ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~

藤原都斗

34

 




 そういえば、宰相って何の仕事してる人なんだろうね!
 偉い、って事しか分からない。
 うん、まあ、いいや。

 「だ、だがしかし、どう見たって別人じゃないか!なあ!皆もそう思うだろう!?」

 なんか無様に動揺しながら、周りに意見を求める滑稽な禿げ散らかったオッサン。
 コイツのお陰で頭髪の寂しい人のイメージ悪くなるからそろそろ黙って欲しい。

 そんな事を考えた時、新たな登場人物が現れた。

 「一体何の騒ぎですか?」

 白銀の鎧に白い、...私も似たようなの着てるけど、これ、コートで良いのかな?、良いんだよね?良いって事にしとこう。
 とにかくそれと、同系色のマント。
 まあ、そんな豪華な装備に身を包んだ、一人の青年。
 サラサラの金髪に、青い瞳の美丈夫である。

 彼の出現に、禿げ散らかったオッサン、...めんどいからもうハゲチラで良いか。
 ハゲチラが嬉しそうに破顔した。
 うん、気持ち悪いね。

 「お、おお!警備の騎士団の兵か!この無礼者を摘み出してくれ!公爵家当主に成り代わろうとする不届き者だ!」

 「は?」

 余りの意味不明さに、青年が怪訝そうな声を上げる。
 それから、不届き者と言われた私の方へ視線を送る青年。

 っていうか、この青年さ。

 「...ミカエリスか。
 暫くだな、励んでいるか?」

 オーギュストさんの息子さんだよね?

 とりあえず確かめる為にも声をかけてみると、青年は私を見て一瞬驚いたような表情を浮かべてから、パァッ!という効果音が付きそうな程、嬉しそうに破顔した。

 「父上!いらっしゃっていたのですね!はい!勿論です!」

 さっきの、気持ち悪いハゲチラというオッサンとは比べ物にすらならない爽やかさである。
 とりあえずさっきのは見なかった事にしておこう。

 いやーしかし良かった!ちゃんと合ってたよ!

 内心めっちゃホッとしながら、しかし表面では堂々たる態度で、息子さんを見る。
 当の息子さんは、なんかめっちゃ嬉しそうに私の側まで来たかと思ったら突然心配そうな顔で口を開いた。

 「父上こそ、アルフレードから毎日仕事ばかりしていると聞いております、たまには休日をお取り下さい」

 なんかめっちゃ心配されてしまっていたらしい。

 執事さんたら、何も息子さんにそんな事報告しなくてもいいのに...。
 息子さんに余計な心配掛けさせちゃダメだよ、仕事だってあるんだろうに。

 「...休みたいのだがそうもいかん、伏している間に書類が溜まっていたからな」
 「...それは仕方ありませんが、適度に休憩して下さいね」

 うん、気持ちはとても嬉しいんだけど、とりあえず12年間の間の書類がなんとかならん事には休めないと思うの私。

 つーか、今ちょっと思ったんだけど、魔法でどうにか出来ないのかな、あの書類。

 ん?...あれ?なんか出来そうな気がするぞ?
 パソコンにそういう、アプリみたいな、なんだっけ、ソフト?そういうのあったよね?

 じゃあそれを元に考えて、魔力で画面みたいなの作って、魔力で数字打ち込んで、そしたら勝手に足してくれるように設定したら、出来るんじゃない?
 そしたら後は、私がその数字を書類に写すだけだから、あれ、コレはコレでめんどいのかな?
 印刷されるような魔法があれば...って、あれ、でも賢人の魔法ってイメージだよね?
 つまり、やろうと思ったら出来るんじゃないか?

