青いボンボン帽子

蜂ノコ

第5話 救済

 不敵な笑みを浮かべ、唇をペロリと舐める。それが合図だったかのようにこちらに向かって走り、竹刀を振り回す。
 それを腕で受け止める夕涼。竹刀の音が鳴り響く。
 竹刀を掴み、顔面から押し倒す。
 紫苑は身動きがとれないように足を固く抑える。
「なんで優樹を襲撃するの? そんなことをしても無意味でしょ?」
 夕涼は恐怖心を抱きながら震えた声で問いかける。すると彼女は余裕そうな表情をし、
「意味あるから襲うのよ。無意味なことが大っ嫌いだからねぇ……。っつーかよぉ。なかなか良い戦法でもしてくんのかと思ったらぁ……期待はずれ。パワーが足りねえんだよ! 三下がぁ!」
 そう言うと夕涼を殴り飛ばし、足を百八十度回転させ紫苑をも吹き飛ばす。
「甘い、甘すぎる。これだから雑魚は相手にならねぇんだよ!」
 悪魔たる表情をし、軽蔑するような目つきで夕涼らを睨みつける。
「――貴方は最強の不良だから私らなんて眼中にないでしょうね……それは雑魚だから。でもね……雑魚は雑魚なりに……」
 そう言って立ち上がる夕涼。
「必死こいて這い上がるんだよ!」
 そう言って正面から攻撃を仕掛ける。
「ハァ? 何馬鹿な事を言ってんのかねぇ!」
 そう言って拳で顔面を思いっきり殴る。危うく倒れそうになった夕涼は態勢を立て直し、すぐさま反撃する。
 だが、いとも簡単に攻撃を受け止められてしまう。
「お前、勝敗が決まってること分かってんのか? アンタの敗北は確実だってことぐらい理解できてんのかよ低脳!」
 そう言って更に殴りこむ。それを止めに紫苑が横蹴りを試みる。が。
 パシッというまるで野球ボールをグローブでキャッチしたような音を立てた。
「甘く見んなよ」
 と発言し、彼女のバランスを崩す。
「ハハハ! 雑魚は雑魚でしかないゴミ! 最弱が最強に勝ろうなんて百五十年早いわ!」
 近所迷惑になるほどの大声で嘲り笑う。
「お前には傷つけられる痛みを知らないだろうね……」
 ボロボロになりながらも懸命に立ち上がる夕涼。
「あ? 懲りない奴め。一体どれだけ痛みを味わえば気が済むんだ、ドM野郎」
 相変わらず喧嘩腰な不良女子。
「そもそも、私に弱点なんてないわ」
 と断定的な口調で決めつける。
 フフフと吐息に近い少量の笑声を漏らし、
「何が弱点がないだ? 臆病者。自分がいじめられることに恐怖を覚え、最強を名乗り、数々の人達を苦しめ……。そんな感じかね、貴方の心境とやらは」
 驚愕的な表情をしながらも歯を食いしばり、こちらを睨むように凝視してくる。図星か……?
なら、と更に攻撃をする。
「友達が出来ない毎日に苛立ち、現実逃避をするために無害な人々を傷つける」
「やめろ……!」
 頭痛でも発生したのか頭を押さえ始めた。
「理解してんでしょ。自分がどれほど貧弱な人間だと」
「ヤメロ……」
 震える声に怒りという感情が混じっているようであった。これ以上発言すると攻撃される可能性は極めて高いと言えるがそれでも語る。
「貴方は私に怯えるほど精神的な苦痛の忍耐力がない! 相談する相手がいないから。相談したくても最強としてのプライドがそれを許さない。貴方がそれを変えようとしないかぎり誰かを傷つける人物には変わりない! それが現段階で出来ないから現実逃避を――」
「うるっさいのよ! クズがあああ!」
 絶叫しながら勢い良く夕涼を殴った。
「ああ……!」
 頭の中に先程言われた言葉が彼女の脳裏に甦る。
〈誰かを傷つける人物には変わりない? 違う……。最強の不良となるためにアタイはここにいる。こんな薄っぺらい言葉で心が揺さぶられるわけ……。〉
「いい加減、現実を見れよ!」
 紫苑はそう言って平手打ちで――それも全力で――殴った。
「っつ――!」
「お前も人間ならば理解できるはずだ。痛みをね。今の平手打ち以上に優樹は苦しんでる。分かってんの? お前がやった行為は人間として最低。もう一度、自分のした行為を反省しろ。もし、再びこういうことがあったら」
 彼女はそういうと、鋭利な目つきにして
「呪い殺すよ」
 と発言した。それは友人である夕涼でさえ見たことのない表情であった。背筋が凍るような感じがした夕涼。不良女子も同様に感じていた。
「覚えてろ」
 とまたしても捨て台詞を吐き、逃走した。
 とたんに紫苑の体の力が一気に抜け、地面に座り込んだ。
「はあ、怖かった」
 と安堵たる声色でそう発言した。
「とにかく、優樹を助けることができたから良かった」
 夕涼も安心しているようであった。
「あ、ありがとう。僕がこんなに弱いから君らに迷惑をかけちゃったね。ごめんね」
 申し訳なさそうに言う彼に、夕涼は
「ごめんね。なんて言わないの。助けて欲しいなら助けてって言いなさいよ。あと、謝罪するより感謝するほうがいいんじゃない?」
 と言った。
「うん。助けてくれてありがとう」
 優しい微笑で感謝する優樹は付け加えにこういった。
「でも、感謝するほうがいいってただそうされたいだけじゃ……」
 その台詞を聞いて、彼女は
「そ、そういうわけじゃ、ないんだけどな」
 と照れながら返答した。
 そして、優樹は突然暗い表情を作り出した。
「どうしたの?」と紫苑。
 だが、優樹は固く口を閉ざし、答えようとはしなかった。
「何か言いたいことがあるなら言いなよ。だって、友達でしょ?」
 その言葉に大きく反応する彼。
「僕、は……怖い……言葉にするのが怖い」
 と続けて発言した。
「貴方ね」と紫苑。
「何かを実行するのに恐れてたら何もできない。何事もそう。時間は待ってくれない。あとで後悔しないように勇気を振り絞っていてごらん。大丈夫。私らは貴方を嫌ったりなんかしない。何もしないで後悔するより、失敗して後悔したほうが良いの」
 その言葉が勇気の胸に届いたのかは表情を見れば一目瞭然である。闇に包まれし少年に希望の光りが差し掛かる。そして、手を伸ばそうとしている。と、夕涼は脳内で物語を創造する。
「あのね。僕……」
 深呼吸をした後、
「大図書館学校のヒミツを全部、知ってるんだ」
 それは、誰しもが予想していなかった驚異的な事実であった。
 そう。彼は大図書館の秘密を全て既知なのだ。

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