ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~

藤原都斗

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 「ふむ、だがクリスティア、君が望むなら、本当に好いた者と結婚しても構わないと思うよ」

 空に昇っていた太陽が夕陽へと変わろうとしていく頃、姪っ子ちゃんに視線を送りながら、そう言ってみた。

 すると、キョトンとした顔で私を見る姪っ子ちゃん。

 まだ太陽はオレンジ色にすらなってないんだけど、なんていうのかな、現代で言う夕方になる前、夏の三時半とか、ほぼ昼と変わらないけどあと少しで夕方が来る、そんな頃である。

 駆け落ちとか、しても良いんだよ。
 だって憧れるよね、そういうの。とか思いながらの問いだったのだが
 しかし、当の姪っ子ちゃんはふるふると、首を横に振った。

 「そうはまいりませんわ、一族の顔に泥を塗るようなマネ、わたくしにはできませんもの」

 なんか真剣なお顔で否定されてしまいました。残念。

 ...女の子なんだから、少しくらいは夢見たって良いと思うんだけどなあ。
 まあ、でも、姪っ子ちゃんらしい、のかな。

 オーギュストさんの記憶は、プライベートだからあんまり詮索するつもりが無い、ので、姪っ子ちゃんの性格はまだイマイチ分かっていない。
 いや、さっきしたじゃん、ってツッコミはナシの方向で。
 あれは過去のオーギュストさんが悪い。

 ...しっかしなー。

 「...頑固な所は一体誰に似たのだろうね」

 この歳でそこまで貴族であろうとする必要無いと思うんだけど。

 「まあ!貴族らしいとおっしゃってくださいませ」
 「そうだな、良くも悪くも貴族らしい」

 子供なんだからもっと素直になって良いのに。

 ねえ、皆さんも思いません?
 だってこんなに可愛いんだよ?
 子供時代なんて今だけなんだよ?

 ...いや、待て、私誰に問いかけてんだ。
 うん、ちょっと落ち着こうか。

 「もう!ひどいわ、おじさまったら。
 あ...ところでおじさま、その膨大な魔力は一体どうなされたの?」

 拗ねたみたいに軽く頬を膨らませる姪っ子ちゃんが無駄に可愛いぞなんだこれ、美幼女は特だな、とか思って居たら、突然の質問に内心だけで面食らってしまった。

 えっ、魔力って他人からも分かるモノなんだ?
 いや、でもそうか、私が姪っ子ちゃんの魔力が分かるんだから、姪っ子ちゃんだって分かるかも知れないよね。
 オーギュストさんの能力とかそんなんかと思ってたわ。

 となると、これからは他人から見える魔力を少し隠蔽した方が良いような気がして来たぞ。
 あれ、でも周りにめっちゃ強い奴居るよ!って示せて好都合なのかな?
 ...あかん、何が正解か分からん、後で執事さんに相談しよう。そうしよう。

 とりあえず今は姪っ子ちゃんの質問に答える事にする。

 「...あぁ、これかね。どうやら私は一度死んだらしくてね。
 賢人となってしまったらしい」

 「......けん、じん?」

 告げた瞬間、ポカーンと、なんとも可愛らしく間抜けな表情で固まる姪っ子ちゃん。
 どうしようこの子可愛いなオイ。

 「どうかしたかね?」

 呼び掛けた瞬間、我に返った姪っ子ちゃんは、大興奮してものすごい勢いで捲し立て始めた。

 「まぁ...!なんてこと!なんて、なんて喜ばしいことでしょう!おじさまが!賢人!素晴らしいわ!」

 お、おう。
 そこまではしゃがれるとリアクションに困るな、どうしよう。
 ここは冷静に返しておくべきか?
 まあ、オーギュストさんのキャラを崩壊させる訳にも行かないしね。
 よし、冷静に冷静に。

