ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~

藤原都斗

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 いやいやいやいや、こんなんが姪っ子ちゃんの婚約者とか、ないわー、ナイナイ。
 候補とか、そんなんですらダメだわ、ナイナイナイナイ。
 ていうか王子?コレが?えっ?王子?いや、見た事あるとは思ってたけどさ、こんなんが王子でいいのか、この国。

 姪っ子ちゃんに相応しく無いとは思ってたけど、なんかもうマジでこんだけ性格が歪んでると、ダメだわ、うん、ダメ王子は却下だ。
 つーか説明されてるくらいなんだから予想よりもしっかりと性格歪んでるんだろうな。 

 まぁいいや、とりあえず王族には礼を尽くさなくちゃならんから、とりあえず騎士の礼とやらをしておこう。

 「これは王子殿下、以前の生誕パーティ以来、ご無沙汰しております、ヴェルシュタイン公爵家当主、オーギュストでございます」

 「誰だ貴様!!」

 カッと目を見開き、思いっ切り言われてしまった。

 いや、今名乗ったやん。と思うのはこの際置いておこう。

 まあ、うん、あのブタがこんなイケオジになっちゃったら、確かに分からんよね。
 特にこのクソガキ、ダメ王子だし。

 しかし、腹立つけど腐っても自分よりも上の立場の人の子な訳で、大人であるこっちがムキになっても仕方ない。

 私は大人、私は大人、私は大人、よし。

 そんな自己暗示を自分自身へと掛けながら、礼をした体勢を元へ戻し、クソガキダメ王子へ言葉を返す。

 「ふむ、ひと月ほど患っている間に随分と痩せてしまいましたからな、無理もありますまい」
 「痩せただと!?そんな生ぬるいものじゃないだろう!!別人ではないか!!」

 ビシッと指差しながらキッパリとした態度で、更に大きな声でのご指摘を頂きました。

 ですよねー。

 ちなみにこの時、発音は、で(→)す(↑)よ(↑)ね(→)ー(→)である。
 どうでもいいね、うん。

 でも人に指差しちゃいけませんって親御さんから教えられなかったのかね、この無礼者は。
 そういや説明に甘やかされて育ったらしいってあったな、そのせいか。

 よし、次に王様に会ったら顔面握っておこう。
 遅くに出来た子供だからって調子に乗らせ過ぎなんだよ。
 ダメだよそんなんじゃ、ロクな大人にならんよ。

 まあ、そんな現実逃避してる場合じゃないので、とりあえず頑張って言葉を捻り出そうと思います。

 「別人とは、おかしな事を仰る。
 殿下がお産まれになる前はこのような体躯だったのですよ?」

 「なっ、そんな、僕の産まれる前の事など知る訳がないだろう!!」

 ですよねー。

 まあ、そうは思いながらもこのまま放置する訳にもいかない。
 という訳で、若干の事実を教えてあげる事にしよう。

 「ふむ、おかしいですね。殿下が知らない訳が無いのですが」
 「なんだと!?」

 顎に手を当て、緩く首を傾げながらの私の言葉に、クソガキダメ王子が歯軋りしそうな勢いで私を睨み付け、荒々しく問う。

 そんなクソガキダメ王子、なんか長くて面倒臭いな、クソ王子で良いか。
 クソ王子を見下ろしながら、サラリと告げてやった。

 「謁見の間へ向かう回廊に、若かりし頃の国王陛下夫妻と、私と亡き妻が共に居る肖像画が飾られております」

 「......へっ?」

 予想外過ぎたのか、ポカーンとした見事な間抜け面であった。
 このクソ王子、頭まで悪いようである。

 「ご存知ありませんか?、では、後日にでも陛下にお聞きすれば良い。
 きっと、殿下の知り得ない学生時代の話も聞かせて下さる事でしょう」

 「え」

 心当たりが無いのか、そんな小さな声を漏らしながら、クソ王子が固まった。

 まあオーギュストさんの記憶曖昧だから、今も飾られてるかは知らんけど、学生時代の彼らの肖像画がある事は確かで、以前は飾られていた、という事も事実。
 普段から周りを見ていれば、そんな絵画があるかどうかも分かる筈なんだが、城内で、それなりに通る場所に飾られている絵画を見ていないという事は、周りが見えていない、と同じ事。

