全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

146話 最後の魔法

そこはただ真っ白な空間だった。

 「ここは——」
 
 「ここはあなたの心の中ですよ。勇者トオル」

 ふと後ろを振り返ると、そこには優しげな視線を向ける一人の女性がいた。

 「あなたは……?」
 
 「私はあなた達にスキルを渡した神ですよ。勇者トオル。魔王を倒し、世界の存亡を救っていただき、本当にありがとうございました」

 「でも俺は……っ!!」

 無意識の内に俺は手を強く握りしめていた。
 それを神様は俺の手を触り、解く。

 「あなたは自分が人々を救えなかった事を悔やんでいるのですね……」
 
 「……」

 神様の温もりに、固まっていたモノがどんどん溶かされていく。

 「あなたが望むのならば、皆様を生き返らせる事は——可能です」

 「っ!?」
 
 神様はそう断言した。

 「だけどそれは大変な危険を伴います。あなたは必ず無事では済まないでしょう。それでも世界の人々の為に自分の命を投げ出す覚悟はありますか?」

 「……俺の命で皆が助かるんだったら喜んでやるよ」

 「……そうですか」

 俺が即答すると、初めて神様の表情が曇る。
 
 「これが俺の贖罪なんだと思ってる。力を得て、そこから皆を置いて修行で鍛えたつもりだった。それでも俺は誰一人も救うことが出来なかった……。だから俺の命が果てようとも俺には皆の命を助ける義務がある」

 「やはり……こうなる運命なのですね……」
 
 神様はまるでこうなる事がわかっていたかのように俺を見る。
 
 「では、あなたに最後の魔法を授けましょう。——皆様を頼みます」

 「任せてくれ」
 
 俺はそう神様に言う。

 「では、〈思念伝達〉」

 神様がスキルを唱えると、俺の頭の中に色々な情報が入り込んできた。

 時間魔法〈リワインド〉。時間に直接作用して、時を己が望む方へ巻き戻すものだ。対象を選択することが出来るが、代償として発動者の命を奪うもの。
 そう送られてきた情報には書かれていた。

 「これなら……ありがとうございます」
 
 「何も出来ない私を許してください……あなたに幸があらんことを」

 「じゃあ行ってきます」

 そう言い、白い空間から俺の意識は現実に戻った。

 「……やるか」

 俺は魔法陣を組み始める。
 複雑怪奇なそれは、チートな俺でも組むのにはそれなりの時間がかかった。
 
 そして術は完成し、最後の魔法が放たれる。
 
 「最終魔法〈リワインド〉——ッ!」

 その瞬間、世界が極光に包まれた。
 

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