 そんな思案をしていたら、突然ハゲチラが笑い始めた。

 「...ハッハッハ!...なるほどなるほど!騎士団に息子が居れば内通など簡単じゃないか!やはり貴様は偽物だ!」

 あぁもう、折角考えてたのになんだよ、うるさいな。
 しかもなんか訳分からん納得し始めたし何コイツ。

 内心でそんな事を考えイライラしながら、外見上は気にした風もなく視線だけをハゲチラへと向けていると、息子さんが真面目な顔で口を開いた。

 「.........父上、この頭髪の貧しい方は頭の中も貧しいのですか?」

 ちょ、うん、ごめん、ちょっと待って


 良し、オッケー、大丈夫、落ち着け私。


 ...あーびっくりした、噴き出すかと思った。

 突然何を言い出すかと思えば、息子さんたらとても真剣に毒舌吐くんだもん。
 オーギュストさんの腹筋を試そうとしてるのか息子さんてば。

 とりあえず、まだイライラが残ってる私も便乗して毒を吐いておこう。

 「どうやらそうらしい。公爵家長男は王国騎士団の団長、というのが世間一般的な情報だと思っていたのだがな」

 記憶で検索したら、国を上げての任命式典とかやってたみたいだし、殆どの国民が知ってる常識っぽいよ、これ。

 「なっ、何を言っている?」

 無様にも動揺を隠さず、視線をあっちこっちにさ迷わせながら、どもるハゲチラ。

 ...つーか今思ったんだけど、こんだけ特徴ある頭してたら、オーギュストさんの記憶検索したらすぐ出てくるんじゃね?
 あ、うん、出たわ。
 なんか考えた瞬間ソッコーで出たわ。
 “すぐ出てくるんじゃね?”の“じゃ”と“ね?”の間くらいのスピードで出て来たわ。

 えーっと、なになに?

 ノルド・ロードリエス上級伯爵
 この国で、腐った貴族として真っ先に槍玉に挙げられる代表格と言っても過言では無い男。
 元平民で、新興貴族としてここ10年で力を付けて来たらしい。
 裏で麻薬密売や人身売買など多岐に渡って悪事に手を染めているようだが、証拠が一切無い為、どうやら後ろに厄介な輩が付いているらしい事が分かる。

 という事らしいですよ、うん。
 一つ良いかな?

 ......またお前か!

 つーか、記憶辿ったら会った事あるし、なんなら仲良く談笑してるじゃんオーギュストさんと。
 奥さんが胸痛に悩んでるとか、領地の作物の育ちが悪いとか、めっちゃ普通の会話してんじゃん。

 「ふむ、貴殿には見覚えが無くとも、私は君を覚えているよ、ノルド・ロードリエス上級伯爵」

 「へっ?」

 わあ、めっちゃ間抜け顔。

 「あぁ、そうだ、以前相談を受けた奥方のご病気だが、あの病は精神的なものが原因だよ。
 少しでも心穏やかに過ごせるように取り計らうだけで改善する事だろう」

 胸痛って多分胃痛だと思うよ。
 旦那が悪事に手を染めているとかストレス以外の何でもないだろ。

 「なっ、えっ、はっ?」

 訳が分からず目をぱちぱちさせながら、挙動不審に戸惑うハゲチラが、とても無様である。

 そろそろトドメ刺しとくかな!

 「...挨拶も無い上に名乗りもせず、一方的に妄言を並べ立て、他者を貶めようとする。
 ここまで無礼で、愚かとは...、貴殿とは友人だと思っていたのだが違ったようだ。
 今後一切、私に関わらないでくれたまえ」