 「そうかね?歳を取れなくなったのは少し残念なんだが」
 「あ...、もうしわけありません、おじさまのお気持ちも考えず...」

 結果、なんかめっちゃしょんぼりされてしまった。

 あれー、失敗したかな。
 仕方ない、ちょっとフォローしとこう。

 「...そんなに気にせずとも良いよ、私も不用意な発言をしてしまった。
 許してくれるかね?」

 「そんな!おじさまは悪くありませんわ!」
 「そう言って貰えるとは光栄だ。我が一族の姫はよほど寛大と見える」

 「まあ、おじさまったら...」

 私の言葉でか、さっきまで泣きそうになっていたのが嘘のように、ぽっ、と頬を赤らめ、その赤く染まった頬を隠すように両頬に手を当てながら、恥ずかしそうに視線を逸らす姪っ子ちゃん。

 なにこの可愛い生き物。

 なんでだろう、私、子供にこんなに好かれた事無いからこんなに可愛く見えるのかな。
 それともオーギュストさんの身体だからそう見えるのかな。
 もしそうだったらオーギュストさんをシバきたいな。うん。

 真剣にそんな事を考えたその時、ふと、姪っ子ちゃんの背後、壁際に控えていた侍女さんが一歩踏み出した。

 「クリスティアお嬢様、そろそろお時間にございます」

 どうやら、タイムリミットらしい。

 あー、そっか。
 まあそうだよね。よその家のお子様だもん。
 お家に帰らなきゃ駄目だよね。

 「まあ!もうそんな時間?嫌だわ、泊まってはダメなの?」

 拗ねたみたいな、納得いかない!というのがありありと分かる表情で、侍女さんに反論する姪っ子ちゃん。

 気持ちは嬉しいけど駄目だと思うよ。

 「そうはおっしゃられましても、奥様がお許しになったのはお見舞いにございます。残念ながら宿泊の許可は出ておりません...」

 何故か物凄く残念そうに眉根を寄せる侍女さん。
 そして、その様子を見てか姪っ子ちゃんは途端に落ち込み始めた。

 「そう...、そうよね。ごめんなさいリーナ。あなただって残念よね」
 「私の事はお気になさらず。宿泊の許可はまた後日もぎ取りましょう、お嬢様」
 「ええ、任せて!」

 張り切った様子で、グッと両手を握り締める姪っ子ちゃん。
 しかもなんかめっちゃ真剣で、決意を新たに旅立とうとする勇者みたいな表情だ。

 ツッコミ入れていいかな

 色々とどうした。

 「それではおじさま、わたくしはこれで失礼させていただきますわね」

 「ふむ、また来たまえ」

 「はい!」

 姪っ子ちゃんは元気なお返事をしたものの、ふと黙り込んで私の背後を見詰め始めた。

 「...どうかしたかね?」

 何?背後になんか居るの?
 幽霊?幽霊って殴れるかな、この身体。
 もし殴れたら最高だよね。

 怖くて振り返れないのを誤魔化す為にそんな事を考えていたら、溜息を吐きながら、姪っ子ちゃんは口を開いた。

 「いえ、執事がうらやましく感じてしまって...、お前はいいわね、おじさまと、いつもいっしょにいられるんですもの」

 あ、そっか、執事さんか私の背後に居たの。
 何だ良かっ......待って、いつの間に背後に来たの?
 さっきは私の視界に入る場所に居たよ?

