GAME OF BUSHIDAN

ナッツ・ユキトモ

いつもとは違う戦場

…ピュいぃぃぃぃぃ!

 遥か頭上で鏑矢の風を切る音が聞こえる。

「かかれぇ!」

 遠くで煌びやかな大鎧を身にまとった騎馬武者が叫ぶ。

「将門を討てぇ!」

 将門。平将門のことである。

「新皇を称した逆賊を討つんだぁ!」

 うぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 凄まじい士気である。徒武者たちが槍や長刀をもってこちらに向かってくる。

「果たしてこれはなんなのか…。」

 少なくとも、俺が今いるここは戦場の真っ只中だが現実じゃない。

 だって、いつもの趣味であるゲームをするために寝たはず。

 いつも見ている世界の光景だ。

 一つ違うことがあるとすれば…。

…これ、どう見ても戦国時代じゃないよな…。

 そう、いつもの観る世界の舞台は戦国時代。

 ここはどう考えても時代設定が違う。

 かといって、忠実に再現した時代の合戦とも違う気がする。

 一つだけ確実なのは…。

…俺がいるのは平将門軍、相手はおそらく、藤原秀郷、平貞盛軍…つまり官軍か…。

 明らかに敵の数が多い。味方の数は多くても500人いるかいないかだろう。

「三郎丸。風向きが変わった。大将亡きいま、もはやこれまで…じゃな。」

 三郎丸と声をかけてきた男、名前はわからないが肩などに数本、矢が刺さっている。

 既に、新皇こと平将門は討死した跡らしい。

「新皇様は関東の安寧のため、立ち上ったが結局、朝廷は逆賊としか扱わぬ…。」

 この時代の歴史背景はそこまで詳しくない。平将門自身は新皇を自称したことはないらしい。

 周りの誰かが言って広まった感じだろう。

「死してなお、新皇様の行ったこと、世に残るかどうか…。」

 そう言って、男は横たわった。眼の光も弱くなっている。

 死が近いのだろう。

「追手がそこまで来ている。お前は逃げろ…生国の武蔵はそこまで遠くない。」

 息も絶え絶えだが、男は語る。

「馬の繰り方は教練したとおりにすればいい。途中の川さえ越えれば、何とかなろう…。」

 川…おそらく利根川のことだろう。

「行け…。無事に生き延びよ…!」

 ゆっくりと目を閉じる。もう動くことはなかった。

…ようやく、自由に身体が動けるようになった。

「なんかチュートリアルみたいだったな…。」

 改めて、自分の装備を確認する。

「装備もある程度時代に合わせてるっぽいな。」

 明らかにいつもより動きづらい。戦国時代の当世具足とは雲泥の差だ。

「昔ながらの大鎧。腰の…これは太刀か。それに弓矢。矢の数はおよそ50本。」

 それに茶色っぽい鹿毛の騎馬。

「馬に乗れるような仕様らしいし、ひとまず逃げるか…。」

 そう言って、目の前の騎馬に跨る。

「怖がらないのな…。」

 馬は、拒否することなく俺を乗せた。

「いくぞ!ひとまずここから離脱する!」

 この右も左も分からない戦場からの命がけの逃避行は始まったのだった…。



 結局、この世界ってなんなんだ!?…。




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