 そんなだから私にクソ王子とかアダ名付けられるんだよ、全く。
 多分コイツ、勉強の出来るバカなんだろうな、としみじみ思ってしまいながら、私は一礼した。
 
 「では殿下、私はこれにて御前失礼致します」

 これでよし。
 とりあえず妹さんの所に戻ろう。

 「さてクリスティア、行くとしよう」
 「えっ、あっ、えっ?」

 優雅に見えるよう、それでいて過度に大袈裟にならないよう、彼に向けて一礼した私を、なんか知らんけどぼーっと見ていた姪っ子ちゃんへと向き直りながら声をかけると、ハッとした姪っ子ちゃんは戸惑った様子を見せた。

 うわ、可愛い、マジで天使だわウチの姪っ子。
 可愛いげもクソもないクソ王子とは比べる事すら間違いなくらいの雲泥の差。

 ホント、甘やかすと人間ロクなヤツにならないっていう典型だよね。

 「ま、待てっ!」

 不意に、クソ王子が声を荒らげた。

 えぇー、まだなんかあんのかよこのクソ王子。

 面倒臭い奴だな、とは思いながらもそれは一切顔に出さず、冷静かつ堂々とした態度で、改めて向き直る

 「何かございましたか?」

 なんでこんな奴を敬う態度取らなきゃならんのだろう、とかそんな不愉快な思いを抱えながら、それでも礼節を持って尋ねる。
 すると、クソ王子は物凄い勢いで私を睨み付けた。

 「貴様、何を企んでいる...!?」

 クソ王子の口から飛び出たそんな問いに、内心で物凄くげんなりしてしまった。

 うわぁ...、なんか面倒臭い勘違いされてる気がする...。

 いや、でも、うん、とりあえず聞くだけ聞こう。
 頑張れ私、大丈夫だ、多分、きっと。

 「......何が仰りたいのですか?、殿下」

 「姪を己の傀儡くぐつにするなど、何も企んでいないなんて言えんぞ!、あまつさえ、賢人を名乗ったそうじゃないか!」

 私の問い掛けに対し、クソ王子は物凄いドヤ顔で自信満々な様子で胸を張りながら答えた。

 うん、ちょっと待って、くぐつ、って何。
 漢字が出てこない、待って、とりあえずオーギュストさんの知識使うから。
 えっと。
 
 傀儡(読み:くぐつ、かいらい、でく)

 (1)陰にいる人物に思いどおりに操られ、利用されている者。
 (2)操り人形。

 なるほど。
 随分難しい言葉知ってんだな、クソ王子のくせに。
 まあ、全く生かせてないっぽいけど。

 うん?ちょっと待て、つまりこのクソ王子、姪っ子ちゃんが傀儡って言いたいの?

 ハア?いやいやいやいや、なんでだよ。
 もう面倒臭い通り越して鬱陶しいわ、何こいつ、何これ。

 めっちゃ腹立つわ、何なのマジで、いかん、なんかもう言葉が出て来ない。

 フツフツと沸いてくる苛立ちを頑張って抑え込みながら、とにかく表に出さないようにクソ王子を見据える。
 でも、これだけは言わせて頂きたいので、遠慮なく言おうと思います。

