異世界でも目が腐ってるからなんですか?
5話目 後半 研究の継続
「うす」
翌朝、チェスターの研究所に顔を出すついでに報酬を貰おうと思い、軽い挨拶をして彼らがいるであろうその部屋の扉を開けた。
すると部屋にはいつもの面子であるチェスターとメリー以外に、もう一人誰かがいた。
「どうしても交渉に応じないつもりか?」
「応じるも応じないも、元々そのつもりで私を追い出したのだろう?」
短い黒髪の三十路後半辺りの外見をした男がチェスターと何か言い合っていた。
まだ二人とも俺の存在に気付いていない様子だったので、メリーのところに行って事情を聞こうとする。
とはいえ、メリーもこの状況が苦手らしく、机に突っ伏してやり過ごそうとしていた。
「おい」
「っ!?」
大きな声を出してはない。むしろ小さめに声をかけたつもりだったのだが、メリーは体を大きく弾ませて恐る恐るこっちに振り向いた。
「なんで自分に話しかけるの?」とでも言いたげな迷惑そうな表情をしている。
……こいつはアレだな。ここまで酷くはないけど、昔の俺と重なるところがある。
面倒事から逃げたい時はこいつのように机に伏して寝たフリをしていた。
それでも逃げられない時は逃げられない。つまりそれが今だ。
「あ……ヤタ……」
しかしメリーはなぜか俺を見るとホッと安堵した表情になる。それがちょっと可愛いと思えてしまったりして。
やっぱり元の顔が整ってると多少クマやソバカスがあったとしてもブサイクに見えるほどマイナスにはならないからズルいよなぁ……
「あいつは?初めて見る顔だけど」
むしろこの研究所でこの親子以外とライアンさん以外の顔は見たことないけど。
「わ、私もあまり知らないけど……パパの昔の同僚とか?」
「同僚ね……」
見る限り良い関係ではないように感じるけどな。
「こんなところの限られた設備じゃ限界があるだろ?こっちに戻ってくれば設備もしっかりしてるし、給金だってここよりいい!悪くない話だろ?」
「あのねぇ……この際はっきり言わせてもらいますよぉ?私は静かに研究ができればそれでいいですし、ここの給金だけでも十分に暮らしていける額を貰っています。それ以上貰ったところで使い道などありませんし……何より」
チェスターはそこで言葉を区切ると、一瞬だけ俺たち、もっと言えばメリーを一瞥した後に視線を戻し、初めて見る嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
「設備に頼るだけの人たちと低レベルな研究をするなど鳥肌が立ちます」
「っ……なんっ、だと……!?」
チェスターの挑発に相手の男は青筋を浮かべるほど激昂していた。
おいおいやめろよ、俺たちみたいなコミュ障な人種はそういう修羅場的な場面に立ち会うと萎縮しちまうんだから。ほら、メリーが怖がって携帯のバイブみたいに震えてんじゃねえか。
俺は社会に出てからもう怒られ慣れてるから、こういう場面でも嫌な気分になるだけで済んでるけどな。嫌な長所だね。
少しでもメリーの気を紛れさせてやろうと、彼女の頭に手を置いて撫でる。
彼女は驚いた表情でこっちを見るが、嫌がる様子もなく撫でる手を受け入れ、震えが止まっていた。
「……後悔することになるぞ」
男が去り際にそう言い放つ。
「この生活が続く限り、後悔なんてしませんよ」
そしてチェスターもまた、男の後ろ姿を見ながら穏やかな声でそう返した。
男はすれ違いざまに俺を睨み付けて強めに扉を閉めて行くと、同時にメリーの体がまた大きく跳ね、チェスターは溜め息を吐く。
それを見て、やはり人間関係というのはいいことばかりじゃないんだなと再認識する。まぁ、俺の場合は人間が面倒じゃないと思わなかった時の方が少ないけどな。
というか、なんで俺睨まれたの?
「おや、ヤタではありませんか」
「おう、今更気付いたのかよ。俺ってそんなに影薄い?」
最終的に泣いちゃうぞ?
