魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

幕間 魔物の村

 
 マサムネの朝は早い。 

 彼らスライムは意外な事に睡眠すいみんを取る種族だ。スライム達はマサムネ1人を除いて、スライムマンションと言われる建物に住んでいる。
 スライムマンションの一部屋の大きさはだいたい1.5畳ほどだ。人間ならかなりせまく感じるが、彼らスライムは人間より小さく、大きさはバレーボールほどの大きさだ。そんな彼らにとってはこれでも十分な広さになっている。そのスライムマンションは現在、4号棟ごうとう建設されている。部屋数は1号棟につき24部屋。1人1部屋の割り当てで約100体近くのスライムが生活している。

 朝のいだいたい7時ごろになると睡眠を取らない種族であるアンデッドの一人が起こしにくる。勿論、全員を起こす訳ではない。睡眠が必要な種族の各代表だけを起こす。そしてその代表は次は自分の種族の仲間達を起こしにいくのだ。




―――コンコン 

 扉からノックする音が聞こえる。
 そしてすぐさまスケルトンが1人、入ってきた。
 そのスケルトンは「オァアァ」とうめき声にしか聞こえない声を発した。
 すると、この部屋に置いてある黒い箱が開いく。その中から出てきたのは一人のスライム。
 スライムは『プルプル』と体をゆららし、起こしてもらったお礼を伝える。
 スケルトンは「オアァ・・・」とうめき声を上げて出ていった。

 この家はカケル―――魔人様の家だ。
 そこに一人のスライム―――マサムネだけは住んでいる。寝床ねどこにしている黒い箱というのは、カケルが元の世界で刀を入れるのに使っていたギターケースの事だ。マサムネはそれを貰い受け、今は自身の寝床として大切に使っている。

 マサムネは魔人様の家から出ると自分以外のスライムを起こす為スライムマンションに向かった。
 そこの一番近い部屋を開けて、その部屋の住人である1人のスライムを起こす。
 そのスライムは外見が白くにごった水の様な色をしてるスライムだ。彼は"ホワイトレススライム"というスライムの亜種あしゅだ。
 体が白く濁っているのは空気が混ざっている為である。彼は他のスライムと比べると軽い。それは体の半分が空気だからだ。
 体の半分が空気なので触り心地はフワフワだ。魔人様も気に入っていた。

―――むぎゅっ

 マサムネがホワイトレススライムの体を押すと彼は目を覚ました。起きたホワイトレススライムは『プルプル』とマサムネに挨拶をし、マサムネも『プルプル』と挨拶をしっかり返した。
 その後ホワイトレススライムはとなりに住んでいるスライムを起こしに向かった。他の種族と違ってスライムだけは数が多いため、起こしてもらったスライムが隣のスライムを起こし、そのマンションの最後のスライムは別号棟のスライムを起こしにいく。これを繰り返すシステムを導入している。
 そのためこれでマサムネの起こす役割は終わりだ。

 何故、ホワイトレススライムを最初に起こしたのか。それは彼が魔人様のお気に入りの1人だからだ。勿論、一番はマサムネなのは動かないが魔人様はスライム種の中でも彼の触り心地を比較的、気に入っているため彼を最初に起こしたのだ。
 決してマサムネが嫉妬しっとしてるから、という理由ではない・・・ハズだ。
 起こすという朝の一仕事を終えたマサムネは村の各地へと見回りに向かう。次の彼の仕事は村の各地に異常がない事を確認したり、作業している魔物達に今後の作業方針を伝えたりする事だ。




 起きたスライム達は各自それぞれの仕事場に向った。
 大半のスライム達は川に向かう。彼らの仕事は水汲みと少量の魚の捕獲だ。
 自身の体に水を取り込んだスライムは畑に向かい水撒みずまきを始める。魚を捕獲したスライムは食糧庫しょくりょうこに向かい冷凍庫に捕まえた魚を入れていく。

 その冷凍庫の中につとめているアイススライムは、常にそこにいなければならない仕事なので交代制になっている。半日ごとに別のアイススライムが交互にこの職場しょくばで働いている。彼らアイススライムだけは交代で半日ごとに睡眠を取っている。何とも大変な仕事だ。

 水を含んだスライムが水撒きをしているとリックが率いるスケルトン達が畑にやってくる。
 スケルトンやゴーレム達は眠らないが魔人様の意見により、休憩きゅうけい時間をかならずもうける事にしている。
 休憩施設は現在作成中のため、簡単な椅子しかない簡易的かんいてきな休憩場所で彼らは休憩時間を過ごしている。
 スケルトン達の大半はこの前、謎の少女に操られている所を魔人様に助けられこの村に来た者達だ。
 薄汚い小娘ごときに操られるという屈辱くつじょくから、救ってくれた魔人様の為にも彼らは今日も精一杯、仕事を頑張っている。

