ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~

藤原都斗

27

 



 前回のあらすじ。

 寝てたら突然目が覚めて、メイドさんに夜這い掛けられてました。

 .........うん、そうだね、訳が分からないね。

 とにかく、状況を詳しく確認しよう。
 今さっき、多分だけど、人の気配を察知して、起きてしまったんだと思う。
 今の時間は分からんけど、まあ、きっと夜中だろう。

 そんで、何事かと思って起き上がろうとしたら、女の子が私の上に乗っかっていました。

 なうです。

 いっそ、跨っている、って表現でも大差無いと思う。
 見る限り17とかそこら辺ぽいから、少女にしとこうか。良いよね少女で。
 あと、さっき熱い告白なんかもされちゃってましたね。
 ヤダー!オーギュストさんたらモッテモテー!流石はイケてるオジサマだよね!

 ......うん、何がどうしてこうなったんだろう。

 ていうか、一個良いかな。

 「...私と君は初対面ではないかね?」

 つまりは、どちら様ですか?っていう。
 会った事、無いよね?、私知らんよ、こんな子。

 「旦那様にとって、私なんて路傍の石と同じって事は理解してます。
 でも、一昨日、私達の前にお姿を見せて下さった時に、私は、旦那様に一目で心を奪われてしまったんです...!」

 私の問い掛けに瞳をうるうると涙で震わせながら、切々と答える地味そうな外見の眼鏡の少女。

 そんな事を語る前にとりあえず退いて欲しいんだけど、目的を考えるとそうもいかないんだろう。
 こちらとしても安易に振り払ってしまった場合、針子さんで想像した時同様に、オーギュストさんのスペックじゃもしかしたら死んじゃうかもしれない。
 ので、何も出来ない。

 あれ、また詰んでる。

 いや、うん、まあ、とりあえず置いとこう。

 ...しかし、一昨日っていうと、使用人全員集めた時か?、それ以外無いよね。
 という事は、この子は使用人なんだろう。
 メイド服着てるし、きっとメイドだ。
 オーギュストさんの好きな金髪と、青い、目......うん?なんか違和感。
 眼鏡?眼鏡のせいかな...。

 それは今は良いや、置いとこう。

 しっかし、一目惚れ、ねえ...?

 「自分が一体何を言っているか、理解しているかね?」

 「...っはい、お願いです、どうか、一夜の夢を、私に...っ!」

 私の言葉に応え、懇願するようにそう言ったかと思えば、少女は胸を強調するように自分の二の腕で、服の上からでも分かる自己主張の激しいそれを押し上げ、自分の太腿を私に見せるようにとメイド服のスカートを自らの手でずらして行く。

 ...いやはや、随分と積極的ですね。
 うん、なんも思わんけど。
 どっちかって言ったら、若干気持ち悪い。

 だって私、そんな趣味無いし。

 まあ、その辺の男ならこんな状況据え膳なんとやらで、直ぐ様某怪盗3世ダイブだろうけど、なんていうか、無理。
 どうやら私は、同性愛に偏見は無いけど、自分に降りかかったら嫌だ、と感じるタイプのようです。
 他人がやる分には好きにしたら良いと思うよ!

 まあ、外見はオジサマで中身は女の子な訳だし、男女どっちに転んでも結果として同性愛になるんだよね。

 どう考えても恋愛など無理である。
 なにこれ、かなしい。

 うん、なんかもうどうしようもないのでとりあえず、亡くした妻を忘れられない設定で生きていこうと思います。
 いつか、何もかもどうでもいい、ってくらい好きな人が出来たら良いなあとは思うけど、この嫌悪感とか考えると無理っぽいわ。

