青いボンボン帽子

蜂ノコ

第1話 大図書館

 辺りを真っ白に染める冬。
今日も鼻歌を歌いながら通学路を歩く『清森夕涼きよもりゆすず』。
セミロングで所々に茶色いくせ毛がある。よく、皆から身長が小さいとバカにされてるけどそんなの気にしない。気にしたって伸びないものは伸びないもの。
「おはよ!」
後ろから走って肩をパシッと叩いて挨拶をされた。びっくりして体が固まる。振り向くと、私の友人『白崎紫苑しらざきしおん』がニコニコしながらこちらを見つめていた。
彼女は積極的で明るい子だ。どんな事があってもニコニコと笑う。それが周りの緊張を解すのだ。
夕涼は微笑みながら挨拶を返した。
「今日ってなんか宿題あったっけ?」
始まった。紫苑と会うといつもこうだ。宿題があるかなんてメールでもして聞けばいいのになといつも思う。
「ないよ。だけど、来週までに提出するものはあるよ。」
「え!?嘘でしょ?。」
とても驚いた顔で夕涼を見つめる。学力はいいのに人の話を聞かないことが多いからよく宿題の忘れ物をして怒られてる。
まあ、こうやって聞かれるのも悪くはない。
 大図書館と呼ばれる学校へ私たちは通っている。
色々な分野の本があり、世界でもその名を知られるほどの本の数だ。
 夕涼と紫苑は1年3組の教室へ入って自分の席へ着く。
そしていつもどおり勉強をして、友達と話して、食事をして…そんな平凡な日常を過ごしていく。
授業は文系と理数系に分かれて行う。ちなみに夕涼と紫苑は文系である。
チャイムがなり、授業が終わると皆友達と話をするために席を立つ。
次の授業は…歴史か。歴史と言ったら担当の先生が大図書館の歴史について話をする。このことは勿論授業には関係ない。そのせいで時間がなくなり宿題が増えていく。もううんざりだ。
「夕涼!行こ!」
準備を終えた紫苑がにっこりし、夕涼と一緒に大図書館へ向かう。
 私達が話をしていると、もう大図書館の中に入っていた。
「じゃあ私、歴史資料集とってくるから。」
夕涼がそう言った。
「うん、わかった!よろしくね~。」
夕涼は歴史の道具を紫苑に預け、歴史資料集を取りに行った。
(歴史資料はどこだ…?)
夕涼は本棚を右から左へと視線をずらす。
(ん、あった。)
そう思い、手を伸ばして取ろうとする。
資料集に触れた瞬間、夕涼の手に誰かの手が重なった。
誰の手だと思いながら目を手先から肩へ、顔へと移した。
「…誰ですか?」
夕涼は先輩か何かと思い敬語を使った。
《《青いボンボン帽子》》を身につけた少年だった。
彼は夕涼を見て怖そうな顔をしてその場を去っていった。
(…何だったんだ?今の人。)
そう思い資料集を取ってその場を立ち去ろうとした時、ふとあのボンボン帽子について疑問が湧き出てきた。
(なんで校内でボンボン帽子をしてるんだ?この学校の暖房が効いているからそこまで寒くないはずなのに…。)
いくら考えても何も答えにはたどり着かなかった。
(とにかく今はこの資料集を置いて、後で聞いて調べればいい。)
彼女はそう思った。
 授業が始まると先生は口を開く。
「源氏物語は紫式部が書いたというのは皆知っておるな?中学校で習うことだから忘れているのであればここで調べるが良い。ここはなんて言ったって―」
また始まった。先生の大図書館について語るときに言う言葉だ。そんな歴史なんて興味ないんだけどな…。
キーンコーンカーンコーン!!
大図書館に授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。
「あ、終わっちまった。じゃあここ宿題な!」
そして皆は定番のえーという言葉を上げるのであった。
(そうだ、こんなことをしている場合じゃない。あのボンボン防止の人を探さないと。)
そう思ったとき、ある大事なことを忘れていた。
学年もクラスも知らない。
(仕方ない。次会ったら聞いてみよう。)
そう心を入れ替えて今は気にしないでおこうと決めた。
 紫苑と教室へ戻ろうとしていたとき、男子トイレがなにか騒がしい。
(どうせくだらない変態どもが集まっているだけなんだろうな。)
呆れ気味にそう思っていると、トイレからある一言が聞こえた。
「消えてしまえ!」
それを聞いて、ただトイレに集まっているんじゃないことを察した。
誰かが《《いじめ》》を受けている…?
そう思ったとき、体が自然と男子トイレに引き込まれてゆく。夕涼が男子トイレに入るところを見た生徒たちは大笑いしていた。
トイレに入ると、罵声や暴言を吐いている声がとても大きく聞こえてくる。
そして、数人の男子生徒が一人をいじめている光景を目にした瞬間、助けなきゃという思いと怖いという思いが混ざり合う。
それでも、勇気を出して言葉を発した。
「やめなよ…。」
そう言うといじめを楽しんでいた男子生徒がこちらをギロリと睨みつける。
夕涼の手や足はガクガクと震えていた。
「なんだ?ここ男子トイレですよぉ。」
ヘラヘラしながら男子生徒は言う。
「いじめをやめなさいって言ってるの!!」
震える手を抑えながら、強く言った。
「何をやめろって?今俺らは《《こいつ》》と遊んでるんだよ!」
そう言われて、怒りが少し湧いてきた。
だが、《《こいつ》》と言われていた人物を見たときに驚かずにはいられなかった。
青いボンボン帽子を頭に付け、それも夕涼が探していた人物だったからだ。
