魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

第56話 二つの影

 

「では、私達は帰るとしよう」


 魔王達との話し合いが終わり、魔王達は帰ろうとする。

 今回の話し合いで決まった事。
 まず、基本的に魔王側が残りの勇者探しをする事。魔王の下にいる隠密おんみつに長けた魔物をムードブリム青龍国に送り、神についてと勇者について調べる。そして勇者がその発見された時に、魔王側の戦力とカケル側の戦力をその勇者にぶつける事になった。
 その際、魔人であるカケルはほぼ必ず勇者と戦う約束をしている。これはカケル側の魔物が少しでも犠牲にならないようにするためと、勇者によっては話し合いで解決できる問題かも知れないからだ。勇者はカケルと同じようにこの世界に来た存在だ。同じ世界の住人ならば、話し合いで解決できるかもしれない。
 仮に話し合いで解決した場合は、神を下ろす為に一度死んでもらい、蘇生魔法を使用してその者を蘇生させるつもりだ。一応この世界には蘇生魔法が存在するらしい。

 それ以外では、定期的に情報交換を行ったり、お互いに力が必要ならばできる限り協力する事を約束した。


「何か進展しんてんがあれば、知らせに来る。なかった場合は1ヶ月後の定例報告でまた会おう」


 そういうと魔王は魔法を唱えた。
 その魔法はトロル達が扱う、転移魔法によく似ている。違う所をあげるならば、トロル達の転移魔法は白い転移門が出来るのに対し、魔王の転移魔法は黒い転移門だった。


「そういえば、次からは転移魔法で来ようと思うのだが問題はないか?」


 魔王が直接来た理由の1つ。魔人と協力関係になれた場合、今後すぐに連絡と魔人の元に行き来が出来るように場所を知っておくこと。
 転移魔法は使用者が知らない所には行く事ができない。これはどんな転移魔法でも共通のルールだ。だから転移魔法が使える魔王がこの村の位置を知れば、いつでも転移魔法でつなぐ事ができるようになる。


「ん?どういうこどだ?」

「いや、この村はしっかりと管理が行き届いているからな。急に村の中に私達が現れたら困らないか?」

「あー。そういう事か。それなら気にしなくていいと思うぞ?何せこの森の中の事は、ジャック・・・トレントが全て把握しているからな。この村に転移してきても、誰が、何処で、何をしてるかを全体に通達してくれる」

「そうか。トレントまでいるのか。なら、その言葉に甘えさせてもらおう」


 魔王達はそのまま、転移門の中に入って行った。
 黒色の円の向こう側は全く違う景色が移っている。その後、魔王達が「さらばだ」と一言いうとその転移門は閉じて行った。


「あれで良かったのか?」


 魔王達が帰った所で、スパーダがカケルに話しかけた。スパーダは隠れてカケルと魔王の話し合いを聞いていたため、どんな内容の話し合いだったかのかは全てわかっている。


「まぁ大丈夫だろ。一番の危険は向こう側が負ってくれるって話だ。リスク的にはこっちの方がずっと軽い」

「悟が決めたのなら私は何も言わんよ」

「・・・悪いな」

「いや、気にする事ではない。それに、もし勇者とやらと戦う事になった時は私が出ていってもいいのだろう?」


 基本的にはカケルが行く予定だが、場合によってはカケルと同等の戦力であるスパーダが行く事も考えてはいる。
 最近、手合わせをし始めたぐらいからか、スパーダの戦闘意欲いよくが高くなっている。
 これが彼の本性なのだろうか。戦闘狂せんとうきょうになるのだけはやめて欲しいと思うカケルだった。




「起きてたか」


 魔王達との話し合いが終わり、カケルは自宅に戻った。エリカの事を少し心配していたが自宅に戻ると、元気そうにスライムさんにいじられているエリカが居た。


「あ、師匠」


 エリカは帰ってきたカケルに気付いた。自身の上に乗っていたスライムをどける。どかされたスライムもカケルに気付き、エリカで遊ぶのをピタッとやめた。


「大丈夫なのか?」


 外見は元気そうだ。しかし、カケルが心配しているのは精神や記憶などの内面の部分だ。
 流石にカケルが何を心配しているのか察したエリカは元気そうに「大丈夫だ」とカケルに告げた。