 まあ、それよりもだ。

 この子どうしよう。

 自分の上に乗っかった少女をぼんやりと眺める。

 「あ、あの...?」

 色仕掛けにも無反応な私に、若干困惑気味の少女を何気無くじっと見詰めていると、彼女は頬を赤らめ、此方を伺うように私を見詰めた。

 ...うん。

 「違和感しか感じないな」

 「えっ」

 サラッと呟いた私の言葉に、少女が虚を衝かれたかのような、呟きにも似た驚きの声を発して固まる。

 いや、だって、ねえ。

 さっき私が彼女を見詰めた時に顔を赤らめたのは、素であったように感じた。

 だけど、私を頑張って誘惑している筈の目の前の少女は、私には全く、必死に見えなかった。
 イコール、違和感。

 「君は余程己の身体が自慢なんだろう。だが、それではダメだ」

 確かに胸は大きいと思うよ、メイド服着ててもデカイって分かるくらいだもん。FとDの間くらいかな?
 ちゃんとした下着(現代日本製)を着けたらFくらいかもしれない。
 太腿も程良く肉が付いてて柔らかそうだね。
 肌もきめ細やかに見えるから、とても触り心地が良さそうだ。

 だけど、それだけ。

 「えっと、あの、旦那様?」
 「地味なら地味そうに振るまいたまえ。君のような外見の少女が、こんなに堂々と夜這いに来るなどあり得ない、しかも妙に慣れているだろう」

 なんかさ、中途半端なグラビアアイドルのプロモーション映像にソックリなんだよね、行動が。
 地味っぽい女の子の行動じゃないよそれ、どう考えても。

 「地味な少女が、実はいやらしい、という予想外さを演出したかったのだろうが、それならもっと必死に誘惑して来る筈だ」

 本気かそうじゃないかくらい、現役演技派女優である私に掛かれば、すぐに分かる。

 まあ、女の子という生き物は基本的に自分以外の女の子を見る目が厳しいんだから、看破出来るのは当たり前と言えば当たり前であったりするのだが、それを差し置いても違和感が酷い。

 「襲われて当たり前、とでも思っていたのかね?その外見では無理があるな」

 若い子特有の初々しさが、無い。
 恥じらいも、戸惑いも、本来ならヒシヒシと感じている筈の背徳感も、それらがごちゃまぜになったような雰囲気も、まるで無い。

 「それに、なんだその取ってつけたような理由は。
 その地味さで、胸に秘める事もせず、たった二日でそんな考えに陥る少女が存在すると?
 あり得るとすれば、恐喝されている、結婚したくない相手が居るなど、余程切迫した状況だけだな。
 ならばやはり、もっと必死になる筈だ」

 早い話が、物凄くわざとらしいのです。

 「大体、君が強調したかったのはなんだね?胸か?それとも脚か?両方ではなくどちらかにしたまえ。
 ああ、なるほど、動揺を誘いたかったのかね?ならばやはり詰めが甘いな」

 分析してたらなんかもう、余計な痛々しさを感じて来た。
 年増が無理して若い子を演じているとか、何かを狙おうとして出来てないとか、見当違いの勘違いをしてそれを知らないまま誤魔化そうとしているとか、そういう感じのやつ。

 後は、ぶりっ子とか、養殖天然っ子とか、なんかそんなのを見てしまった時みたいな。
 なんでそんなん見てたかというと、役作りの為ですが何か。

 グラビアアイドルのプロモーション映像って、そういうよく分からない痛々しさがあるんだよね...。
 男はこういうの分からないかな?
 あ、キザったらしい行動の男だったら男も私と同じような感じ受けるんじゃないだろうか。
 知らんけど。

 ともかく、そんなこんなでこの少女には言ってやりたい事が盛り沢山な訳なので、色々と言ってる訳です。

 ふるふると肩を震わせ、俯いてしまった少女。
 眼鏡の反射と前髪のせいでか表情が読めなくなってしまったが、私は気にしなかった。
 泣くなら泣けば良いよ。

 まあ、そんな風には全く見えないんだけど。
 泣きそうな人間特有の呼吸じゃないし、力の入れ具合も違う。
 オーギュストさんのスペックなら呼吸とかそんなの容易に理解出来るし、現役演技派女優の観察眼を持ってすれば、看破も容易い。

