白色乞焦歌

永坂ちよ

道中、茶屋にて(2)

「久々の甘い物、嬉しいわねぇ」
「喜んでいるのは良いけれど、私達はこの後夜見世があるんだから。
ちゃんと考えながら食べなさいね」
「分かってますって。藍香は真面目ね」

おっとりとしたのんびり屋の紅香姐さんと、姉御肌できちっとした藍香姐さん。
対照的な二人を前に、黄香さんと目を見合わせてクスクスと笑いあった。

「お話中ごめんなさいねぇ。
甘い物がご用意できましたよ」

他愛のない会話を楽しんだところで、奥さんが甘味達を運んできてくださった。

「藍香ちゃんと、黄香ちゃんがあんみつね」

たっぷりの黒蜜に浸った寒天と小豆の上に、色とりどりで瑞々しい果物が飾られて。
白玉も乗せられ、餡子がトッピングされている。
そして極めつけが、てっぺんに乗せられたさくらんぼ。
藍香姐さん曰く、このさくらんぼがないとあんみつでは無いらしい。

「それから、紅香ちゃんがお抹茶のアイスね」

ご主人が手焼きで焼いているという、さっくりとした小判型の最中。
サクサクの秘密は、注文を受けてからサッと炙り直しているからだって、奥さんが教えてくださった。
最中が小判型なのは、商売繁盛を願ってなんだとか。
その中に溢れんばかりにお抹茶のアイスと餡子がぎっしり。

「最後になってごめんねぇ。
桃香ちゃんのわらび餅よ」

茶味がかったぷるぷるのお餅にたっぷりの黄な粉。
上からサッと黒蜜がかかって、見た目にも涼し気で美味しそう。
ここでわらび餅をいただくまでは、わらび餅って透明に近いようなお餅だと思っていた。
本物の蕨は茶色とか黒っぽい色だから、色が濃いほど本物に近いわらび餅。
これは紅香姐さんが教えてくれた。

「蕨は本当は春にならないと採れないの。
残しておいた蕨を少しずつ使っていいるから、他の葛なんかもちょっと混じってて。
春のわらび餅が一番美味しいから、また食べに来てね」
「えぇ、ぜひ。でもご主人の作ってくださる甘い物はいつでも美味しいです!」
「桃香ちゃんてば嬉しいこと言ってくれるわね。
うちの人に教えると調子に乗るから言わないけど」

ちょっぴり悪い顔を見せる奥さん。
ここに来るといつも心が温まる。
おじいちゃん・おばあちゃんというものにはあまり馴染みがないのだけど、自分の祖父母もこういった人達だったらと思う。
もっとも、孫娘が売られていくことに対して何もしてくれなかった人達に期待は出来ないけれど。
…私の事、誰も大事に思ってくれなかったのかな。

「桃香?暗い顔をしてどうしたの?
美味しいものは美味しく頂きましょう」

紅香姐さんに声をかけられ、ハッとした。
せっかくのわらび餅。美味しく食べないと。

「ちょっと考え事を…。
ごめんなさい、いただきます」
「いいえ。それより半分この約束。忘れないでちょうだいね」
「もちろんです。姐さんのアイスも美味しそう!」

ニッコリと笑いかけてくださる姐さんにつられて自然と笑みが零れた。
一緒にいると和やかな気持ちにさせるのは、姐さんの特技。

それにしても、本当に美味しい。
特区内にいくつか甘味処があって、色々なお店に足を運んだけれど、確かにここが一番だと思う。
姐さん方や黄香さんもニコニコとしながら甘味に舌鼓を打っている。



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