 その畑の近くではジャック達、トレント達が果物を育てている。
 トレント達の主な仕事は2つ。食用の果物栽培と、木の栽培だ。彼らは二手に別れて作業を行っている。果物などは魔法により急成長させてすぐに収穫することができるが、そうした場合味が落ちるという事が発覚している。そのため今は急成長はさせないにしても普通に成長するよりはずっと早く、というような程よく魔法を使っている。

 ジャック達の果樹園の奥を見ると高速で飛んでいる魔物がいる。
 ビートル族は基本的に森の巡回じゅんかいを行っている。
 この"アイタル森林"は広いためトレント達でも常に状況が分かる訳ではない。そのため俊敏性が高いビートル族達が森の中から周辺近くまでを飛び回わり巡回しているのだ。彼らが一番警戒しているのは人間だ。ジャックの話だと滅多に人間がこの森まで来た事はないそうだが、万が一もある。その為ビートル族は常に警戒心を高めている。

 トレント達の樹木農場で栽培した木はゴーレム達がオノで斬り倒し、その木は様々な施設や住居を制作するのに使用している。
 木の運搬うんぱん作業はゴーレムとアンデッド達が行う。彼らには疲労がないので、こういう力仕事にはうってつけだ。
 ゴーレムとアンデッド達が持ってきた木はパブル達トロルとグレム達ゴブリンが切り出し、細かい加工をして使える木材にしていく。
 元々トロル達は木を切る作業とと運搬を行っていたが、魔人様がオノという道具を持ってきてくださった事とゴーレムやアンデッドが増えた事によりゴブリン達のように木の加工の作業へと移ったのだ。
 木の加工はトロル達が魔法で大雑把な切断をし、ゴブリン達はその木を削ったりなどの細かい加工して丁寧ていねいに木材へと変えていくのだ。

 加工した木材を使いゴーレムとアンデッド達が組み立てを行う。
 基本的には各魔物達の住居や倉庫、休憩所などの日常生活に必要な物と魔人様に指示された建物を優先して作成している。

 そしてその彼ら過ごすの村の周りにはアンデッド・ナイトが見回りを行っている。一定間隔いっていかんかくで村を囲む事で、まとめてやられる事の対策になり、1人に何かあったら周りが気づけるようにしている。村の周辺はアンデッド・ナイト達。村から離れた場所や森の上空などはビートル族が見回りをしているという二重体制になっている。
 因みにこれはマサムネの発案である。


 こうして一通り見回りをしたマサムネは次の仕事に向かう。
 小さなやぐらの様な物に登り、そこで待機する。何事もなく時間が過ぎていくが、20分ぐらいすると1人のスケルトンが来た。

「オァ、オァァオオァァァァ」

―――プルプルプル

 どうやら、建物を組み立てる作業の所でトラブル発生のようだ。マサムネはそのアンデッドと一緒にその現場に向かった。
 そこではゴーレムとアンデッド達が加工された木材を使い、組み立て作業をしていた。
 アンデッド達の話を聞くと高いところの作業が難航なんこうしているとの事だ。
 今まで高い所の作業はゴーレムや背の高いアンデッドに持ち上げて貰い作業をしていたのだが、その方法では届かない所の作業が出てきてしまったとの事だ。
 このままでは作業が止まってしまう為、マサムネは考える。
 プルプルと体を揺らし考える。しばらく考えているとプルッと体を跳ねさせた。

―――プルップルプルプルン

「オァアァァ、オオァァアァ」

 マサムネの指示を聞いたスケルトンはどこかに歩いていった。
 マサムネが指示したのは足場あしばの制作だ。建物の組立てを一時中断し、足場を作ってからその足場を使い組立作業を行うように指示したのだ。それを聞いたスケルトンは足場用の木材を作って貰うべく木材を加工しているトロルとゴブリンの元に向かったのだ。

 これでよし。指示を終えたマサムネは得意気とくいげに櫓まで戻っていった。

 それから3時間程たった頃。アンデッド・ナイトと共に一体のアンデッドがマサムネの元まで来た。

「オァアァァ」

 どうやらアンデッド・ナイトが連れてきた彼は新しく魔人様の配下になった、この村のメンバーのようだ。

「初めましてだな。私はさと・・・君たちの言う所の魔人にここに来いと言われた物だ」

―――プルプル 

 初対面でも新たに仲間になったからにはしっかりと挨拶をする。挨拶は大事だ。
 そしてここからはマサムネのもう1つの仕事。新メンバーの面接だ。
 同じ魔物だからと言って自分以外の種族の事に詳しい事はない。むしろマサムネからしたら知らない魔物ばかりだ。そのためどんな魔物なのか、またどんな特徴とくちょうがあるか直接を聞いてどの仕事に割り当てるかを決めている。実はこの村で新しいメンバーの仕事の割り当てを行ったのは、なにを隠そうマサムネなのだ。トロル達の状況に伴う役割の変更も彼の指示によるもので、今この村を魔人様が不在の時に仕切っているのはマサムネなのだ。

