ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~

藤原都斗

38

 


 やっぱり意味が分からなくて、私は確認するように口を開いた。

 「.........別人の魂が、入り込んでいる、と言ってもか」

 そう言った私の声は重々しくて、だけど、王様は変わらない様子で首を傾げる。

 「そうなのか?その人はどんな人物だ?」

 「若い、女だ。夢を追う道半ばで、急死した」

 「名前は?」

 「...陽子」

 「...ヨーコ、か。
 ふむ、オーギュストは嘘を吐いた事なんて無いからな、信じよう」

 それは真っ直ぐな、私を信じ切った眼差しだった。

 ...あぁ、コレ、駄目だわ。
 理解されてない。

 私が今もオーギュストさんを演じてるのが原因なんだろうと思う。
 けど、多分この人、オーギュストさんの魂が、もうこの世に存在してないって事、気付いてない。

 そう思ったら、もの凄く自分勝手だけど、なんだかとても残念で、落胆した気持ちになった。

 きっと王様は、私が、オーギュストさんの魂に混ざってる、って考えてるんだろう。

 ...なら、もう良いや。


 「オーギュスト?」

 「なんだ?」

 「突然黙り込んで、どうした?」
 「いや、良い友に恵まれている、と感じていただけだ」

 不思議そうな様子で尋ねる王様に、さも、言った言葉通りであるかのように答える。
 オーギュストさんらしく、冷静に、だけど少し呆れたように、それから、オーギュストさんもきっとそう感じるだろうから、多少の後ろめたさも表情に含めて、それでも、少しだけ嬉しそうに。

 複雑な表情を演じながら、内心で自分を嘲笑った。
 だって私程の馬鹿は中々居ないと思う。

 誰にも気付かれちゃいけないのに、打ち明けようなんて、どう考えても私は馬鹿だ。
 だって、私はこの世界では異物以外の何物でもない。

 本来なら、存在しない魂なんだ。

 それなら尚更、誰にも気付かれちゃいけない。
 分かってた事だ。

 ...うん?

 ふと気付いて、賢人だからか若干しか出なかったけど、なんか変な汗が出た。

 いやいやいや、ちょっと待て、私。
 冷静になれ、よく考えろ。

 馬鹿通り越して阿呆なの自分?
 何を死にに行くような事言ってんの?

 あっぶな!!
 王様に何暴露しようとしてんの自分!、やっぱり気付かれないかー...、ってしょんぼりしてる場合かよ!バレたら打首になるわ!
 むしろ気付かれなくて良かったよ!王様が若干残念で良かった!
 いや、これは私の演技力の賜物だね!さすがは私!

 しかし焦った...、まじで何やってんだ自分......!

 無意識って怖いわー、今度からちゃんと、もっともっと考えながら行動しよう。
 オーギュストさんのスペックなら思考する時間は一瞬に近いし、なんとかなる筈だ。
 よし、頑張れ私。

 「うん?...オーギュスト、お前、指輪はどうした」

 王様から不意に、そんな疑問を投げ掛けられてちょっと思考が停止した。

 えっと、何ですか?
 当主の指輪なら付けてるけど、それじゃないよね?

 「ジュリアの指輪の事だ、付けていないのか?」

 うん?ジュリアさんの指輪?
 えっと、うん、よし、こういう時こそオーギュストさんの知識を検索だ、ジュリアさんの指輪、ジュリアさんの指輪...

 「ちょっとあなた、ダメよもう、デリカシーってものが全く無いんだから、...ごめんなさいね、オーギュスト様」

 検索してたら王妃様が慌てた様子で止めに入った。
 一応結果出たんだけど、なんか言わなくて良いっぽい。

 「すまん、オーギュスト...」
 「いや、気にするな」

 なんかまた落ち込み始めた王様に、とりあえず、堂々と適当に答えておく事にする。

 ちなみに、その検索結果なんだけど、まず前提としてこの国の婚約や婚姻の証がどういう物なのか、の説明から入らなければならない。

 必要なのは、互いの瞳の色の石。
 大きさはどのくらいでもOK。
 婚約の間はその石を交換して、お互いがお互いの瞳の色の石をそれぞれ好きな宝飾品に加工する。
 主にピアスやイヤリング、ネックレスが主流だ。
 そして結婚となると、その宝飾品を指輪や腕輪など、手に付けられるタイプの宝飾品に作り変えるのだ。

