王国への独立宣言 〜この領地では自由にやらせてもらいます〜
準備
「カケルよ、今日のうちに王都に向かう準備をサイラと済ませておくのだぞ? 明日の朝に出発する予定だからな」
「わかったよ」
この会話の通り、僕は明日この屋敷を出ていき王都へ向かう。
「それじゃあ頂くとしよう」
父のその一言でそれぞれが食卓に並べられた料理に手をつける。僕は日本の時と同じように、1人でいただきますと言ってから食べ始める。
相変わらず僕の前に座っている2人は食べ方が汚い。
「今日はあいつらにカケルが王都へ向かうことを伝えに行くとするか!」
「そうね! もしかしたらカケルに何か用意してくれるかもしれないわ」
「はっはっは! 用意するに決まっておる! しなかったらどうなるのかはあいつらが一番知っておるだろう」
2人がそんな話をしている。あいつらというのは領民のことを言っているんだろう。
それにしても母が父の話に乗ってくるなんて、僕の学院行きが決まった時以来だな。
僕は母が普段何をしているのか知らない。それは父もなんだが、父の場合は何となく想像できるから別にいい。
まぁとにかく母が出てくるなんて珍しいこともあるもんだなと思った。
父が領民のところに行くなら、僕もゲイルに会いたいな。
「僕も行きたい!」
「ダメですよ! カケル様は先程準備をしなさいと言われたばかりじゃありませんか」
隣でサイラが止めに入る。
「準備なんてすぐ終わるよ」
これは嘘じゃない。
僕に必要なもの、王都に持っていくべきものは服くらいだ。部屋のクローゼットに入っている服を選んでバッグに詰めたらそれで準備完了だ。
これに一日かかると思うか? 一時間もあれば充分だ。
「そうだぞカケル。大人しく準備をして、ゆっくりしておるのだ」
父とサイラの2人に言われたらどうしようもないな。
「わかったよ……」
僕は諦めて、再び食事を始めた。
「よし! それじゃあジェイス支度をしてくれ」
「かしこまりました」
先に食べ終わった父は席を立ち、側にずっと立っていたジェイスに声をかけた。
それに続くように母も食事を終え部屋に戻っていった。
残された僕とサイラはゆっくりと料理を味わい、一息ついてから部屋に戻った。
「おい、嘘だろ…… こんなにあるのか?」
準備を始めようとしたところ、サイラが持って行った方が良さそうなものを部屋に持ち込んできたのだがあまりにも多すぎる。
あんなに広かった部屋の半分以上が物で埋まってしまった。
「あっ! 全部じゃないですよ? この中から選んで持っていくんです」
「当たり前だろ!!」
思わず突っ込んでしまった。
「あ、いや、ごめん。わかってるよ」
びっくりしたサイラに、苦笑いしながら謝る。
「い、いえ! 私の方こそすみません、少しびっくりしてしまっただけです! それでは始めましょう」
「そうだね」
はりきって準備のために物を手に取って選んでいるサイラとは反対に、手の進まない僕。
「これじゃサイラが王都に行くみたいだな……」
「え? 何か言いましたか?」
僕がボソッと言ったことに反応するサイラ。めちゃくちゃ耳いいな。
「なんでもない!」
「はぁ…… 絶対一時間じゃ終わらないな……」
今度は聞こえないくらい小さな声で呟いた。
準備が終わった頃、すでに日は沈んでいた。
そして持っていく荷物は時間がかかった割に、僕の予想していた通り服のみであった。
ーーーーーーーーーーーー
今にも壊れそうな、形がそれぞれ異なるボロボロの小屋がいくつも並んでいる。その小屋以外には何も育っていない枯れた畑がいくつかあるだけ。
そんな死んだような土地にジェイスとウールはいた。
「よく聞けぇ!! 明日カケルが王都へ向かう! 異例ではあるがクリスセント学院を受験することになった! ほぼ確実に合格することだろう。実にめでたいことだ! 話は以上だ。帰るぞジェイス」
「はい。明日の朝カケル様は王都へ向かうため、ここを通るからな!」
領民に向けて二人はそれぞれ一方的に言いたいことを言って屋敷へと戻っていた。
二人の姿が見えなくなってから、領民たちはすぐに話し合いを始めた。
