異世界でも目が腐ってるからなんですか?

骨嶽ムクロ

5話目 前半 痕跡

 前回のあらすじ。
 銀髪美人のロザリンドさんから脅しまがいの職務質問を受けています。

「ちょっと待ってくださいって。たしかにその話は聞いてますが、それでも外出の禁止はされてないはずですよ?連合だって開いてるでしょうし……」
「ならその連合とは全く違う方向に行こうとしてるのはなぜですか?」

 痛いところを突かれてしまい、沈黙してしまう。
 くっ、下手な言い訳が逆に首を絞めるとは……!
 いや、まだ焦るような時間じゃない、落ち着け……

「まだこの町には慣れてないので、帰るついでに遠回りの散歩ですよ」

 なんて言っても、結局この人からすれば怪しいことに変わりないだろう。ロザリンドさんの剣は相変わらず俺に向けられている。

「この一連の騒動、まさかあなたが起こしてるのではないですか?人が失踪し始めたのも君が来たタイミング――」
「違います」

 ロザリンドさんの疑いを食い気味に否定した。

「俺はいつも昼間は連合での依頼を受けてどこかの民家で雑用をしてましたし、夜はずっと宿屋にいます。一緒にいるレチアやイクナもそうです。なので誰かを誘拐する時間なんてありませんよ」
「そ、そうですか……」

 俺の必死さにロザリンドさんは若干引いているようだけれども、そんなことはどうでもいい。
 痴漢もそうだが、やってないのなら堂々と否定して全力で抵抗するのが一番大切だと聞いたことがある。
 無実で汚名を着せられるなんて冗談じゃないからな。
 何もやってなくて気持ち悪がられるのは目だけで十分だ。

「まぁ、たしかに君のプレートを調べた限りでは犯罪歴は見つからなかったので、一応は信用してますよ」

 何か引っかかる信用の仕方だけれども、今はそれでいいさ。
 それよりも気になる言葉があった。

「プレートで犯罪歴を見られるんですか?」
「えぇ、盗賊などを相手にした時以外の人間の殺害や窃盗など、全てプレートに記録されるんです」

 それは逆に「盗賊や犯罪者相手なら何をしてもいい」とも聞こえてしまうのだが、実際過去に俺が殺したも同然だった男が一人いるのだけれども、そいつが数に入らないのならそういうことなのだろう。

「とはいえ、それも万能というわけでもありません。これから犯罪を起こす者を予測できるわけでもないので」

 再びジト目で俺を睨んでくるロザリンドさん。やめてください、クセになって変な性癖に目覚めたらどうしてくれるんですか。

「こんな状況なんで仕方ないとは思いますけど……そういえばロザリンドさん以外の人は?警戒してる割に見回りの人数が少ない、というか全くいないような気もするんですが……」

 俺がそう言うと、ロザリンドさんは表情を暗くする。

「知っているとは思いますが、この町の行方不明者は日に日に増えていっています。その中には私の後輩……あなたがこの町へ最初に訪れた日に担当していた子たちの中にも被害者が出たんです。さらに腕の立つ者まで。それで……」

 その先を言い淀むロザリンドさん。
 何となく察してしまった。

「まさかこの町を見回って治安を守るべきあなたの仲間が逃げ出した、とかですか?」
「……」

 無言は肯定。どうやら当たってしまったようだ。
 しかし逃げたいと思うその気持ちもわからなくもない。
 民間人だけならまだしも、強さに自信がある奴も行方不明になったとロザリンドさんは言った。
 それが実態があるかどうかは別として、そんな奴をまともに相手にしたくないと思うのが普通だ。
 逃げて当たり前……でもこの人は残ってこうやって警備をしてくれている。
 最初の印象通り、強くてカッコイイ人だ。

「……協力しましょうか?」
「え?」

 俺の急な提案にロザリンドさんが間の抜けた顔をする。
 すると彼女は唸って悩み始めた。

「この人に……いやでもまだ疑いが……そもそも関係ない人に手伝ってもらうのも……」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声量でぶつぶつ呟くロザリンドさん。
 とりあえず最後に聞こえた「関係ない人」というのが癪に障ったので、 文句を言うことにした。

