魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

第34話 託される勝敗


 魔物達は最悪の想定が現実になるかもしれない、とそれぞれ思っていた。
 強大な魔法とその被害状況ひがいじょうきょうを見て今回の襲撃者はヤバいと誰もが思い、それを身をもって感じ取っていた。
 そんな中、マサムネだけはいち早く動きこの村住人である全ての魔物達に何とか迎え撃つ準備を指示した。

 村の魔物達が一丸となって戦闘準備を始める。
 トロルとトレントそれにデビル族は配置について、いつでも魔法を撃てるように準備。ゴーレム、アンデット、ゴブリンそれと先日仲間入りしたオーガ達は魔法が得意とは言えないので接近戦の準備だ。
 オーガ達は先日の襲撃のあと、操っていた術者を倒した事により魅了の魔法から解放された。
 その時にマサムネがスカウトしてこの村の一員となったのだ。

 彼らは武器を持ち待機する。マサムネが即興で考えた作戦はこうだ。
 まず地上戦に持ち込む為に魔法で攻撃を仕掛ける。
 もしも、それが失敗した場合はスパーダが扱える"魔人様と同じ力"で撃ち落とす。
 最初からスパーダの力を使わないのは敵にこちらの最大戦力の手の内をなるべく見せたくないから、それとスパーダの体力温存の為だ。しかし地上戦に持ち込まないとこちらはどうしようもないのでスパーダの力を使ってでも敵を地上に落とす事が優先される。
 地上戦に移ったら先日進化してその力を見せつけたザイル達とスパーダを筆頭に、接近戦に特化している新入りのオーガそれと大量のアンデット達が攻撃を仕掛ける。ゴブリンは槍と弓で後方から遠距離攻撃による支援だ。
 トロル、トレント、デビル族は後方から魔法による支援。
 スライム達は魔法も接近戦も一応可能であるのに加え、一部のスライムは魔力と体力の回復を行えるので全体的にまんべんなく配置してもらっている。

「とりあえず虫は片付いたな」

「まぁこの程度朝飯前よ」

「あっ、あそこ!あれが目的地じゃない?」

「そうそう、あそこだ。おお!!色んな種類の魔物がウジャウジャいるな」

「確かに凄い数ね」

「あ、あれってオーガじゃない?あんな集団でいるの珍しい!」

 上空を飛んでるドラゴンが少し高度を落とした事で、そのドラゴンの上に乗っている3体の人間が確認できた。
 何やら言葉を発しているようだが、例え聞こえたとしても魔物達にその言葉は理解できない。
 リックの魔法を使えば人間の言葉も解るようになるが、今こんな状況でそんな事をする必要は皆無かいむだ。

「うーん。どれも一度は見たことある奴ばかりだな」

「そうね。この中でギリギリ私達の相手になるのはオーガとあのリビングデッドだけじゃない?」

「闇属性の魔法を使った魔物はどいつだ?見たところ可能性があるのはリビングデッドだけど・・・」

 まだ言葉を発しているようだが魔物達が呑気のんきに待つ必要はない。
 マサムネは作戦開始の合図として自分の体を大きく揺らした。

 パブル達トロルの魔法《切り裂く波動/スラッシュ・サージ》
 ダスト達デビル族の魔法《重力の爆弾/グラビティ・ボム》
 ジャック達トレントの魔法《木の葉の槍/リーフランス・ショット》
 が、それぞれ発動。

 切断属性を持った衝撃波、重力を固めたの球体、葉が集まって出来た槍。
 三種類の魔法が、3つの種族の数十体の魔物から一斉に放たれる。その量は尋常じんじょうではなく、まさに弾幕だんまくだ。それらが全て敵の足であるドラゴン1体に向かっていく。

「うぉぉおい!魔法を撃ってきたぞ!」

 ドラゴンに乗っている男が魔物達の魔法攻撃に驚く。
 恐らく彼らもこんな量の魔法攻撃を受ける経験は初めてなのだろう。
 乗っているドラゴンの方も鳴き声を上げて驚いている。

「任せて!《魔法限定防御壁/マジック・シールド》!」

 とっさにアユミが防御魔法を唱えた。
 薄い緑色のまくが円形に広がっていきドラゴンを包み込むように展開される。
 魔物達からドラゴンに向けて放たれた攻撃魔法はその薄い緑色の膜に当たると四散しさんしてしまった。

 《魔法限定防御壁/マジック・シールド》は接触した魔法を形成している魔力の状態に強制的に再変換させる事で魔法を無力化し防ぐ事が出来る魔法だ。物理攻撃には意味がないが、魔法攻撃なら問題なく防げる。
 この魔法の取得ランクはC。魔法の中では中位クラスだ。
 といってもこの魔法には欠点があり防げる魔法の量というか、四散させる事が出来る魔力量が決まっているのだ。
 つまりこの魔法の許容範囲を越えるほど強大な魔法や数多くの魔法を受けてしまう、この魔法は突破される。基本的に上位の魔法や上位の魔法でなくとも多くの魔法連発されると防ぎ切れないのだ。その為、取得ランクがCといった中位クラスとなっている。

