クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

19 むしろどんなことをしてでも2人の仲を引き裂いてやるわ



本当はずっと何かが引っかかっていた。

恋愛素人の私と赤也が、恋する美男子『西門黄泉』の気持ちを正確に理解出来ているのか。

あくまでも主観的に物事を捉えた際、私達が出した仮説は以下の通りだ。

まず、黄泉は好きな令嬢がおり、報われない片想いをしている。

そして、無理に自分とそのご令嬢を婚約させるより、黄泉が片想いをしている令嬢の想い人『一条青葉』と婚約させることを望んでいる。

また、そのためには青葉と婚約する可能性がある私『立花雅』が邪魔だった。


次にこの仮説が正しいかどうかだが、赤也からの話によると麗氷女子に通う青葉の幼なじみが彼のことを好きなのは確実だろう。

もしかしたらその令嬢は、ゲーム内の『立花雅』の代わりに青葉と出会い、恋をしてしまったのかもしれない。私は徹底的に青葉と顔を合わせることを避けていたから。

そう思うと少し申し訳なくもある。……誰かが私の代わりに犠牲となったということだから。

また、黄泉の発言から、何らかの理由により、青葉が私と婚約したがっているという仮説は間違っていないと思う。


……とすると、不確かなのは黄泉の好きな人がその令嬢なのかどうか、また本当に2人を結びつけようと思っているかだ。

この際前者は一旦置いておいて、問題は後者だ。

あの時は前日に見た韓国ドラマにインスパイアされて、2人の恋路を応援する健気な『西門黄泉』を想像したが、冷静になった今それはおかしかったのではないかと思う。

赤也は黄泉と直接話したことがないからわからなかったかもしれないけれど。そもそも私には、黄泉がそんなことをするような素敵な人間にはどうしても思えない。


だとしたら、彼は何が目的で?


……考えれば考えるほど、恋愛音痴な私では、見込みのない片想いの時に、応援以外何をするのかなんて、皆目見当もつかない。


そこで、恋する乙女代表の清水葵ちゃんに話を聞くことにした。


「……つまり、自分の好きな人が他の人を好きだとわかった時、私ならどうするかが知りたいのね?」
「ええ、是非葵ちゃんのご意見を伺いたく!」
「……どうして私なのよ?」
「……えっ、だって葵ちゃん好きな人いるじゃない!」


あ、これは言うつもりなかったのに!

シャイな葵ちゃんのためにも、私はひっそりと2人の恋路を見守ろうとしてたのに!

わ、私としたことが、思わず言ってしまった!


「……べ、別に! 私は梓のことなんて……!」
「わたくし別に白川くんとは言っていませんよ?」


墓穴を掘ってしまった葵ちゃんは、顔を真っ赤にしながら「忘れて!」と必死でお願いしてきた。

そんな涙目で頼まれたら、私が意地悪してるみたいじゃないか。

大丈~夫、私は誰にも言いませんよ葵ちゃん。


だから安心して恋バナしましょう?


「……も、もし、仮に、私にすごく好きな人がいるとして、仮によ!? 現実にはそんな人いないからね!?」
「うんうん」
「その人が私以外の人を好きだとわかったら……そうね、応援だけは絶対しないわね」
「うんうん、やっぱり応援するよね~。……えっ、しないの!?」
「冗談じゃない。そんなこと絶対しないわよ。むしろどんなことをしてでも2人の仲を引き裂いてやるわ」
「……えええぇぇぇ」


強烈な恋心に思わず引いてしまう。

こ、恋する乙女怖いよぉ。いや、私が聞いておいて引くなんて、葵ちゃんに失礼よね!

ど、どんなことをしてでも2人の仲を引き裂く、かあ! なかなかのパワーワードだなあ!

まだ小学生なのに、そんな過激なことを考えているんだ……!

でも、そうまでして手に入れたいと思える相手がいることは、純粋に羨ましい。

私はいつだって臆病で、前世で友人と同じ人を好きになった時だって、本当の気持ちなんて言えず、応援したくらいだからな……。引き裂くなんて、そんな選択肢思いもつかなかったよ。


「……私からすれば、応援するなんて綺麗事言ってる時点で、結局そんなに好きじゃなかったのよ」


うっ。葵ちゃんの何気ない一言が私には効果が抜群だ!