 小さく息を吸って、それを吐き出すようにハッキリと言葉を発した。

 「私を疑うのは構いませんが、クリスティアを貶めるような事を仰らないで頂きたい」

 「えっ?」

 私の言葉はクソ王子には予想外過ぎたのだろう。
 何度か瞬きを繰り返し、それから首を傾げたくらいだ。

 お前がやっても可愛くは、いや、見た目は良いから可愛いとは思うけど、うん、でも腹立つ。

 「殿下の仰りようでは、我が姪であるクリスティアが愚か者のように言われていると同義。
 彼女は傀儡などになる程、愚かではありません」

 操り人形ってのは、自分が無い人間しかなれないものだ。
 むしろこのクソ王子が一番相応しい立場だろう。

 ウチの姪っ子ちゃんがそんなのな訳がない。
 ていうか私、傀儡なんてそんなモン持つ気全く無いし。

 あと、それになんの意味があるんだか全く分からん。
 オーギュストさんの立場的に、全く必要無いと思うんだけど。

 しかし流石はクソ王子、彼は私の言葉を聞いても特に全く考える素振りも見せないまま、激昂した。

 「っお前の言う事など信用出来るか!」

 うん、なんだこのクソガキ。

 自分の中でクソ王子の株がズンドコ下がっていくのを感じながら、盛大に吐き出してしまいそうな溜息を押し殺した。

 これが次期国王かと思うとこの国の未来が暗雲に包まれている気しかしない。
 不安しかないよ、ヤダわ。

 国が滅ぶ前に誰かに何とかして貰うしかないけど、でもそれは別にウチの姪っ子ちゃんじゃなくていいよね?

 「ならば、彼女を婚約者候補から外すよう、此方からも進言致しましょう」

 「なんだと...!?」

 驚愕に目を見開き、そして、言葉を失ったかのようにそれ以降の言葉が続かないクソ王子を放置して、淡々と告げる。

 「私にとっては可愛い姪だ。生涯を共にするかもしれない相手から疎まれ続けるなど、可哀相です」

 こんなんの面倒一生見させられるとか、可哀相過ぎるわ。

 小学生くらいの歳からお国の為にって好きでもない王子と並び立つ為の王妃教育受けさせられて、ついでに王子を矯正とか、子供が出来る事じゃない。
 そういうのは、王妃になりたくて仕方ない!って子に任すべきで、魔力含めて優秀だからってウチの姪っ子ちゃんが巻き込まれる必要なんて無いと思うんです。

 ......そういやこの、候補って誰が決めてるんだ?、機会があったら顔面握る前提で王様に聞いてみよう。
 オーギュストさんの中でもそんな扱いだったみたいだしね、王様。

 そんな事を考える私だが、それはやっぱり一切表には出していない。
 故に現在、いい歳した悪役顔のオッサンが子供を見下ろして偉そうに問答してるみたいにしか見えないだろう。
 下手したら一方的にいびってるみたいにすら見えるかもしれんが、もういいや。

 不意に、クソ王子へと意識を戻すと、何をどう考えたのか不明だが、憤怒の形相で私を睨み付けていた。

 「お前がそれを言うか...!」

 何もかも全て私の手の平の上とでも思ったんだろうね。そんな訳無いのにね。
 言ってもどうせ聞かないし、聞く気も無さそうだし、なんなら私の説明すら曲解しそうだ。

 だあぁ!もう!面倒臭いなぁこのクソガキ!!

 クソ王子にすらも分かるような呆れたような雰囲気と共に、ふう、と息を吐く。

 「......先程も申し上げましたが、私を疑うのは構いません、私の信用など地に落ちておりますからな」

 「何が言いたい...!」

 捻り出すみたいな言葉を告げたクソ王子の口元から、ギリギリ、と歯軋りの音が小さく聞こえて来るけど、これは多分オーギュストさんのスペック的とか以前に近くに居る人にも聞こえていると思う。

 このガキ、真面目に鬱陶しい。

 「......殿下」

 声を掛けながら、じっと彼の目を見る。
 すると、王子の顔色が一気に悪くなった。

 「っ...!?」

 何か言おうとして、でも、出てこない。
 目を逸らそうとするけど、怖くて出来ない。
 そんな雰囲気で、彼は一歩後退った。

 「あまり私を侮らないで頂きたい」

 馬鹿にするのも大概にして貰わないと、いつか私ブチ切れするよ?
 これでも物凄く抑えてるんだからね、魔力的なのハミ出てるけど、今はこれが精一杯なので、そこは我慢して頂きたい。

 「おじさまっ!」

 姪っ子ちゃんの呼び掛けと共に、くいっ、と小さく服の裾が引かれる。
 ゆっくりと視線をそっちの方へ向けると、困ったように眉根を寄せる姪っ子ちゃんが居た。

 「どうかしたかね、クリスティア」
 「子供の喧嘩に、大人が口を出さないで下さいませ!」

 キッパリとした口調で、諌めるような言葉を掛けられて、頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃が走った。

 え、ちょ、うそ......

