白色乞焦歌
道中、茶屋にて(1)
写真館から外に出ると、北風が冷たい。
吐く息も白いこの季節。
ぎゅっぎゅっと雪を踏む感触が気持ち良い。
「ねぇねぇ、撮影で疲れたし、お茶して帰らない?」
「あっ、ぜひ行きたいです!」
帰り道、藍香姐さんからの提案にみんながワッと沸いた。
「そうねぇ、こうしてみんなで外に出る機会も少ないし、良いんじゃないかしら」
紅香姐さんも賛同してくださった。
普段、私達は見世から出る時はお使いであったり、姐さん方はお客様のお見送りだったりと、個々で外に出ることがほとんど。
みんなで外に出る機会は滅多に無いから、姐さん方はいつも気前よく食事やお茶に連れて行ってくだる事が多い。
「どこにしましょうか?」
「いつもの、うぐいす庵にしましょうよ。あそこのあんみつが一番だわ」
特区内にあるいくつかの甘味処の中で、白色楼御用達の甘味処。
あまり広くはないながらも、簾で席を仕切った半個室になっており、姐さん方のような売れっ妓も人目を気にせずゆったりと過ごせる。
鶯生さんと言う老夫婦二人で営んでいるお店で、歴史ある老舗。その時代の吉原遊郭の頃にも店を構えていたとかいないとか…。
「あら、いらっしゃい。
紅香ちゃんに、藍香ちゃん。他のみんなも久々ねぇ」
白髪を束ねて、ピンク色のトンボ玉の付いた簪をさしたお団子ヘア。
うぐいす色の木綿の着物を纏って、襷掛けをした出で立ちがここの奥さんのスタイルだ。
いつもニコニコと出迎えてくれる、みんなのおばあちゃん的存在。
姐さん方を「ちゃん」なんて呼べる人は数少ない。
「鶯生のおばあちゃん、こんにちは。
大勢だけど大丈夫かしら?」
「えぇ、えぇ。白色楼の女の子達は大歓迎よ。
奥の席をご用意させていただくわ」
そう言って奥さんは店の奥へと案内してくださった。
店の造りとして6人席までしかないため、自然にいくつかのグループに分かれた。
私達は先ほどと同じく、紅香姐さん・藍香姐さん・黄香さん。
そして私を含めた4人で席に腰かける。
姐さん方の力で、一番奥の良い席、人目につきにくい席になった。
「さて、私はあんみつ一択!
黄香も桃香も好きな物を注文しなさいね」
「私は藍香姐さんと同じ物をお願いします」
藍香姐さんが、メニューを広げてこちらに渡してくださる。
黄香さんと二人で上機嫌なのがこちらにもよく伝わってくる。
私は先に紅香姐さんにメニューを手渡す。
「紅香姐さんは?」
「そうねぇ、何にしましょうかしら。
わらび餅もいいけれど、お抹茶のアイスも捨てがたいわ…」
じっとメニューを見つめて真剣に悩み始めた姐さん。
眉間に皺を寄せていても、何だか可愛らしい。
紅香姐さんは実は結構な優柔不断。
あれもこれも悩み始めると決められない。
お客様に仕掛けを贈っていただく際にも、中々決まらなくて呉服店中の反物をひっくり返す勢いだった事を覚えている。
「では、私がわらび餅にします。姐さんはお抹茶のアイスになさって。
二人で半分こずつにしませんか?」
「あら、素敵ねぇ。
美味しいものは少しずついただくのが幸せよね」
「じゃあ、みんな決まったわね。
黄香、注文をお願い」
「はぁい。
奥さん、お願いします」
黄香さんが着物の袂を反対の手で押さえながら、軽く手をあげて奥さんを呼ぶ。
「はーい。
…えっと、藍香ちゃんと黄香ちゃんがあんみつね。
それから、紅香ちゃんがお抹茶のアイスで、桃香ちゃんがわらび餅と」
奥さんが慣れた手つきで伝票にスラスラと注文を纏める。
「はい、じゃあすぐに用意しますからね。
ちょっと待っててくださいね」
吐く息も白いこの季節。
