全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

19話 出発

 修練場を出た俺はまっすぐ部屋に帰り体を休めるために眠りについた。

 そして翌日。

 「……て!…きて!起きて!」

 朝っぱらからなんだよー。もうちょっと寝させろや!
 と俺は布団に潜りながら思った。

 「起きて!トオル!」

 おっとその声はルーナじゃね?
 俺は布団からチラッと起こそうとしている人を見るとドレス姿のルーナが俺を起こしていた。

 「すまん。昨日寝不足でな」

 もちろん嘘である。
 この男、昨日は休めるという目的で日本時間の9時ぐらいにはもう寝ていた。そして今は7時ぐらい。単純計算で10時間ほど寝ていたということになる。
 流石の俺でもこれだけ寝ればそこまで眠たくなどない。

 「で、用事は?わざわざドレス姿で来たってことは大方の事情は楓かレオンに聞いてるんだろ?」

 「当然よ!いきなり修行に行くなんてどういうつもり!?」

 ルーナはガチでキレていた。

 「ごめん。だけどそんなに待たせないから」

 「それでも……黙って私の元から離れようとしたことが、私には許せない!」

 「……ごめん」

 「謝って済む問題じゃないの!私は……せめてトオルにお別れを告げたいって思ってたのに……」

 「……ごめん」

 俺は謝ることしか出来なかった。
 ……ホント、俺って最悪な男だよな。泣いている女の子を前にして励ます言葉が思いつかない。
 かける言葉がないのなら行動で示そう。そう思った俺はルーナを抱きしめた。

 「えっ!?」

 突然俺が抱きついたからか、顔を真っ赤にして驚いていた。

 「ごめん。今はこれだけしか俺には出来ない。だけど強くなって帰ってきたら俺と付き合ってくれませんか?」

 「……はい!その日まで私、待っていますから!」

 「ああ、ありがとう」

 これで俺とルーナは後腐れなくお別れすることができるな。
 ……俺だって別れるのは辛いけど、守れないのはもっと辛い。
 だから自分の大切な人を守るために、と思うと自然と寂しくならなかった。
 ちゃんと一年以内には帰ってくるしな。

 「……お母様が待っています。行ってください」

 「ルーナはいいのか?」

 「気遣ってくれてありがと。でもこれ以上トオルといると、もう離れたくなくなっちゃうから……。トオルの修行が上手くいきますよう祈ってます」

 「ありがとう。じゃあさよならだな。……大丈夫。一年もしないうちに帰って来るから。そう泣くな」

 本人は涙を隠せているかもしれないと思ってるかもしれないけど、ルーナの目からは涙が溢れていた。
 そのことに気づいたルーナは慌てて目元を拭った。

 「じゃあまた今度会おう」

 「うん!」

 こうして俺とルーナは約一年の間別れることとなった。

 昨日着替えていなかった服で俺は執務室へ向かった。
 ……これ、寝てる時もこれ着てたけど、シワになってないよな……、なってたら結構恥ずかしいんだけど。
 ……この城ともしばらくの間おさらばになるのか……。あまり迷わず行けるようになったのにな。
 そんなことを考えているうちに執務室についた。
 コンコンと、部屋をノックする。

 「どうぞ」

 そう言われたので俺は扉を開け中に入った。

 「お待ちしておりました、勇者様。話は聞いています」

 「……なんか娘さんの好きな人がこんな冴えない男ですいません……」

 「何を言ってるんですか!あの子が決めたことをわたしが口なんか出しませんよ。それにあなたはこの国を救った勇者様です。もっと誇っていいんですよ。あなたはそれだけのことをしたんです」

 そう言われると安心する。
 ……っていうかあの程度でこの国を救ったんだな。俺の魔法1発で死んでいったぞ。

 「ありがとうございます」

 「どういたしまして。それでは本題に入らせてもらいますね。ドラゴン45体の報酬が虹金貨25枚。そしてこの国を救っていただいた報酬として虹金貨25枚。計虹金貨50枚、5000万センです。ご確認ください」

