白色乞焦歌
写真館にて(2)
それから程なくして撮影は終わった。
「そういえば桃香ちゃんは今日が初めての撮影だったね。
どう、感想は?」
「うーん、とんでもなく緊張しました」
「あはは、やっぱりそうだよね」
機材を弄る手は変わらず、からからと楽しげに笑っている。
「みんな初めはそうだよ。
紅香さんだって、初めはあんな可憐さはなくて、
むしろパッとしない方の妓だったんだから」
「姐さんもそう言うけれど、本当に?
姐さんを見ていると、とてもそんな風には見えないけれど」
楼主である黒曜さんや、遣り手の和泉さんも同じような事を言っていた気がする。
私が売られてくるより前の話らしくて、到底信じられない。
私や姐さん以外の妓の撮影も終え、皆で仕上がった写真のチェックをする。
「やっぱり紅香が一番綺麗ねぇ。
私も負けていられないって思うけど、やっぱり敵わないわ」
「そ、そんなことないです!藍香姐さんが一番です!」
「こらこら、紅香本人の前でそんなこと言わないの」
他の姐さん方や新造達も集まって、紅香姐さんを褒めてくださる。
もっとも、自分の姐さんに懐いている禿や新造達はそれに限ったことはないけれど。
慕っている姐さんの周りを楽しそうに囲んでいる子達は、和気あいあいとしてとても和やか。
紅香姐さんも気を悪くするわけでもなく、くすくすと楽しげにその様を見ている。
「今回の仕掛けは殊更素敵だけど、どなたからなんですか?」
仕掛けはよく上客から贈られる事が多い。
自分の贈った仕掛けを妓が纏うのは、客の征服欲を刺激する。
また、どれだけ豪奢な仕掛けを纏うかで、妓も見世の者達にいい顔が出来るため、上客には挙って仕掛けを強請る妓が多くなる。
「…これは自分で誂えたものなのよねぇ」
羽織った仕掛けを愛おしそうに撫でる仕草も画になっていて、思わずドキッとした。
癖のある色っぽく間延びした声で、紅香姐さんが答える。
「ここぞ、という時の為に誂えた仕掛けでね。
こういった撮影の時とか、上客になってくれそうな方の初回のためだったり。
まぁ、いわゆる勝負服ってやつねぇ」
そんな風に姐さんは言うけれど、この仕掛けを見るのは初めてな気がする。
普段、新しく仕掛けを誂えれば私にも見せて下さるのに。
そもそも、今日は黒地にダリアの仕掛けを纏う予定だったはず。
用意したのはほかの誰でもない私なのだから、間違いようもないのに。
「それより、桃香。
新造になって、これから写絵帳にもデビューすることになるのよぉ?
いっとう綺麗に映った写真を選びなさいね」
悩んでいると、姐さんから声を掛けられた。
そうだ、写絵帳…。最近の私の悩みの種そのもの。
写絵帳。なんて古風ぶった名前をしているけれど、ようは写真集。
葭原特区には、入ったすぐに案内所が設置されており、全ての見世の妓達を写真などで見ることが出来る。
新造は指名したりしないから写絵帳にしか載らないけれど、人気の高い遊女達は見世の紹介として、大小様々な大きさのパネルで案内所内の白色楼のスペースに張り出される。
もちろん、人気のある順にパネルは大きくなる。
写絵帳は新造から始まり、新造は若い順に、遊女は人気のない順に。
はっきりとランキング形式で載せられることになる。
つまり今回は、私が筆頭で紅香姐さんが最後のページを飾ることになる。
紅香姐さんはほとんど毎回、一番大きいパネルと写絵帳のラストを飾っているけれど。
初見の客達はこういった案内所で好みの妓を探したり、食事処を確認したりする。
見るだけはタダなので、特区内である意味一番活気のある場所かもしれない。
また、個々の写真や見世の写絵帳は購入することも出来る。
高価どころではない金額で、初めて聞いた時は目玉が飛び出るかと思ったくらい。
その金額も妓によって様々なんだけれど。
「そういえば桃香ちゃんは今日が初めての撮影だったね。
どう、感想は?」
「うーん、とんでもなく緊張しました」
「あはは、やっぱりそうだよね」
機材を弄る手は変わらず、からからと楽しげに笑っている。
「みんな初めはそうだよ。
紅香さんだって、初めはあんな可憐さはなくて、
むしろパッとしない方の妓だったんだから」
「姐さんもそう言うけれど、本当に?