ボンボン帽子の少年は目から綺麗な水滴をたくさん流していた。
所々にアザや傷があり、痛々しい姿となっていた。
「ていうかここに来たっていうことは…。」
そう言っていじめっ子の一人がこちらに近づいてスカートを軽く握る。
「こういうことを求めてたりしてんじゃないのぉ?」
ニヤつきながら言う。スカートの中までは見えてはいないはずだが、女子のスカートを普通にめくるなんて信じられない!と夕涼は頭を赤くしながらそう思い、いじめっ子に怒りをぶつける。
「女子のスカートをめくってんじゃねぇぞ!クソガキが!!」
ああ、言ってしまった。クソガキなんて。大した力もないのに…。
いじめっ子群は夕涼を囲む。
(誰か…助けて!)
心の中で夕涼は祈る。
「やめろ!!傷つけるのは僕だけにしろ!」
ボンボン帽子の少年がそう言っていじめっ子の一人の襟を掴む。
「うるっせんだよ!」
ボンボン帽子の少年は顔を殴られ、床に倒れ込むと腹部を思いっきり蹴られる。
「君らは一体何をしているんだ!」
大人の声が聞こえた。この声は、歴史の先生だ。
夕涼祈りが届いたのだ。
「先生…。」
夕涼が安心したような声を出す。
いじめっ子は先生を見た瞬間にやばいという表情かおをしてその場を立ち去っていった。
「こら、待ちなさい!」
そう言って先生はいじめっ子を追いかける。
「大丈夫?怪我をしているから保健室に行かないと…。立てる?」
夕涼はボンボン帽子の少年に優しく声を掛け、手を差し伸べる。
彼の顔はもう涙で崩壊していた。
ただ、頷きもしなければ首を振りもしない。
「大丈夫よ。私は誰にも危害は加えないから。」
夕涼がそう言うと、ボンボン帽子の少年は彼女の手を取り立ち上がる。
ボンボン帽子の少年が立ち上がるとフラフラして夕涼の方に重心を向ける。
「ご、ごめん…。」
彼がやっと口を開いた。
「いいのよ。気にしなくて。じゃ、行こっか!」
彼女がそう言うと肩に腕を組み、ボンボン帽子の少年をトイレから出した。
トイレから出ると、みんなの視線がこちらに向いた。
きっと、この少年のことだろうと思っていた。
「なんで《《男子トイレ》》から女子が…?」
それを聞いて今頃気づいた。
(私、何も考えずに男子トイレへ…恥ずかしい。でも、今はそんなことを考えている場合じゃない…。)
夕涼は顔を少し赤くしながらも少年と保健室へと向かった。
 保健室へ着くと、メガネを掛けた女性がいた。
保健の先生だ。相変わらず邪魔そうな髪を手で後ろにやる。
「こんにちは。」
夕涼がそう言うと、先生はこちらを向いてニコッと笑いながらこんにちはと挨拶を返す。
「その怪我どうしたの?すごく痛々しい姿になちゃって…。」
保健の先生は悲しそうな顔をして少年に話す。
「男子トイレでいじめられてたんです。私がこの少年を助けようと行動をしました。」
夕涼が保健の先生に言うととても驚いた顔をしながらこちらを見ていた。
「貴方が…?」
はい、と夕涼は答えた。
「貴方はとてもいい人ね。今、救急箱を取ってくるからそこのベッドで寝ててちょうだい!」
先生がそう言うと、棚を漁りだした。
夕涼は少年を指定されたベッドに連れて行き、彼を寝かしつけた。
「あ、ありがとう…な。」
口を開いた少年は恥ずかしそうにそう言った。
「どういたしまして!」
 ニッコリと彼女は笑った。
「あのまま、放っておいても良かったのに……貴方まで怪我をするところだったよ?」
 少年がそう言う。
「今まで聞いたことのないような声だったからつい…。まあ、それがいじめって気づいたとき私は放っておくわけにはいかないって思ってたのかもね。怪我をしてまでも助けようとしないで逃げ出したら、敵になっちゃうからね。まあ一応あんたに用があったんだけどね。」
少年は目に涙を溜めていた。それを堪えているのは見ただけでもわかる。
「よ、用っていうのは…?」
夕涼は少しためらってから言った。
「あんたが、なんで帽子をかぶっているのかなって思っただけ。」
 夕涼がそう言うと、少年は困ったような顔をしていた。触れてはいけないことだったのだろうか。
「い、いつか…機会があったら、教えるよ…。」
 ビクビクしながら言う。やはり触れて欲しくないことなんだと、夕涼は思った。
「はいはいー、傷を見してねー!」
 先生がこちらに向かいながら言う。
 少年が上に着ていたものを上げる。
 酷い有様だった。胴体のほとんどが青くなっていたり血が出ていたりとしていた。
 数分して、ようやく全ての傷に絆創膏やら消毒やらとが終わった。
「それじゃあこの子はしばらくここにいさせるから。」
 それを聞いて分かりましたと答えた。
 そういえば名前と学年組を聞くのを忘れていた。
「ねぇ、君の名前と学年組。教えてくれる?」
夕涼がそう言うと優しく微笑みながら答えてくれた。
「僕の名前は『神取優樹かとりゆうき』。1年5組だよ。」
優樹がそう答えると、質問を返すかのように聞いた。
「私の名前は清盛夕涼。1年3組。」
そう答えるとニッコリと優樹は笑う。それにつられて夕涼も笑う。
「それじゃ、私もうそろそろ行かないと。またね。」
「うん!バイバイ!」
夕涼は保健室へ出た。
これが全ての始まりだった。
夕涼の人生を大きく揺らがすことになろうとは、彼女は知らない。

「青いボンボン帽子」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く