「カケル様って3歳だったよな? まだ学院に入学できる歳じゃないだろ」
「領主様は異例だと言っていたぞ。きっと天才なんだよ」
「この前来た時のカケル様を覚えてるだろ? どう考えても3歳とは思えない言動だったぜ?」
「えぇ、確かにそうだったわね」
「そんなことより明日どうするんだよ、みんな領主様と執事があんなことを言った意味をわかってるだろ?」
話し合いだというのにカケル様の入学についての話ばかり。その内一人がやっと本題に触れたことで、そこから誰も口を開かなくなった。
あの二人が何を言いたかったのかはわかっているが、誰もどうしたらいいか思いつかないからだ。
「やっぱお前達はすげーな! あの言葉足らずな、クソみたいなお話だけで何を求めているのかわかっちまうんだからな」
全員が黙り込む中、突然一人の男が大声でみんなを褒めた。その突然のことに領民たちは何言ってんだこいつというような顔をしている。
「安心しろ! もう準備はできてるからな」
「嘘つくんじゃねーよ! ゲイル」
そう、ゲイルだ。
彼はこの日が来ることを知っていたため、すでに用意していたのだ。
「嘘じゃない、お祝いの品はこれだ」
そう言ってポケットから取り出したのは領民たちがみんな持っている御守りと同じものだった。
「一応確認しておくが、あいつらが言いたかったのは明日の朝ここを通る時にカケル様の入学を祝う、祝いの品を渡すことと見送ること。その二つだ」
「わかってるけどさ。本当にそんなものでいいのか?」
「そうだ、もっとこう豪華なものじゃないと……」
「こんなもの受け取ってもらえないんじゃないか?」
それぞれに文句を言う領民に、彼は徐々に怒りが込み上げてきた。
「おい、こんなものってなんだよ…… お前らにとってこれはどういうものなんだ?」
その言葉に全員が自分の御守りを手に持ち、見つめる。
「この御守りには今まで死んでいった奴らや今ここにいる家族や仲間の、幸せに生きてほしいっていう強い願いが込められてるんじゃねーのかよ!」
「俺たちの大切にしてきたものをそんな風に二度と言うんじゃねー!!」
彼の怒りで大切なことを思い出した領民たちは謝罪の言葉を口にした。中には涙を流すものもいた。
「これを渡すのに反対するものはいないな?」
彼の言葉に全員が頷く。
「カケル様の出発は朝だと言っていたが細かい時間は言われていない。いつもより早く起きることにしよう。それじゃあ解散だ」
彼だけを残して他の領民たちはそれぞれに散らばっていった。
「明日会ったら次はいつになるんだろうな」
彼は寂しそうな表情をして屋敷のある方向を見つめていた。
ーーーーーーーーーーーー
最後の晩餐にて。
「準備は終わったか?」
「うん、終わったよ! サイラがたくさん荷物持ってきたけど」
「はっはっは! それだけ心配なんだろう」
「ちゃんと準備はしなくてはいけませんから!」
とても賑やかな食卓だ。明日4歳になる僕がこの屋敷を出ていくとは思えないな。
「今のうちに聞いておきたいんだけど、王都に着いたら僕はどうすればいいの?」
「それは心配しなくていい! すでにちゃんと手配してあるからな」
「そうなんだ! わかった」
「今日は早く寝て明日に備えるのだぞ」
食事の時間が終わり部屋に戻った僕は椅子に座り、机の引き出しから紙とペンを取り出す。
今までのことを思い出しながらペンを走らせ、僕の計画を全て終わらせる。
書いた手紙に封をして、一番上の引き出しの中に入れる。その引き出しには鍵がついている。
鍵をかけて、その鍵を机の上に置いておく。
「ゴーン、ゴーン、ゴーン」
この広い部屋に時計の0時を知らせる鐘の音が響く。気づけばあっという間にこんな時間になっていた。
今日は2月24日。
「誕生日おめでとう、僕」
ここの暦は日本と変わらない。日本にいた頃翔の誕生日は8月24日だった。半年ずれている。まぁこれに意味はあまりないだろう。
日本で僕は誕生日を祝ってもらった記憶がない。誕生日に一人で過ごすことが当たり前だった。
寂しい気持ちを思い出してしまった僕は、それを忘れるかのようにベッドへダイブし身体と意識を沈めていった。
