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白色乞焦歌

永坂ちよ

写真館にて(4)

「そういえば、この写真って私達だけで選んでしまっていいのですか?
黒曜様や和泉さんに見せなくても問題ないのですか?」

ふと、着々と写真を選び進めている様を見て気になった。
見世のオーナーは黒曜様だし、運営なさっているのは和泉さんだ。

「他の見世では、確かに楼主様が選ぶことも多いわね。
うちの楼主様はとてもおおらかだし、何より私達のことを信用してくださっているから」
「なんていう建前もあるけれどね」

建前?
何だか楽し気に藍香姐さんが続ける。

「写真写りの良さは、男が見るより女同士の方が確かってことよ。
男は自分の好みだけで見るけど、女同士…しかも妓同士なら余計に」

なるほど。妙に納得。
紅香姐さん付きである私にも藍香姐さんがアドバイスしてくださったように、女性同士は心強い。

「藍香姐さんの写真はこちらにしましょうよ!」
「お、流石私の黄香。私の良さが分かっているね」

嬉々として藍香姐さんの写真を選んでいる二人。
私と同じ立ち姿ではあるが、大きな桜の木に背を預け、仕掛けを軽くはだけさせながら煙管を咥え、愁いを帯びた表情を見せた一枚。
遊女としての特権をフルに使っている藍香さんには感服。
切れ長の瞼が伏せられる様は非常に妖艶で、桜のピンクと仕掛けの藍色も相まって美しさと妖しさを際立たせている。

「藍香は目鼻立ちがはっきりしているから、どんな情景でも映えるからいいわね。
私はどうしようかしら…」
「紅香はうちの看板スターなんだから、良く目立つやつしなさいよ。
寝姿とかにしたらどう?」

そう言って藍香姐さんが手を伸ばした一枚。
紺を基調として、銀糸で刺繍があしらわれた褥に寝そべる紅香姐さん。
横たわった姐さんの真っ赤な仕掛けがよく映える。
仰向けに寝そべりながら仕掛けの袂で軽く口元を隠し、目を細めて微笑む姿は女の私でも惹かれるものがある。
ほんの少しだけ足首を露出させているのが、また情欲をそそるように見えた。

藍香姐さんの桜に藍色の仕掛けもそうだけど、杏村さんの小物選びのセンスは本当にすごいと思う。
そもそも、桜の木なんて大掛かりなセット、他の写真館にはきっと無いだろうな。

「特区一の大見世のお職が寝転がっているのはどうなのかしらねぇ?」
「紅香なら良いわよ。こんな写真が出回った日には、きっと誰の目にも止まるわ」
「誰の目にも…ね。じゃあ、折角藍香のお墨付きだしこれにするわ」


紅香姐さんの写真も決まった所で、今日の妓の分は全てだった。
各々が選んだ一枚は写絵帳や、遊女であれば案内所のパネルに使用される。
販売用の写真は杏村さんが選定しておいてくださるやり方だって、姐さんから教わった。

「新造の内は写真の売り上げが大きいからね。
黄香も桃香もよくよく杏村さんにお願いしなよ」

紅香姐さんは私が、藍香姐さんは黄香さんがそれぞれ手伝いながら身支度を整える。
支度の途中で藍香姐さんに声を掛けられた。

お客様のお酒のお相手をした際にチップをいただいたり、総花をいただいたりすることで新造はほんの少しの売り上げとしてお金を手にすることが出来る。
ただし、それらは必ずいただけるものではないし、ましてや総花を付けることが出来る御大臣はほんの一握りだ。

そんな中で、この写真の売り上げはとても大切なものになる。
新造程度の写真なら他に比べて手ごろだから購入してくださる方も多い。
こうやって定期的に写真を撮るから、コレクションとして集める方も多いとか。

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