「デュフフ……安心して、ヤタほど濃い人間はそうそういないから……」
その言い方も嫌だな。まるで俺が個性的な性格をした問題児みたいじゃないか。
俺ほど人畜無害で無個性な人間はいないぞ?目が腐ってるのは除いて。
だが、今まで会った奴の中で俺より個性が少ない奴は見たことないとは自負してるけどな。
だから俺で濃いならメリー、お前は濃過ぎてもう暗黒物質の塊だぞ。
「ところでだが、今日は研究ついでに報酬の話について聞きにきたんだけど」
「報酬?……ああ、そういえばそうでしたね」
忘れてたと言わんばかりの言い方をするチェスター。
おい、まさか支払わないとか言い出すんじゃあるまいな……?
「それでは今日の研究を区切りとして報酬を払いましょう。安心してください、報酬に関してはライアン殿に話してありますので問題ありませんので」
俺の不安を見抜いたチェスターがそう言いながら、何やら書物を漁り出す。
彼の言葉にホッとしたのと同時に、ふと疑問が沸いた。
「区切りか……まだ俺の研究は続けるのか?」
「もちろん。あなたの体に潜むウイルスにはまだ未知が多いのです。恐らくこの一ヶ月で発見した性能はほんの一部……しかもあなたの体を毎日観察する度に変化して行くのです!これほど研究しがいのあるモルモ――おっと失礼。実験体は初めてです!うひゃひゃひゃひゃひゃ!……っと」
言葉を選んだつもりだろうが似たような意味だからね、それ。
するとチェスターは目的のものを見つけたようで、一冊の本を手に持っていた。
「それは?」
「……ヤタ、あなたはこの世界に加護とは別の力があることは知っていますね?」
俺の言葉を無視したかと思えば、そんな質問をしてきた。
加護とは別の力……?
……あっ。
この町に来るまでにいくらか見たことがある。
火を飛ばしたり、傷を治したりなどといった、俺が「魔法だ」と思ったあの力のことだろう。
「何度か見たことはあるな……奇跡だったか?」
「えぇ、そうです。神から授かる大いなる力である奇跡。本来は教会で授かる特異な力とされています。適性があればその力を身に宿し、極めれば再び教会にて冒険者の階級のように奇跡を強めることができる……現段階の私たちが持つ技術で行う研究で究明することのできない未知なる力の一つです。ですが……」
チェスターは言葉をそこで区切り、持っている本を開いて見せてくる。
中身は俺では到底理解できないような小難しい文章や図面が載っていた。
「解明は無理でも、私たちなりに仮説立てて奇跡に近いものを理論上として生み出しました。『適性を必要としない奇跡』を」
「…………マジで?」
「大マジです」
色々と気になることを説明された中で、最後の言葉のおかげで他のことが頭から消えた気がした。
つまりそれって、誰でも使えることのできる魔法ってことだろ?
ってことはだ……ついに俺も魔法が使える?
「……とはいえ、結局完成までには至っておらず、手をこまねいているわけですがね」
期待していたところを落とされ、脱力してしまう。
「じゃあ、なんでそんな話を聞かせたんだよ……」
「おや、あなたと私がどういう関係か忘れたわけではないでしょう?」
そのセリフだけ切り取って聞くと「アッー 」な感じがするからやめてね。
「俺とあんたの関係性なんて、依頼を出した奴と受けた奴ってだけだろ?」
「ヒヒヒ、私好みの合理的な返答ではありますが、それだけではないでしょう?私はこれでも腕のいい研究者と自負していましてね、そこに都合のいい実験体がいるじゃないですか」
怪しい笑みを浮かべるチェスターに「何が言いたいんだ?」と問いかける直前に、彼の言いたいことを察してしまった。
「……俺で実験して、その『適性を必要としない奇跡』を完成させる気か?」
俺の答えが当たっていたのか、チェスターはただでさえ怪しい笑みをさらに歪めて恐ろしいと感想してしまいそうなほどの表情で笑い始める。
「イ〜ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!そう、そうです!さすがわかっているじゃないですかぁ!この研究が成功すれば今では数が限られている奇跡を使える者が圧倒的に増えるだけでなく、制限が無くなり日常生活でも多種多様な使われ方をするようになるでしょう!あなたはその大きな一歩を人類が踏み出す第一人者となるのです!」
なぜか最後の一言で胡散臭い勧誘セールスを聞かされてる気分になった。
「つーか、なんで完成してないの?あんたの言い方から察するに、何か弊害があって研究が行き詰まってるように聞こえるんだけど……」
「ふむ、中々良い着眼点です。正確には研究を中断せざるを得ない結果を出してしまったのですよ」
中断せざるを得ない結果?