 故に、この国では結婚指輪とか言わず、相手の名前の指輪や腕輪になったりする。

 ちなみに、相手に先立たれた場合は、遺された者と亡くなった者の両方の指輪を棺に入れるか、死んだ相手の指輪と残った者の指輪を交換し、埋葬する事が多い。
 財政的な理由から、前者は貴族、後者は一般市民という傾向があるようだ。
 以上、オーギュストさんの知識でした。

 だが王様の様子から考えると、どうやらオーギュストさんはジュリアさんの指輪を、いつも肌身離さず所持していた事が伺える。

 どうしよう、そんなの今日持って来てない。

 でもなんか今は言わなくて良いみたいで良かった。
 だけどそれより、帰ったら指輪の場所を探しておかなきゃ。

 「しかしオーギュスト、一体どうするつもりだ?」
 「何がだ」

 頭の中で指輪の有りそうな場所にアタリを付けていたら、またしても王様から良く分からない質問をされたのでとりあえず聞き返したら、王様はどこかバツが悪そうな様子で何度か口を閉じたり開いたりしてから、ぽつりと言った。

 「...帳簿が、合わないんだろう?」

 うん。

 「誰のせいだと?」
 「ごめんなさい」

 素でジロリと胡乱な者を見るような視線を向けたら、速攻で謝罪が返ってきた。

 「いや、もう、本当にすみませんでした。
 だからそんな、殺人?虫を潰すだけだが?、みたいな目で見ないで、怖い、めっちゃ怖い」

 うん、こっちこそごめんね王様、そういやオーギュストさん顔怖かったわ、めっちゃ怖いよね、仕方ないね。
 ていうか今思ったけど、胡乱うろん、って初めて使ったよ私、怪しげな様子って意味らしいよ、胡乱って。
 さすがオーギュストさんだよね。

 でも私ウドンって言葉の方が良く使ってたよ。
 美味しいよね、ウドン。

 あ、ヤバイ、なんかめっちゃ和食が食べたい。
 鰹出汁の、いや、昆布出汁でも良い。
 ウドン食べたい。
 上に甘いお揚げと葱、それからゆで卵、あっ、あと天かす、それに七味をちょっとだけかけて食べたい。
 あっ、でも肉ウドンも良いよね。

 ...うん、なんか...お腹空いた気がする。

 いかん、何の話だっけ、えっと、そうだ、帳簿の話だ。

 「...今は再計算をしている最中だ。
 それから、実際にどれくらいが意図不明金であるかの確認と、手元にある金額との差異をくらべるつもりだ。」

 脳内では若干慌てて気を取り直し、外見上は全く普通の態度、だけど少しだけ呆れたような態度で、改めてそう告げてからティーカップを手に取り、冷めてぬるくなってしまった紅茶を口に含んで飲み込んだ。

 うん、高いからなのかな?ぬるくても美味しい。
 凄いね、高級って。

 「そうか...、その、良ければ、信頼のおける税務官を派遣」
 「不必要だ」

 恐る恐る、といった様子で私に提案する王様の言葉を、途中で遮ってまで拒否する。

 「何故だオーギュスト!やっぱり怒っているんだな!?」
 「違う」

 ガーン!という効果音が聞こえそうな程のリアクションで嘆く王様が地味に鬱陶しくて、とりあえずすぐに否定したけど、王様は全く聞いてないのか、大袈裟に嘆きながらまた王妃様に泣き付いた。

 「リリー!オーギュストが怒ってる!」
 「あらあら」
 「話を聞け」
 「はい!すみませんでした!」

 イラッとしたせいか、事の他冷たい声になってしまったのだが、その瞬間物凄く真面目な顔で王様に謝られてしまった。
 とりあえず呆れたような態度で息を軽く吐き出しながら理由というか、建前を話しておく事にする。

