白色乞焦歌

永坂ちよ

あの日、あの時、あの場所にて

これは、一生忘れることの出来ない記憶。






牢の中で冷たい石畳の上、
両手足は縛られたまま。


とめどなく溢れる真っ赤な血。

広がっていく足元の血溜まり。



あんなに美しかった髪も、
纏った豪奢な仕掛けも、
全てが無残、としか言いようがなかった。

ぐったりとした姿を見た時、
思わず叫び声を上げていた。

膝から崩れ落ちた私が、
何とか這いつくばって近寄るけど反応はなくて。



震える手で頬に触れた時、
全身が凍るんじゃないかってくらい
血の気が引いていくのが自分でも分かった。

まだ温かさの残る身体なのに
息をしていない。



信じられなくて、

信じたくなくて。



私は縋るように泣きじゃくるしかなかった。





誰よりも気高く、美しく、強く、とても強く生きた。

そんな虹香姐さんの最期だった。



深い深い悲しみの中にあった私だけれど、
この後待っている更なる悲劇の序章に過ぎなかった。






「「僕たちがいるから、母さんは死んだの?」」


静かに呟く子達。

響き渡る銃声。

立ち上る硝煙。

スローモーションのように倒れる人影。


男の背中。



あの日、あの時、あの場所で。

私は全てを失った。














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