでいて授業も真剣にやってないからだ。何で、落ちこぼれと言われているのか、それは俺は炎を使わず、実技の授業を受けているためだ。別に炎は使える。それも、本気を出さなくとも学園トップになるのも容易なくらいに。それ程の力があって、それを使わない理由……それは、俺が中学時代において、炎を使った格闘スポーツ[炎闘技]で負け無しの最強だった。
幼少の頃に見て、憧れ、気がつけば頂点に立って、確かに夢は叶った、達成感はあった、喜んだ。けど、それが中学に入ってから中ニが終わるまで続き、何も感じなくなってしまい、飽きた。まぁ、それだけでもないがな。唯一の救いは、覆面をしていたので、友達や近所の人にバレる事がなかった事だ。誤算だったのは、学園長にバレて学園の先生に知られてしまった事。
そうでなければ今頃は、留年か退学になっているからな。因みにこの学園は世界的に見ても炎闘技やその他分野の超名門校だ。そんな名門校に居れば世界やまだ知らなかった俺より強い奴に出会えるかもという淡い期待があったからだ。
まぁ、目ぼしい奴は今のところいないけどな。
「あっ、でも、一年のトップは気になるな。女子だっけか?まぁいいか」
そうこうしていると、俺は自分の教室の2年Aクラスについた。因みに、クラス分けは実力で決まり、A,B,C,D,Eの五段階評価でクラスが割り振られている。去年もAクラスだったが、これは学園長や教師達による嫌がらせだ。だからこそ、俺は去年から実技では炎を使わないという行動を取っている。まぁ、意味は無いけどな。そんな事を思いながら、自分の席に向かっていると、クラスの奴らは軽蔑の目を向けている。俺は視線が合ったら笑顔を向けるという、異常行動を取ってビビらせる。しばらくして、担任が来て入学式をしに体育館へと向かい、無事に終わった。
今は、帰るために下駄箱の所に向かっていた。すると、俺の下駄箱の前で銀髪ツインテールの女子生徒が立っていた。誰かに用でもあるのか?と思い、スルーしようとしたとき、いきなり話しかけてきた。
「先輩が、[炎帝]で間違いないですよね?」
その問いに、俺はどうしようか考えているわけでもなく、余裕のある表情で
「いいや、違う。俺の名前は、緋乃 柊一だ。で、お前は?あと、何の用だ?」
俺の言葉に彼女は、眉の一つも動かす事なく冷静でいた。
「ふーん、そうですか。私は、一年Aクラス所属のユウリ・ラグレスです。単刀直入に言います……先輩に、炎帝に、私の指導者になって欲しいんです!!」
「はぁ。いや、だからな。俺は炎帝じゃないぞ?人違いだ。他を当たってくれ」
俺がそう言って、下駄箱に手を伸ばそうとすると、彼女は下駄箱の扉を『ガン!』という物凄い力で叩いた。
「人違いではありません!!確かに、覆面をしていたから顔の判断はできませんが、声だけは、この声だけは間違えるハズがありません!!今の今まで、毎日私は炎帝の声を聞いているんです!!そんな私が間違えるハズがありません!!もう一度聞きます、先輩は炎帝ですよね?」
俺は今、どんな顔をすればいいのか分からない。なぜか、目の前にいる後輩がトンデモ発言をしたからだ。
「俺がどうこうって言う話の前に、聞き間違いかもしれんが……今、毎日って言う言葉が聞こえてきたんだが?」
すると、満面の笑みで
「はい!そうですよ?」
「えっ!?」
「えっ!?」
俺が驚くと、彼女もそれに驚くというカオスな状態になった……
「はぁー、まぁいいや。で?他に何をしてるんだ?」
取り敢えず、毎日炎帝の声を聞いてる人間がこれで終わるわけがないという俺の判断のもと、聞くことにしたのだが……
「えーと、まずですね、先輩の中学や家の住所を特定したり、進学先もそうでしたね。あとは、先輩の行動範囲や友人関係、それから恋愛などなど、その他諸々ですね!」
満面の笑み、いやそれ以上の笑みを銀髪ツインテのこの後輩はしていた。それが何を指すのか……そう!!炎帝に対する犯罪行為でさえも、この後輩が口にするだけで、正当なものにさえ感じられてしまう。
結局、何が言いたいのか……めっちゃ可愛いって話。普通の人が見ればそれで終わるんだろうがな。
「はぁー、お前……それ犯罪だからな?」
呆れた視線と声色を向けるが……
「大丈夫です!そこに愛という文字があれば!!」
駄目だー、この子、完全に頭いってるよー
「それは良かったな。じゃあその炎帝って奴を探すの頑張れよー」
