異世界でも目が腐ってるからなんですか?
4話目 前半 勝てればいいと思います
「んじゃ、これで俺の勝ちだな」
「「…………」」
クエストを終えて連合で待機していた俺たち。
そこにマルスも帰ってきたところで俺が放った一言に全員が何とも言えない空気になっていた。
「……なんだよ。言いたいことがあったら聞くぞ?」
「言いたいことしかない二。正直言って僕もこんな勝ち方は納得してない二……」
「俺もだ……たしかに勝ちたいとは言ったがな……」
「まさかこんな勝ち方があったなんてね。ある意味、勉強になったよ」
レチアとガープが不服そうに言い、マルスも不満はなくとも微妙な顔をして仕方なさそうにそう言った。
「まさか勝負を反故になんてしないだろ?お前は勝負の内容には細かいルールを指定しなかった。つまり俺たちがやった「お使い」の依頼も正攻法なんだからな」
俺たちがアリアたちに妨害をされて出発が遅れた。にも関わらずマルスに勝った理由……それは受けた依頼を簡単なお使い系の依頼にしたからだ。
しかも少し大きな荷物をいくつか届けるだけの超簡単なやつ。
報酬でいうとショボイが、賭けに勝つという目的なら、これだけ好条件は他にないだろう。
「……なんだかこっちが悪役になった気分だ二」
「しょうがねえよ。こっちの男二人の面子が面子だからな」
ゲンナリするレチアに何か悟るガープ。ガープに関してはチャラい見た目してるから、別の意味でこっち側だと自覚した方がいいんじゃないかと思う。
それにそもそも細かいルールを設定してないということは、もしマルスたちがそれに気付いて俺たちと同じ階級の依頼を受けていたのだとしたら、機動力からして俺たちの勝ちは消えていただろう。
「大丈夫だよ、勝負は勝負。それに君に負けてもご飯を奢るだけだしね」
爽やかな笑顔でそう言うマルス。
だが俺たちの場合は、その飯を一食確保するだけでもやっとの思いで日々を過ごしているわけでして……
うん、やっぱ俺こいつのこと嫌いだわ。もういっそ賭けの内容を今日はだけじゃなくて一生に変えてやろうか……
「……なぁ、ちょっとあいつら遅くねえか?」
俺とマルスが合流してから一時間が経った頃だろうか、俺がそんなことを言い出したのもアリアたちのパーティが帰ってきていないのが原因だ。
「おっきなおっぱいのお姉さんが居なくなくて気になる二?」
レチアがジト目で俺を睨んでくる。
違うよ?決して下心があって言ったわけでも、この男冒険者だらけの連合内に華が欲しいとか思ったわけでもないよ?
あとそんな堂々と女の子がおっぱいとか言っちゃうと男子たちが困った反応しちゃうからやめてね?動じてないのルフィスさんくらいだから。
「いや、どう考えても遅いだろ。いくらルールを指定してない勝負だからって目的地が遠い依頼を受けたわけじゃないだろうし……」
「たしかにおかしいね。あの子の性格なら急いですぐ帰ってくると思ってたけど……ちょっと彼女たちがどこの依頼を受けたか聞いてくるよ」
マルスはそう言って立ち上がり、受付の方へと歩いて行った。
「ま、俺の考え過ぎだったらいいんだけどな」
「どうだろうな……実際、冒険者家業の人間はアクシデントに巻き込まれやすい。それで命を落とす奴だって少なくないしな」
俺の不安を増長するように悟った言い方をするガープ。
たしかにそう言われたらそれまでかもしれないが、だけど知り合ったばかりでも身近な人間が死ぬというのは嫌な気分になるだろう。
何事もなけりゃいいが……
「なんだって!?」
すると受付の方からマルスの静かに驚く声が聞こえてきた。
その声には焦りも混じっており、他の冒険者たちも何事かと彼の方を見た。
おいおい、まさか本当に……?
マルスの様子が気になった俺たちは受付の方へと向かった。
「おい、どうした?」
「ヤタ……少しマズイことになったかもしれない」
神妙な表情のマルス。視線を受付に立っている女性に向けると彼女の顔が真っ青になっていた。
なんだ……?
