全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

47話 責任

(突然なんてことを言ってるんだ……!)

 俺が噴きかけたせいか周囲の人が、不思議そうな目でこちらを見てくる。

 「……とりあえずその話はご飯を食べ終えてから楓も呼んでするから待っててくれ……」

 「うん……分かった」

 とっさに俺はここで答えを出さずに引き延ばすことに成功した。
 
 そしてそこからとても気まずい空気が流れていた。
 俺たちはご飯を黙々と食べ続けた。

 「「……ごちそうさまでした」」

 いつもなら元気に言う言葉も今となっては気まずいせいか、声に元気が無くなっている。
 食べ終えた俺たちは食器を片付け、これまた無言で食堂を去り、俺の部屋に向かった。

 途中で楓を拾い、俺の部屋に着いた。

 「それじゃあさっきの答え、聞かせてくれない?」

 「……すまないが、今は出来ない。そういうのはもっと先にしたいと思ってる」

 「……そう」

 「何の話してるの?」

 「それはーー」

 ルーナが楓にあのことを耳打ちで伝える。
 すると、楓は茹で上がったタコのように顔が真っ赤に染まった。

 「そ、そ、そ、そういうのはまだ早いと思うの!」

 「ああ、俺もそう思う」

 まだやること、本当に俺たちがすべきことがまだ残っているしな。
 それまではまだそういうのはちょっと……って思ってる。

 「な、ならいつしてくれるの……?」

 いや、そんなに真っ赤になるくらい恥ずかしいんだったら聞かなきゃいいのに……」

 「あ!今聞かなくてもいいのにって思ったでしょ!」

 「ぎくっ!」

 「……はぁ、分かったよ。それじゃあ私たちが結婚したらでいいよね?」

 (……what?)

 「……どういうことだ?」

 「えーっと、私はもう半ば結婚することが決まってるよね?」

 「あれって結婚って意味だったのか!?」

 確かに責任は取るって言ったけども!
 ……俺てっきり付き合うという面で言ったもんだと思ってたんだが……。

 「それ以外に何があるの!?」

 「……すまん」

 「もう、いいや。それでいつ結婚するの?」

 ……何故かもうする前提で始まっているんだが……。

 (いや、ルーナは可愛いし、俺も好意的に思っているから嬉しいんだけども!)

 ちょっと早くないですかね?

 「そういうのはまだ早いっていうか……少なくとも成人になるまでは結婚したくないっていうか……」

 「トオルって今何歳?」

 「17」

 「なら大丈夫だね。メルトリリスでは15歳で成人だもん」

 「……すいません。俺の言い方が悪かったです。向こうの世界で成人ってことだから20歳です」

 「後三年か……。うん、分かった。なら絶対20になったら結婚しようね!」

 「盛り上がっているところ悪いけど、私もいい?」

 突然楓が俺との結婚をしたいと言ってきた。

 「それはーー」

 「あ、全然大丈夫だよ。この国では重婚も認められているし。でいいよね?」

 まさかの俺が発言する前に言われてしまった……。
 いや、許可してから確認取らないで!

 「分かった……。元からそういう約束だしな」

 (俺的にはハッピーだけど)

 「本当!?」

 「ありがとう!」

 「お礼をいうのはこちらの方だけどな」

 これで約束は守れそうだな。
 ……20になって結婚はすると思うけど、そのまま……というのは無いかもしれないけど。
 
 (もっと強くならないとなぁ)

 この世界で一番強くなれるように。
 人間ではもうトップを取ってるはずなんだけど、俺が知っている魔物以外にも強い奴はいるかもしれないからな。

 「じゃあ早速お母様に報告しよう?」

 「ハッ!?」

 いや待て。まだそういうのはちょっと……。
 そして娘さんが許可しているのに俺が渋っているということが知られると、なんとも言えない罪悪感に苛まれてしまう。

 「結局、そういうことになるんだからいいでしょ?」

 呆れたようにルーナは俺を見つめてくる。

 (まあ、確かにそうなんだけどさぁ!)