「私はリビングデッドという種族だ。だが他のアンデッドとは素材が違うのでな、おそらくどのアンデッドよりも身体能力がすぐれている」

―――プルプル

 まずは種族だ。魔物は様々な特徴があるが大きく分けるなら種族で分ける事が出来る。そのため種族は重要な情報だ。
 マサムネはフムフムと頷き、目の前のリビングデッドの話の続きを聞く。

「私は君たちが言う魔人にこの村を守るように言われてきた」

―――プルッ

 ふむ、とスライムは思う。今回このリビングデッドというアンデッドは魔人様に既に役割を指定されている者のようだ。ならば自分が余計な仕事を与えてはならない、と。
 だが同時に思った。どこを守ってもらうか。
 既にビートル族とアンデッド・ナイト達による警備体制はほぼ完成している。本人が言った通り他の魔物より強そうな彼を村の周辺に置いてしまうと折角の戦力が分散されてしまう。
 マサムネはリビングデッドに他になにか魔人様からの指示はなかったか?と聞いた。

―――プルプルプル 

「む?いや、悟・・・じゃあない。魔人からは村を守ってくれと言われただけだが・・・」

―――プルルッ

「ふむ。ならこの村の中とお主を守ればいいのではないか?」

―――プル? 

「みたところお主がこの村で魔人の次にえらい者なのだろう?ならばそんな重要な者に護衛がいないのはおかしい事ではないか?それに村の外を警戒している様だが、転移魔法や地下から直接村に乗り込んでくるなんて事があるかもしれん。故に私をお主の護衛兼内部の見回りにするのはどうだろう」

―――プルプル! 

 なるほど。マサムネは納得した。それと同時に魔人様に感謝の気持ちを抱いた。離れていても自分を心配してくれている魔人様の気持ちはマサムネに確かに伝わったのだ。
 こうしてリビングデッドはマサムネの護衛という仕事についた。


 夕方になり、日がかたむいてくる。そうすると、食事が必要な種族がある場所にあつまる。
 それは料理場だ。そこでは複数のスライム達と、スケルトンが料理を行っている。
 少し前に魔人様がスライム達と一緒に料理をした。その時の事を参考にしてスライム達が料理するのだ。料理長として、全体の指揮を取るのは1名のファイアスライムだ。
 彼は他のスライムに指示を出しながら自分の上に鍋を乗せて温める。水を含んだスライムが鍋に水を入れると次第に沸騰ふっとうしていく。その間にスケルトンが魚をさばく。その後、前に魔人様と一緒に料理したように霜降しもふりの工程こうていを行い、取れた果物を入れて魚の鍋を作る。
 魔人様のとは少し味が違うそれは食事が必要な魔物達に振る舞われた。
 料理長のファイアスライムは、いつか魔人様と同じ味のものを作れるようになるのが目標だそうだ。


 完全に日が落ちる時間になると睡眠が必要な種族は寝る時間だ。
 夜間は視界が悪くなるため、ほとんどの作業は中断する。アンデッド達は光がない暗闇くらやみでも目が見えるのだが、基本的には作業はしない。
 例えばアンデッド・ナイトが見逃してしまった動物が畑の物を荒らすかも知れない。
 アンデッド・ナイトも引き続き村の警備を行うが、畑仕事を行っているアンデッドの夜間の仕事は畑の見回りになる。
 ゴーレム達はアンデッド同じ睡眠が必要ない種族だが、アンデッド達と違い暗闇では目が見えないため夜間は簡易的な休憩所で待機だ。
 ただしビートル族は睡眠が必要だが暗闇でもえる。彼らの種族は元々目が良いとは言えないが、代わりに優れた触覚を持っておりそれで周りを視る事が出来るのだ。そのためビートル族も交代制で夜間も働いている。

 こうしてこの村の1日が終わる。
 次の日からマサムネを起こすのはこのリビングデッドの役目になった。
 ただ新しく入ったばかりで村のリズムが分からない事と、他のアンデッド達とは全く別の仕事なので朝起こすタイミングが掴めず2日の間マサムネはいつもの起床時間より早く起きるハメになったという。

 スライムの朝は早い。

「魔人に就職しました。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く