「もう少し詳しい内容を頼む」
「は、はい……!」
マルスに促され、受付の女性は体を震わせながらも頷く。
「えっと……彼女たちの要望はこの場所の近くとのことだったので、その条件で『間違えて』発注してしまったのはマルス様がようやく受けられるような階級の依頼だったんです……」
「……マジかよ」
アリアの階級はマルスとルフィスさんより二つ下だ。
仮にメンバーの誰かが上の階級持ちだったとしても受けられない案件だ。
どちらにしてもマルスたちに近い階級を持つ奴はいない。だとしたら尚更ヤバイってことだ。
「それじゃあマルスとルフィスさんが助けに行けば解決するんじゃないか?」
「…………」
俺がそう言うとマルスは黙り込んでしまう。
「おい、まさか依頼じゃなければ助けに行かないとかいうクズ発言するんじゃないだろうな?」
「違う!僕だって君の言う通り、今すぐ助けに行きたいさ!だけど……」
マルスは何やら机の上に出されている紙を悔しそうな表情で睨んで唇を噛み締める。
「……『怨嗟の沼』」
ポツリとそんな言葉が受付の女性の口から零れた。
……えんさの沼?
「なんだ、そのドロドロしてそうな名前の沼は?」
「もしその地域を知らないのなら多分、君が想像してるよりももっと酷い場所だよ、そこは」
俺が想像してるよりも?
一応周囲を見渡してみると、ルフィスさんは難しそうな顔をしていて、ガープも受付の女性同様に顔を青くしていた。
「そこは猛毒の沼があって、常に毒霧が発生して常人じゃ絶対に近寄らない地域だぞ!まさかあの子たちはその場所のことを知らなかったのか……!?」
「彼女たちはいくらか毒に耐性があるからと出発して行ってしまいました……」
「それは困ったな」
ガープが憤りに似た怒りを示し、マルスは顎に手を当てて考え込む。
「お前やルフィスさんでも無理な場所なのかよ?」
「万端の準備を整えれば大丈夫だろうけど、人探しとなると話は別だ。さっきガープ君が言った通り、その場所は空気も毒で汚染された危険地帯だ。僕も毒にいくらか耐性を持っているけど、持って三十分くらい……あの広い地域で彼女たちを探すのに時間が少な過ぎる……」
マルスがそう言うと、まるでお通夜のような空気になってしまう。
……仕方ない。
しばらく考えていた俺はあることを思い付く。
「とにかく、何もしないよりマシだろ。マルス、今回の賭けの内容の変更はまだ有効だな?」
「え?……あ、あぁ、まぁ……」
「おいヤタ、こんな時になんで賭けの話なんか――」
「なら準備を整えてからその沼に向かってアリアたちを助けに行け。それが俺たちが勝った賭けの要求だ」
「「なっ!」」
その場周辺にいた全員が驚いた顔で俺を見る。
「……いいのかい?」
「よく考えりゃ、お前に飯を奢ってもらうなんざ、逆に嫌味ったらしくて食べたくないんだよ。わかったらさっさと助けに行きやがれ英雄」
「……ありがとう」
マルスはすれ違いざまに小さく感謝の言葉を口にする。
やれやれ……感情的に行動しないのはいいが、だからと言って躊躇してたら救えるもんも救えないだろうが。
それにやっぱ、美女を救うのはイケメンって相場が決まってるからな。
そう考えながらも、近くにいた受付の女性に俺は声を小さくして尋ねた。
「……なぁ、その怨嗟の沼ってのはどこにあるんだ?」
☆★☆★
……しくじりましたわ。
今、ワタクシたちのパーティは「怨嗟の沼」という場所で依頼を受けて来ました。
毒だらけの場所というのは承知しており、だからこそ毒耐性を全員が持つワタクシたちでこなせると思っていました。
しかし認識が甘かった。
しくじるなどと生ぬるい言葉で済ませていい状況ではないほど切羽詰まってしまっています。
毒に耐えきれなかったワタクシの仲間は次々と倒れ、仕方なく近くの小さな洞窟に入って療養することにしました。
……こんな空気でさえ毒に侵された場所で「療養」なんてできるはずがないのに……
自分の判断力さえ著しく低下してしまっているのではないかと心配する始末。
なによりワタクシの判断ミスのせいで仲間たちの命まで危機に晒してしまった事実が重くのしかかり、気が重くて気分が悪く感じてしまっています。