 そんな欠点がある魔法だが、アユミには防御魔法を強化するスキルが存在する。
 スキル《防御魔法上昇/ガーディアン・ライズ》のお陰で、この魔法は欠点を事実上克服。
 元々の必要魔力量も少なく、攻撃魔法をほとんど防ぐ事が出来る最高の防御魔法に化けた。

「おおおおお!すっごぉい!!私、こんな量の魔法を受けたの初めてだよ!」

 アユミは《魔法限定防御壁/マジック・シールド》に当たって四散していく魔法を見て笑みを浮かべている。3種類の魔法が霧状の粒に四散していくのは確かにどこか幻想的な美しさがある。
 その光景にイツキはあまり興味を引かれてないようだが、メグミの方はアユミの言ってる事に頷きながら四散していく魔法を眺めていた。
 やがて魔物達が放った全て攻撃魔法は、1つの防御魔法に完全に防がれた。

「終わったかな?」

「まだ、わからないぞ?一応そのまま展開しておけ」

「ほーい」

 マヌケな返事を返すアユミ。
 だが、イツキの言うとおりまだ魔物達の攻撃は終了していない。

 攻撃魔法で撃ち落とせなかった場合の事は既に考えてあるのだ。
 魔物側からしたら現時点での最高戦力であるスパーダの手の内は少しでも見せたくないが、こちらの魔法が通じなかったのだから仕方ない。
 まずは敵を撃ち落としてこちらの戦場に引きずり込まなくては、こちらの手の届かない所からダニー達を蹂躙じゅうりんしたような大規模な魔法で一方的にやられてしまう。
 ここは何としてでも、地面に足を着けさせなければいけないのだ。

 魔法が通じなかったのを確認すると直ぐ様マサムネが体を大きく揺らし、合図を出す。
 スパーダは合図を確認すると刀に殺気を込める。
 そして、殺気による飛ぶ斬撃を放った。

「そうか!?闇属性の魔法を使えるのはあのリビングデッドだったのか!」

 リビングデッドが放った攻撃を見て、3人は呑気に闇属性魔法の使用者の答え合わせを行っていた。
 攻撃魔法が飛んで来ているが3人と一匹は余裕を見せている。それはアユミの防御魔法《魔法限定防御壁/マジック・シールド》がまだ展開し続けているからだ。
 アユミが仲間になってから3ヶ月しか共にしてないが、2人はアユミ自身を信頼しているしその実力もよく理解している。だからこその余裕であった。

 そのため、彼らは心底驚いた。
 その攻撃がアユミの《魔法限定防御壁/マジック・シールド》を突破して、ドライグに直撃した事に。

「なにぃぃぃ!!?」

「うそ!?」

「なんでぇ!?」

 ドライグは切断こそされてないが深い切り傷を負い、意識を失った。
 翼を広げて飛ぶ行為ができなくなったドライグは3人と共に、重力にという力に従い落下していく。その光景は皮肉にも、先程彼らが殺したギリガル・ビートルと同じ状態だった。
 落下したイツキ達は持ち前の異常な身体能力を発揮し、なんとか無事に着地。ドライグは先に着地したイツキが地面に激突しないように受け止めた。

「野郎ぉ!よくもドライグを!!」

 イツキが怒りの言葉を口にする。
 イツキは受け止めたドライグを地面に優しく下ろす。するとすぐにアユミがドライグに触れてスキルである《状態異常付与/バリエーション・ギフト》を使用した。
 ドライグに付与した、状態異常は[麻痺]と[定期的体力回復リジェネ]だ。
 麻痺は痛みを感じさせなくするために付与した。
 回復魔法ではなく、状態異常で定期的体力回復リジェネを付与した理由はスキルは魔力を使わないからだ。
 このあとの戦闘の事を考えて念のため定期的体力回復リジェネにしたのだ。
 ドライグにスキルを使用し終わると、アユミと一緒に心配そうにドライグを見てたメグミが魔物達をにらみ着ける。

「あなた達・・・覚悟は出来てるん――――」

 メグミのセリフが言い終わる前に魔物達が雄叫びを上げて襲ってきた。言葉か通じない上に魔物がセリフを言い終わるまで待ってくれるなんて優しい事はなかった。
 支援魔法によるバフを掛けられたサンド・ゴーレムとオーガがまず襲いかかる。
 その後ろには多くのアンデットが続いている。