 「......まったく、貴様は...。
 どこからどう漏れ、いつ寝首を掻かれるか不明な内は、他人を執務に関わらせる気などない」

 ていうか他人に懐事情を助けてもらうとか、普通に嫌だよ、怖いもん。
 私、家族ならともかく、友人ですら財布預けるの無理なタイプだし。

 とか考えていたら、王様が不思議そうな表情で首を傾げた。

 「...だが、オーギュストは賢人となったのだから、例え寝首を掻かれようと無意味ではないか?」
 「例えだ馬鹿者。
 私が言っているのは、政治的、または社会的な意味だ」

 あっ、王様に馬鹿とか言っちゃった。
 どうしよう、でもなんか口を付いて出て来たんだよね、もしかしてオーギュストさんと王様っていつもこういうノリだったんだろうか。

 「ふむ、だとしても、賢人に対してそのような事を出来る輩がいるとも思えないんだが...」

 特に気にした様子も無く顎や髭を撫でながら思案する王様に、あ、普段からこういうノリだったんだな、と察しながら、とりあえず今後の方針を伝える。

 「その、賢人になった、という情報は、おおやけ にするつもりは無い」

 「何故だ!?これ程強いカードは類を見ないのだぞ!?」
 「だからこそだ、切り札として使いたい」

 驚きながらも、どこか焦ったように声を荒らげる王様に、冷静な言葉を返しながら、持ったままだったティーカップを置く。

 切り札、ってのは建前だ。
 だって今世間に公表したら、あのおじいちゃんみたいに詐欺に遭ったり、色々面倒な事に巻き込まれるかもしれない。
 やだよ、ただでさえ今も色々大変なのに、これ以上増えたら対処出来ない気しかしない。
 せめて落ち着いた頃にお願いしたいです。

 内心はそんなヘタレた事を考えながら、外見上はキリッと真面目に、そして真摯にジッと王様を見る。
 すると、王様は悲しそうに眉根を下げ、でもどこか諦めたような、それから少し困ったような、そんな複雑そうな表情をしてから、そのまま片手で目元を覆って、呟いた。

 「...何故いつも重荷を背負い込もうとするのだ、オーギュスト...」

 悲しそうで、でも、どうしようもない、そんなのがありありと分かる程の声音だった。

 いつも、って事は、過去のオーギュストさんもわざわざ自分の負担が大きい方を選んでいたらしい。

 「それが最良なのだから仕方ないだろう」

 「だが、それでは潰れてしまう...!」

 そうだね、だからきっと過去のオーギュストさんは潰れてしまったんだろう。
 だがしかし、私はそう簡単に潰れる女じゃない。

 鈍感、能天気、適当、三拍子が揃った女をナメて貰っちゃ困るのだよ!!
 全く誇れないとか、そんな事は考えないよ!

 「ふん、再計算、統治、自衛、たかがそんな程度が、私が潰れてしまう程の重荷だと?」

 多分それだけじゃないと思うけど、ここは堂々と言うしかない。
 自信なんて無いし、出来る気もしないけど、きっとオーギュストさんのスペックなら大丈夫だ。
 きっと!!

 そんな私を見て、王様は少し驚いたように瞠目した。

 「......オーギュスト、君は少し、変わったか?」

 王様の言葉に答えるように口の端を上げ、ニヤリ、と笑う。

 オーギュストさんの顔でそんな事したら、物凄く怖いかもしれないけど、自信満々な雰囲気は伝わるだろう。
 多分。

 「今更気付いたのか?、言っただろう、私はお前の知るオーギュストではない、と」

 キッパリと言い放つと、王様は一瞬呆けたように間抜けな顔をして、それから困ったような顔で苦笑し、目元を覆っていた手を下ろしながら呟くように告げた。

 「......そうだな、強くなった」

 「それでは私が弱かったようではないか」

 軽く眉間に皺を寄せ、心外だと言いたげな返答を返す。

 いや、実際問題、オーギュストさんは弱い人だったとは思う。
 けど、多分本人にはあんまり自覚ないだろうな、と判断しての言動である。

 「え?昔からジュリアに対してはヘタレだったじゃないか」

 「なるほど、陛下は私に、もう一度顔面を握られたいとみえる」
 「あっ、えっ、ごめんなさい!許して!」

 そんなやり取りをする私達を、王妃様が微笑ましく見守っている様子が目の端に映った。

 個人的には見守るんじゃなくて止めて欲しいです。
 ホントにコレで良いのかめっちゃ不安なんです。

 よし、こういう時こそ話を別の方向に逸らそう!