 えっ、怖い。地味に怖い。

 「こればかりは執事の特権ですので、お譲りする事は出来かねます、申し訳ありません、クリスティアお嬢様」

 背後からドヤ顔してそうな執事さんの声が聞こえるんだけど気のせいかな。

 「まあ!もうしわけないと思うなら、もう少しもうしわけなさそうな顔くらいしたらどうなの」

 あっ、気のせいじゃないっぽい、姪っ子ちゃんが拗ねた。
 リスみたいに頬を膨らませてる可愛い。

 あかん、違う、そうじゃない、落ち着け私。

 「またしても申し訳ありませんお嬢様、これは普段からこの顔なのです」
 「もう!」

 とりあえず止めよう、このままじゃ姪っ子ちゃんが帰れない。

 「これクリスティア、あまりうちの執事を苛めないでくれないか?」
 「あ...ごめんなさい、おじさま」

 「アルフレードも、あまり姫をからかうんじゃない」
 「は、大変失礼致しました」

 よし、何とかなって良かった。

 ...つーかちょいちょいフツーに姪っ子ちゃんの事姫って呼んじゃうんだけど、何コレ。
 口からスルッとそんなキザなセリフ出て来るとかマジなんなの。
 どんだけだよオーギュストさんの阿呆。

 「ではおじさま、なごり惜しいですが、これで」
 「あぁ、気を付けて帰りたまえ」
 「はい!また来ますわ!」

 満面の笑顔の姪っ子ちゃんが抱き付いて来たので、好都合とばかりに頭を撫でておいた。
 物凄くサラサラで猫っ毛で、こういうのを絹みたい、って言うんだろう。
 撫で回したい衝動を抑えるのに必死でした。はい。



 そして、姪っ子ちゃんは馬車でガタゴトと帰って行った。
 見送りくらいしたかったけど、病み上がりを理由にその場解散となりました。
 でも、私賢人だから病み上がりが辛いとかそんなん無い筈なんだけど、もしかして忘れてんのかな?

 まあ、良いか。

 サラッと切り替えて、執事さんの案内の元、執務室へ戻る。

 着いてすぐ、体は座り慣れているのだろうが、私は馴染みの無いその席に腰を降ろして軽く息を吸った。

 さあ、やりますか。

 さっき机の上に置かれてたのは真っ白くて綺麗な紙だったけど、今は昨日散らばっていたのと同じ資料が、綺麗に並べられている。
 誰だか分からんけど、ありがとう。

 まあ、十中八九執事さんだと思うけど。

 いつやったんだ、っていうのは気にしない。
 気にしたら負けだと思う事にした。

 そんな事より昨日の続きだ。
 えーと、ここの数字がコレで、こうなって、よし、覚えてるね。

 オーギュストさんマジぱねぇっす。

 そんな事を考えながら、私は羽ペンを掴んだのだった。







 それから私は、執事さんが夕食に呼びに来るまで、ひたすら書類と格闘した。

 今までの全部だから、12年分を計算し直していく事になる。
 有り難い事に、暦や時間なんかは現代と同じ数え方だから違和感に困る事も無いのが救いだ。
 12✕12、プラスで今年、ついでに全部の政策の見直し、とか考えると結構な量だ。
 時間が掛かってしょうがないけど、やらなきゃいけない事だからね。頑張るしかない。

 ちなみに今日の夕食は、豚肉を胡椒ソースで味付けしたステーキと、根菜の入ったサラダ、ジャガイモっぽい何かのポタージュでした。

 初日と比べるとホントにちゃんと栄養面が考えられた食事で、とても美味しかったです。

 食事を終え、ふう、と一心地ついている時、執事さんが不意に声を掛けて来た。

 「旦那様」
 「どうした」

 なんだなんだ。
 この後また予定があるの?

 視線を向けると、どこか居心地の悪そうな表情が見えたような気がしたけど、それも一瞬。
 次にはさっきまでの表情は嘘だったみたいに、普段と変わらない執事さんが居た。

 マジなんなんだ、と思ったのも束の間、執事さんが口を開きながら、正しかった姿勢を更に正した。

 「捕まえたネズミなんですが...」

 ネズミ?そんなん出たの?
 てゆかわざわざ捕まえたんだ?

 「ふむ、処分したのか」

 「いえ、それが、旦那様と交渉したいと」
 「ほう?」

 えっ、この世界ネズミ喋るの?

