魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

第29話 魔物会議

 
 翌日。カケルはアドルフォン王国に戻る前に、まだ種族代表が正確には決まっていない種族に大して代表を決めて自宅の前に来るように伝えた。

 しばらくすると4種類の魔物が集まった。
 ギリガル・ビートル、サンド・ゴーレム、アモス・デビル、そしてリビングデッド。
 彼らが今後、それぞれの種族の代表になる。
 ただし、リビングデッドは別件だ。アンデットにはリックという種族代表が既にいるが、リビングデッドはカケルの師匠から生まれたので特別に名前を付けることにした。
 前回ジャック達に名前を付けだ時のように1人1人に考えた名前を言っていく。

「まずはサンド・ゴーレムから」

「ゴゴゴ」

 サンド・ゴーレムは元の世界にもあった視界音声の様な無機質むきしつな声を出して一歩前にでる。サンド・ゴーレムの体の砂がサラサラと小刻こきざみに動いているあたり、緊張しているのがうかがえる。

「お前はザイルだ」

 名前を貰ったサンド・ゴーレムの"ザイル"は嬉しそうに無機質な声を上げた。
 次に名前を貰ったのはギリガル・ビートルだ。
 彼は"ダニー"という名前を貰った。「ギシャァァァァァァ」と喜びの声を上げて体の節々ふしぶしをメシメシ言わせている。
 次のアモス・デビルは"ダスト"という名前が付けられた。彼は他の面々とは違い声を上げて喜ぶ事はせず、ペコリと行儀よく頭を下げて感謝を表した。
 そしてこの命名式もラストだ。最後はリビングデッド。彼に名前を付ける。

「よろしくたのむ」

 リビングデッドが一歩前に出る。
 彼は骨だけなので表情の変化は一切わからないが、表情にでないぶん声にワクワク感があった。

「お前はスパーダだ。別の言語で剣という意味の言葉だ」

 その後すぐに「どこの国の言葉だったかはわからないが」と小声でカケルは呟いたが、"スパーダ"はそんな事は気にしなかった。

「なるほど、"剣"か・・・私にとっては最高の名前だ」

 スパーダは自分の名前を大層たいそう気に入ったようだ。
 こうして第2回命名式は終了した。
 集まってもらった魔物達は解散し、それぞれの役割を果たす為に向かった。

「それじゃ俺は行くから、あとはよろしく頼む」

 ―――プルプル

「ああ、次を待っているぞ」

 命名式も終ったのでカケルはアドルフォン王国に戻るため、転移魔法に足を掛ける。行きも見送りはマサムネとその護衛のリビングデッド、改めスパーダだ。
 2人に見送られながらカケルは転移魔法の中に入って行き、村を後にした。




「転移魔法で居なくなったか・・・今がチャンスか?」

 魔物の村がある森の外から遠視の魔法で村を覗いている男がいた。
 男は黒い服を来ており、周りには"オーガ"という種族の魔物が十数体。全てのオーガはこん棒のような、中国の打撃武器だげきぶきの一種である狼牙棒ろうがぼうによく似た武器を手に持っている。

 男の名前は"オグル・トラウルド"。魔王教の8人の中の1人である。

 男は先日の夜、カケル達が魔物と食事している
 時に遠視の魔法を使用してこの魔物の村を発見した。
 前回、魔王教の8人の内の1人であるアンデット使いのジュディアが何者かにアンデットの軍団を奪われ、作戦が失敗したと報告した。
 そのあとその男の正体は我々よりすぐれたモンスターテイマーだと結論づけ、その男についての話し合いが行われた。
 その結果その男は交渉してなんとしでもこちら側、つまり魔王教に引き入れる事ができれば引き入れる方がいいという意見いけんが4人。
 我々の目的達成の邪魔になるその男は即刻排除はいじょした方がいいという意見が4人。と綺麗に意見が2つに別れた。
 ジュディアは直接見たからなのか、すっかり意気消沈いきしょうちんしてしまっており、魔王教に引き入れるスカウト派の4人の内の1人だ。
 対してこの男は即刻排除した方がいいという、抹殺派の4人の内の1人だった。

 そしてカケルが転移魔法で出掛けた今、襲撃するなら今が好機こうきと考えている。
 それはモンスターテイマー同士で戦闘した場合、その勝敗を分けるのはテイムしたモンスターの数や質ではない。
 モンスターテイマーの実力で決まるのだ。