チェスターが続きを話すまで、俺たちはしばらく沈黙して静かな時間ができた。
「……死人が出過ぎたからです」
「…………は?」
死人が出た?
「おい、それってどういう……研究ってのは奇跡を使えるようにするためだけじゃないのか?」
「えぇ、そうです。そしてその奇跡を使うのは人間ですので……どの道、誰かが実験をしなければならなかった。その結果、適性のない者が多く死んでしまったのです。私の……メリーの母親も……」
チェスターは寂しそうな表情をして、彼自身が普段使っている机の上に立てられていた写真を見つめる。
写真立てを見ると、そこには幼いメリーっぽい少女とイケメンな男とかなりの美女が全員白衣姿で写っていた。
アレがメリーの母親、そしてチェスターの奥さんか……って待て。一緒に写ってるのはこいつらか?
メリーはまだいいとして、もしかしてスポーツジムにでも通っていそうな爽やかなイケメンはチェスターなのか!?
気まずい空気の中では言い出せないけれど、やはり年月というのは残酷だなと感じさせられた。
この笑いそうな気持ちを誤魔化すために咳払いして話題を逸らす。
「んんっ!……つまり研究が進まないまま犠牲者だけを出してたから中断せざるを得なかったってわけか」
「その通り。進展しない研究を続けるわけにはいきませんので……ですがそこに、幸運にも犠牲を出さずに試験を行う方法が目の前に現れたのです!試さずにいられますか!?」
暗い雰囲気から一転、興奮するチェスターを見た俺は、まだ当分は解放されない気がして不安を覚えた。
翌朝、チェスターの研究所に顔を出すついでに報酬を貰おうと思い、軽い挨拶をして彼らがいるであろうその部屋の扉を開けた。
すると部屋にはいつもの面子であるチェスターとメリー以外に、もう一人誰かがいた。
「どうしても交渉に応じないつもりか?」
「応じるも応じないも、元々そのつもりで私を追い出したのだろう?」
短い黒髪の三十路後半辺りの外見をした男がチェスターと何か言い合っていた。
まだ二人とも俺の存在に気付いていない様子だったので、メリーのところに行って事情を聞こうとする。
とはいえ、メリーもこの状況が苦手らしく、机に突っ伏してやり過ごそうとしていた。
「おい」
「っ!?」
大きな声を出してはない。むしろ小さめに声をかけたつもりだったのだが、メリーは体を大きく弾ませて恐る恐るこっちに振り向いた。
「なんで自分に話しかけるの?」とでも言いたげな迷惑そうな表情をしている。
……こいつはアレだな。ここまで酷くはないけど、昔の俺と重なるところがある。
面倒事から逃げたい時はこいつのように机に伏して寝たフリをしていた。
それでも逃げられない時は逃げられない。つまりそれが今だ。
「あ……ヤタ……」
しかしメリーはなぜか俺を見るとホッと安堵した表情になる。それがちょっと可愛いと思えてしまったりして。
やっぱり元の顔が整ってると多少クマやソバカスがあったとしてもブサイクに見えるほどマイナスにはならないからズルいよなぁ……
「あいつは?初めて見る顔だけど」
むしろこの研究所でこの親子以外とライアンさん以外の顔は見たことないけど。
「わ、私もあまり知らないけど……パパの昔の同僚とか?」
「同僚ね……」
見る限り良い関係ではないように感じるけどな。
「こんなところの限られた設備じゃ限界があるだろ?こっちに戻ってくれば設備もしっかりしてるし、給金だってここよりいい!悪くない話だろ?」
