青いボンボン帽子

蜂ノコ

第3話 大図書館の噂

 今日は気分が良くない。私は雨が嫌いだ。
 自分の席から外を眺めながる夕涼。
「はぁ……」
「どうしたの? 夕涼」
 溜息を付いた夕涼を見て何かあったのかと思い紫苑が尋ねた。
「ん?別になんもないよ」
 紫苑は頬杖をつきながら低い声で言った。
「――何かあったのなら言ってよ」
 紫苑はそういうが本当に何もない。ただ、このどんよりとした天気が気に入らないだけだ。
「別に……」
 彼女がそう言うと紫苑はしゅんとしてその後は何も喋らなかった。
(怒ってるって思われたかな…結構落ち込んでるな…)
 夕涼は後で謝っておこうと思いながら、次の授業の準備をする。
 いつもどおり授業前に必要な道具を確認する。もうそれが癖になっていた。
 まあ、必要な道具は忘れたりはしないんだけど……あ。
 夕涼はこの時、学生になってから初めてやらかした。
 ノートを忘れた……最悪。きっとこの天気が悪いんだ。こんなどんよりとした天気が。
 夕涼は今日の天気のせいにした。


 今日はとても時間が長く感じ、疲れが肩に蓄積していく。
 夕涼は授業中に溜息を吐く。
「―すず。夕涼!」
 考え事をしていた夕涼はハッと我に返る。
 頭が禿げた国語の先生がこちらを睨んでいる。
「何ボーッとしてるんだ。今なんて言ったかわかったか?」
 話自体聞いていなかったからわからない。
だが、夕涼の勘で教科書を読むことだと思い教科書を手に取る。
「……聞いてなかったんだな。この意味を言えって言ってるんだが」
夕涼は教科書を机に置き、黒板に書かれた言葉を見る。
 ゛虎穴に入らずんば虎子を得ず゛と書かれていた。
 周りは自分に当たらなくてホッとしている人や、正解してくれという眼差しでこちらを見ている人もいた。こんなのもわからんのか、と思いながら夕涼は答える。
「危険を避けていては、大きな成功も有り得ないということです」
「まぁ、いいだろう」
 先生は頭を掻いてそういうと、夕涼は着席した。
 授業が終わると、皆一斉に肩の力が抜ける。国語の授業は皆にとって疲れるらしい。実際、私も疲れた。まぁ、それは先生による威圧のせいでもある気がするが……。
 夕涼は2時間目の準備をする。
 そして、今日の授業の前半が終わり皆は弁当を持っていつもどおり教室を出る。
 夕涼は外をボーッと眺めていた。
「夕涼!何ボーッとしてんの!」
 ニコニコしながらこちらを見つめてくる紫苑。眩しい笑顔だ。
「こんな天気なのに紫苑は太陽みたいに元気だね」
 夕涼はそう言うと紫苑はクスッと笑い始めた。
「何らしくないこと言ってんのさ。さ、弁当食べよ? いつもの場所で」
 いつもの場所。それは大図書館だ。
 夕涼はカバンから弁当を取り出し、大図書館へと向かう。
 そういえば今日、あの人・・・に会っていない。
 夕涼は頭に青いボンボン帽子をつけた少年を思い浮かべる。
 名前は……優樹だっけ。
 今日は色々と忘れる日だなと夕涼は思った。