ぎゅっぎゅっと雪を踏む感触が気持ち良い。
「ねぇねぇ、撮影で疲れたし、お茶して帰らない?」
「あっ、ぜひ行きたいです!」
帰り道、藍香姐さんからの提案にみんながワッと沸いた。
「そうねぇ、こうしてみんなで外に出る機会も少ないし、良いんじゃないかしら」
紅香姐さんも賛同してくださった。
普段、私達は見世から出る時はお使いであったり、姐さん方はお客様のお見送りだったりと、個々で外に出ることがほとんど。
みんなで外に出る機会は滅多に無いから、姐さん方はいつも気前よく食事やお茶に連れて行ってくだる事が多い。
「どこにしましょうか?」
「いつもの、うぐいす庵にしましょうよ。あそこのあんみつが一番だわ」
特区内にあるいくつかの甘味処の中で、白色楼御用達の甘味処。
あまり広くはないながらも、簾で席を仕切った半個室になっており、姐さん方のような売れっ妓も人目を気にせずゆったりと過ごせる。
鶯生さんと言う老夫婦二人で営んでいるお店で、歴史ある老舗。その時代の吉原遊郭の頃にも店を構えていたとかいないとか…。
「あら、いらっしゃい。
紅香ちゃんに、藍香ちゃん。他のみんなも久々ねぇ」
白髪を束ねて、ピンク色のトンボ玉の付いた簪をさしたお団子ヘア。
うぐいす色の木綿の着物を纏って、襷掛けをした出で立ちがここの奥さんのスタイルだ。
いつもニコニコと出迎えてくれる、みんなのおばあちゃん的存在。
姐さん方を「ちゃん」なんて呼べる人は数少ない。
「鶯生のおばあちゃん、こんにちは。
大勢だけど大丈夫かしら?」
「えぇ、えぇ。白色楼の女の子達は大歓迎よ。
奥の席をご用意させていただくわ」
そう言って奥さんは店の奥へと案内してくださった。
店の造りとして6人席までしかないため、自然にいくつかのグループに分かれた。
私達は先ほどと同じく、紅香姐さん・藍香姐さん・黄香さん。
そして私を含めた4人で席に腰かける。
姐さん方の力で、一番奥の良い席、人目につきにくい席になった。
「さて、私はあんみつ一択!
黄香も桃香も好きな物を注文しなさいね」
「私は藍香姐さんと同じ物をお願いします」
藍香姐さんが、メニューを広げてこちらに渡してくださる。
黄香さんと二人で上機嫌なのがこちらにもよく伝わってくる。
私は先に紅香姐さんにメニューを手渡す。
「紅香姐さんは?」
「そうねぇ、何にしましょうかしら。
わらび餅もいいけれど、お抹茶のアイスも捨てがたいわ…」
じっとメニューを見つめて真剣に悩み始めた姐さん。
眉間に皺を寄せていても、何だか可愛らしい。
紅香姐さんは実は結構な優柔不断。
あれもこれも悩み始めると決められない。
お客様に仕掛けを贈っていただく際にも、中々決まらなくて呉服店中の反物をひっくり返す勢いだった事を覚えている。
「では、私がわらび餅にします。姐さんはお抹茶のアイスになさって。
二人で半分こずつにしませんか?」
「あら、素敵ねぇ。
美味しいものは少しずついただくのが幸せよね」
「じゃあ、みんな決まったわね。
黄香、注文をお願い」
「はぁい。
奥さん、お願いします」
黄香さんが着物の袂を反対の手で押さえながら、軽く手をあげて奥さんを呼ぶ。
「はーい。
…えっと、藍香ちゃんと黄香ちゃんがあんみつね。
それから、紅香ちゃんがお抹茶のアイスで、桃香ちゃんがわらび餅と」
奥さんが慣れた手つきで伝票にスラスラと注文を纏める。
「はい、じゃあすぐに用意しますからね。
ちょっと待っててくださいね」
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