ワタクシこそ、この場にいる誰よりも毒耐性が高く行動できるというのに、他の方と共に倒れてしまっていてはこのアリルティア・フランシス、一生の不覚となってしまいます。もう手遅れな感じもしますが……
この際もう賭けのことなど忘れて生還のことだけを考えましょう。
せめて皆様を連れてここから脱出できれば……
「……ガフゥ」
「っ……!?」
気のせいだと思いたかった。
こんな場所、こんな状況で襲われたら、まともに戦えるのはワタクシしかいない。
もしワタクシの手に負えない敵が現れたら……
声のした方へ振り返る。
ワニの頭に沢山のギョロギョロと目玉が付き、トカゲの体で二足歩行し、背中から触手のようなものが何本も生えて蠢いていた。
あまりにもグロテスク。あまりにも不気味。
この怨嗟の沼周辺にはこのような外見をした魔物ばかりが生息している。
適応しているからこそこの姿をしているのだとか。
そして何より……この地域に生息している魔物は全て極悪な特性を持っている。
見たことはありませんが、多分この魔物も……
周りの子たちも目で魔物を認識しているようですが、指一本動かすことさえままならない様子。
かくいうワタクシもおぞましい姿の魔物を前に戦意喪失してしまっている。
あぁ、どうすれば……
ふと、つい先程話したヤタという冒険者のことを思い出した。
友人が何たるかを語ってくれた彼のことを。
それが今、「どう助かるか」ではなく「どう彼女らを助けるか」という考えに変わった瞬間、少しだけ戦える気がしてきた。
……不思議な気持ちですわ。自分のためではなく、誰かのために立ち上がれるなんて……
この気持ちも、彼に問えばそれらしい答えが返ってくるのかしら?
いつの間にかワタクシは不敵な笑みを浮かべていた。
えぇ、彼に問うまで死んでたまるものですか!
「「…………」」
クエストを終えて連合で待機していた俺たち。
そこにマルスも帰ってきたところで俺が放った一言に全員が何とも言えない空気になっていた。
「……なんだよ。言いたいことがあったら聞くぞ?」
「言いたいことしかない二。正直言って僕もこんな勝ち方は納得してない二……」
「俺もだ……たしかに勝ちたいとは言ったがな……」
「まさかこんな勝ち方があったなんてね。ある意味、勉強になったよ」
レチアとガープが不服そうに言い、マルスも不満はなくとも微妙な顔をして仕方なさそうにそう言った。
「まさか勝負を反故になんてしないだろ?お前は勝負の内容には細かいルールを指定しなかった。つまり俺たちがやった「お使い」の依頼も正攻法なんだからな」
俺たちがアリアたちに妨害をされて出発が遅れた。にも関わらずマルスに勝った理由……それは受けた依頼を簡単なお使い系の依頼にしたからだ。
しかも少し大きな荷物をいくつか届けるだけの超簡単なやつ。
報酬でいうとショボイが、賭けに勝つという目的なら、これだけ好条件は他にないだろう。
「……なんだかこっちが悪役になった気分だ二」
「しょうがねえよ。こっちの男二人の面子が面子だからな」
ゲンナリするレチアに何か悟るガープ。ガープに関してはチャラい見た目してるから、別の意味でこっち側だと自覚した方がいいんじゃないかと思う。
それにそもそも細かいルールを設定してないということは、もしマルスたちがそれに気付いて俺たちと同じ階級の依頼を受けていたのだとしたら、機動力からして俺たちの勝ちは消えていただろう。
「大丈夫だよ、勝負は勝負。それに君に負けてもご飯を奢るだけだしね」
爽やかな笑顔でそう言うマルス。
だが俺たちの場合は、その飯を一食確保するだけでもやっとの思いで日々を過ごしているわけでして……
うん、やっぱ俺こいつのこと嫌いだわ。もういっそ賭けの内容を今日はだけじゃなくて一生に変えてやろうか……
「……なぁ、ちょっとあいつら遅くねえか?」
俺とマルスが合流してから一時間が経った頃だろうか、俺がそんなことを言い出したのもアリアたちのパーティが帰ってきていないのが原因だ。
「おっきなおっぱいのお姉さんが居なくなくて気になる二?」
レチアがジト目で俺を睨んでくる。
違うよ?決して下心があって言ったわけでも、この男冒険者だらけの連合内に華が欲しいとか思ったわけでもないよ?