 大図書館へ着くと相変わらず誰もいない。
「そういえばさ、この図書館に先生しか知らない秘密があるみたいだよ」
 紫苑が急に話題を振る。
「そうなのか?」
 夕涼はそう答える。ってかどこでその情報得たんだよ。
「噂が沢山あるんだけどね……地下につながる部屋に猛獣がいるとか、宝が眠ってるとか、奈落の底に落ちるとか色々言われてんだよね。簡潔に言うと禁断の場ってこと」
「そんなもんただの噂でしょ?」
 夕涼は興味なさそうに聞く。
「それがね……一度そこに入った者は帰ってこれないらしいのよね。昔、校長が入ったっけ戻れなくなってしまったのよ。でも、この学校でたった一人だけ抜け出す方法を編み出した人がいるらしいんだけど…その人が誰なのかわからないし学校側はこれを公開したくないんでしょうね」
 紫苑はそう言って弁当のおかずを箸でつかむ。
 校長では無理なのに生徒にはできたってどういうことだ。
 夕涼は疑問に思い紫苑にそう聞くがわからないと首を振る。
「そっか……」
 夕涼はショボンとなる。
「そこまで知ってたら鍵を握る人物は既に見つかってると思うけど」
「そっか……そうだよね」
 夕涼はニコッ笑う。
 ドサドサドサ!
 本が落ちる音が響いた。二人は同時に地面を蹴る。
 音がしたところへ行くと多種多様の本が至る所に積み重なっていた。
 そこから一本手が伸びていた。
引き上げると青いボンボン帽子をつけた優樹だった。
「何してんの」
 呆れ気味に言う夕涼。
「一体どうやったらこんな大惨事になるわけ?」
 紫苑が本を拾いながら言う。
「い、いやぁ単純に本を取ろうとしただけで……」
 優樹は不自然に目を逸らす。
 不自然すぎて意図的に逸らしているようにも見えた。
 何かありそうだ。
「ホントに? 私にはそう見えないけど」
 本を棚に戻しながら夕涼がそう言うと紫苑は頷く。
 優樹は焦りながらも自分が本を取ろうとしたということを言い続けた。
「――わかった。もうそういうことにしとく。」
 夕涼は諦めて優樹の言ったことを認めた。
 ホッとする優樹。やはり何かあるな……気になる。
 大図書館にある時計を見ると休憩時間終了まで後25分しかなかった。
 弁当を食べるときはまだ40分はあった。
 夕涼たちは急いで弁当を食べる。
(そんなに急がなくても……)
 優樹は黙ってその光景を眺めていた。
 二人は弁当を食べ終え、一息つく。
「ねぇ、この大図書館にある噂を知ってる?」
 夕涼が優樹に聞いた。
「う、噂……?」
「禁断の場、こう言ったら通じるかしら」
 そう言うと優樹は目を大きく開けた。
「知ってるよ。それがどうかしたの?」
「何か知ってるかなって思って聞いたんだけど……知らないよね」
 紫苑がそう言うと優樹は黙り込んだ。
「……不自然なのよね。校長は入る事が出来ても抜け出せなかったのに、どうして一人の生徒は抜け出すことができたんだろうって」
「……そ、その話本当ですか?」
 優樹は恐る恐る聞いた。
「本当だよ、多分。でも5年前の話だから何とも言えないけど」
 なぜだか知らないが5年前の新聞の記事に確かに校長が行方不明になった事件が載っていた事を覚えていた。原因は不明と書かれていたはずだ。大図書館については何も載っていなかったはずだ。
 夕涼はそれを思い出した。
「……何も、知らないよ」
 静寂な大図書館にその声が響く。
 優樹は目を泳がせながらそういった。
 何か動揺しているのだろうか。もしくは何か知っているのだろうか。
 今問い出してもきっと彼は答えないだろう。
 夕涼はその時、そう思った。
「……探してみる?」
 紫苑がそういった。
「何言ってんの? 私たち、死んじゃうかも知れないのよ!」
 夕涼が感情的になって言葉をぶつける。
「探すだけ。中には入らないよ。」
紫苑はそういうが、何か探してはいけないような気がする。
「やめようよ、それ。危険すぎる!」
 夕涼は反抗する。
「……なら私たちだけでいきましょ」
 紫苑は好奇心で言っているのかとても行きたがる。
「やめときな!!」
 優樹が今まで聞いたことのない罵声を上げた。
「……ぇ?」
 紫苑は少量の声を発して愕然としていた。
「……開けるのさえ危険だからさ」
 優樹がそういった。
「なんでそう断定できるの?」
 紫苑は優樹に聞く。
 優樹は口を閉ざしたまましばらくの沈黙が続いた。
「―そういう噂を聞いたからさ」
 優樹はそう答えた。
 何故、今沈黙したのだろうか。夕涼は疑問に思った。
 噂ならすぐに答えられるはずだが……何か隠し事でも――
 キーンコーンカーンコーン
 昼休みを終える予鈴がなった。
「あ、ヤバイ! 急いで戻らないと! じゃあね!」
 夕涼はそう言って紫苑の腕を引っ張りながら立ち去る。
「弁当忘れた!」
 急いで戻ってきた二人。
 もう既に優樹の姿はなかった。
 二人は急いで教室へ戻った。