 なぜなら相手のテイムしたモンスターをテイムする事が出来ればそれは事実上の敗北だ。
 戦力が丸々奪われてしまった状態では勝てる訳がない。
 ジュディアがやられたのもこれだ。
 だが今この魔物の村を作っているモンスターテイマーの男は転移魔法で居なくなり、この場に居なくなった。
 これで戦闘になった場合こちらの戦力を奪われる心配はなくなった。
 それに加え、こちらの戦力はあのオーガだ。今、仕掛ければあの男の戦力を大幅にけずれる。それどころか相手の戦力を奪えるかもしれない。男はオーガをテイムできる程の実力者だ。モンスターテイマーとしては最高クラスである。テイムできないモンスターの方が少ないのだ。
 そう考えた結果、今襲撃するのが好機なのだ。

「やるなら、今だな。行くぞオーガども!」

「グォォォ!」とオーガは唸り声を上げて、オグル・トラウルドと共に魔物の村を目指し、森の中に入って行った。
 オーガは全魔物の中でも上位に位置するの存在だ。
 そのスペックはそこらの魔物では相手にならず、別の種族の上位の魔物と戦闘しても8割ぐらいの高確率で勝利できるほどだ。
 オーガは魔法こそ使えないが、それ以外のスペックがずば抜けて高いのだ。
 素早く動けて、攻撃力も高く、防御力も高い。正に戦闘力でいえば魔物の最高峰に位置するともいわれている魔物だ。
 そんなオーガが十数体いればたとえ中位の魔物が何体居ようが、勝てるのだ。
 正に最強の魔物軍団だ。








「何!?」

『本当だ!黒い服を着た人間と複数のオーガがこっちに向かって来ているぜ!!』

 森の見回りを担当しているビートル族の者達が森の侵入者を発見した。
 それを代表のダニーに報告して、ダニーがそれをジャックに報告していた。

「トリアエズ、コノ事ハマサムネ様ニ報告ヲスル。オ前ハ部下ニ引キ続キソイツラノ監視ヲスルヨウニ言ッテカラ後デマサムネ様ノ所ニ来テクレ」

『その心配はいらねぇ!!既に監視に複数人付けている、それに増員してすぐにソイツらの事が分かるように何かあったら連絡役が来るようにしてあるぜ!!』

「ナルホド。仕事ガ早イナ、ナラ一緒ニマサムネ様ノ所ニイクゾ」

 監視も増員して続けているが、監視している場所から村までの間に一定の間隔で連絡役を設けた。これで何かあったら即伝える事が出来る。
 既にその案を自分で考え、指示を出していたダニーとジャックは急ぎ足でマサムネの所に向かった。

「ハイ、コチラニ真ッ直グニ向カッテ来テイマス」

 ―――詳しく!

『侵入者はオーガが17体に、人間が1体だ!』

 ―――なるほど

 現在侵入者はこちらに監視されいてる事に気が付いておらず、ゆっくりとこちらに近づいてきている。目的はわからないがまっすぐこちらに向かっていることから、この村が目的と見るのが良いだろう。
 マサムネはこの異常事態について考える前に各種族の代表を大至急だいしきゅう集めるようダニーに指示した。

『分かったぜ!最速で呼んできてやる!』

 ギリガル・ビートルは飛んでいるため移動が速い。加えて飛行速度も速いため伝令などに適している。マサムネは瞬時にその判断をしてダニーに任せたのだ。その結果5分ほどで全員が集まった。
 グレム、パブル、リック、ジャック、ザイル、ダニー、ダスト、そしてスパーダという。8体の魔物がマサムネの元に集まった。
 そしてこの村で初の緊急会議きんきゅうかいぎが始まる。

「ドウシマスカ?」

 ―――うーん

「ジャック・・・ソイツラハ・・・ナゼ・・・ココ向カッテ・・・イル?」

「侵入者ノ目的ハワカラン。ダガオーガヲ引キ連レテイル事ト、人間ガ来テイル黒色ノ衣服から恐ラクダガ・・・スケルトン達ヲ操ッテイタ者ノト同ジダロウ」

 ジャックが行ったのはジュディアと彼女に操られていたアンデット達の事だ。
 今回もその時のように何者かがオーガ達を操っているかもしれないのだ。

『なるほど!?』

『おい!まじか!!』

「例の話だな。と、いう事はここに向かって来ているオーガ達は操られているという事か」

 村では様々な情報が共有されている。魔人が操られていたアンデッドを助けた話もジャックから村の住人に共有されている。
 スパーダも村の住人になってこれまでの出来事などはアンデッドの代表であるリックから聞いていた。

『なんてひどい事を!?』

「ソォノォ人間ヲォ殺セバ、オォーガハ解放サレルノォデハナイカ?」 

「確かにその可能性はあるな」

『魔法か何かなら術者が死ねば解けるかもしれないな!?』

『マジか!!なら試してみるしかねぇな!!』

『まぁ俺らも魔物同士で殺したくはないしな』

「確・・・カニ・・・」

 好き好んで魔物同士で戦う事は避けたかった。こちらの仲間の被害を出したくないのもあるが、同じ魔物という存在同士で殺し合いはしたくなかった。
 種族は違えど魔物同士なのだ。根本は皆同じだ。

 ―――ジャック!魔人様に連絡はできないのか?