あとそんな堂々と女の子がおっぱいとか言っちゃうと男子たちが困った反応しちゃうからやめてね?動じてないのルフィスさんくらいだから。
「いや、どう考えても遅いだろ。いくらルールを指定してない勝負だからって目的地が遠い依頼を受けたわけじゃないだろうし……」
「たしかにおかしいね。あの子の性格なら急いですぐ帰ってくると思ってたけど……ちょっと彼女たちがどこの依頼を受けたか聞いてくるよ」
マルスはそう言って立ち上がり、受付の方へと歩いて行った。
「ま、俺の考え過ぎだったらいいんだけどな」
「どうだろうな……実際、冒険者家業の人間はアクシデントに巻き込まれやすい。それで命を落とす奴だって少なくないしな」
俺の不安を増長するように悟った言い方をするガープ。
たしかにそう言われたらそれまでかもしれないが、だけど知り合ったばかりでも身近な人間が死ぬというのは嫌な気分になるだろう。
何事もなけりゃいいが……
「なんだって!?」
すると受付の方からマルスの静かに驚く声が聞こえてきた。
その声には焦りも混じっており、他の冒険者たちも何事かと彼の方を見た。
おいおい、まさか本当に……?
マルスの様子が気になった俺たちは受付の方へと向かった。
「おい、どうした?」
「ヤタ……少しマズイことになったかもしれない」
神妙な表情のマルス。視線を受付に立っている女性に向けると彼女の顔が真っ青になっていた。
なんだ……?
「もう少し詳しい内容を頼む」
「は、はい……!」
マルスに促され、受付の女性は体を震わせながらも頷く。
「えっと……彼女たちの要望はこの場所の近くとのことだったので、その条件で『間違えて』発注してしまったのはマルス様がようやく受けられるような階級の依頼だったんです……」
「……マジかよ」
アリアの階級はマルスとルフィスさんより二つ下だ。
仮にメンバーの誰かが上の階級持ちだったとしても受けられない案件だ。
どちらにしてもマルスたちに近い階級を持つ奴はいない。だとしたら尚更ヤバイってことだ。
「それじゃあマルスとルフィスさんが助けに行けば解決するんじゃないか?」
「…………」
俺がそう言うとマルスは黙り込んでしまう。
「おい、まさか依頼じゃなければ助けに行かないとかいうクズ発言するんじゃないだろうな?」
「違う!僕だって君の言う通り、今すぐ助けに行きたいさ!だけど……」
マルスは何やら机の上に出されている紙を悔しそうな表情で睨んで唇を噛み締める。
「……『怨嗟の沼』」
ポツリとそんな言葉が受付の女性の口から零れた。
……えんさの沼?
「なんだ、そのドロドロしてそうな名前の沼は?」
「もしその地域を知らないのなら多分、君が想像してるよりももっと酷い場所だよ、そこは」
俺が想像してるよりも?
