全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

56話 慈善活動

 「えっ!?あの東諸国連合と同盟を結ぶことに?」

 「ああ。5日後にここに来るって聞いてる」

 俺は起こった事の顛末の一部始終を女王様に伝えた。
 え?なんで女王様には敬語じゃないのかって?
 そりゃそうしてくださいって言われたら俺だって断れないだろ。
 少なくとも俺は断れない。
 
 (俺って女性の頼み事って基本断れないからなぁ……)

 今も昔もそういうところは変わっていない。
 ……強さが上がっても精神面は別の話だしなぁ……。
 未だにポーカーフェイスも不可能だし。

 「そうですか……。メルトリリスもその同盟に参加しでいいですか?」

 「いや……彼らは許可が出るんだったらって話で進んでいたけど、どうなんだろう?」

 「そうですか……なら詳しくは5日後にしましょうか」

 「そうだなぁ」

 というわけで話がまとまったところで、俺は部屋を出て行った。
 仕事の間を縫って俺の話を聞いてくれたんだからな。

 
 (……これから何処に行こうか?)

 はっきり言って暇だ。
 この5日間、特に予定もなかったし、部屋でぐうたらするのにも、し続けると余計に疲れるし……。

 (……そうだ!)

 久しぶりに冒険者ギルドに行くか!一人で。
 楓たちを連れて行ったらどんな厄介ごとに巻き込まれるか……。
 検討も付かない。
 と言うわけで俺は隠密スキルを使用し、王城から出て冒険者ギルドに向かった。

 ギルドの中は相変わらずの騒ぎように包まれていた。

 「おい兄ちゃん!こんな所に子供が来るもんじゃないぜ!」

 「そうそう!ここは先輩の俺たちが指導してやる。その為には授業料が必要だけどな!」

 ……なんか面倒くさい奴に絡まれてるんだけど……。

 (おーい、アイリーンさーん)

 俺は心の中でお世話になっていた受付の人の名前を呼んだ。
 
 (……うん、受付に見えない=今日は非番の日なんだな)

 そう思った俺は返答にどうしようか……と悩んでいると、俺の見知った顔が声をかけてきた。

「あれ?トオル君じゃないか?久しぶり!」

 まさかのカーマだっだ。

 (懐かしいっ!!)

 一年ぶりの再会か……。
 いや、ダンジョンに俺と一緒に潜っていた人以外は全員そうなんだけども……。

 「久しぶりだな」

 「え?何してるのこんな所で?」

 「いや、ギルドに顔を出そうかなぁって思ってやってきたらなんか絡まれた」

 「はははっ……。トオル君はよく13歳ぐらいの子と間違えられるほど童顔だからね」

 「失礼な……、俺は17だっつーの」

 俺たちが軽く雑談していると、周りから狼狽えるような声が聞こえてきた。

 「あの男、『雷人のカーマ』の仲間かよ!」

 「カーマってあのカーマか!?僅か半年でBランクまで上がり、この前はA +級ども言えるレッドドラゴンを狩ったあのカーマか?」

 お、おう……。
 これまたすごいことやってきたなぁ。
 雷人のカーマとか言う二つ名も付いているんだな……プッ。

 「トオル君、今笑ったよね?」

 ……後ろから何か光が出ているんですけど!?
 俺は全然構わないけど、周りのことを考えてあげようよ!
 
 「……………え?何のこと?」

 「嘘つけぇ!」

 カーマはお得意の雷の魔法を自身の槍に付与して、俺に攻撃を仕掛けて来た。
 しかし、俺はそれを素手で容易に止める。

 「ここはギルドだ。暴れるんだったら外でやるぞ?」

 一瞬だけ、俺は殺気を出した。

 「……分かった。僕が悪かったよ」

 そう言って、カーマは槍を収めた。
 ふぅ。あんまり本気は出していないにせよ、殺気を出したのはマズかったかなぁ……。
 まあ、ここは冒険者ギルド。これくらいの殺気なら物ともしない奴がゴロゴロいるだろうな。

 (まあ、俺には勝てないだろうけどな!)