「なら良かった」


 実はかなり心配していたカケルは安心した。
 洗脳という人間の内側に細工がされていたのだ。どんな影響があるのかわからない。


「俺と話した時の事を覚えているか?・・・無理して答えなくていいぞ」


 先程の現象。それをエリカは覚えているのか。そして覚えているのならどうとらえているか。
 またあの時のように気を失う事にならないように、無理はさせない。そうなる予感がしたら、カケルのほうから意識を飛ばそうと考えていた。


「・・・ハンターになった理由の話の事だろ?」

「・・・そうだ」


「覚えてる。師匠がオレを受け止めてくれた所までだけど。オレの中に、オレじゃない"何か"が居たような感覚までハッキリと覚えてる」


 エリカは全て覚えていた。意識がなくなる直前までの事は全て覚えていた。あのうつろな状態で何を言っていたか、まで全て。


「今は何ともないのか?」

「おう。むしろスッキリした感じだ!オレの中にいたその"何か"はもう感じないな」

「そうか」


 洗脳が解けたのか、エリカの中にあった違和感はどこかに消えてしまった。それはエリカが同じようにハンターになった理由を思いだそうとしても、その違和感はなくなっていた。


 その後カケルはエリカの状態、洗脳の事について話し、その話をする上で必然的ひつぜんてきに魔王や神、勇者の事についても簡単に話す事にした。
 全てを聞き終わったエリカは情報量の多さに頭がパンクしてしまい、理解するのに時間がかかったが、一応すべて理解する事ができた。


「師匠。オレはどうしたらいいんだ」


 全て理解できたエリカから一言。
 突然、神がいると聞かされ、その神が魔物を排除しようとしており、その一環いっかんとしてエリカはハンターにされた可能性。そして、復活した魔王とカケルは魔人という存在だという事実。
 そして、カケルと魔王は協力関係になっており、その目的が神殺し。

 そんなスケールの大きい話をされても、自分はどうしたら良いかわからない。魔物を討伐する事ができなくなったいま、ハンターを続ける事も難しい。彼女のどうしたらいいんだ。というセリフにはそんな自分の総合的な将来の事についての意味もふくまれていた。


「まぁ、今後どうするにしても自分で考えて納得できる答えを見つけるしかないな」


 こればっかりはどうしようもない。彼女自身が考えた上で答えを出さなくてはいけない問題だ。人生でどうしたらいいかわからなくなる時は何度もある。そんな時に、自分でしっかり悩み、考える事で人の心は成長していくのだ。



 そのあとエリカは自分で考え、答えが出るまでこの村でしばらく過ごす事になった。

 その間の寝床はカケルの自宅。現状、この村に客人ようの寝床など存在しないため、仕方なくカケルとエリカは同じ家、同じ部屋、同じ空間で寝泊まりを続けた。エリカは納得する答えを出すのに悩んでいたが、毎回寝る時間になると少し嬉しそうにカケルの家に向かう。
 そんなエリカがカケルに抱く想いに気が付かない魔物はいないのだった。








「あれっぽいな。てか、あれだな」

「ヒヒヒヒヒ。思ってたより簡単に見つかったなぁ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 ある場所に現れた2人組の男。
 1人は常に笑っているような、テンションの高い口調くちょうで喋っているが、対照的にもう1人の口調は冷静だ。


「ヒヒヒ。どーーするよ?行くか?もう行っていいのか?」


 笑っている男は左手に刀身が三日月のようないびつな形の剣を持ち、クルクルと回している。
 右手には金色のコインが1枚。それを親指で弾いて上に飛ばし、キャッチするという動作を繰り返していた。


「まぁこっちからは見えるし良いか。良いぞ、行ってこい」


 笑っていない方の男は合図を出すと両手の指、人差し指と親指を立てた状態の指で四角形のわくを作って、笑っている方の男をその指の枠に納めた。


「ヒャッハー!許可でましたぁ!行ってくるぜぇぇぇぇぇい!!」


 笑っている男は笑い声をあげながら走り出す。その速度は普通の人間とは思えない速度。
 その男の目標はある建物だった。木造のその建物の外には魔物の集団がいる。
 笑っている男はそのまま、魔物の集団に突っ込んでいった。
 もう1人の男は、ずっと指で作った四角形の枠を見ている。

 そんな奇怪な行動をする2人の男の髪の色は、この世界では珍しい。黒色だった。

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