 まあ、こんなんで泣くような女じゃなさそうだし、畳み掛けるとしよう。

 「誘惑するなら順番で魅せていくのが一番良い。何故なら、現実味を湧かせる事が出来るからだ。
 基本人間とは順序立てた行動を好む。故に一度に見せてしまえばそれ以上の効果は望めないのだよ」

 これに関してはその辺の男はあんまり気にしないかもしれないけど、この方法が男の本能を刺激する事は自明の理と言っても過言では無いと思う。
 いや、私個人の見解だから過言かもしれない。

 ところで、自明の理、ってこういう使い方で合ってるんだろうか。


 そこでふと、ある事に気付いた。


 そういやなんでこの子、これからアハーンな事に至るかもしれないってのに眼鏡掛けたままなの?

 ...見る限り(今は反射で分からんけど)、そんなに度が入っているような眼鏡には見えなかった。
 となると、無いと何も見えないから、という線は消えた。

 他に何かあるとしたら、えーと、見え過ぎて困るから、丁度良くする為に掛けてるとか?
 ......いや、なんか違うな。

 それならこの子の目が私にきちんと見えてたというのが不自然だ。

 だって、それらを可能にするのは、必要以上に度が高いか低いか、どちらかなんだから。

 どう見たって、テンパって外し忘れてる、という訳でも無い。

 物凄く不自然だ。

 初対面の女の子をなんでこんなに疑ってるのかって?
 そりゃ、突然夜這いに来るようなビッチ、これっぽっちも信用出来ないからだよ!

 こういう子は他人の恋人を欲しがったり、カップルが破局するのを見て楽しんでたり、とにかくクセがあるに決まってる。
 偏見かもしれないけど、仕方ないじゃん!この子めっちゃ怪しいんだもん!

 女の子に恥かかせるもんじゃないとかどうでもいいわ、だって私も女の子だし。

 知ったこっちゃねぇですよ。
 むしろ恥かけば良い。

 「何度でも言おう、君に対しては違和感しか感じない」

 煽るようにキッパリと言い放つと、突如として目の前の少女の雰囲気が一変した。

 「...っ...素直にワタシを襲ってくれれば楽だったのに、何?説教?自分の体をどう使おうとワタシの勝手でしょ?」

 金属とガラスが擦れたのか、カチャリと小さな音を立て、堂々とそんな事を宣いながら、眼鏡を外し、鋭い視線で私を睨み付ける少女。
 途端に、ずっと感じていた違和感の正体が判明した。

 彼女の、眼鏡を外す前までは金に見えていた血のように紅い髪がふわりと翻り、そして同じような色彩の、青に見えていた紅い瞳が、じっと見ていた私を捉えている。

 さっきまでのおどおどとした気弱そうな雰囲気は消え去り、代わりに不遜な態度の、少女というよりは女性に近くなった彼女は紅を引いたような赤い唇が印象的だった。

 はい本性出ましたー!
 なんか案の定ビッチそうだわこの子。

 ...しかし、眼鏡取ったら髪の色も瞳の色も変わるとか、一体どんな手品を、ああ、そっか、あの眼鏡、変装用の魔道具か。
 ......いやちょっと待って魔道具って何だっけ?

 疑問の中ふと湧いた直感に、やっぱり疑問が湧いてしまったのは仕方ないと思う。
 気になったのが二回目だし、知らないままってのはなんか気持ち悪いので、とりあえず知識に検索を掛けると、すぐに答えが出た。

 ・魔道具
 持ち主の魔力を使って擬似的に魔法を発動させる事が出来る道具の総称。めっちゃ高い。

 ...............なるほど、分からん。
 とりあえず高い事は分かったけどそれだけだ。

 ......うん、まあ良いや今はスルーしよう。

 変装してたし、誘惑して来たし、もうコレはクロだよね。
 とりあえず、煽るだけ煽って、情報収集と行きますか。

 「だから君は詰めが甘いのだよ、もう少し勿体ぶりたまえ。ホイホイと身体を他人に差し出すなど売女の仕事だ。
 他人には見せない、己の前でだけ、という特別感が圧倒的に足りない」

