魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

第43話 終戦

 

「ぐうぅぅ・・・」


 少しだけ意識の飛んでいたメグミは痛みと悲鳴ひめいによって目を覚ました。
 カケルに殴られ、鼻ごと頭蓋骨ずがいこつの中心を骨折しているメグミだが、アユミが事前にリジェネを付与していたので既に骨折は完治かんちしつつある。
 メグミが顔面と背中を痛めながらも覚醒すると、段々と五感が正常な働きを取り戻していく。
 そんな中で聴こえてきたのは自分がよく知ってる声が奏でる悲鳴だった。


「アユミ・・・ッ!」


 メグミがよく知っている彼女は友人にあたる関係だ。
 切っ掛けは前の世界からこの世界に飛ばされたという同じ境遇きょうぐう。女性同士ということもあり、出会ってからすぐに仲良くなった。
 そこから一緒に戦ったり、一緒に生活して苦楽くらくを共にして3人の仲は深まっていき、親友と言っても過言ではないだろう。
 ついには1人の男性を奪い合うライバルと言ってもいい存在にまでなっている。

 そんな親友が痛みで泣き叫び、喉が枯れる事をお構い無しに甲高い声をあげ続ける。
 そして目の前にいる男の目はあんなにヒドイ事をなんとも思っていないような目をしていた。


「《ジェノサイド・ドラ―――》・・・!!!」


 メグミは目の前にいるカケルに魔法を撃とうとしたが、カケルはすかさずメグミの喉を斬り、声を封じてみた。


「がっ!かはっ!」


 斬られた喉から声になる前の空気と血液が漏れだす。
 痛みで喉を抑えるが、悲鳴を出すことは出来ない。声の代わりにヒューっと狭い場所を空気が通る音が聞こえる。
 メグミの魔法は中断され、唱えきれなかったため魔法は発動しなかった。カケルはその現象を興味深そうに観察していた。

 メグミにはアユミのスキルでリジェネが付与されている。
 そのため、喉の傷も時間を掛ければ治っていく。そのスピードは目を見張るものがある。
 カケルは具現化した殺気で生成した右手をレイピアの様な刺突しとつ武器の見た目に変えると、メグミの喉に突き刺した。


「がぁぁぁあああ!!!」


 治り掛けているところに、異物が突き刺さる。
 殺気で生成したレイピアは突き刺したままなので、空気は外に出ることはなく何とか声になる。
 痛みに苦しみ、既に完治した顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにしながら悲鳴をあげる。


「・・・なるほど」


 カケルはメグミやアユミの傷が治る事について実験をしていた。
 メグミにやっているのは、傷が治る際にそれをさえぎるように何か物がある状態だとその傷はどうなるのか。こういう人体実験を行っていた。
 結果、治らず。傷口に異物があるとその部分はその異物を取り除かない限り治らない。


「お、おまぇ・・・なんが・・・」


 メグミが喉に刺さった状態のまま、何とか言葉を言う。
 それはメグミの今できる精一杯の抵抗なのだろう。
 魔法はどんな言語だろうが、声に出さなければ発動しない。声をカケルに支配されてる状態ではメグミはんでいるのだ。
 こんな状態のメグミに出来る事は万が一にも発動できる可能性はない魔法を唱える事ではなく、希望を口にする事だけだった。


「お前、なんが、イヅキが必ず殺じてぐれる!!」


 痛みに耐えながら希望を言葉にする。
 イツキはメグミ達からしたら希望なのだ。イツキの持つスキル《聖剣召喚》で出せる聖剣はどれも強い力を持っている。中でも3つ目の聖剣は桁違いの力だ。イツキがその聖剣を使えば、またたに目の前の男を殺し、自分とアユミを助けてくれるハズだ。こんなにヒドイ目にあっている自分達を目の当たりにすればきっとイツキは目の前の男に同じような苦しみを与えて殺してくれるハズだ。
 メグミはイツキが何とかしてくれると信じていた。

 だが―――


『ふむ、そちらも終わったか。ん?おい、悟!!右腕はどうした!?』


 メグミの前に現れたのは絶望に成り果てた希望だった。








 イツキの頭部を持って戻ってきたスパーダが、カケルの右腕を見て、思わず声を出して驚いた。持っていた頭部は投げ捨て走ってカケルに近づいてきた。スパーダは心配のそうな声を上げて、カケルを見ている。