 怒られた...だと!?

 あ、ヤバい、なんだろう、なんか泣きそう。
 凄く悲しい。
 え、何これ、めっちゃショックなんだけど。

 なんで?私怒られるような事した?

 いかん、落ち着け私、よし、いける、大丈夫だ。

 えーと、子供の喧嘩、うん、そうだね、私が介入するまではそうだった。
 つまり姪っ子ちゃんは、それに私が乱入し、更にキレ気味になっちゃったもんだから、邪魔しないで欲しいと思ったんだ。多分。

 よし、納得。
 違うかもしれんけどそれは今は良い。
 とりあえずこれで納得しておく。よし。

 だがしかし、その理屈が通用するのは今じゃないんだよな。

 「......クリスティア、君の言いたい事は理解出来るが、此処は公共の場、騒ぎにする事は得策では無いのだよ?」

 パーティ会場ってのは、誰が何処でどう見てるか分からない。
 つまり、第三者の、ただの憶測でしかしてない会話の方が真実だと広まって、最終的に物凄い事になってしまう事もあるのだ。
 私のせいで余計に騒ぎになったかもしれない事はこの際スルーさせて頂きます。

 賢明な姪っ子ちゃんは、私のたったそれだけの言葉からでも理解したのだろう。
 眉根を下げながら、それでも私の目を真っ直ぐに見つめ返した。

 「それはっ、...大変、申し訳なく思います...」

 ここで言い訳をせず、すぐに自分が悪い事を認めて謝罪出来るのは凄いと思う。
 その辺のクソ王子には絶対出来ない事だ。
 小さい頃の私でも出来たかどうかなんて怪しすぎる。
 反省の色が見える彼女は、今にも泣き出してしまいそうで、ちょっと焦った。

 でもこのまま、そんな姪っ子ちゃん可愛いわ、と見ていてもさらに怯えさせて泣かせてしまう可能性があるので、フォローしとこうと思います。

 「君を責めるつもりは無い、まだ子供なのだから間違えるのは当たり前だ。
 だが、この場が喧嘩に向かない事は理解出来たかね?」

 「はい、淑女にあるまじき行いでした...」

 うん、何がダメだったか理解してないとそんな返答出来ないよね、凄いな姪っ子ちゃん。

 「では、何をすべきか、分かるね?」

 「勿論ですわ!
 皆様、お騒がせ致しまして申し訳ございませんでした。わたくしはこれにて失礼致しますので、どうか皆様、パーティを楽しんでくださいませ」

 私の問い掛けに対して元気良く答えた姪っ子ちゃんは、くるりとスカート翻しながら野次馬と化していた周りの人達へと向き直り、優雅に、そして可愛らしく呼びかけた。

 「............」

 クソ王子はといえば、なんかめっちゃ納得行かなさそうな憮然とした表情で押し黙っている。

 おい、元凶、何を黙りこくってんだ、喋れよ、解散出来ねぇだろクソ王子。
 内心でめっちゃ悪し様に捲し立てながら、クソ王子へと視線を送り、呼びかけた。

 「殿下?」
 「...っ!」

 クソ王子は私の呼び掛けを聞いた途端に、焦ったように狼狽えたかと思えば、ギリッと歯軋りの音を響かせてから、改めて王子らしいキリッとした態度で辺りを見回す。

 「っ皆、騒がせて、すまなかった」

 なんか物凄く不本意そうだけど、知らん。
 ホントに役に立たんなこのクソ王子。

 「では殿下、失礼致します」
 「ごきげんよう、殿下」

 ばらばらと散っていく野次馬を確認してから、姪っ子ちゃんを伴いながら礼をして、改めてクソ王子へと声を掛けると、クソ王子は、なんか苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見ていた。

 「......あぁ、パーティを楽しむと良い」

 ははは、言葉と真逆の顔してますよクソ王子。

 そんな事を考えながらも、まあどうでもいいのでスルーして、その場を去ったのだった。



 

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