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白色乞焦歌

永坂ちよ

写真館にて(5)

「あとは将来のお客様候補になるから、ですよね」
「そう、写真で見染めていただければ、将来的に指名で登楼していただけるからね。
他の方に見せていただくことで、その方にも知っていただくチャンスになるわ」
「黄香ちゃんに桃香ちゃんも心配いらないよ。
ちゃんと僕の方で良い写真を選んでおくから。
僕も写真家であって、男だからね。
姐さん方程の目はないけれど、男の喜ぶ写真は良く分かっているよ」

黄香さんと顔を見合わせながら話をしていたら、杏村さんが冗談めかしながらも胸をたたいて、任せなさいと言ってくださった。

「今回の写絵帳は何と言っても、桃香ちゃんのデビュー作だからね!
和泉さんからも気合い入れるように仰せつかっているよ」
「いいなぁ、桃香は。引っ込みは特別待遇で羨ましいわ」
「黄香ちゃんの時だって張り切らせてもらったよ。
金じゃなくてレモン色の箔押し、綺麗に出来て良かったと思わない?
しかも紙の色は絶対藍色だって言って聞かなかったんだから」
「だって、藍香姐さんがお職張った月に私の新造デビューだったんだもの。
あの時は、運命を感じたわ」

確かに、その時の写絵帳はとても素晴らしい出来だったのは、禿時代ながらよく覚えている。
大事そうに胸に抱えてはしゃぎまわった黄香さんは本当に可愛らしくて。
藍香姐さんも自分付きの子のデビューとあって、杏村さんに色々と根回ししてたって、紅香姐さんが教えてくれた。

「桃香ちゃんもそうしようか。
桃色の箔押しに紅色の和紙を合わせたらきっと良い仕上がりになるよ。
桃香ちゃんのデビューで、紅香さんのお職祝いに。
旦那方もきっと喜ぶでしょう」
「素敵! ぜひぜひお願いしたいです!」
「あらあら、私まで便乗してしまって良いのかしら?」
「私の姐さんですもの、ぜひご一緒させてください!」
「じゃあ、決まり。 紅香さんも、桃香ちゃんもお楽しみに」

杏村写真館は印刷所も併設していて、写真の現像から写絵帳の印刷まで何でも手掛けている。
写絵帳は今時珍しい和綴じで製本している。
表紙・裏表紙には和紙を使用し、古風な雰囲気を演出しつつも、綴じ紐には金糸・銀糸を織り交ぜたり、所々に箔押しやトムソン加工なども施されており、ただの写真集ではなく作品として楽しめるようになっている。

姐さんと私の為の写絵帳。
どうしよう、家宝にしなくちゃ…!
あの日、はしゃぎまわっていた黄香さんの気持ちがよく分かる。

「さぁさぁ、長居していると杏村さんもご迷惑でしょう。
今日のところは撤収しますよ」

パンッ
と手を鳴らして、藍香姐さんが音頭を取る。

「また写絵帳やパネルが仕上がったら、和泉さんに伝えさせていただきます」
「はぁい、よろしくお願いします」

店先で杏村さんが丁寧に頭を下げてくださるのにつられて、私たちもペコリと頭を下げた。

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