「わかったよ」
この会話の通り、僕は明日この屋敷を出ていき王都へ向かう。
「それじゃあ頂くとしよう」
父のその一言でそれぞれが食卓に並べられた料理に手をつける。僕は日本の時と同じように、1人でいただきますと言ってから食べ始める。
相変わらず僕の前に座っている2人は食べ方が汚い。
「今日はあいつらにカケルが王都へ向かうことを伝えに行くとするか!」
「そうね! もしかしたらカケルに何か用意してくれるかもしれないわ」
「はっはっは! 用意するに決まっておる! しなかったらどうなるのかはあいつらが一番知っておるだろう」
2人がそんな話をしている。あいつらというのは領民のことを言っているんだろう。
それにしても母が父の話に乗ってくるなんて、僕の学院行きが決まった時以来だな。
僕は母が普段何をしているのか知らない。それは父もなんだが、父の場合は何となく想像できるから別にいい。
まぁとにかく母が出てくるなんて珍しいこともあるもんだなと思った。
父が領民のところに行くなら、僕もゲイルに会いたいな。
「僕も行きたい!」
「ダメですよ! カケル様は先程準備をしなさいと言われたばかりじゃありませんか」
隣でサイラが止めに入る。
「準備なんてすぐ終わるよ」
これは嘘じゃない。
僕に必要なもの、王都に持っていくべきものは服くらいだ。部屋のクローゼットに入っている服を選んでバッグに詰めたらそれで準備完了だ。
これに一日かかると思うか? 一時間もあれば充分だ。
「そうだぞカケル。大人しく準備をして、ゆっくりしておるのだ」
父とサイラの2人に言われたらどうしようもないな。
「わかったよ……」
僕は諦めて、再び食事を始めた。
「よし! それじゃあジェイス支度をしてくれ」
「かしこまりました」
先に食べ終わった父は席を立ち、側にずっと立っていたジェイスに声をかけた。
それに続くように母も食事を終え部屋に戻っていった。
残された僕とサイラはゆっくりと料理を味わい、一息ついてから部屋に戻った。
「おい、嘘だろ…… こんなにあるのか?」
準備を始めようとしたところ、サイラが持って行った方が良さそうなものを部屋に持ち込んできたのだがあまりにも多すぎる。
あんなに広かった部屋の半分以上が物で埋まってしまった。
「あっ! 全部じゃないですよ? この中から選んで持っていくんです」
「当たり前だろ!!」
思わず突っ込んでしまった。
「あ、いや、ごめん。わかってるよ」
びっくりしたサイラに、苦笑いしながら謝る。
「い、いえ! 私の方こそすみません、少しびっくりしてしまっただけです! それでは始めましょう」
「そうだね」
はりきって準備のために物を手に取って選んでいるサイラとは反対に、手の進まない僕。
「これじゃサイラが王都に行くみたいだな……」
「え? 何か言いましたか?」
僕がボソッと言ったことに反応するサイラ。めちゃくちゃ耳いいな。
「なんでもない!」
「はぁ…… 絶対一時間じゃ終わらないな……」
今度は聞こえないくらい小さな声で呟いた。
準備が終わった頃、すでに日は沈んでいた。
そして持っていく荷物は時間がかかった割に、僕の予想していた通り服のみであった。
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今にも壊れそうな、形がそれぞれ異なるボロボロの小屋がいくつも並んでいる。その小屋以外には何も育っていない枯れた畑がいくつかあるだけ。
そんな死んだような土地にジェイスとウールはいた。
「よく聞けぇ!! 明日カケルが王都へ向かう! 異例ではあるがクリスセント学院を受験することになった! ほぼ確実に合格することだろう。実にめでたいことだ! 話は以上だ。帰るぞジェイス」
「はい。明日の朝カケル様は王都へ向かうため、ここを通るからな!」
領民に向けて二人はそれぞれ一方的に言いたいことを言って屋敷へと戻っていた。
二人の姿が見えなくなってから、領民たちはすぐに話し合いを始めた。
「カケル様って3歳だったよな? まだ学院に入学できる歳じゃないだろ」
「領主様は異例だと言っていたぞ。きっと天才なんだよ」