「おい、お前らはこいつらの相手をしててくれ。俺はドライグをやったリビングデッドを片付けてくる」

 怒気の孕んだ声でイツキが二人に指示を出す。
 イツキはドライグに怪我を負わせた事に怒りを覚えていた。

「スキル!《聖剣召喚》!」

 自身のやや後ろに現れる魔法陣に手を突っ込み、聖剣を引っ張り出す。

「"壊聖剣デネブ・ド・ボルグ"!!」

 イツキが取り出した2の聖剣。
 "壊聖剣デネブ・ド・ボルグ"は先程出した光聖剣ベガ=ルタとは違い剣幅が広いグレートソード、つまり大剣だ。
 イツキはその大剣をで持ち、構える。
 そして目の前のサンド・ゴーレムとオーガの壁の一部に突っ込んだ。
 突っ込んでくるイツキに対して、サンド・ゴーレムとオーガは攻撃は迎え撃とうと攻撃をする。
 だが、一刀。横に凪ぎ払うように放たれた大剣はオーガが持っている武器ごと、その攻撃範囲内にいた魔物を両断した。
 イツキはそのまま、回りの魔物には目もくれず、その後ろにいるアンデット達に紛れているリビングデッドに襲いかかった。

 壊聖剣の能力はその破壊力そのもの。万物を切り裂き破壊する事が出来る力だ。
 その聖剣に切られた者は命をも破壊さる事になる。そのためこの聖剣で傷を付けられた場合その個所は回復魔法や自然治癒で癒す事はできない。さらにこの聖剣で殺された者は蘇生魔法などの類いは効果が効かなくなる。
 現にこの聖剣に切られたサンド・ゴーレムは先日のオーガと戦った時のように砂の山になる事はない。
 、動かなくなった。




 イツキがスパーダに切りかかる。
 だが、スパーダはその攻撃を前方でやられたサンド・ゴーレムやオーガのようにくらう訳はない。刀を抜き、その攻撃を受け止めた。

「・・・へぇ!」

 イツキは今まで防がれた事がない、壊聖剣デネブ・ド・ボルグを用いた攻撃をあっさり刀で受け止めた事に驚きある期待を寄せる。
 攻撃を受け止めたスパーダは受け止めた勢いを殺し切れずに後方に押されて、周りの魔物達から離されていく。

「ぐっ・・・!」

 スパーダは自信の想定を越えていた攻撃を受けて即座に認識を改めた。
 そしてこの世界でも屈指くっしの技術力があるスパーダはその一回のやり取りで、あることを悟った。

(このは負ける!)

 スパーダはイツキと一太刀ひとたち交えて相手のを感じ取った。
 一人ならなんとか対処は可能ではある。だが敵は3人。仮に目の前の人間と同等の力を残り二人が持っていたとすると敗北は免れない。このままでは我々は敗北してしまう。
 そう悟ったのだ。

「サトルを呼び戻せ!!」

 スパーダが村全体に聞こえるほど大きな声を上げて、魔人様をなんとか呼び戻せと叫ぶ。それは"我々はこのままでは負ける"と叫んでいるのと同じだ。
 マサムネはスパーダの伝えたい事を100%理解し、魔人様にこの事を伝えて呼ぶ方法を考える。

「アンデッドが喋った!?」

「はっはー!これは当たりか!?」

 マサムネは魔人様を呼び戻すための一か八かの作戦を思いついた。
 ものすごい賭けになるが、この現状ではこれが一番だ。
 マサムネは早速その作戦を実行するためにある魔物の所に急いで向かった。

「ナルホド・・・」

 魔人様にこの緊急事態を伝える役目を行うのはリックだ。彼しかいない。
 魔人様が人間の国にいる以上、人間の言葉を話せるようになる魔法を行使できて一応人型であるリックが最善であると考えた。マサムネは作戦をリックに伝えて、全てを託した。

―――頼むぞ!急いでくれ!!

「ワカリマシタ・・・イッテキマス!」

 最後方でトロル達が転移魔法を展開し、最速で転移魔法にリックが飛び込む。今、転移魔法を使用しているトロル達はこのまま転移魔法を展開させておく。魔人様とリックが最短でこちらにこれるようにするためだ。そういう意味ではこのトロル達が最終防衛ラインだろう。
 マサムネはリックを見送ると再びこの戦いの全体を観る。
 スパーダとイツキが激しい戦いをしてる中、メグミとアユミはアンデッド達を軽くあしらっているように見える。

―――くそっ!ここからは勝つことよりも時間を稼ぐ事を第一に考えなければ!!

 マサムネは魔人様がここに着くまでなんとか持ちこたえるために、頭の中で必死に様々な策を巡らせ残りの魔物達に指示を与えていく。




 この戦争とも言える戦いの勝敗は全て魔人にリックと名付けられた1人のアンデットに託された。

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