 ……申し訳ないんだよね。

 「そうと決まれば行こう!」

 ルーナは俺と楓の手を引っ張り、執務室へ駆け出した。

 コンコン。

 「はい、どうぞ」

 ガチャ。

 扉を開き、俺たちは中に入ると、女王様が書類の山で仕事をしていた。

 (うわぁ、大変そうだなぁ……)

 俺、あんまりデスクワークって好きじゃないんだよな。腰が疲れるし。

 「あ、皆さんでしたか。しばらく待ってもらえませんか?今すぐこの書類を片付けますので」

 シャバババッ!という効果音が合っているほどのスピードで書類を片付けていった。
 
 そして10分しないうちに、あの書類の山は無くなった。

 (は、早ぇ……)

 サインしたりとかするのに、あんなに早く書けるものなのか?少なくとも俺は無理だ。

 「お待たせしました。それで3人で来た理由を教えてもらいましょうか」

 「お母様。大事なお話があります」

 「何ですか?」

 「後日、トオルさんと婚約させていただきたいと思い、やって来ました」

 「いいですよ」

 「そうですよね。無理ですよね……えっ!?」

 「だから許可を出します、と言っているんですよ」

 (まじか……。即断即決とは流石っす)

 「いいの!?」

 「……その言葉使いは公の場ではやめてくださいね」

 「うん!分かった!」

 「それで“後日”と言っていましたが、いつ結婚するつもりなんですか?」

 「それは3年後にしようと思ってるの」

 「何故ですか?」

 「私は今すぐがいいって言ったんだけど……トオルがせめて20になってからって言ってくるからそうしようということになったの」

 (そこ!まるで俺のせいで結婚出来ない風に言わないで!……確かに間違っているとは言えないんだけど……)

 「なるほど……トオルさんの意見で……。確かに頑固そうですもんね」

 「そこ!人を頑固呼ばわりしないで!」

 おっと、思わず心に留めておいておくつもりが思わず声に出てしまった。

 「ふふっ、ごめんなさい。でも頑固なのは事実でしょう?トオルさん、意見を曲げなさそうですから」

 「そうだよね!」

 時は満ちたのか、楓がようやく会話に混じってきた。
 ……空気と化していたな。

 「……あれ?私ってこの中じゃメインヒロインだよね?」

 (楓よ、その言葉は聞かなかったことにしてあげよう)

 「楓さんは?」

 「わ、私も透と結婚したいです!」

 急に話を振られてテンパっていた楓が答えた。

 (……何だろう。好きな女の子に目の前で“結婚したい“って言われるの、めっちゃ恥ずかしいんだけど……)

 「そう、応援するわ」

 「お母様!私は応援してくれないんですか?」

 「だってルーナとはほぼ確定しているようなものでしょう?」

 「むぅ……」

 このむくれているルーナも可愛いよなぁ。
 見ていて癒される。
 この盛り上がりようなら俺は退出していいよな。
 こう思った俺は新スキル〈影〉という存在感が影のように薄くなるというスキルで退出を図った。
 無事に上手くいき、部屋を抜け出したと思ったのだが、

 「ちょっと、トオルさん?どこに行くんですか?」

 (ギクッ!!)

 気づかれていないと思っていた俺は飛び上がりたくなるほど驚いてしまった。

 「まさか私の目を見破っていたとでも?」

 「すいませんでした!」

 (怖すぎる!俺一応神なんだけど!?)

 一人の王に怖がらされる神は構図的にどうなんだろうか?

 「何故出ようとしたんですか?」

 「「そうだよ」」

 二人の真剣な眼差しが痛い……。

 「いや、別にもう帰っていいのかなぁ……と思いまして」

 「いいわけないでしょう?誰の話をしていると思っているんですか?」

 「はい!」

 (怖すぎる!)

 後ろの方に修羅が見えていた俺には恐怖しか感じない。
 この人だけは怒らさないように注意しなければ……。
 
 「ではここにカネヤマトオルとルーナ=メルトリリスとスズカワカエデの婚約を、メルトリリス王国国王サラ=メルトリリスが容認します」

 ということで、三年後の俺たちの結婚が決まった。

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