 「えっ、えっ?」

 まだ状況が把握出来ていないらしく、ハゲチラは不思議そうな声を発する。

 自分が何をしてしまったのか、理解したくないのかもしれないが、しかし無様だ。

 「父上、そろそろ陛下が来られます、こちらへどうぞ」
 「む、そうか」

 息子さんの呼び掛けで踵を返そうとすると、ハゲチラが焦ったように声を掛けて来た。

 「な、え、待って!待って、下さい!では、貴方は...!?」

 「何故名乗ってもいない輩に名乗らなければならないのか不明だが、まあ、良いだろう。
 私が、オーギュスト・ヴェルシュタイン公爵家当主、本人だが?」

 キッパリと名乗りを言い切ると、ハゲチラは蒼白と言えそうなくらいにまで顔色が悪くなった。

 「な...!ああ!も、申し訳ありませんでした!どうか、どうかお許しを!」

 懇願、に近いだろうか。
 ようやく自分のしてしまった事に気付いて、謝罪するハゲチラ。

 だが、基本的に自分よりも地位が高い者には、向こうから声を掛けられるまで話してはならないし話し掛けてはならない。
 但し向こうから話し掛けられたら、地位の低い方が先に名乗り、挨拶するのが貴族の基本的な礼儀なのである。

 ハゲチラは、何もかもすっ飛ばし、更にオーギュストさんを馬鹿にした。

 場合によっては極刑ものである。

 だけど、まあ、私がこのオッサンを刑に処するとかどう頑張っても無理なので、とりあえずこの場に居る全ての人に、コイツとはもう関係無いですよー!と宣言するだけにしよう。

 えーっと、よし、このセリフで行くか。

 「今後は一切関わるな、私が貴殿に望むのはそれだけだ」

 見下すような蔑んだ視線を心掛けながらキッパリと言い放つ。
 すると、ハゲチラが無様にもまだ言い募り始めた。

 「そんな!どうかお慈悲を!このままでは当家は!」

 えぇえ。めんどくさいなこのオッサン。

 「...ふん、知らんな。身から出た錆だ、己で解決したまえ」

 言ってから思ったけど、なんかどっちが悪役か分からんねコレ。
 いや、確実に向こうが悪いんだよ?
 私全く悪くないですから。

 冷静にそんな事を考えていたその時、ハゲチラは口惜しげに私を睨み付けたかと思えば、そのままビシッと指を差して来た。

 「......っ......私が潰れれば、公爵家とてただではすみませんぞ!宜しいのか!?」


 うん?何言ってんのコイツ。


 「......どうにでもなるが?」

 「なっ...!?私を裏切ると!?」

 動揺でかパクパクと口を開いたり閉じたりするハゲチラが、とてつもなく間抜けである。

 あっれー、おかしいなー?

 「裏切るも何も、私は貴殿に融資、つまり、金銭をやっただけだ。他は何もしていない。
 理由も領地改革の為、だっただろう?
 正当な融資理由ではないか。何の問題があるというのかね?」

 記憶を辿っても、書類にはそんな融資理由しか無かったですけどー?

 色んな所の目を誤魔化す為の嘘臭い建前だったとしても、そう書いてあったんだから、裏切るも何も無いよねー?

 「な......!」

 絶句するハゲチラを放置するように、今度こそ背を向けると、息子さんに声を掛けた。

 「...ふむ、ミカエリス」
 「何でしょう、父上」

 「この際だ、本日の件を陛下にお伝えしようかと思うのだが」

 「ああ、それは良い事だと思います」

 良い笑顔で同意する息子さんを連れ、歩き出すと背後から無様な喚き声が聞こえて来た。

 「そんな!それだけは!どうかそれだけはお止め下さい!お願いです!」

 「ふん、自業自得だ、ミカエリス」

 ちょっとこの人どうにかならない?とばかりに息子さんに声を掛けると、息子さんは何処か誇らしげに頷いた。

 「はい、父上。
 第一部隊長!ロードリエス伯爵はお帰りされるそうだ、送って差し上げろ」
 「はっ!」

 息子さんの指示で現れた兵士によって、ハゲチラは引き摺られるように無様に喚きながらの退場となったのだった。



 あー!すっっきりしたーっ!!