 メグミは自分の前に飛んで来た、希望だったものを見ると意識が無くなった。


「・・・右腕の事は気にするな。俺も気にしてないからな。むしろ便利な技を覚えたおかげで元の腕より便利だ」


 カケルは意識が無くなったメグミを見ると喉に突き刺していたものを引き抜き、見せびらかすようにスパーダに具現化した殺気で生成した右腕を見せた。
 それを見たスパーダは何やら言いたそうにするがそれを飲み込み、襲撃者達についての話をする。


「それで、こいつはどうするつもりなのだ?」


 スパーダは、意識を失い木にもたれ掛かる形で生首を抱いているメグミを見てカケルに問いかける。


「・・・こいつから知りたい事はもうない。それに尋問じんもんをするための奴はとってある。こいつらにもう用はない」

「ふむ。わかった」


 カケルはメグミ達の処分をスパーダに任せると、四肢ししを切断され放置されていたアユミの方に向かって歩いていく。
 カケルとメグミの距離が離れるとスパーダはイツキの体を消滅させたように刀に殺気を込めて、それをメグミ達に向かって振り下ろした。
 爆音がなり、クレーターができる。そこにはその攻撃をしたスパーダだけが存在していた。

 カケルの後方で爆音が聞こえる。カケルは振り返ることをせず、今までの光景を泣きじゃくりながら見ていたアユミに寄っていく。


「ひっ!い、いや!!」


 リジェネの効果があるからか切断した手足は、トカゲのしっぽのように再生されつつあった。
 まだ再生途中のため、切断された半分まで再生している状態だ。
 アユミはメグミの様子を倒れた状態で見ていた。
 喉を切り裂かれる所も、喉に刺したままにする所も、イツキが頭部だけになっていた所も、そしてメグミとイツキが死んだ所も。
 アユミはそれを見て理解した。自分らはとんでもないトラのを踏んでしまったのだと。

 身体能力強化のせいでそう簡単に気を失なえないため四肢を切断される痛みでは楽になれない。
 だが段々と痛みが麻痺まひしてきて、痛みに耐えながらも、再生途中の四肢で何とか逃げようとしていた。
 だが、こちらに向かってくる人の皮を被った化け物に再生途中の四肢を切断された。


「がっぁぁぁああ!!」


 感覚が麻痺しているからか最初の時よりも痛みは感じていない。だが少し前まで普通の少女だったアユミには辛いことだ。


「ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」


 何もかも手遅れな状況だが、アユミは必死に謝るしかない。手足が使えない以上、残っている口をバカみたいに動かし、みっともなく謝罪し、どうにかして生きたい、死にたくないというワガママを聞いてもらうしかないのだ。


「な、何でもします!!あ、か、か、体!私の体も好きにしていいです!!まだ処女ですけど、言われればどんな事でも頑張りますから!」


 アユミは何とかして生きようと、必死に自分をアピールする。自分という存在を好きに使っていいから、言われればどんな事でも成し遂げるから、だから生きさせてくれと。死にたくないないと。
 アユミはカケルに、何とかして自分に価値を見いだしてもらい、生きようとしている。


「2度とこんなことしません!どんな事でも言うとおりにします!だから、殺さないで下さい!!死にたくないです!!」


 例えどんなにみっともなくても、これからどんなに辛い事があるとしても、生きるという事にすがるその姿は、人間という生き物の根本的な部分を体現したようだった。


「少し黙れ」


 カケルが一言そういうと、アユミはピタリと何も言わなくなった。
 アユミは生きるために必死だ。カケルの一言一言を聞き逃さないように一生懸命、四肢が欠損している体で耳をかたむける。


「お前ら、俺の事を同じ転移者だとか言っていたな」


 アユミはカケルの言葉を聞いて、それは事実だということを伝えるためにしずかに激しくうなづいた。


「それはお前らも俺と同じで元いた世界からこの世界に来た、という事だな?」


 アユミは肯定を示すべく激しく頷く。


「・・・そうか。なら、お前の全てを話せ。元の世界の事とこの世界に来てから、些細ささいな事も細かく話せ。そしたら・・・考えてやる」


 アユミはその質問に、答えるべく激しく頷いた。ほんの少しでも生きる可能性があるならアユミは言っていた通りに何でもするだろう。

 アユミは、地獄に落ちてきた細い糸に必死に捕まる。

 そして言われた通り、自分の全てを話し始めた。




「魔人に就職しました。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く