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白色乞焦歌

永坂ちよ

写真館にて(3)

「私の写真なんて欲しい人いるんでしょうか」

沢山の写真を見過ぎてどれを選んでいいか分からなくなってきた。

「あら、そんな自信のないことじゃ駄目よぉ。
桃香はこんなに可愛らしいのだから、きちんと選んで。
これから先どんなお客様に見初められるか分からないのよ」

多くの客が案内所で写真やパネルを見て、好みの妓を探すのだから、無論ここでの写真選びは重要だ。
今の技術を用いれば、写真の加工なんて簡単に出来ることは知っている。
けれど、この特区ではそんな技術に頼るのは二流だとされている。
写真家の腕前と、己の魅力だけで勝負するのが粋らしい。

ちなみに、白色楼は一見さんお断りだ。
ここでいくら写真を見て登楼したいと思っても、紹介者を通して然るべき手順を踏まないと登楼出来ない。
具体的には、その客の経歴・役職・年収や紹介者との関係性などを調査する。
そこで白色楼に相応しくないと判断されれば、登楼は出来ない。

そんな大変な労力をかけてまで登楼したいと思わせるには、相当な魅力がなくてはならない。
だからこそ、妓である私達にも相応の価値が求められる。
見た目は勿論、所作振る舞い・幅広い知識まで。
そして、選ばれる第一歩がこの写真達となるわけ。

私は並べられた写真と再度にらめっこを始めた…


「うーん、ここまでは絞れたけれど…
姐さんはどれがいいと思います?」

私は写真を二枚まで選んだ。
両手をおへその前でゆったりと重ね、背筋を張って薄く笑みを浮かべるだけに留めた、凛とした佇まいを意識した立ち姿の一枚。
猫足のクラシカルで豪奢な布張りのソファに腰かけ、アームレストに両手で頬杖をつく形でにっこりと微笑んだ、愛らしさを意識した座り姿の一枚。

姐さん方になると、もっと仕掛けをはだけさせたり、物を咥えたりとした色っぽい仕草を多く選ぶ。
けれど、あくまでお披露目である新造の私達は、初々しさをアピールするのが良いとされた。

「そうね、桃香は初々しさで売りに出すんだからそっちの座っている方が良いんじゃない?
可愛らしく写っていて、お客様からもきっと評判になるわ」

横から藍香姐さんが顔を覗かせながら言う。
藍香姐さんは切れ長のシュッとした目つきで、サバサバとしていて、所謂姉御肌な姐さんだ。
歯に衣着せぬ物言いをする姐さんだから、可愛らしいという言葉も嘘じゃないって思える。

「それに、確か虹…」
「それじゃ駄目よ」

私としては、我ながらどちらも良く写っていると思えた二枚だった。
それならばと、手を伸ばし座り姿の一枚を選ぼうとした私に、紅香姐さんからはっきりストップがかかった。
藍香姐さんが何かを言いかけた所を遮ってまで止めるなんて姐さんらしくない。

「あら、どうして?」
「桃香は引っ込み禿から振袖新造になったのよ。気高く見せないと駄目ね。
立ち姿の方の一枚にしなさいな」

言うが早いか、パッと立ち姿の一枚を手にして杏村さんに渡してしまった。

「桃香ちゃんはこっちで良いのかい?」
「…ええ、紅香姐さんが選んで下さったなら間違いないわ」

少々腑に落ちない部分もあるけれど、私の姐さんが選んでくれたんだもの。
いつでも紅香姐さんは私に良くして下さっているのだから、私の為に選んでくださったに違いないわ。
確かに、私はいつも安っぽい妓になるなと姐さんから教わっている。

うんうん、と一人納得している間に、他の妓達の写真も選び始めていた。

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