 「そういえば、ノルド・ロードリエス上級伯爵について、だが...」
 「あぁ、あの男か。
 ...そうだな、捨て駒、として使われている、哀れな男、といった所か」

 ハゲチラについて聞いてみたら、王様は、ふむ、と小さく唸って、そんな見解を語りながら、髭や顎を片手で擦った。

 へー、王様から見るとハゲチラってそんな感じなのか。
 しかし捨て駒かぁ。

 「なるほど、いずれ私が辿ったかもしれない道の一つ、か」

 「...そうだな、あのままなら、そうなってもおかしくなかっただろう」
 「ならば、尚更放置して欲しくは無かったな」

 私の冷静な言葉に苦笑しながらも同意する王様に、ジトーっとした視線を向けつつ、指摘した。
 すると、痛い所を突かれた、みたいな困ったような表情を浮かべる王様。

 「そう言うな、オーギュスト。
 あの時、僕も気づかぬうちに、正常な判断が出来なくなったのかもしれない」

 「今は違う、と?」

 静かに尋ねると、どこかスッキリしたような顔で王様は笑った。

 「...目が覚めた思いだよ。
 僕にとっても、ジュリアは大事な友人だった。
 だからこそ、次に君を亡くしてしまうのが恐ろしかった」

 「...なるほど」

 納得したわ、そういう事か。
 まあ、そうだよね、普通の人ならそうなってもおかしくないと思う。

 立場が王様だから、なんか酷い事になってしまったんだろう。

 この王様、国王とか向いてないタイプなんだろうな。
 周りの人に助けられてなんとかなってると見た。

 「なぁ、オーギュスト、もう、僕をイルと呼んではくれないのかい?」

 思案をする私を放置して、突然王様がそんな問い掛けをして来たものだから、つい、一瞬思考が停止した。

 あっれぇー!?話が似たような所に戻ってきやがったぞー!?
 止めてよそういうの!どういう対応が最適なのかイマイチ分からないんだよ私は!
 だって私オーギュストさんじゃないもん!

 そんな事を考えながらも答えない訳にもいかない訳で。

 「...気が向いたらな」

 「...そ、そうか!」

 完全に先延ばしにしただけの私の返答に対して、嬉しそうに笑う王様の姿にやっぱり心が痛んだけど、気のせいって事にして誤魔化した。




 それからパーティ会場に戻った訳なんですが、戻った途端に辺りが不可思議な光に包まれた。

 ふわりふわりと様々な光が飛び回る中、一際大きな六色の光が会場内を照らす。
 これは一体何事かと辺りを見回せば、同じように戸惑う人々の姿があり、どうやらこの光は会場内の全ての人に視認出来ているらしいと気付く。
 その時、頭の中に低い声が響いた。


 『...我等は、精霊の王』


 はい?

 余りの事に混乱の極みな状態で立ち尽くしていたら、あちこちからざわめきと戸惑いの声が上がる。

 「な、精霊王様...!?」
 「何故城に!?」

 「いや、それよりも皆、跪くんだ!」

 戸惑いの余り慌てふためく人々を見るに、どうやら声も全員に聞こえているようだ。

 うん、ごめん意味分かんない。

 その時、またしても声が頭に響いた。

 『そう畏まる必要は無い』

 さっきとは違うけど、低くて良い感じの男の人の声だった。

 『此度我等、新たな賢人の再誕の言祝ことほぎに顕現した次第』

 『新たな賢人、オーギュスト・ヴェルシュタイン』

 『我等精霊の王は、貴殿の再誕を祝福しよう』

 女の人のような穏やかな声に、少女のような声、それから、気品のある女性の声が、順番に言葉を紡いで行く。

 辺りからは、おぉ...、という感極まったような感嘆の声があちこちからざわめきとなって聞こえて来た。

 そんなんより一個良いかな。


 神様何してくれやがるんですかこんちくしょう。


 

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