そう言って俺は、上履きから靴に履き替えて帰ろうとすると、後輩が両手を広げて道を塞いだ。
「嘘をつかないでくさい!先輩が炎帝なのは分かってるんです!どうして、さも別人のようなフリをするんですか!確かに、私はストーカーで、身の危険を感じるのは分かります。ですが、先輩が学園で落ちこぼれ呼ばわりされているのは納得いきません!どうしてなんですか!」
その場は、静寂に包まれた。外からの夕日が後輩の銀髪とその、エメラルドブルーの瞳をより美しく見せていた。ような気がした。いや、俺がそう感じただけか。
「はぁー、分かったよ。喫茶店にでも行くか?お前の奢りで」
俺は、諦めたという表情と疲れきった声でそう言った。
「私の奢りですね!分かりました!先輩、案内をお願いします!」
後輩は、さっきよりも、嬉しそうな笑みを浮かべてそう言った後に、なぜか、腕を組んで近くの喫茶店に向かった。
店内はまぁ、いい感じの雰囲気を楽しめるように、落ち着いた音楽を流していた。
俺は水を、後輩はケーキと紅茶を口にしていた。
「それでは先輩、さっきの続きをお願いします。」
そう言った彼女の表情は、とても真剣に見えた。
「はぁー、えーと、俺が落ちこぼれになっている理由が聞きたいんだっけ?」
「はい、先輩が落ちこぼれと“呼ばれている”理由です!」
あちゃー、訂正されちった!テヘ!
「まぁ、簡単に言えば、実技の授業で炎を使わず、それでいて真剣に受けていないからだなぁ」
そう言うと、後輩は何故か呆れた顔をしていた。
「なんだよ。呆れた顔をして」
「はぁー。そんな事は知っています。そうじゃなくて!なんで!先輩が!炎を使ってないんですか!って言う事ですよ!」
「ああ、その事か。アレだ、飽きちまったんだよ。あの学園に入学したのも、俺より強い奴がいるかと思ったから入学したんだがな、期待ハズレだったんだよ。だからかな」
すると、いきなり、目の前の銀髪の子は立ち上がって…瞬間、俺の左頬に平手打ちが向かって来るのが分かった。避けられる。
が、俺は理由を知っている。だから、そのまま打たれようとした。
しかし、衝撃は来なかった、あるのは両頬に暖かく、俺より小さく、細い手の平の感触と目の前に目を閉じて俺の唇ると後輩の唇が重なっている感触だった。
「〜〜」
「ッ!ん!?」
数秒が数時間に及ぶ静寂だと間違える程に…どこか、満たされた気がしていたような、そうでいないような、気がした。
お互い、静かに唇を離した。
「で?俺の初めてを奪った後輩よ、何であんな事したんだ?」
別に怒ってはいない。声色は正常、いや、優しげなのかもしれない。
「私も……は、は、初めてです!!責任とって下さい!!」
はぁ!?まぁいいや。
「で?何であんな事したんだ?」
「スルーですか!?まぁ、後でどうとでもなりますから、いいでしょう。『何で』そんなの決まってます!先輩の事が好きだからです!!ですが、最初は平手打ちをしようかと思ったのですが、先輩は避けようともしなかった。先輩は、自分の言った意味を自覚している。そして、諦めている。そんな先輩を叩いたところで、何も始まりません。なので、先輩に……き、きき、き、き、キスを……しました。」
「言っとくが、俺は炎帝じゃない。俺は緋乃 柊一だ。それ以上でも、それ以下でもない。『それは』ただの冠だ。それでいいなら、面倒を見てやる」
俺は少し、照れながらそう言った。そう、俺は炎帝ではない。炎帝もまた、俺ではない。俺は、緋乃 柊一。炎帝は冠でしかない。
「なるほど。そう言う事だったんですね。先輩って、寂しがり屋なんですか?」
そう言って、微笑んでいた。
「で、どっちなんだ?」
「お願いします。ですが、只の指導者ではなく、将来を誓った指導者になって下さい、実はこのやりとり、私の家の人にお願いして、盗撮、盗聴をしているんです。さっき、キスをしましたよね?」
そう言って、それはもう嬉しそうな表情を浮かべて、いかにも幸せって顔をしていた。怖いよ!何だよ家の人って、金持ちか?
「はぁ、じゃあ、候h「却下です」」
「なぁ、最後まで言ってn「全世界に拡散していいですか?」」
「はぁ、分かったよ。」
「本当ですか!?やったー!!」
「けど、俺は炎帝じゃないからな」
「別に先輩が炎帝だから、こんな事してるわけじゃないんですよ?忘れちゃいましたか?あの試合の時、私は対戦相手の攻撃が被弾しそうなとき、助けてくれたじゃないですか!」
俺はふと、考える。う〜ん。あっ!!
