兵器少女!

ラム姉

初陣!くらら隊

「ぶほほほほ!!こ、この『開発者コード』を使えばグラートちゃんにもエジンコートちゃんにも赤羽さんにも近井さんにもぐへへへへへへ」

「提督!夕飯ができたよ!今日はグラートの生手ごねハンバーグだよ!」

「ぶほ!ふごふご!ぶ、ぶひっ!」

「ちょ、提督ぅ!嬉しいからって人語を捨てないでよね!」

「ハッ?! つい興奮してしまってね」

 俺は、テレビ通話用カメラを通して写し出される映像を食い入るように見ていた。グラート。ベーエーム・ドヴァーッツァチ・アヂーン・グラートというロケット砲をモデルに作った兵器少女で、少女の姿をしたグラート本体と、幼女の姿をしたリトル・グラートのセットで販売した奴だ。リトル・グラートの分、他の兵器少女よりも結構高い。しかし…

「グラートちゃんおててが汚れてるようだね僕がペロペロして綺麗にしてあげるよぶほほほほ!」

 予想はしてたが、いざ実際に見るとイラつく。俺の作った物にそんな下衆な事を…。

「もー提督ってば、必死に私の手を舐めて。今日は生肉だから、食中りしても知らないよー?」

「ぶはっ!食中りなんてへーきへーき!僕とグラートちゃんとの愛があればうぅぅぅーー?!!?」

 男は腹を抱えて部屋から飛び出していった。そりゃそうだ。生肉触った手を洗いもせずに舐めたらそりゃぁ食中りしてもおかしくない。

「視線を感じるよ?」

 カメラの向こうでグラートがキョロキョロしだす。無駄に勘のいいグラートだな…。
 もう少し見ていたい気もしたが、俺は仕方なくカメラの通信を切った。叩き潰すべき“提督”の事は分かった。問題はこいつがどこに居るかだ。グローセの方を向くと、今か今かとニヤニヤしていた。そして俺が口を開くと同時にグローセが口早に答える。

「気になる住所は〇〇町〇〇番地。気になる悪巧みの内容は明日の昼に女子大を襲撃。今朝、襲撃の旨を仄めかしたツイートが投稿されてる」

 国家転覆とか言ってないだけマシなのだろうが、俺はこの変態を止めるべく女子大に乗り込まねばならない。てか、Twetterで犯罪予告するとか、あのおっさんはバカなのかも知れない。
 …深い溜め息を吐いた。

・・・

 俺達は朝っぱらから女子大の前に張り込んでいた。一応襲撃は昼らしいが、急な予定変更があるかもとグローセが言うので、朝から張り込んでいた。

「そこにコッペパンを配置するのは、間違いだと思います」

「そ、そうか? 城の前をコッペパンでガチガチに固めようと思ったのだが…」

「城の目前で戦うよりぃ、もっと遠くで戦った方が安全じゃなぁい?」

「…た、確かにそうだな……」

 グスタフが、自身に備え付けのタブレット端末でプレイしているゲームにクナシキ達が口を挟む。「パンウォーズ」。クナシキがグスタフとマーシーに布教し、染め上げた後アークラまでもがのめり込んだタワーディフェンスゲームだ。クナシキよりも古参のプレーヤーであるグローセも含めて、うちの兵器少女達は全員「パンウォーズ」にドハマりしている。俺には全く面白味が感じられない。
 そして、グスタフがパンウォーズを始めてから六時間程が経とうとした時。

「…来た。あの男だ」

 アークラが小さく囁く。見れば、脂ぎったおっさんと、昨晩のグラート、弩級戦艦エジンコート、戦闘機ラファール、大戦蛇ミドガルド・シュランゲがのたのたと女子大の前に歩いてきていた。


「連れてる連れてる。兵器少女だ。にしてもグラートにエジンコートにラファールにミドガルドとは、あのおっさんの脳ミソは筋肉で出来てるな」

 細かい説明はその都度するが、兵器少女はターン制のバトルを行う戦争ゲームである。分類は「新感覚美少女兵器戦争シュミレーションゲーム」。プレーヤーである「提督」はスマホアプリ「兵器少女!」を使って、戦う兵器少女達に指示を送る。

 男が女子大の塀をよじ登ろうと手を掛ける。よじ登る様を、暫く隠れてみていたが、「ふっ!」とか「ほっ!」とか言って跳び跳ねているが、一向に壁を乗り越えられそうな気配はない。ついにシビレを切らしたグスタフが飛び出し叫んだ。

「こ、この下衆な醜男め!我等が戦友を使ってあろうことか女子校を襲うなどと…!赦さないからな!!」

 飛び出したグスタフを見て焦った男は、奇声を発し、全力で飛び上がる。今回の跳躍は超人的だった。丸々と太った男の巨体が、軽やかに塀向こうに消えていく。人間の限界の向こう側を、俺は垣間見た気がした。そして、続けざまに男の兵器少女達も塀を飛び越える。