 そういって袋で渡されたのを見てみると中に虹色の硬貨が入っていることを確認した。
 ……やっぱり冒険者は儲かるんだな。一気に億万長者だぜ!
 この報酬だけでも約5000万円やからな。
 ダンジョンのために食材を買い占めなければ。このお金があれば余裕だろうな。

 「それと勇者様にはこれを預けます」

 そういって渡されてきたのは古い時計だった。

 「これは?」

 「これは王家のみが所持している時計です。ほら。ここに王家の紋が付いているでしょう?」

 これがこの国の紋かは分からないけど確かに付いている。

 「これがあればいざという時に役に立つでしょう。ご武運を」

 「ありがとうございます。女王陛下。では行ってきます!」

 そう言って俺は窓を開かれている窓に思いっきりダイブし、外に出た瞬間即座に〈飛翔〉を使った。
 俺は空を飛びこの城から去るのだった。

 俺は人影がないところに降り立った。
 朝の市場はとても騒々としていた。
 朝から買い物客が訪れ、いろんなものを買っていったりしていた。
 そこには当然アレもいたわけですよ……。手を繋いでイチャイチャと。リア充が!俺はまだその領域に到達してないんだよ!見せつけるな!
 ……やばい。無性に魔法を全力で撃ちたくなってきた。スゥーハァー。落ち着け俺。今ここで血の雨を降らしたら勇者どころか世界指名手配をくらうぞ。
 スゥーハァー。よし落ち着いた。リア充は基本視界に入れないでおこう。
 そして俺は商店エリアを歩き、必要になりそうな食材を片っ端から買い尽くした。
 それでもまだ残金は4000万以上残っている。
 俺のアイテムボックスは時間停止機能が付いていて、例え食材を今買ったとしてもここに入れとけば出すまで腐ることはないという。マジ便利。
 
 「ん?」

 ふと、俺はその看板に目がついた。
 そこには奴隷商館と書かれていた。
 ……そういえば俺って基本家事出来なかったよなぁ。そういうのってやってもらえるのかな?
 気になった俺はその店に入った。

 「いらっしゃいませ!」

 そこにいたのは中年の少し小太りのおじさんだった。

 「本日はクルーク商館へようこそ!で、ご用件は?」

 「あ、ああ。家事ができる奴隷が欲しいんだが?出来るか?」

 俺は見かけに反して高い声とテンションの高い対応に少し焦った。

 「もちろん!戦闘面では大丈夫なんですか?」

 「ああ。戦闘なら俺がする。とりあえずは家事ができる人が欲しい」

 「かしこまりました!ではそこの椅子に座ってしばらくお待ちください!」

 そう言って奴隷商人は奥の部屋に入っていった。

 「ふぅ」

 テンションの高さには驚いたがなんとかなりそうだ。
 俺の家事はアニメで料理が出来ない子並みに危険なレベルだからな。自分の料理で死にたくない。

 「お待たせいたしました!ささっ!こちらへどうぞ!」
 
 そう言われて奥の部屋に入ると、数人の女性が並んでいた。
 俺は彼女たちを無詠唱〈鑑定〉していく。スキルを使うのにしっかりとしたイメージがあれば無詠唱ができた。
 
 「決めた。彼女にする」

 俺がそう言って選んだのは銀髪ショートヘアの病弱な女の子だった。
 俺が彼女を選んだのはステータスだ。断じて見た目がすごい可愛いからとかいうわけじゃないぞ!
 彼女のステータスがこれだ。
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<名前> エル=ランパード=ヴラド
<種族>ヴァンパイア    <性別>女
<年齢>29歳
<レベル>25
<体力>D
<物攻>F
<物防>F
<魔力>A
<魔攻>B
<魔防>C
<敏捷>D
<運>E 

