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白色乞焦歌

永坂ちよ

道中、茶屋にて(3)

「あ、やだ! ごめんなさい!」

カラン、と銀の響く音がした。

姐さんと半分ずつしたお抹茶のアイスに夢中になっていると、黄香さんが慌てた様子で机の下に潜り込んいる。
スプーンを落としちゃったのかしら。

「桃香、ごめんなさい。
貴女の足元の方に転がっちゃったみたい」
「大変、すぐ拾いますね」

着物の裾を軽く捲り上げながら、足元を覗き込む。
確かに、銀色の小匙が落ちている。
ひょいと拾い上げようとした時、違和感を感じた。

…床の溝が変?
板張りの床は等間隔に敷き詰められているけれど、私の椅子の真下辺り。
なんだか床の溝が深い気がする。
よくよく見てみると、ちょうど爪が引っ掛かりそうな隙間が見えた。
床下収納かしら。

「桃香?」

そっと隙間に手を伸ばそうとした時、急に呼びかけられ思わずビクッと身を竦める。

「桃香。いくら綺麗にお掃除してくださってあっても、食事中の手で床に触れるのはやめなさい」

普段より幾分厳しい口調でぴしゃりと紅香姐さんに咎められた。

「ごめんなさい、姐さん」
「まぁまぁ、桃香は床に落ちたスプーンを拾ってくれようとしただけじゃない」

…そうだ。私はあくまで床のスプーンを拾おうとしたようにしか見えないはずなのに。
どうして姐さんには私が床に触れようとしたことを咎めたのかしら。

疑問は何となく口には出せず、スプーンを拾い上げた。
すぐに奥さんが飛んできて、新しい物を黄香さんに差し出す。

「ごめんなさいねぇ、桃香。きつく言うつもりじゃなかったのだけど」
「お気になさらないでください。私の為におしゃってくださったんですもの」

何となく食べ進める手が遅くなった私に気付いた紅香姐さんが気遣って下さる。
気遣いをして下さる姐さんはいつも通りなのに、今日は何だか違和感が拭えない。
チラリと横目で姐さんを盗み見ると、斜め上の方に視線を向けられている。

「紅香? 天井に何かあるの?」

あんみつに舌鼓を打っていた藍香姐さんも、視線に気づいたのか紅香姐さんに声を掛けた。

「えっ…。あらやだ、何でもないわよぉ。
ちょっとだけぼうっとしちゃって」
「こんなに美味しいものを食べているのに変なの。
そんな勿体無いことすることないわ」
「そうよね、ごめんなさい」
「世の殿方はこのぼんやりしている所が良いのかしらね」

紅香姐さんと藍香姐さんは何事もなかったかのように、ニコニコとじゃれあっている。
紅香姐さんが何を見ていたのか気にする素振りもないみたい。
もしくは、触れてはいけない事って分かっている?

「桃香、約束の半分ね。
私にもわらび餅、いただいてもいいかしら?」
「もちろんです!
お抹茶のアイス楽しみに待ってました」

ニコニコとしながら、お抹茶のアイスを差し出してくださった。
折角の美味しいものだもの、集中していただかないと勿体ないわ。
私は考えることを止め、差し出されたアイスをいただくことに意識を向けた。

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