「待て!」

 グスタフが正門をぶち破って校内に突入していく。それに続いて俺とくらら隊も突入する。正門の弁償は後でグスタフに払わせよう。

「ひぇぇ!お、お前も提督か?!て、提督なんだろ?!分かる、分かるぞ?!俺には分かるぞぶほほほほ!」

 え、何こいつ怖い。“兵器少女を従える”俺を見て提督と見抜いたと得意気に高笑いするおっさんを見て、俺は恐怖を覚える。

「テメェみたいな身勝手な愚者が俺の兵器少女を使って犯罪を起こすと世間様は俺の事まで怒るんだよ」

 おっさんに告げると、おっさんは不思議そうな顔をして小首を傾げた。
 え、何こいつムカつく。

「“俺の”兵器少女…?あぁ、君が“購入した”兵器少女って事ね」

 絞め殺してやろうか。

「でも君の兵器少女は“僕の”兵器少女には勝てない。見た感じ君の兵器少女達には“開発者コード”を入力してないっぽいからね」

 絞殺。絞殺。絞殺。絞殺。

「さて、さっさと戦争をしよう。僕はこの後、この学校の生徒も交えて如何わしい事をせねばならんのでね」

 こいつ、自分で如何わしい事って言いやがった。

「提督、あの男の話を聞いていると、こちらの頭の中まで腐りそうだ」

「うし。くらら隊、戦闘態勢だ!」

「かかってきたまえ!我がユグレス隊が一瞬で返り討ちにしてくれるわ!!」

「「交戦だエンゲージ!」」

 宣言と共にアプリを起動する。すると、俺のオーバーテクノロジーにより俺とおっさんのスマホから電子が放出される。この電子は半径5㎞以内のあらゆる物体に付着し、アプリ起動中に破壊されたあらゆるものをアプリ終了と同時に修復する事が出来る超電子だ。根本的に破壊不能にすればいいと抜かす輩も居るが、物の壊れない戦争など戦争では無いと俺は思う。

「さぁ行け!ミドガルドちゃん!」

 おっさんが叫ぶ。ミドガルド・シュランゲとは、ドイツで計画だけ立ち、結局開発のされなかった防御がカスの蛇のようなキャタピラ駆動の兵器をモデルにした兵器少女だ。兵器少女ミドガルドも防御はカスだがとんでもない脳筋仕様で、ミドガルド自身の攻撃は言わずもがな、ミドガルドの従える3体の蛇型兵器“ヨルムンガルド”から繰り出される攻撃も岩盤を軽く消し飛ばす程度の威力がある。そしてミドガルドの最大の特徴。それは地中に潜伏できる事にある。

 奇襲性に富んだ地中からの攻撃は、レーダーだのソナーだのを搭載した索敵が出来る兵器少女を連れてないと相手にするのは分が悪い。つまり俺達は分が悪い。

「仕方ない。ヨルムンガルドは装甲車だ!クナシキに相手をさせる!」

「りょーかいだよ!」

 俺の脇からクナシキが飛び出す。真っ直ぐにミドガルドの方へと走っていく。

「ぶほほほほ!クナシキ!実にロリロリしい!我が家にも1人欲しいものだぁぶほほほほ!」

「うわー!提督!キモいよこのおっさんん!!」

 クナシキが自分を舐めるようなおっさんの視線に気付き、走りながら悲鳴を上げる。このおっさんには一刻も早く牢の中に行って貰おう。

 突然爆音が響く。背中から炎を上げ、戦闘機ラファールが不時着する。ラファールは、フランス生まれのマルチロール機、ラファールをモデルに開発した兵器少女だ。機動性と攻撃力が高いのだが…。
 アークラの機関砲により翼をもがれたラファールは、ギリギリとアークラを睨んだ。

・・・

 まだ煙を吹き出しているアークラの機関砲。ラファールは地に伏した。それを見て、おっさんが本格的にキレだした。

「ぼぼ、僕のラファールちゃんにお前ぇぇ!!! 許さないぞ!!」

 おっさんに促されグラート大隊がロケット砲を構える。導火線に火が付けられる。不味いな。いくらヒーラーのマーシーが居るとはいえ、オーバーキルされては回復も意味を成さない。どうしたものか…。

「提督!提督!? ロケット砲が!ロケット砲が!!」

 クナシキが慌てて泣き叫ぶ。ど、どうしたものか…!

「任せろ提督!我が超火力の前に、全て散らして見せよう!!」

 俺達の後方で、いつもは厳格ながらも戦争には嬉々として参加してくれる、兵器少女全体でも最高級の高火力を誇る兵器少女の声が響いた。

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