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白色乞焦歌

永坂ちよ

道中、茶屋にて(4)

「あー、美味しかった!」
「藍香ったら、そんなに伸びをするとはしたなく見えるわよぉ」
「ごちそうさまでした、とっても美味しかったです」
「お茶もいただいたことですし、そろそろお暇しましょうか」

うーん、と藍香姐さんが大きな伸びをする。
今は訪問着とは言え、姐さん方は撮影で目一杯着飾っていたから、きっと疲れもあるはず。

「桃香、これでお支払いしてきてちょうだい」
「分かりました。姐さん、ご馳走様です」

紅香姐さんからお金の入った巾着を預かる。
入口にあるレジに向かう途中に他のテーブルに目を向けると、他の妓達は先に帰ったみたいだった。
のんびりし過ぎちゃったかな?
なんとなく小走りにレジへ向かった。

「奥さん、お勘定をお願いします」
「はいねぇ。いつもありがとう」

4人分のお会計をまとめて支払う。
基本的に外で飲み食いする時には、姐さん方が払ってくださる。
それも粋だって和泉さんから聞いたことがあるけれど、「粋」って何かと不便。
姐さんの巾着を仕舞いながらこっそり思った。

「姐さん、お支払いしてきました」
「ありがとう、桃香。
支度も出来たし、行きましょうか」

身なりを整えなおして、外行きの恰好になる。
着替えたりするわけじゃないけれど、少しお化粧を整えたり、羽織ものを纏うだけで姐さん方の雰囲気が違って見える。
紅香姐さんは、鴇色の訪問着に桃色のストール。
藍香姐さんは、瑠璃色の訪問着に空色のストール。
どちらの訪問着も裾に小さな梅の花があしらわれている。
二人揃って外に出かけると、人目に付くことも多いから、わざと色違いのお揃いにしているとか。
白色楼のトップとして、宣伝役も請け負わないといけないなんて、本当に大変。
私と黄香さんはケープを羽織った、可愛らしさを強調する仕様。

「なぁ、あれ白色楼の紅香と藍香じゃないか?」
「お、本当? こんなところでラッキー!」
「俺らの稼ぎじゃ、あんな見世行けないからなぁ」

往来の旦那方からのヒソヒソ話が聞こえてくる。
パッと見たところ、まだまだ若そうな二人組。
派手な金髪とピアス。俗に言うヤンキーと一目で見て取れる。
身に着けている物は良い物のようだから、親御さんの稼ぎで遊んでいるタイプかな。
彼らのような身なりでは、きっとどれだけ稼ぎがあったところで登楼は出来ない。

それにしても、彼に限らず多くの視線を感じる。
それは、明らかに姐さん方に向けられた視線であることも容易に感じ取れた。
目立たない訪問着を着ているのに、すぐに姐さん方は人の視線を集める。
華があるってこういうことなんだってしみじみ感じた。



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