「あのねぇ……この際はっきり言わせてもらいますよぉ?私は静かに研究ができればそれでいいですし、ここの給金だけでも十分に暮らしていける額を貰っています。それ以上貰ったところで使い道などありませんし……何より」
チェスターはそこで言葉を区切ると、一瞬だけ俺たち、もっと言えばメリーを一瞥した後に視線を戻し、初めて見る嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
「設備に頼るだけの人たちと低レベルな研究をするなど鳥肌が立ちます」
「っ……なんっ、だと……!?」
チェスターの挑発に相手の男は青筋を浮かべるほど激昂していた。
おいおいやめろよ、俺たちみたいなコミュ障な人種はそういう修羅場的な場面に立ち会うと萎縮しちまうんだから。ほら、メリーが怖がって携帯のバイブみたいに震えてんじゃねえか。
俺は社会に出てからもう怒られ慣れてるから、こういう場面でも嫌な気分になるだけで済んでるけどな。嫌な長所だね。
少しでもメリーの気を紛れさせてやろうと、彼女の頭に手を置いて撫でる。
彼女は驚いた表情でこっちを見るが、嫌がる様子もなく撫でる手を受け入れ、震えが止まっていた。
「……後悔することになるぞ」
男が去り際にそう言い放つ。
「この生活が続く限り、後悔なんてしませんよ」
そしてチェスターもまた、男の後ろ姿を見ながら穏やかな声でそう返した。
男はすれ違いざまに俺を睨み付けて強めに扉を閉めて行くと、同時にメリーの体がまた大きく跳ね、チェスターは溜め息を吐く。
それを見て、やはり人間関係というのはいいことばかりじゃないんだなと再認識する。まぁ、俺の場合は人間が面倒じゃないと思わなかった時の方が少ないけどな。
というか、なんで俺睨まれたの?
「おや、ヤタではありませんか」
「おう、今更気付いたのかよ。俺ってそんなに影薄い?」
最終的に泣いちゃうぞ?
「デュフフ……安心して、ヤタほど濃い人間はそうそういないから……」
その言い方も嫌だな。まるで俺が個性的な性格をした問題児みたいじゃないか。
俺ほど人畜無害で無個性な人間はいないぞ?目が腐ってるのは除いて。
だが、今まで会った奴の中で俺より個性が少ない奴は見たことないとは自負してるけどな。
だから俺で濃いならメリー、お前は濃過ぎてもう暗黒物質の塊だぞ。
「ところでだが、今日は研究ついでに報酬の話について聞きにきたんだけど」
「報酬?……ああ、そういえばそうでしたね」
忘れてたと言わんばかりの言い方をするチェスター。
おい、まさか支払わないとか言い出すんじゃあるまいな……?
「それでは今日の研究を区切りとして報酬を払いましょう。安心してください、報酬に関してはライアン殿に話してありますので問題ありませんので」
俺の不安を見抜いたチェスターがそう言いながら、何やら書物を漁り出す。
彼の言葉にホッとしたのと同時に、ふと疑問が沸いた。
「区切りか……まだ俺の研究は続けるのか?」
「もちろん。あなたの体に潜むウイルスにはまだ未知が多いのです。恐らくこの一ヶ月で発見した性能はほんの一部……しかもあなたの体を毎日観察する度に変化して行くのです!これほど研究しがいのあるモルモ――おっと失礼。実験体は初めてです!うひゃひゃひゃひゃひゃ!……っと」
言葉を選んだつもりだろうが似たような意味だからね、それ。
するとチェスターは目的のものを見つけたようで、一冊の本を手に持っていた。
「それは?」
「……ヤタ、あなたはこの世界に加護とは別の力があることは知っていますね?」
俺の言葉を無視したかと思えば、そんな質問をしてきた。
加護とは別の力……?