 「......父上」
 「なんだ」

 カツンカツンと、ブーツの靴音が響く大理石っぽい床を、息子さんに付いて行くように歩みを進めていると、なんか不意に声を掛けられたので、とりあえず簡単に応える。

 「伯爵の件ですが、本当に宜しいのですか?」

 ちらりと、視線だけをこちらに向けて来る息子さん。
 声音は、なんだか何処か心配そうだ。

 「...お前が気にする必要は無い」

 これは私が勝手にやった事だから、気にしなくて良いのよ?という気持ちを込めてみたが、オーギュストさんの演技をしながらだから、多分全く伝わって無いだろう。

 「いえ、そうは参りません。父上を支えると、ついこの間言ったばかりですから」

 「......そうか」

 意志の硬そうな息子さんに、それだけを返す。

 息子さんも息子さんの仕事があるだろうに、なんか無駄な心配を掛けてしまって申し訳無い限りである。

 「...あのまま放置すれば、ヴェルシュタイン家にとって不都合となるのでは?」
 「...ならば聞くが、その不都合とはどういったものだ?」
 「......悪評高きロードリエス伯爵の事です、きっとあらゆる伝手を使ってヴェルシュタイン領に圧力を掛けて来るのでは?」

 あー、なるほど。
 領地の方に色々してくる可能性がある訳か。

 「ふむ、当家は既に悪評高くなっているが、それでも王家に次ぐ権力を持っている。
 それさえも無視して圧力を掛ける事に協力する者が居る、という事か」
 「.........はい、残念ながら、ヴェルシュタイン家は他家に侮られて居ますので、そうなっても仕方ないかと」

 「...やはり12年は長い月日だったか...」

 早い所領地に行くべきなんだろうな。
 知識ではオーギュストさんの生まれ育った実家があるみたいだし。

 領地に領主がちゃんと居て、ちゃんと統治してれば何があっても対応取りやすいしね。
 うん、統治って何すれば良いか分からんのが一番の問題だけどな!

 「...何か良い手があれば良いんですが...」

 「...ふむ」
 「あ、父上、どうぞ此方で私とお待ち下さい。時間通りならそろそろ陛下が参られます」
 「分かった」

 その三秒後、楽団による演奏が止まり、トランペットみたいな、ラッパみたいな、なんかそんな感じの音がメインの、なんか壮大な音楽と共に、近くの扉が開いた。

 そして、正に王様!といった格好の、オーギュストさんと同じ歳位の男性が、同じ歳位の、美人な、おば、いや、お姉さんを伴って姿を見せた。

 その時、一瞬だけ王様と目が合ったような気がしたけど、気のせいだったかもしれない。

 「シュタイルハング・ヴェレ・ルナミリア国王、万歳!」
 「万歳!」

 会場のあちらこちらから、そんな感じの万歳の言葉が聞こえて来る。

 この国の王様、そんな名前だったんだね。
 めっちゃカッコいい名前だなあ。

 そんな中を優雅に、そして堂々と歩く王様達は、一段上がったステージみたいな場所の、豪華な椅子の前で足を止め、周りを見回した。

 万歳の言葉が響く中、不意に王様が手を上げると、辺りが一気に静かになる。

 「シュタイルハング・ヴェレ・ルナミリアである!建国記念日を明日に控えた今日、良く集まってくれた!さあ、挨拶はここまでだ、皆、三日間楽しんでくれ!
 ルナミリア王国に栄光あれ!」

 途端に、わあっ!、という歓声が会場を包み、ルナミリア王国に栄光あれ!と繰り返す。
 なんと言うか、芸能人を前にした熱狂に近いかもしれない。

 流石は王様、といった所だろうか。

 そんな事を呑気に考えた次の瞬間だった。
 今度は気のせいだなんて思えない位に、ガッツリと、王様と目が合った。

 そして、何故か王様が両手を広げながら早歩きでこちらへ向かって歩いて来る。
 次の瞬間には、王様の早歩きは駆け足になり、そしてダッシュになった。

 訳が分からないままに困惑していたのだが、私に向かってダッシュしながら突っ込んで来る王様に、何故か反射的に体が動いた。

 強いて言うなら、ガシッ、という効果音が最適だろうか。

 うん。

 王様の顔面を片手で思いっ切り掴んでました。


 ...どうしてこうなった!!! 



 

「ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く