 えっ、えっ?、めっちゃファンタジーじゃん!
 やだ見たい!めっちゃ見たい!

 「如何されますか」
 「...ふむ、話してみるか」

 「畏まりました、ご案内致します」
 「あぁ」

 ワクワクしながら席を立つ。

 そのまま執事さんの案内で暫く屋敷の中を歩き回り、入り組んだ廊下を進み辿り着いたのは、地下の薄暗い牢屋でした。

 ネズミならこんな暗い所にいて当たり前だよね、とか考えていたんだけど、檻の中に居たのは、今朝の黒ずくめのオッサンが一人。

 ...ネズミってこっちかい!

 いや、うん、そうだよね!
 そりゃそうだわ!ネズミ喋らないよ!馬鹿だな私!
 ちくしょう恥ずかしくなって来た。

 いや、一人で勝手に勘違いしてただけなんだけどさ。
 なんなら誰にも気付かれてないけどさ!

 でもなんか居た堪れないんだよ、うん。
 ちくしょう。

 「......それで、話とは一体なんだね?此方に益が無ければ、すぐにでも斬って捨ててやろう」

 腹いせとばかりに、檻の中でスマキ状態で転がされている黒ずくめのオッサンへと冷たい声音で言い放つ。

 そうだよ八つ当たりだよ!悪いか!

 ちなみにこのオッサン、顔が分からないように忍者みたいに黒い布で目出し帽みたいな感じに顔を隠している。
 うん、怪しいね。

 「物騒な事言わないでよ、交換条件って言ったら分かる?
 俺を助ける代わりに情報渡すからさ、それで勘弁して欲しいワケよ、駄目?」

 転がったまま緩く首を傾け、オッサンはそう尋ね返して来た。

 ...何コイツ、チャラい。

 声の感じからすると、多分年齢は30代前半、執事さんよりは少し若い感じがするけど、まぁオッサンはオッサンだよね。
 
 つーか、はいそうですか、と情報貰って帰せる訳が無いよ、こんな怪しい人。

 「それだけでは全く対価にならんな、当家はネズミには事欠かない。
 貴様が処分されようと次を持って来れば良いだけだ」

 「まあまあまあそう言わず!俺結構強いし使えるよ?なんならアンタに忠誠誓うからさ!」
 「信じられる要素が何一つ無いな」

 まずはそのチャラさを何とかして頂きたい。
 そんな軽く忠誠誓われても胡散臭いとしか思えないからね。

 「ひっどいなあ、諜報系で“灰銀”って言やあ裏の世界じゃ一番有名だよ?」

 知らんがな。

 「ふむ、その灰銀と貴様が同一である証拠でもあるのか?」

 「...アンタみたいなバケモノ相手に生きてる事が証拠にならない?」

 ほほう。

 「バケモノとは心外だな、よほど処分されたいとみえる」
 「あー!ごめんなさい!今のは失言でした!旦那は賢人並に強いって意味です!悪い意味じゃないよ!」

 体内の魔力を適当にグルグル回しながら言ったら、目に見えて焦った様子で捲し立てるオッサン。
 めちゃくちゃ慌てている。

 あ、どうしよう、なんか楽しくなって来た。

 「そうかね。どうでもいいな」

 グルグル回していた魔力を手の方へと持って行くと、オッサンは更に慌てた。

 「待って待って待って!証拠!証拠だよね!あるよ!ホラ!頭巾!頭巾取って!」

 スマキ状態のせいで自分の顔の布も取れないのだろう、慌てたようにビチビチと身体を跳ねさせて精一杯アピールするオッサン。

 引き上げられたばかりの新鮮な魚のような跳ねっぷりだ。
 この状態でこれだけ元気に跳ねられるんだから、余程身体能力が高いらしい。
 素晴らしい跳ねっぷりだね。

 でもプライド無いのかなこのオッサン。
 いや、めっちゃ面白いけど。




 

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