全スキル保持者の自由気ままな生活
89話 早食い
 俺はギルドマスターの執務室まで転移で一気に行った。
 受付でやると何だか面倒くさい気がしたからな。
 スプリガンたちのことは討伐したということにして、ダンジョンで生活してもらうことにしたとは断じて言わない。
 言ったとしても俺が信用している奴だけだ。
 
 「あ、終わった?早かったね」
 「そうですね。意外に早くできました」
 「それでスプリガンの討伐部位はどこにあるの?」
 「あっ!!」
 ここで俺はあたかも討伐部位を忘れたことを思い出すフリをした。
 「はぁ……。君にはらしくないミスだね。それだったら報酬はもらえないけどそれでもいい?」
 「はい。それでお願いします」
 またあそこにスプリガンが現れたのなら俺の知ることではない。
 あの小動物を見て見ぬ振りをするのはとても……!とても辛いがそうしないとあのスプリガンたちが危険になってしまう。
 それだけはなんとしても避けなければ!
 ……まあそうそうとあのダンジョンをクリアできるとは考えられないけど。
 「えー、じゃあ今日はもうしない?」
 「うーん……そうします」
 今は大体3時ぐらいかな?
 明日も休暇なことだし、また明日に別の依頼に行こう。
 そう思った俺は、ガルドさんと別れて王城に着くと、簡単なご飯を食べてからしっかり眠るのだった。
 
 「……?」
 ……あれ?今何時?
 外を見ると、真っ暗な状態だった。
 あれから寝たのか……。
 大体3、4時間ぐらいしか寝ていないのに、なんでこんなに寝疲れているんだろう?
 「ふぁあ……」
 俺は体を起こして、何か食べに行くために外へ出る。
 「トオルッ!」
 何故が慌てた様子のルーナがこちらへやってきた。
 「何があったんだ?」
 「……大丈夫なの?」
 「?何が?」
 意図のわからない問いに俺は聞き返す。
 「体のことだよ!トオル、昨日の夕方ぐらいからずっと目を覚まさなかったんだから心配したんだよ!」
 「……じゃあ今日はあれから一日経っていたということでいいんだな?」
 「……うん」
 やっちまったあぁぁぁぁぁあ!
 なるほど。だからあんなに寝疲れていのか。
 ……ていうか約束の日まで後1日じゃねえか!
 完全に忘れてたわぁ……。
 「寝ていて聞けてなかったけどさ、ルーナってタルサ王国って行ってみたいか?」
 「えっ!?どうしてそうなるの?!」
 いきなりソワソワしだすルーナ。
 「?明日からタルサ王国に行くからルーナもいっしょにどうかなぁ?って思って」
 「そ、そういうことは先に言ってよ!……それでカエデちゃんも誘うの?」
 「ああ。本当は今日の朝ぐらいに言おうと思ってたんだけど、寝てしまってたからな……」
 不覚……!
 まさかそんなに寝てしまうとは……!
 「いいよ……。それじゃあ一緒誘いに行こう?」
 「ルーナは結局行くのか?」
 「もちろん!タルサ王国には一度行ってみたいと思ってたんだよね!」
 「へぇ?それはどうして?」
 「あそこの特産品のお肉や魚介類が絶品って観光雑誌に載ってあるのをみて、美味しそうだなぁ……って思ってたんだ!」
 王族も雑誌とか読むんだな……。
 意外だな。
 「じゃあ余った時間とかで回るか?」
 「うん!」
 俺も美味しいのには目がないし、みんなと一緒に回ってみるのもいいかもしれないな。
 後、エルやアルスたちも連れて行こうかな?
 馬車に乗りきらないって言うんだったら向こうまで送って行ってもいいし。
 ていうかそもそもで場所に乗る意味を教えてください。
 「あ、カエデちゃん!」
 話をしていたらちょうどいいところに楓がやってきた。
 「ん?」
 
 「明日から数日間、タルサ王国に行かない?!」
 「いいよ」
 まさかの即答だった。
 
 「学園は大丈夫なのか?」
 「こういう時のために、理事長にしばらく休むって言っておいたから」
 さすが楓。
 根回しが早いですねぇ……。
 「じゃあ明日の朝に集合だから遅れないように」
 「「トオル(透)が一番不安」」
 「くっ……!」
 確かにこの中で俺が一番生活リズムを守れていないけどさ!
 「みんなはもうご飯とか食べた?」
 「私はまだ」
 「私も」
 結局みんなまだらしい。
 「なら行くか」
 「「オッケー!」」
 1日間何も食べていなかったからねお腹すいたなぁ……。
 早く飯が食いたい!
 そう思い俺は食堂へと向かうのだった。
 ちょうど晩御飯の時だったのか、意外に食堂は混んでいた。
 「混んでるな……」
 「そうだねぇ。だってちょうどみんな晩御飯を食べている頃だもん」
 「この時間帯はいつも人が多いんですよ」
 「ならなんで賛成したんだ!」
 思わず叫んでしまう。
 いや、そこは止めてほしかった。
 ……俺人混みってあんまり好きじゃないんだよなぁ……。
 まあ今更なんだけど。
 「……じゃあこのままってのもあれだし、何か頼むか」
 「じゃあ私はラーメン定食で」
 「私は焼肉定食でお願い」
 随分またコッテリとしたものを食べるなぁ……。
 そして何故に動かない?
 「「お願いします!」」
 公衆の面前でなんてことをするんだ!?
 こんなことしたら俺が行かなきゃ絶対にダメだろ!!
 ……背筋から悪寒が……。
 あ、こりゃマズイやつだ。
 「いってきます!」
 俺は急いで周りの視線から逃れるために買いに行った。
 「お待たせ」
 「うわー!」
 俺はシェフさながらの持ち方で焼肉定食、ラーメン定食、そして俺自身が頼んだ毎日定食を運んだ。
 一言言わせてもらうのなら、昔だったら重いって感じていただろうけど、今は全く感じないわー。
 まあ腕の力が尋常にならないほどに増えたからな。
 「「「いただきます」」」
 恒例の挨拶を行い、俺たちは食事を食べ始める。
 「はー……!」
 久しぶりの食事は心にしみるわぁ……。
 まあ寝てた時あんまり意識がなかったんだけどな。
 「ちょっとそっちの肉ちょうだい!」
 ルーナは自身が肉を食べているはずなのに、他人の肉まで手を伸ばしてきた。
 ……どれだけ肉が好きなんだよ……。
 男の俺でもそんなに食べられないぞ?
 「「ごちそうさまでした」」
 「えっ!?」
 俺はふと周りを見てみると、なんということでしょう。
 もう楓とルーナは食べ終わっているではありませんか。
 俺はまだそこまで食べていないというのに。
 「じゃあちょっと待っとくね」
 「……ああ……。頼む」
 結局、俺が食べ終わるのに10分ぐらいかかった。
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