……あっ。
この町に来るまでにいくらか見たことがある。
火を飛ばしたり、傷を治したりなどといった、俺が「魔法だ」と思ったあの力のことだろう。
「何度か見たことはあるな……奇跡だったか?」
「えぇ、そうです。神から授かる大いなる力である奇跡。本来は教会で授かる特異な力とされています。適性があればその力を身に宿し、極めれば再び教会にて冒険者の階級のように奇跡を強めることができる……現段階の私たちが持つ技術で行う研究で究明することのできない未知なる力の一つです。ですが……」
チェスターは言葉をそこで区切り、持っている本を開いて見せてくる。
中身は俺では到底理解できないような小難しい文章や図面が載っていた。
「解明は無理でも、私たちなりに仮説立てて奇跡に近いものを理論上として生み出しました。『適性を必要としない奇跡』を」
「…………マジで?」
「大マジです」
色々と気になることを説明された中で、最後の言葉のおかげで他のことが頭から消えた気がした。
つまりそれって、誰でも使えることのできる魔法ってことだろ?
ってことはだ……ついに俺も魔法が使える?
「……とはいえ、結局完成までには至っておらず、手をこまねいているわけですがね」
期待していたところを落とされ、脱力してしまう。
「じゃあ、なんでそんな話を聞かせたんだよ……」
「おや、あなたと私がどういう関係か忘れたわけではないでしょう?」
そのセリフだけ切り取って聞くと「アッー 」な感じがするからやめてね。
「俺とあんたの関係性なんて、依頼を出した奴と受けた奴ってだけだろ?」
「ヒヒヒ、私好みの合理的な返答ではありますが、それだけではないでしょう?私はこれでも腕のいい研究者と自負していましてね、そこに都合のいい実験体がいるじゃないですか」
怪しい笑みを浮かべるチェスターに「何が言いたいんだ?」と問いかける直前に、彼の言いたいことを察してしまった。
「……俺で実験して、その『適性を必要としない奇跡』を完成させる気か?」
俺の答えが当たっていたのか、チェスターはただでさえ怪しい笑みをさらに歪めて恐ろしいと感想してしまいそうなほどの表情で笑い始める。
「イ〜ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!そう、そうです!さすがわかっているじゃないですかぁ!この研究が成功すれば今では数が限られている奇跡を使える者が圧倒的に増えるだけでなく、制限が無くなり日常生活でも多種多様な使われ方をするようになるでしょう!あなたはその大きな一歩を人類が踏み出す第一人者となるのです!」
なぜか最後の一言で胡散臭い勧誘セールスを聞かされてる気分になった。
「つーか、なんで完成してないの?あんたの言い方から察するに、何か弊害があって研究が行き詰まってるように聞こえるんだけど……」
「ふむ、中々良い着眼点です。正確には研究を中断せざるを得ない結果を出してしまったのですよ」
中断せざるを得ない結果?
チェスターが続きを話すまで、俺たちはしばらく沈黙して静かな時間ができた。
「……死人が出過ぎたからです」
「…………は?」
死人が出た?
「おい、それってどういう……研究ってのは奇跡を使えるようにするためだけじゃないのか?」
「えぇ、そうです。そしてその奇跡を使うのは人間ですので……どの道、誰かが実験をしなければならなかった。その結果、適性のない者が多く死んでしまったのです。私の……メリーの母親も……」
チェスターは寂しそうな表情をして、彼自身が普段使っている机の上に立てられていた写真を見つめる。
写真立てを見ると、そこには幼いメリーっぽい少女とイケメンな男とかなりの美女が全員白衣姿で写っていた。
アレがメリーの母親、そしてチェスターの奥さんか……って待て。一緒に写ってるのはこいつらか?
メリーはまだいいとして、もしかしてスポーツジムにでも通っていそうな爽やかなイケメンはチェスターなのか!?
気まずい空気の中では言い出せないけれど、やはり年月というのは残酷だなと感じさせられた。
この笑いそうな気持ちを誤魔化すために咳払いして話題を逸らす。
「んんっ!……つまり研究が進まないまま犠牲者だけを出してたから中断せざるを得なかったってわけか」
「その通り。進展しない研究を続けるわけにはいきませんので……ですがそこに、幸運にも犠牲を出さずに試験を行う方法が目の前に現れたのです!試さずにいられますか!?」
暗い雰囲気から一転、興奮するチェスターを見た俺は、まだ当分は解放されない気がして不安を覚えた。
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