 盛大な煽りを心の中でしていると、バタンッ!と扉が開かれ、大慌てで来た人がいた。

 「今の殺気はどういうことだい!?」

 よほど慌てたのか、ギルマスもといガルドさんがやって来た。

 「……何だ、勇者君か。驚かせないでくれよ」

 「すまないな。少しこのアホを止めようとしただけだ」

 「ならいいんだけど……。あんまり期待の新人をいじめてあげないでね」

 「分かってる」

 もともと虐める気は無いしな。

 「それよりガルドさん。話があるんだけど」

 「ああ、あの件のことかい?」

 「そうだ」

 あの件とはダンジョンで取ってきたドロップアイテムの売却だ。

 「じゃあまたな」

 「また、学校に来いよ!」

 「気が向いたらな」

 俺はガルドさんの方へ歩きながら手を振る。

 「じゃあ行こうか」
 
 「ああ」

 そして、俺たちは一度執務室に寄ってから、ギルドの倉庫へ向かうのだった。


 「一つ言っておくけど何が欲しい?」

 「……欲を言うんだったら全部だね。でも100階層全てのアイテムを換金するのだったら、ギルドのお金が足りなくなる……」

 「一つ聞いていいか?」

 「?何?」

 「ここってオークションって出来るのか?」

 「そうか!その手がある!」

 何か急に叫び出したのだが……。
 俺はギルドで買い取れないのであれば、各国の金持ちが揃いそうなオークションで売ればいいんじゃないか?って思っただけだ。

 「じゃあ要らないアイテムとか全て出してくれ」

 「全てでいいのか?」

 「こちらで査定してから出品ということでいいかい?その代わりに手数料を金貨1枚をもらえるかい?」

 ……思ったより手数料が多いんだな。
 今回は俺のアイテムが多いことを予想しての金額だと思うから別にいいんだけどな。
 
 俺はあらかじめに金貨1枚を渡しておく。

 「じゃあ出してもらえるかい?」

 「分かった」

 俺は中に入っている、後で使うもの以外のものを全て出した。
 すると、アイテムの山が10個ほど出来た。

 「……これはちょっと予想外だね」

 ……うん、俺も予想外だったわ。
 確かにこまめにアイテムボックスの中に入れていたけど、まさかこれほどだとは……。

 「じゃあ査定するから、うーん……3日後には一度来て欲しいかな?」

 「分かった」

 「暇だったのなら久しぶりに依頼受けていってよ。意外と高難易度のクエストが溜まっているんだよね」

 「ああ。そうする」

 別に俺にはある意味転移の強化版の〈霊脈移動〉のスキルがある。
 これは世界にほとんど通っている霊脈を伝って移動するスキルだ。
 しかし、霊脈が繋がっていないところには移動できない。
 霊脈さえ繋がっていればどこにでも移動できる。
 反対に転移の場合は、どこでも行けるが、一度行かないといけない。

 (……どちらもあまり変わらないなぁ)
 
 便利さが。
 
 「じゃあ行ってくる」

 「いってらっしゃい」

 そして俺は倉庫から出ていった。

 俺は掲示板に貼られているクエストを見ていた。

 (うーん……、何個行こうかな?早く消費したいことには変わりないけど一気にやっちゃうのもなぁ……)

 1日だけで終わらしたら後がものすごく暇になる。
 
 (レッドドラゴンにワイバーン、キメラやデスゴリールなどか……。本当にいろいろあるなら)

 そこで俺は一つの依頼に目が行った。

 〈いらい:いぬのぽたをみつけて
 みっかまえからぽたがいなくなっています。さがしてください。けなみのいろはぎんいろで、めはあおいです。
 ほうしゅう:おきにいりのはなたば〉

 俺はこの依頼に心を打たれた。
 まだ文字もよく分かっていない子が、こんな酒臭い騒乱の塊のようなギルドにやってきて、こんな依頼を出すなんて……。
 胸が打たれない方がおかしい。

 「この依頼を頼む」

 「……いいんですか?ロクな報酬じゃありませんよ?」

 「俺がいいと言ってるんだ」

 「……ならギルドカードの提示をお願いします」

 そして俺はカードを渡した。

 「っ!?Aランク冒険者ですか……」

 「そうだ」

 俺はカードを受け取り、ギルドから出た。
 慈善活動の始まりだ!

 俺は早速探知を使い、犬の場所を探す。
 条件は銀色の毛並み、青の瞳だ。
 その条件は珍しかったらしく、すぐに探知の方に引っかかった。

 「あれか……」

 犬というよりかは狼に近い動物だった。
 
 「ほら、お前の友達が待ってるぞ」

 俺は犬を抱きあげ、ギルドの方向に歩いていった。
 ……少し嫌がられて、爪で引っ掻かれたが俺は何も痛くなかった。

 ギルドに着くと、

 「あ!ぽた!」

 1人の女の子が俺が抱きあげていた犬に向かって走ってきた。
 俺は犬を下ろす。

 「お兄ちゃんが見つけてくれたの?」

 「そうだな」

 「ありがとう!」

 ……たまにはこういう慈善活動もいいもんだな。
 こういった他の人の笑顔が観れるのはいいことだ。
 ……別に女の子の笑顔が見れるからいいってことじゃないぞ!
 そこは否定しなければ俺の尊厳に関わる。

 「じゃあ、これお兄ちゃんにあげる!」

 そう言って渡されたのは見事に綺麗に咲き誇っている百合のような花だった。

 「ありがとう!バイバイ、お兄ちゃん!」

 「バイバイ」

 俺は女の子と犬が走っていくのを見届けてから、冒険者ギルドに報告を済ませた。

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