<スキル>
 「家事魔法」、「炎魔法」、「水魔法」、「風魔法」、「土魔法」、「闇魔法」、「魔力上昇」

 <称号>
「ヴァンパイアの王女 」、「サルケ病にかかりし者 」、「家事マスター」
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 「……いいのですか?こいつは不治の病とされているサルケ病を患っているのですよ」

 「ああ、構わない。それぐらい俺がどうにかするさ」

 「……では白金貨1枚と言ったところでどうでしょうか?」

 「ああ、俺はいいぞ。現金払いで」

 そう言い俺はゴブリン討伐で手に入った白金貨をテーブルの上に置いた。

 「まいど!では契約に移りますね!では血を一滴彼女の首輪に垂らしてください!」

 そう言ってナイフを渡してきたので俺は自分の腕を斬りつけて、血を首輪に流した。
 もう、痛みにあまり躊躇がなくなってきてるな。少し、気をつけないと。

 「これで契約は完了しました!これからもどうぞクルーク商館をご贔屓に!」
 
 そして俺たちは外に出る。
 ……一つ気づいたんだが、この子の服をきちんと探さないとな。このボロ布一枚だけじゃ俺が変態扱いされる。

 「じゃあ、服買いに行くか」

 「……いいの?」

 おお、初めて喋ったな。

 「もちろん。……っていうか俺としては買って欲しい」

 「わかった。ご主人様」

 そのご主人様ってのは慣れそうにないな。やめようと言ったら絶対ヤダ!って言われちゃったし。
 そうして俺たちは服屋の前に着いた。

 「いらっしゃいませ!」

 店内にいた女性が声をかけてきた。

 「この子の服を選んでくれ。できれば数着。……これだけあれば足りるか?」

 そう言って俺は白金貨を5枚取り出した。

 「か、かしこまりました!」

 そう言ってあの子……エルを連れていき、着せ替え人形にされていた。
 それから30分後、水色のワンピースを着たエルが出てきた。

 「お客様。夏物10着集めまして、計白金貨2枚でございます」

 「じゃあ、はい」

 そう言って俺は予算額分全部出す。

 「え?」

 「この子のことちゃんと考えてくれてたんだろ?顔を見れば分かるよ。これはその礼金とうことで」

 「ありがとうございました!」

 そして服を取り、店を出た。

 
 「なんか家事に必要な道具とか欲しいか?」

 「何でそんなこと聞くの?ご主人様」

 「いや、これから君には家事をやってもらいたいんだけど、その時に何か要るかなーって思って。まあ、欲しいものがあったらなんでも言ってね。これでも俺、結構金持ってるから」

 「金持ってるって……、まさか!強盗!?」

 「な訳ねえだろ!ちゃんとした報酬だ!」

 「それならよかった。でも、特にいらないかも。ナイフがあれば十分だし」

 そう言って懐からナイフを取り出す。
 このナイフは奴隷商人からのプレゼントということで貰っていた。
 こんなところでナイフを取り出しても何も騒がれないというところが、異世界に来たんだなぁって実感させられる。

 「じゃあ、もう行くか。俺もなるべく早く行きたいし」

 「ご主人様。どこに行くの?」

 「ああ、アルスター帝国だ。そこのダンジョンに挑む」

 「そうなんだ。私はご主人様と一緒だから」

 そう言って腕に抱きついてきた。
 おう、可愛いなぁ。妹がいたらこんな気持ちなのか?
 アルスター帝国はここから南の方角にあるので俺たちは南門へ向かった。
 南門までは意外と近く5分ぐらいで到着した。
 そして俺は門番さんにギルドカードを見せる。

 「え!?Aランク!?」

 門番さんが大層驚いていたが、普通に通ることが出来た。エルは奴隷だと言ったら特に何事も無かった。
 今頃だが、俺が心の中ではエルと、口ではエルと言わないのは名前がバレて警戒されるかもしれないと思ったからだ。
 まあ、名前に関しては後々本人が話してくれるだろう。
 そう思いながら、俺は門をくぐった。
 そして俺は帝国へ向けて出発するのだった。

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