全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

97話 鍛治

 「ご主人様から離れてください!」

 この異様な沈黙を破ったのはエルだった。
 ……正直に言ってマジのファインプレーだ。
 このままだったら……うっ!想像するだけで辛いことが起こりそうな予感がする!

 「「そ、そうだそうだ!」」

 やっと我に返ったのか、楓たちも反論している。
 ……俺の方がもっと驚いていると思うんだけど?

 「へぇ……あなたたちは一体トオル様とどのようなお関係何ですか?」

 「私たちは……トオルな恋人よ!」

 「あ、私は違いますよ」

 「私もです」

 ルーナの私達恋人宣言をエルとアルスは遠慮なくぶった切っていく。
 ……まあ事実を言ってるからそうなんだけども……。

 「……ていう事はそこの二人がトオル様の彼女、という事でいいんですか?」

 「そうなの!」

 ルーナは俺と恋人関係にある事を強く肯定する。
 ……そこまでするものなのか?

 「じゃあ私も恋人に加えてください!」

 「……」

 だからドユコト?
 本日3度目のドユコトが炸裂する。

 「何故そうなる!」

 ちょっと俺の意見なしで話を進めないでほしいかなぁ……?
 そういうところはキッチリとしていた方がいいと思うし。

 「……やっぱり私ではダメですか……」

 「いや、別にそうは言ってないんだけど……。俺は今そういう気分じゃないし……」

 「分かっています!私がトオル様の恋人になることなんて一生ないんですよね」

 よよよ……と明らかにワザとらしい落ち込み方をするウルティマ。
 神がかっている演技か、素で話しているのか俺には区別がつかない。

 「……何が目的なんだ?」

 「あら?失礼ですね。私の本心ですのに」

 本心だったらもっと必死になると思うんだけど、それほど余裕があるということなのか?

 「……それで俺がyesと言うとでも?」

 「思ってませんよ。だからこれから私のことをもっと知って欲しいんです」

 「……まあ、案内役はウルティマに頼んでいるようだし、そこの結果次第で機会が有るか無いか決めることにする」

 「ありがとうございます!」

 ……そう素直に喜ばれると、俺の心が痛いんだが……。
 これって遠回しに言うと、完全に信頼していないということになる。
 だって信頼しているんだったらこんなことしないもん。

 「じゃあ今日は休んで、明日から案内しましょうか?」

 「ああ、そうしてくれるとありがたい」

 今日は色々あったからな……。
 いきなり国に着く前に牢に入れられるわ、脱走の手伝いをして牢を跡形もなく破壊するするわ、囚人たちにアニキと呼ばれ湖辺りに新たな別荘を建てるわ……。
 結構やらかしすぎたかもな。
 まあこれも殆ど俺のせいじゃないし、問題ないでしょ!

 「じゃあ今日はどこで寝るの?」

 「ん?どこかの宿に泊まろうかと思ってるんだが?」

 「ならここに泊まっていくのはどうですか?私は大歓迎ですよ?」

 「そういうことならみんなは任せたな」

 「はーい!」

 「「「「えっ!?」」」」

 悪いが俺は暫しやることがあるんだ。
 というわけで俺の為に犠牲になってくれ!

 「ちょ——ッ!」

 困惑しているルーナたちを放って俺はとりあえずはあの地下室へと戻った。
 
 
 「……これまた随分漁りまくってくれたなぁ……」

 あの地下室には備蓄してあった食料の殆どが消えていた。
 ……しかし、キッチンやリビングには汚れやゴミが見当たらなかった。
 家事ができるやつがいんだなぁ……。

 「それにしても……これはどうしようか……」
 
 綺麗に折りたたまれた囚人服。
 しかも〈洗浄〉のスキルが使われており、しっかり清潔になっている。
 ……どれだけ家事が有能なやつがあの中にはいたんだよ……。
 俺は呆れて言葉も出てこなかった。

 それで服のことなのだが、燃やすのは簡単。だけどそれは何か忍びない感じがするんだよな……。
 野郎どもはそうは思ってないかもしれないが、俺は少し気に入っていた。

 「……別に綺麗だし、仕舞っておくか」

 特に加齢臭のような臭い物があるわけでもないし。

 「じゃあ取り掛かるとしますか……」

 俺が今からするのは魔導具の作成だ。
 作るものは一般人が扱えるレベルの剣だ。
 それでも切れ味は武器屋で買えるものよりも遥かに上だが。

 「〈創造〉」

 そこで俺は普通にその剣を作るんじゃなくて、材料だけを生み出す。
 俺がやろうとしているのは鍛治技術の向上だ。
 いざという時の為に、鉄の一本で武器を作れた方がいいと思ったからな。
 今回は全て鉄で作り、持ち手のところだけテープでぐるぐる巻きにするという構造でやってみることにした。

 素人な俺はとりあえず自分が思うように作ってみることにした。
 まずは……火だな。
 それが無ければ始まらない。
 スキルを使えば火は要らないけど、これは普通に作る場合だ。
 火がないとやってられない。

 「〈炎魔法〉エターナルファイア」

 別名永遠の炎。
 燃え続けるとされている魔法は俺の魔力を遠慮なく削っていった。
 ……流石に普通にやるのにこれはやり過ぎなのか?
 でも火力調節とか面倒くさいもん。
 それだったら魔力で調節できる方が便利じゃね?

 炎の後は台だ。
 …….これは正直言って水平だったらなんでもいいような気がする。
 というわけで俺は10×5×1の簡単な鉄製の台を作った。

 じゃあ早速作業に取り掛かるとしましょうか。
 俺は材料の鉄を炎の中に入れる。
 鉄が赤く、高温になるまで熱し、そうなったらすぐに取り出しハンマーで叩く。
 その作業をずっと繰り返した。

 一時間後。
 何とか頑張ったおかげで、らしい形にはなった。
 だけどこれだったらまだ鈍器と呼べるレベルだ。
 ここから刀身をひし形のような形にする。
 ……結構難しいな……。
 そう思いながらも俺は鉄を打ち、形を仕上げていく。

 それからまた一時間ぐらい経った。
 
「ふぅ……」

 ようやく刀身は完成した。
 後は片刃を研いで切れるようにしたら完成だ。
 俺は砥石を取り出した。
 ふっ……もしもの時に砥石はいつも持ち歩いているんだよ。備えあれば憂いなしって言うしな。
 それを俺は刃の部分に当て、研いでいく。

 それから30分後、思ったより時間がかかったがようやく完成した。
 もう柄の部分は諦めた。
 ここから更にするのは流石にしんどい……。
 
というわけで加工で柄っぽい形にして、それと剣を超超強力瞬間接着剤で止めた。
 普通接着剤で止めるか?って思うが、この強度をなめたらダメだ。
 これで貼り付けたら、俺ぐらいの力を入れないと折れないのだ。
 普通の人が使う分には余裕で耐えられる。

 こうして俺の初めての鍛治は一応成功したのであった。

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