「ソレガ・・・私ノ枝ハ魔人サマガ地面ニ指シタ時ニハ話セルノデスガ、コチラカラ魔人サマニハ伝エラレナイノデス」

『なんてこったい』

 ザイルが独特どくとくなポーズを取りながら驚きをあらわにする。
 ジャックの枝は一方にしか掛けられない電話のようなものだ。これではこちらから今回の襲撃の事を伝える事はできない。運よく、魔人様の方から連絡をもらわなければ連絡できないのだ。

 ―――そうか。仕方ない!我々だけで何とかするしかない 

「ダガ・・・ドウスル・・・相手ハ・・・オーガダゾ」

 魔人と連絡が取れない以上自分たちでこの問題を解決するしかない。そして解決した後、次に魔人が返ってきたら今日の事を伝えよう。さらに連絡手段の改善も相談しようとマサムネは考えた。
 だがそこで問題になるのはオーガの事だ。
 オーガは強い。現状相手を出来るのはスパーダぐらいしかいないが―――

「私が相手しても問題ないが、その間に操っている人間が何かしてくるかもしれん。それに他の者ではその人間に操られる可能性がある。それなら悟と同じ力を持つ私が人間の相手をするのが適任だろう」

『だよな!?』

 オーガは強く、スパーダ以外の魔物では相手ができない。かといってオーガの相手をスパーダが行うと、その操っている人間が何かしてくるかもしれない。
 やるなら同時が好ましい。オーガを相手取るのと同時に人間も相手するのが一番いいのだ。そこでマサムネはスパーダ以外に何とかオーガを無力化むりょくかできる魔物が居ないか聞いた。

 ―――数分だけでもいい。誰かいないか?

 数分もあればスパーダが決着を付けてくれる。もし人間を倒して後もオーガが操られたままでもスパーダが何とかしてくれる。少しの間だけオーガ達を無力かすれば今回の問題は解決できるハズなのだ。
 しかしオーガを無力化するのは並大抵の事ではない。マサムネは代表者を見渡す、すると一人だけ名乗りを上げた者がいた。

『これはオレの出番だな』

 名乗りをあげたのは昨日、露天風呂の製作で大活躍だいかつやくしたサンド・ゴーレムのザイルだった。

「ナニ?ザイル。サンド・ゴーレムノオ前達ガオーガヲ相手スルトイウノカ?」

『実は昨日の夜、俺たちはしたんだ。もはや無敵。自分でも少し引くぜ』

『進化ァ?』

「ソウカ・・・進化シタ・・・ノカ」

『羨ましいな!?』

『まぁその話は後で話そう。マサムネ様、オーガは我々に任して欲しい』

 ザイル達サンド・ゴーレムはゴーレムの中では下位の魔物だ。到底とうていオーガ達に敵うはずもない。しかし進化したザイルは自信満々に任せて欲しいと言っている。ユニークな言葉を使い、ムードメーカーな役をしている彼がここまで言っている。
 それを聞いたマサムネはオーガをザイル達、サンド・ゴーレムに任せる事に決めた。

 ―――じゃあザイル達はオーガの足止めに決定だ。じゃあオーガの相手は決まったし、作戦を伝えるぞ。

 マサムネは考えた作戦を思い浮かべて各代表に指示を与えていく。

 ―――スパーダは人間の相手だ

「うむ、承知した」

―――パブルは万が一の時の為に常に転移門を開いておいてくれ

『分かった!?』

 ―――ダニーはそのまま森内の警備をしていてくれ

『任せろ!!』

 ―――リックは中位のアンデッド達を揃えてくれ。万が一の時の戦力としたい

「了解・・・した」

 ―――ダストとジャックは魔法による支援だ

「リョォカイダ」

「ワカリマシタ」

 ―――グレムは万が一の時にいつでも逃げらるようにパブル達の近くに必要な資材とかの確保だ

『あいよ』

 ―――よし!いいな皆。作戦開始だ!!

 こうして魔物達だけの緊急会議は終わり、魔物達が建てた作戦が実行される。


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