「本当にその人のことが好きなら、よく安っぽいドラマで見かける『あなたが幸せならそれでいい』なんて絶対無理よ。私以外の隣りで笑ってるなんて、考えただけで腹が立つわ」


なんか、思っていたよりも強烈だな恋する乙女は。


と、とりあえず、白川くんは、葵ちゃん以外と結ばれるのは無理そうよ? どんなことをしてでも2人の仲を引き裂くそうなんで。


「……じゃ、じゃあ、好きな人の想い人が親しい友人や家族でも?」
「やけに具体的ね? そんなの関係ないわ。私は例え相手が雅や桜子でも応援なんてしないわ。例え友情にヒビが入ってしまうことになっても、徹底的に邪魔するわね。私に姉妹はいないけど……そうね、姉妹だから親しいとは限らないし、特に関係ないわね」


それくらいじゃ私達の友情は壊れないと信じてるけどね、と葵ちゃんは笑って付け加えた。

白川くんに負けたことは正直ものすごく悔しいけれど、この際許す。

そして安心してくれ。私は絶対白川くんを好きにならないようにするから! だって葵ちゃん相手に勝てる気しないもの!


「兄弟や姉妹は親しいものではなくって?」
「……そんなことないわよ。雅のところが異常なのよ。雅はブラコンだし、赤也くんも優さんもそれ以上のシスコンだし」


異常は言い過ぎでしょうが! 異常は!

捉え方によってはサイコパスみたいじゃないか!

本当に人聞き悪いからやめてくれ!


確かに私がブラコンなのは認めるけれど、お兄様と赤也は過保護なだけでシスコンではないからね!

2人の名誉のために言うけれど!

そう抗議する私に、葵ちゃんははいはいと真剣に取り合ってくれない。スルーするなんてひどい。


「……私の幼なじみは兄のことがものすごく嫌いだし、実際みんながみんな親しいわけじゃないと思うわ」


確かに、それはそうかもしれない。

私は優しくてかっこよくてかなり天然なお兄様が大好きだけど。誰しもそうとは限らないってことよね。

…………あれ? 待てよ?


『西門さんにとって一条さんは幼なじみで兄弟みたいな存在なんでしょ? だったら、僕達でいう優さんみたいな存在ってことだよね』


ずっと何かが引っかかっていた。

そもそも、黄泉にとっての青葉は、私にとってのお兄様だと、どうしてそんなふうに思ったんだっけ?

そうだ、バレンタインだ。



***



「まあ、いいや。とりあえず、チョコありがと。お返し楽しみにしててね~」
「……あっ、ちょっ」


何故だか、私は黄泉を引き留めてしまった。理由なんてわからない。もしかしたら、切羽詰まった彼の表情がいつも彼らしくなかったから、少しだけ心配だったのかもしれない。


「なぁに? 早速オレの婚約者になる気になった~?」


私の心配をよそに黄泉はすっかりいつも通り軽口を叩く。やっぱりさっきの切なげな顔は、私の気のせいだったのかと思えてくる。

それだけはないですと否定するも、黄泉は「そっか、残念」と全然残念そうじゃない。へらへらと、何を考えているかわからない男だ。

こんな男が青葉と親しくしている所なんて、全く想像出来ない。そもそも親しいのかしら? 幼稚園が同じだったと、さっき言っていたけれど。


「そういえば、一条くんとは特別親しいんですか?」
「まあ、それなりに? 一応幼なじみだし、兄弟みたいなもんかな」


へえ、そうなんだ。それなりに、ってことは、意外と親しくしているのね。



***



そう、あの時私は、2人は親しいのだと解釈した。

だって、黄泉にとって青葉は幼なじみで兄弟みたいな存在なんでしょう。当然親しいのね、って。そう思い込んでいた。自分がそうだったから。


──でも、本当にそうなのかしら?


──本当に好きな人の想い人である青葉に対して、黄泉は全く何の悪感情も抱いていないのかしら?



……な~んて、私1人でうじうじ考えても埒が明かないわね。

まずは直接本人に聞かないと。確かなことはわからないわ。

けれども、もしかしたら、根本的に私と赤也の仮説は間違っていたのかもしれない。

黄泉と青葉の関係もだけど、黄泉のナルシシズムと自己中心的なあの性格を考慮していなかったしね。

とにかく、葵ちゃんのおかげで視野が広がった気がする。

ありがとう葵ちゃん! また恋バナしましょうね!


出来れば今度はもう少しマイルドな話が聞きたいなあ!

          

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