一応周囲を見渡してみると、ルフィスさんは難しそうな顔をしていて、ガープも受付の女性同様に顔を青くしていた。
「そこは猛毒の沼があって、常に毒霧が発生して常人じゃ絶対に近寄らない地域だぞ!まさかあの子たちはその場所のことを知らなかったのか……!?」
「彼女たちはいくらか毒に耐性があるからと出発して行ってしまいました……」
「それは困ったな」
ガープが憤りに似た怒りを示し、マルスは顎に手を当てて考え込む。
「お前やルフィスさんでも無理な場所なのかよ?」
「万端の準備を整えれば大丈夫だろうけど、人探しとなると話は別だ。さっきガープ君が言った通り、その場所は空気も毒で汚染された危険地帯だ。僕も毒にいくらか耐性を持っているけど、持って三十分くらい……あの広い地域で彼女たちを探すのに時間が少な過ぎる……」
マルスがそう言うと、まるでお通夜のような空気になってしまう。
……仕方ない。
しばらく考えていた俺はあることを思い付く。
「とにかく、何もしないよりマシだろ。マルス、今回の賭けの内容の変更はまだ有効だな?」
「え?……あ、あぁ、まぁ……」
「おいヤタ、こんな時になんで賭けの話なんか――」
「なら準備を整えてからその沼に向かってアリアたちを助けに行け。それが俺たちが勝った賭けの要求だ」
「「なっ!」」
その場周辺にいた全員が驚いた顔で俺を見る。
「……いいのかい?」
「よく考えりゃ、お前に飯を奢ってもらうなんざ、逆に嫌味ったらしくて食べたくないんだよ。わかったらさっさと助けに行きやがれ英雄」
「……ありがとう」
マルスはすれ違いざまに小さく感謝の言葉を口にする。
やれやれ……感情的に行動しないのはいいが、だからと言って躊躇してたら救えるもんも救えないだろうが。
それにやっぱ、美女を救うのはイケメンって相場が決まってるからな。
そう考えながらも、近くにいた受付の女性に俺は声を小さくして尋ねた。
「……なぁ、その怨嗟の沼ってのはどこにあるんだ?」
☆★☆★
……しくじりましたわ。
今、ワタクシたちのパーティは「怨嗟の沼」という場所で依頼を受けて来ました。
毒だらけの場所というのは承知しており、だからこそ毒耐性を全員が持つワタクシたちでこなせると思っていました。
しかし認識が甘かった。
しくじるなどと生ぬるい言葉で済ませていい状況ではないほど切羽詰まってしまっています。
毒に耐えきれなかったワタクシの仲間は次々と倒れ、仕方なく近くの小さな洞窟に入って療養することにしました。
……こんな空気でさえ毒に侵された場所で「療養」なんてできるはずがないのに……
自分の判断力さえ著しく低下してしまっているのではないかと心配する始末。
なによりワタクシの判断ミスのせいで仲間たちの命まで危機に晒してしまった事実が重くのしかかり、気が重くて気分が悪く感じてしまっています。
ワタクシこそ、この場にいる誰よりも毒耐性が高く行動できるというのに、他の方と共に倒れてしまっていてはこのアリルティア・フランシス、一生の不覚となってしまいます。もう手遅れな感じもしますが……
この際もう賭けのことなど忘れて生還のことだけを考えましょう。
せめて皆様を連れてここから脱出できれば……
「……ガフゥ」
「っ……!?」
気のせいだと思いたかった。
こんな場所、こんな状況で襲われたら、まともに戦えるのはワタクシしかいない。
もしワタクシの手に負えない敵が現れたら……
声のした方へ振り返る。
ワニの頭に沢山のギョロギョロと目玉が付き、トカゲの体で二足歩行し、背中から触手のようなものが何本も生えて蠢いていた。
あまりにもグロテスク。あまりにも不気味。
この怨嗟の沼周辺にはこのような外見をした魔物ばかりが生息している。
適応しているからこそこの姿をしているのだとか。
そして何より……この地域に生息している魔物は全て極悪な特性を持っている。
見たことはありませんが、多分この魔物も……
周りの子たちも目で魔物を認識しているようですが、指一本動かすことさえままならない様子。
かくいうワタクシもおぞましい姿の魔物を前に戦意喪失してしまっている。
あぁ、どうすれば……
ふと、つい先程話したヤタという冒険者のことを思い出した。
友人が何たるかを語ってくれた彼のことを。
それが今、「どう助かるか」ではなく「どう彼女らを助けるか」という考えに変わった瞬間、少しだけ戦える気がしてきた。
……不思議な気持ちですわ。自分のためではなく、誰かのために立ち上がれるなんて……
この気持ちも、彼に問えばそれらしい答えが返ってくるのかしら?
いつの間にかワタクシは不敵な笑みを浮かべていた。
えぇ、彼に問うまで死んでたまるものですか!
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