「関係なくはないですよ。この町で起こってるってことは俺たちも被害に遭うかもしれないですし、連合の方にも話は回ってるんです。今更協力者の一人が増えたところで問題はないでしょう?」
「え?あ、まぁ……それもそうです、か……?」

 戸惑って頭に疑問符を浮かべるロザリンドさん。
 説得っていうよりこのままゴリ押せばいいんじゃない?って感じの雰囲気になってきた。
 それにこの人、こうでもしなかったら自分一人でなんとかしようとしそうで危なっかしい。

「で、ですがどちらにしろあなたが怪しい行動を取ってることには違いありませんので、しばらく監視させてもらいます!」

 若干ヤケになりながらそう言うロザリンドさん。
 監視って……やだ、そんなに見つめないでよ、緊張しちゃうじゃない!
 ……と、ふざけるのはそこそこにして、俺も後ろめたいことはないので「わかった」と返事を返して同行することになった。
 その後、お互いの情報を共有しつつロザリンドさんの見回りに付き合っていた。

「――というわけで、連合の冒険者連中は自ら動く気はないみたいでしてね」
「そうですか……ではあなたは?」
「俺はなんというか……寝なくても眠くならない体質でしてね、なので連れが眠りに就いた今、こうやって散歩してたってわけなんですよ」

 和気あいあいとまではいかないが、女性と会話を弾ませていた。
 今はグラサンを外しているけれど、ロザリンドさんはそれほど怯えたり嫌煙する様子はない。夜で薄暗いからか?

「にしてもあなたはアレですね」
「アレってなんですか?もしかしてそのアレって目のことですか?」
「いやいや、違います。最初に出会った時は冒険者らしいと言ったが、撤回した方がよさそうだなと思っただけです。あなたは冒険者らしくない」

 まるで「男らしくない」と言われたようで、ちょっと悔しい。
 でも冒険者らしいってなんだ?ちょっと聞いてみるか。

「冒険者の冒険者らしさってなんだと思いますか?」
「冒険者らしさですか……自由奔放、勝手気まま、自分勝手、荒くれ横暴、暴力の象徴……そんなところだと思ってます」

 暴走族か何かかな?
 屈強な奴らがいるって意味じゃ、あながち間違ってないかもしれないけど……

「冒険者にはあまり良いイメージは持ってないってことですか」
「はい。今回の事件だって、冒険者の方々が迅速に自ら協力するべき案件のはずです。なのに彼らは民間人のように家から出ようとしない……だからあなたは冒険者らしくなくて怪しいと思ったんです」

 ああ、そういうことか。
 俺はてっきりまた目のせいで怪しまれてるのかと思ってた。
 やだね、こういうことに慣れてると「はいはい、また目のせいね」って言われてもないのにそうやって自己完結する癖がついちまう。

「ま、俺の無実はそのうちわかりますよ。それよりもそちらの情報も知りたいのですが……」
「私の?」

 「なぜ?」と言いたげに少し首を傾げるロザリンドさん。
 レチアがやるとあざといのに、この人がやると自然で普通に可愛いのはなんでだろうか……

「ロザリンドさんたちなら事件が起きた現場とかを調べたんじゃないですか?」
「はい、その通りですが……」
「ならなんでもいいので話してください。その現場の異常や事件が起きた場所の共通点が何かわかるかもしれませんから」

 頭がそれほど良いというわけでもないけれど、三人寄ればなんとやら。別の観点から見れば何か気付くかもしれないだろう。

「ちなみに事件が起きた現場を見せてもらうことは?」
「今この暗い時間にですか?」
「暗いからこそ、昼間とは違った何かを発見できると思いません?」

 なんてそれっぽい適当なことを言ってみる。
 実際はレチアたちのいる昼間はそんな堂々と行動できないし、チェスターのところに行ったり依頼の小銭稼ぎに専念しなくてはならないのだから。
 ロザリンドさんは少し唸ってから頷く。

「それは考えたこともありませんでしたね……わかりました、行ってみましょう!」

 ……自分で言っといて何だが、案外騙されやすそうなロザリンドさんに一抹の不安を抱きそうになった。

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