 放課後、紫苑と夕涼は大図書館へ行った。
 別に文学少女になりたいというわけではないのだが、大図書館について知りたいと思い資料を探す。
 どこを探しても、禁断の場と呼ばれるところについては何も書かれていなかった。
「やっぱり噂なのかねー禁断の場っていうのは」
 紫苑が腕を伸ばしながらそういう。
「そうかもね。噂だと思うよ」
 そんなのあるわけがない。そう思いながらも紫苑がどうしても知りたいって言ったから仕方なく探したのだが……。
「やっぱりここにいたんだね」
 夕涼の真後ろから声が聞こえたから、驚いて振り向くと優樹だった。
「な、なんだぁびっくりさせないでよ!」
 優樹の姿を見てホッとした。
「資料集め。ってところか? 君たちも暇だね……」
 夕涼はそれを聞いてムスっとしたが、優樹の表情からはとても辛そうにしていた。
「その傷、どうしたの?!」
 よく見てみると顔や腕に痣があることに気付き、そう言った。
「この前会った、赤髪のアイツにやられた」
 優樹はそう答えた。
 赤髪のアイツ? あぁ、あの不良野郎か。
「そうなの? 大丈夫?」
 夕涼はそう言ってカバンから色々な医療品を出し始めた。
「な、なんでそんなものも持ってるの?」
 流石に紫苑も優樹も動揺した。なぜなら、何十種類の薬、絆創膏だけでなく包帯まで持ってきており、更には使うことはないと思われる糸まであったからだ。
 恐らく、人を縫うためのものだろうと優樹は思った。
「私の両親、医者だからねぇ。小さい頃から父と母が持っておけって言わてるからこれが普通なのかなって」
(いやいやそれ絶対、清盛家だけだから)
 優樹と紫苑はそう思った。
「まあまあ、遠慮なさらず!」
 そう言って、優樹の傷に消毒液を湿らせたガーゼを当てた。
 優樹は痛みを耐えながら終わるのを持った。
「――痛かった」
「ごめんごめーん!」
 夕涼は笑顔で軽く謝る。
「――清盛さん、鬼だね」
 クスッと笑いながらそういった。
「んで、ここで資料を集めて何をしたいの?」
 優樹は本題を振る。
「え? あぁっと……」
「正直に言って」
 優樹は真剣にこちらを見つめる。夕涼はその真剣さに負け、正直に目的を話す。
「――禁断の場について調べるため」
「まだ諦めていなかったのか。あそこは危険なんだって。特別な人じゃないと入れないんだから!」
 特別な人? やはり何か知っていそうだ。
 優樹は自分の発した言葉に気づき、口に手を抑える。
「やっぱり何か知ってんだね」
 そう言うと、優樹はやってしまったというかのように吐息を付いた。
「――知ってるよ。でも、僕だってそこまで詳しくは知らない」
 優樹はそういう。何か焦っている気がする。そういえば今日の昼もそんな感じだった。いや、ただ本を取ろうとしただけだろう。
「――じゃあ一緒に調べましょ」
 夕涼は自分に言い聞かせながら優樹にそういった。
「うん……」
 優樹はホッとしたかのように言った。
(ごめんね。夕涼さん、紫苑さん。僕、全部知ってんだ…大図書館の秘密について)
 彼はそう思いながら資料を探し始めた。

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