「この前来た時のカケル様を覚えてるだろ? どう考えても3歳とは思えない言動だったぜ?」
「えぇ、確かにそうだったわね」
「そんなことより明日どうするんだよ、みんな領主様と執事があんなことを言った意味をわかってるだろ?」
話し合いだというのにカケル様の入学についての話ばかり。その内一人がやっと本題に触れたことで、そこから誰も口を開かなくなった。
あの二人が何を言いたかったのかはわかっているが、誰もどうしたらいいか思いつかないからだ。
「やっぱお前達はすげーな! あの言葉足らずな、クソみたいなお話だけで何を求めているのかわかっちまうんだからな」
全員が黙り込む中、突然一人の男が大声でみんなを褒めた。その突然のことに領民たちは何言ってんだこいつというような顔をしている。
「安心しろ! もう準備はできてるからな」
「嘘つくんじゃねーよ! ゲイル」
そう、ゲイルだ。
彼はこの日が来ることを知っていたため、すでに用意していたのだ。
「嘘じゃない、お祝いの品はこれだ」
そう言ってポケットから取り出したのは領民たちがみんな持っている御守りと同じものだった。
「一応確認しておくが、あいつらが言いたかったのは明日の朝ここを通る時にカケル様の入学を祝う、祝いの品を渡すことと見送ること。その二つだ」
「わかってるけどさ。本当にそんなものでいいのか?」
「そうだ、もっとこう豪華なものじゃないと……」
「こんなもの受け取ってもらえないんじゃないか?」
それぞれに文句を言う領民に、彼は徐々に怒りが込み上げてきた。
「おい、こんなものってなんだよ…… お前らにとってこれはどういうものなんだ?」
その言葉に全員が自分の御守りを手に持ち、見つめる。
「この御守りには今まで死んでいった奴らや今ここにいる家族や仲間の、幸せに生きてほしいっていう強い願いが込められてるんじゃねーのかよ!」
「俺たちの大切にしてきたものをそんな風に二度と言うんじゃねー!!」
彼の怒りで大切なことを思い出した領民たちは謝罪の言葉を口にした。中には涙を流すものもいた。
「これを渡すのに反対するものはいないな?」
彼の言葉に全員が頷く。
「カケル様の出発は朝だと言っていたが細かい時間は言われていない。いつもより早く起きることにしよう。それじゃあ解散だ」
彼だけを残して他の領民たちはそれぞれに散らばっていった。
「明日会ったら次はいつになるんだろうな」
彼は寂しそうな表情をして屋敷のある方向を見つめていた。
ーーーーーーーーーーーー
最後の晩餐にて。
「準備は終わったか?」
「うん、終わったよ! サイラがたくさん荷物持ってきたけど」
「はっはっは! それだけ心配なんだろう」
「ちゃんと準備はしなくてはいけませんから!」
とても賑やかな食卓だ。明日4歳になる僕がこの屋敷を出ていくとは思えないな。
「今のうちに聞いておきたいんだけど、王都に着いたら僕はどうすればいいの?」
「それは心配しなくていい! すでにちゃんと手配してあるからな」
「そうなんだ! わかった」
「今日は早く寝て明日に備えるのだぞ」
食事の時間が終わり部屋に戻った僕は椅子に座り、机の引き出しから紙とペンを取り出す。
今までのことを思い出しながらペンを走らせ、僕の計画を全て終わらせる。
書いた手紙に封をして、一番上の引き出しの中に入れる。その引き出しには鍵がついている。
鍵をかけて、その鍵を机の上に置いておく。
「ゴーン、ゴーン、ゴーン」
この広い部屋に時計の0時を知らせる鐘の音が響く。気づけばあっという間にこんな時間になっていた。
今日は2月24日。
「誕生日おめでとう、僕」
ここの暦は日本と変わらない。日本にいた頃翔の誕生日は8月24日だった。半年ずれている。まぁこれに意味はあまりないだろう。
日本で僕は誕生日を祝ってもらった記憶がない。誕生日に一人で過ごすことが当たり前だった。
寂しい気持ちを思い出してしまった僕は、それを忘れるかのようにベッドへダイブし身体と意識を沈めていった。
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