姐さんを見ていると、とてもそんな風には見えないけれど」
楼主である黒曜さんや、遣り手の和泉さんも同じような事を言っていた気がする。
私が売られてくるより前の話らしくて、到底信じられない。
私や姐さん以外の妓の撮影も終え、皆で仕上がった写真のチェックをする。
「やっぱり紅香が一番綺麗ねぇ。
私も負けていられないって思うけど、やっぱり敵わないわ」
「そ、そんなことないです!藍香姐さんが一番です!」
「こらこら、紅香本人の前でそんなこと言わないの」
他の姐さん方や新造達も集まって、紅香姐さんを褒めてくださる。
もっとも、自分の姐さんに懐いている禿や新造達はそれに限ったことはないけれど。
慕っている姐さんの周りを楽しそうに囲んでいる子達は、和気あいあいとしてとても和やか。
紅香姐さんも気を悪くするわけでもなく、くすくすと楽しげにその様を見ている。
「今回の仕掛けは殊更素敵だけど、どなたからなんですか?」
仕掛けはよく上客から贈られる事が多い。
自分の贈った仕掛けを妓が纏うのは、客の征服欲を刺激する。
また、どれだけ豪奢な仕掛けを纏うかで、妓も見世の者達にいい顔が出来るため、上客には挙って仕掛けを強請る妓が多くなる。
「…これは自分で誂えたものなのよねぇ」
羽織った仕掛けを愛おしそうに撫でる仕草も画になっていて、思わずドキッとした。
癖のある色っぽく間延びした声で、紅香姐さんが答える。
「ここぞ、という時の為に誂えた仕掛けでね。
こういった撮影の時とか、上客になってくれそうな方の初回のためだったり。
まぁ、いわゆる勝負服ってやつねぇ」
そんな風に姐さんは言うけれど、この仕掛けを見るのは初めてな気がする。
普段、新しく仕掛けを誂えれば私にも見せて下さるのに。
そもそも、今日は黒地にダリアの仕掛けを纏う予定だったはず。
用意したのはほかの誰でもない私なのだから、間違いようもないのに。
「それより、桃香。
新造になって、これから写絵帳にもデビューすることになるのよぉ?
いっとう綺麗に映った写真を選びなさいね」
悩んでいると、姐さんから声を掛けられた。
そうだ、写絵帳…。最近の私の悩みの種そのもの。
写絵帳。なんて古風ぶった名前をしているけれど、ようは写真集。
葭原特区には、入ったすぐに案内所が設置されており、全ての見世の妓達を写真などで見ることが出来る。
新造は指名したりしないから写絵帳にしか載らないけれど、人気の高い遊女達は見世の紹介として、大小様々な大きさのパネルで案内所内の白色楼のスペースに張り出される。
もちろん、人気のある順にパネルは大きくなる。
写絵帳は新造から始まり、新造は若い順に、遊女は人気のない順に。
はっきりとランキング形式で載せられることになる。
つまり今回は、私が筆頭で紅香姐さんが最後のページを飾ることになる。
紅香姐さんはほとんど毎回、一番大きいパネルと写絵帳のラストを飾っているけれど。
初見の客達はこういった案内所で好みの妓を探したり、食事処を確認したりする。
見るだけはタダなので、特区内である意味一番活気のある場所かもしれない。
また、個々の写真や見世の写絵帳は購入することも出来る。
高価どころではない金額で、初めて聞いた時は目玉が飛び出るかと思ったくらい。
その金額も妓によって様々なんだけれど。
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