-魔力ゼロ- クラス転移で死闘する、無能と言われた魔法使い

藤宮ヒナタ

第3話 天啓の儀

神官長に連れられ来たのは『啓示の間けいじ ま』と言われる場所だった。
どうやらここで職業を授かるのだそうだ。
そのまま神官長は祭壇へ上がり、その側には補佐の神官が2名控えていた。
内1人は筆記物のようなものを持っていた。
なにかメモでもするのか…?

「それでは天啓の儀を執り行います。1人ずつ祭壇の前まで出てきて下さい。」

神官長が発言した。
少しざわついたが1人の生徒が手を挙げた。

「ぼ、僕が…行きます。」

佐藤学サトウ マナブか。学校では学級委員をやってたな。
丸眼鏡かけたガリ勉野郎だが正義感が強くテキパキとした奴だ。こんな状況下でも率先して行動を起こすのもその正義感からくるものなのだろう。

佐藤が祭壇にあがる。
神官長は手を差し出すよう要求した。

祭壇の上には大きな水晶玉が置かれていた。
手を差し出した佐藤の手をとり神官長は「少し痛みますよ」と一言添え、ナイフで佐藤の人差し指を少し切った。

「い……ッ!!」

佐藤から小さな悲鳴が上がった。
そして神官長はそのまま、佐藤の指から滴る血を水晶玉に垂らした。

水晶玉に血が付着する……が次の瞬間、水晶玉はまるでスポンジのように血を吸収し緑色に発光した。

「ふむ…戦士ですか。」

神官長が呟くと同時に控えの神官が何かを書き記している。
なんだ?もしかして、職業をメモしているのか?


「さあ、次の方」









「じゃあジン、行ってくるよ」
順々に天啓の儀を行い、半分済んだところで東藤が祭壇にあがった。

水晶玉の色は……オレンジ。
初めて見る色だ。

「素晴らしいッ!アークウィザードですか……期待しておりますよ。」
神官長は張り付けた笑顔をする。
げぇ…。何度見ても気色悪いぜ。

東藤が戻ってくる。
「お疲れ」
「ああ。…アークウィザードって強いのか?」

さぁな。だが神官長の反応からしてそうなのだろう。
何せ名前からして魔法のエキスパートってところだろう。



次の生徒が祭壇にあがる。


…次は木下か。

木下の血が水晶玉に垂れる。すると水晶玉は青色に光輝いた。
またも初めて見る色だな。

「おおッ!!これは素晴らしい!聖女様が誕生するとは、期待が高まりますねぇ。」

神官長は興奮しているようだった。
うぇ……。興奮してても気色悪いなこのオッサン。

こうして、ほとんどの生徒が天啓の儀を終え残るは俺と…。

「真島か」

真島宏樹マシマ ヒロキ。正直コイツのことはよくわからない。
あまり存在感のないやつだが、学生の頃1度だけグループワークで一緒になったことがある。
なんつーか……ちょっと考え方が危なっかしい。
その授業は、ある題材の作品について作者の意図を汲み取るという内容だった。


あるところに貧乏な夫婦と飼い犬がいた。
夫は犬を大層可愛がっていたという。
夫はいつも夫婦との食事よりも、犬にエサ代を多く費やしており朝に2つ、夜に3つエサを与えていた。
しかし、これを快く思わなかった妻はある日飼い犬に「ごめんなさい。今日からあなたへの食事を減らすわ」と言い、朝に1つ、夜に2つエサを与えることを提案する。
だが犬はエサが減らされることに激怒した。
今にも暴れだしそうな犬に対し妻は慌てて「わ…わかったわ。じゃあ朝に3つ、夜に1つというのでどうかしら?」と言うと、今まで朝は2つしか食べられなかったエサを3つ貰えるということで犬は大人しくなった――と、いう話だ。

つまり、目先の利に囚われるなということを作者は言いたかったのだ。

俺たちのグループ内でもそういった意見でまとまっていたのだが、真島が一言。

「犬なんか飼ってるから飯が自分に行き渡らないんだろ?じゃあ、犬を殺せばいいじゃん。」




こういった経緯もあり、アイツは少し不気味だと思った。
もしも真島が強大な力を手にしたら…。

「ま、力を持ってるのは皆も一緒か。」


俺は祭壇へとあがる。
一体何色に光るのだろうか…。

血を垂らし、水晶玉がそれに反応する。

色は……黄色。

「…魔法、使いか」
少しガッカリした。魔法使いの職業は既に10名ほど出ているのであまり特別感を感じなかった。

「魔法使い……多いですねぇ。期待はしたのですが残念です………では最後の方。」


入れ替わりで真島が祭壇にあがる。


「こ……この光はッ!!」

神官長が大きな声を上げる。
なん……だ?この色は………………金?

「おお!おおおおお!!!!遂にッ……遂に勇者が降臨なされた!!!!!これで魔王討伐への道も大きく前進した!!」

神官長の興奮は抑えられず、高揚感溢れる声を上げた。控えの神官たちも驚き、興奮している。

「素晴らしい!実に素晴らしい!!真島様ッ!貴方こそがこの世界を救うに相応しい御方。どうかその力、この世のために行使して下さいませ!!!」



マジかよ…。よりにもよって、真島が……勇者?


真島は祭壇を降り、クラスメイトたちの元に戻っていく。
皆はその神官長の口振りから、勇者という職業はとてつもなく強大であることを悟った。
と同時にクラスメイトたちは真島に集まり、持ち上げるようなセリフを言っている。

その様子を、俺は少し離れたところからじっと見ていた。



「さぁ皆さん!これにて天啓の儀を終了致します。これより皆さんを各自のお部屋にご案内するのでどうぞ今夜はごゆっくりお休みください。今後のことはまた明日ご説明いたします。」

神官長の一言で天啓の儀は終了した……かに思われたが。



「ちょ…ちょっと待ってください!私は!私にはないのですか!?」

担任の白井が声を荒げた。
そういえば、先生もいたんだよな…忘れてた。

神官長は白井をじっと見据えて、
「………あぁ、あなたですか。申し訳ありませんが無理です。」
「無理!?無理とは一体どういうことですかッ!納得のいく説明をしていただいきたい!」


白井のやつ、結構取り乱してるな。
それもそうか…驚異的な力で生徒1人を殺される光景を目の当たりにした上、唯一身を守れるであろう力を貰えないというのだ。そりゃ恐ろしいものだ。

「いいえ、ダメなのですよ。力を授かるにはあなたは年を取りすぎている。」
「なッ……私はまだ27ですよ!」

だが神官長は首を横に振る。

「ダメなのですよ。この天啓の儀は成人までに行わなければ職業を授かることは出来ません。ちなみにこの国では18が成人なのです。もう、おわかりでしょう?」


白井は膝から崩れ落ち床に手を着く。よほどショックだったのだろう。

「しかしご安心ください。そんな貴方のために強力な武器をご用意しておりますので。……それでは皆さん移動しますのでついてきて下さい。」


白井はゆらりと立ち上がり眉間にしわを寄せている。
何人かの生徒は先生の側にいき心配そうにしている。



「ジン、これからどうなるんだろうな」

隣にいる東藤が呟く。

「さあな……俺にも、わかんねぇよ」





こうして、俺たちは天啓の儀を終えた。




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