「ああ!あの時の!アレ?でもあの時、お前は対戦相手の事を応援してなかったか?」
「だってあの時は、先輩が初めて優勝する大会で、当時はまだ、無名だったじゃないですか!第三試合のフライド選手は料理家でも有名であり、実力もあったんですからね!」
「確かに、手馴れていた感はあったなぁ。懐かしなぁ。うん?お前、VIP 席にいなかったか?」
「はぁー。先輩の事だから、知らないと思っていましたが、ここまでだとは。ラグレス家は、炎の発見によって次世代のエネルギー[FDC (Fiamma di  compressione )]の暴走などを防ぐために、管理を任されるんです。そして、私の炎の特徴は、炎を凍らせること。今はまだ、少しかコントロールができませんけど、なるべく早くに私一人でも暴走した時に止められる用にしたいんです…なので、よろしくお願いします。」
彼女は、後半になるにつれて、真剣な表情になっていった。当然だろう。彼女の夢の一つなのだから。多分。俺は残った水を飲み干した。
「なるほど、お前が噂の特殊な炎を持つ一年生か。ここだとあまり良くないな。うーん、どうすっかなぁー」
俺が考えていると
「あっ!!先輩、言い忘れていたのですが、先輩は学校と両家族の同意のもと、私と一緒に住むことになりました。」
うん?今なんて言った?
「それは、冗談か?」
「そんなわけありません!本当です!」
はぁー、嫌な予感がするなぁ。これからの日常が……はぁー。
「まぁ、いいや。って事は、荷物を運ばないといけないのか。先に言えよな。もう5時になるぞ!」
「いえ、その心配はありませんよ。私の家の人に頼みましたから。報告によると……なるほど。ふむふむ。おおー。やっぱりですか。先輩の部屋に隠してあった大人の本の傾向が分かりました。だからと言って、私のお母様に手は出さないで下さいね?お母様じゃなくて…私だったら…別に……その…良いんですけど…。」
爆弾発言…恐るべし…
「安心しろって、お前も含めて手を出さないから。それに、アレは中学の時の友達のヤツだからな、俺も処分するの忘れてたなぁ。後で燃やしとくかな。」
「まぁ、知ってましたけどね。先輩って、人『ピー』寝『ピー』ものより、脚『ピー』ですもんね〜。」
「人を勝手に、脚フェチにするな。」
「あ!せっかく“ピー”を入れたのに!」
「知るか。取り敢えず、家に案内してくれ。いつまでも、ここにいたら店に迷惑だ。」
「そうですね。先輩、割り勘じゃあ駄目ですか?」
「金が足らなかったのか?」
「いえ、そっちの方がデートしてるみたいな感じで良いじゃないですか?」
サラっと言ったなぁ。
俺はとりま、無視してレジまで行って会計を済ませて店を出た。
「あ!もう!待ってくださいよ!先輩!でも、先輩に奢って貰っちゃった!なんかカップルみたい!キャッ!!」
「はぁ。あのなぁ、お前はもう少し声を抑えろ。うるさい。」
「あっ!すいません。嬉しくてつい……」
シュンとしてしまった。まぁ、可愛いんだけどな。
「で?どこなんだ?家は」
「えっと。学園の近くにあります。」
学園の近くって事は寮よりも近い場所なのか?それとも同じくらいの距離か?
「なぁ、寮よりも近いのか?」
「そうですね。その近くには、デパートや商店街が少し行った所にありますね。」
「は!?めっちゃ近い所にあるじゃねか!」
「ですね!!これなら、買い物デートとかもできますね!」
そうこうしていると、後輩が歩くのを止めた。どうやら、着いたみたいだ。
「なぁ、本当に、ここなのか?」
「はい。ここです」
そこにあったのは、まさに、大・豪・邸!と呼べる家ではなく、普通の2階建の家だった。庭付きの。ただ、俺が驚いたのはそこじゃなく、表札だった。
柊一・ラグレス(仮)
ユウリ・ラグレス
「なぁ、本当なんだな」
俺は待っていた、テッテレーの板を出す後輩を!なのに、なのに、満面の笑みで……
「そうですよ!今日からお願いしますね。あ・な・た・♡キャッ、言っちゃった!」
恨みがあるのか?もうしょうがない。どうにもならない。
「はぁー、はいはい。よろしく」
こうして、新たな日々が始まったのか。
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