 うん、言ってて思ったんだけど私何様のつもりなんだろう。

 「っな、売女ですって...!?」
 「先程の君の振る舞いは正にソレだったが?詰めも甘ければ演技も甘いな」

 凄いねオーギュストさん、するすると相手の怒りを煽る言葉が出て来るよ。

 まあ、結局めっちゃビッチでした、ありがとうございました。

 あれ?売女ってビッチで合ってるんだろうか。
 まあどっちでも良いとは思うけど。

 「言わせておけば...!」
 「ほう?」

 魔力を身体に纏わせて、私に何かをしようとしたらしい彼女をサッと振り払い、床に叩き落とす。
 自分でも何をしたのか速過ぎてよく分からないけど、結果として退かす事が出来たから良しとしたい。
 ついでに、逃げられないように魔力を彼女に向けて放射してみた。

 ちなみにこの間、1秒にも満たない。

 なんでそんな事をしたかというと、オーギュストさんの知識から捕える為にはこの方法が一番効果的と有ったからである。
 理由とかは知らないし、よく分からない。
 なんかもう面倒なので放置です。

 「ぅあっ!」

 苦しそうな声で呻く少女を見下ろしながら、ベッドから降りた。
 俯せで床に這い蹲りながら、何処か悔しそうに、下から私を睨む紅い髪の少女。

 少女って呼んでるけど、多分この子、外見通りの年齢じゃないと思う。
 なんで分かるかって?女の勘だよ!
 外見オジサマだけどな!


 「.........なんだ、こんなものか?」

 更に煽るように暴言を吐いてみたら、少女の紅い目は更に鋭く細められた。

 「何なの、アナタ...!」

 うん、何なのって言われてもなあ、私も良く分かってないんだからどうしようもないよね。
 ホントに賢人って、何なんだろうね。

 まあ、分かんないものはどうしようもないのでスルーしとこうと思います。

 「それは此方のセリフだな。何処の手の者だ?」

 殺すのは得策じゃないから、さっさと情報を吐いて貰おう。

 殺したくないから後回し、とも言うけど、覚悟も余裕も無いんだから仕方ないよね!

 まあ、ビッチに容赦は必要無いと思うので、死なない程度に暴力は振るう予定です。
 暴力なんて子供の頃に近所のクソガキとやったケンカくらいしか経験無いけど、オーギュストさんのスペックで考えるとむしろその位が良いのかもしれない。
 手加減マシマシじゃないと多分死んじゃう。

 「...っなんで言わなきゃならないの」
 「ふむ、そうか、余り女性を傷付けたくないのだがな」

 反抗的だったので、仕方なくその華奢な背に軽く足を乗せ、ゆっくりと体重を掛けたら


 「あっ、ああぁんっ!」


 嬌声が上がった。


 ・嬌声
 喘ぎ声。または女性のなめまかしい声。

 思わず脳内知識で検索してしまったけど、うん。


 いや、待って待って待って、なんで?


 「.........何だ今の声は」
 「...っ、ハァ、ん、っ」

 なんか、アダルティな声が聞こえるんですけど何コレ。

 「痛い思いをさせている筈だが?」
 「...っ、えぇ、痛いわ...」

 ハア、なんて熱い吐息を吐き、うっとりと私を見上げる彼女は、そりゃもう扇情的なんだけどさ、でもね。

 私、踏んでるだけなんですが。

 「ならば何故艶のある声を出す?」
 「っ、アナタが、悪いのよ」

 私の動揺を誘う為の演技、という線も可能性として完全には捨て切れないので、言葉の続きを促してみる。

 「ふむ、何が言いたい?」
 「そんな、そんな冷たい目でワタシを嬲って、ああっ、もう、ヤダ、ダメっ」

 頬を上気させながら身体をくねらせ、興奮したように荒い息を吐き始める彼女。


 .........うん。


 「あっ、その蔑んだ目、イイ...っ!」

 私の視線に気付いた途端、何処か嬉しそうに、そして恍惚とし始める彼女に、ドン引きした。



 

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