魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

第3話 謎の集団



「お・・・抜けたか」

 俺はやっとこの森を抜けた。
 だいたい30分ぐらい掛かったか?
 この森は思ったより広く、とても素晴らしい森だった。
 大自然に触れた感動の余韻よいんひたりつつ、周りに何かないかと辺りを見渡してみる。

「・・・何もない、か」
 
 入ってきた所からそのまま直線に歩いて来て反対側に出た。だが、見渡しても特に何か有るわけでもなく、最初に居た所と同じ草原が広がっているだけだった。
 どうするか、この草原をこのまま直線に歩いて行けば何か見えてくるだろうか?いや、何も無かった時のリスクが高いか。

「どうしますか、"スライムさん"」

 この森を歩いている最中に運命の出会いをした謎の生物をに撫でまくりながら考えた。
 いつまでもゼリー体や謎の生物と呼ぶのは変だし何か名称を付けたいと思い、自分が持ってる知識の範囲で考えた結果。とりあえずこのゼリー体の事はスライムと呼ぶことになった。実際は違う名前があるかも知れないが、それがわかるまでスライムと呼ぶことにする。

 実はこのスライムという単語は知っている。おもちゃとしてもあった気がするが、創作物の物語なんかにスライムやゴブリンなどのキャラクターがいる世界、いわゆるファンタジーな世界の定番としてスライムという架空の存在が出てくる事が多い。
 流石の俺でもスライムとかゴブリンとかのファンタジーに良く出てくる定番なものなら知っている。マイナーな奴は流石に解らないが。スライムはそういう知識から名付けてみた。
 そして[さん]という敬称を付けてる理由は、単に素晴らしいボディを堪能たんのうさせてもらったので敬意けいいが表れてしまっただけだ。
 
 このスライムという名前を付けてからスライムさんに話しかけているが、別に俺が寂しくて話しかけているのではない。
 実は俺の呼び掛けに対し、返事が無いように見えるが実はきちんと反応があるのだ。

 ―――プルップルプル
 ―――プルプルプルリン

 このようにプルプルのボディをプルプル振るえさせて反応してくれる。
 反応してくれると言うことは俺の声は聞こえてはいるのだと思うが。ただ、プルプルしてるだけの反応にどんな意味が込められてるいるのかはまだ分からない。いずれ分かるようになりたいとは思っている。
 動物を飼っている人の中には動物が何を言っているか分かる人がいるという。それにはまだ時間が掛かりそうだが、いつか絶対にスライムさんの気持ちを分かるようになりたいものだ。
 とりあえず、今は無理なので―――

「なるほどな、確かに木に登って高い所から見渡せば何か見えるかもしれないな」

 と、このように自分で言って自分で答えるという一人芝居を行っている。
 一人芝居を終えたあと、本当に何か見えるかも知れないので、試しに木に登ってみる。
 片手でスライムさんを抱え、でかい木をジャンプ・・・・で登っていく。師匠じじいせいでいつの間にかこんな人間離れしていることもできるようになった。枝を足場にして登っていきまずは天辺を目指す。登っている間、抱えてるスライムさんがいつもより少し多めにプルプルしてるが気のせいだろう。

「よっと」

 俺は数秒で木を登り終えた。そこから辺りを見渡してみる。
 周りには大自然といしか言いようのない景色が広がっている。しかし、特にこれといった建造物や人は見当たらなかった。

(やっぱり何もないのか・・・)

 そう思った矢先、遠くの方で動くものを見つけた。
 「なんだ?」と思い、目を凝らして見てそれを確認してみる。

「人・・・か?」

 距離があるためハッキリとは解らないが、人の様な二足歩行をしてる生物の"集団しゅうだん"のようだ。

「これは行ってみるしかないな」

 集団行動をしている二足歩行の生物は人間ぐらいだろう。と、その集団の正体を完全に人だと思い込んでいた俺は色々と情報を得るためにスライムさんを抱えたまま、木から飛び降りてその集団に向かって走り出した。

  


 悟が木をジャンプで登るという人外じみた事ができるのは、それは彼が10年間並々なみなみならぬ努力をいられた結果によるもの。
 彼が今とても人間とは思えない速度で草原を一直線に駆ける事が出来てるいる理由、それは彼はより効率よく、より素早く走るテクニックを彼は強制的に教わり、それを可能なだけの技術と力があるからだ。
 彼の師匠、坂下は彼に己の人生でつちったもの全てを叩き込んだ。本来達人を目指すなら回り道や間違った道を進み色々と紆余曲折した結果の果てにようやくたどり着くものだ。だが、悟は既にたどり着いた者から無駄を一切省いた努力を教わり、達人道のゴールを最短ルートで駆け抜けた。それにより10年という短い時間で彼は達人級の力を手に入れたのだ。

 悟と謎の集団の距離がドンドン近づいて行く。まだハッキリとは確認できないが謎の集団の方は、高速で近づいてくる存在に気が付いたようだ。高速で近づいてくる物体を発見した集団は驚き、混乱してる者もいれば、警戒けいかいして武器を構える者もいる。
 謎の集団全体がザワつく。その最中も悟との距離は縮まっていき、悟から集団の正体がだんだん見えてきた。
 そしてお互いがハッキリと見える距離で、悟が急停止した。

「・・・あれ?人間じゃ・・・なくね?」

 悟が急停止した理由は簡単だ。
 人間だと思い込んで張り切って走っていたが実際に近づいて見てみるとはホラー映画にいてもおかしくはない、人間とはかけ離れた"化物の集団"だったのだ。

「「・・・・・・・・・・・」」

 急な出来事にお互いが沈黙し、微妙びみょうな空気が流れる。
 しばらくして、耐えかねた悟が沈黙を破るように歩きだした。
 走っていた時より格段にゆっくりとではあるが、距離を縮めていく。
 そして距離がある程度近づいた所で―――

「こんにちは」

 悟は挨拶あいさつをした。元々ダメ元だったが案の定、言葉は通じていないようで特に返事は返って来ることはなく集団がまたザワつきだした。しかし聞こえてはいるようなので、諦めずに何とか意思疎通を図ってみる。
  
「えー、べつに俺はあなた達に危害を加える気はありません。安心してください」

 スライムを抱えていない方の腕を上げて、少しでも敵意が無いことをアピールしながら念のために言葉でも敵意が無いことをアピールした。だがやはり悟が伝えたい事は伝わらなかったのか特に変わった反応は見られなかった。
 化け物集団は今のところ混乱している様だが、いつ襲って来てもおかしくはない。何も分からないこの状況で何者かわからない者と敵対するのは是非とも避けたい。

(どうするかな・・・)

 こちらの意思が伝わらない。だが、集団で行動しているところを見ると知性は十分にあると思われる。
 できれば何とかこちらに害が無いことを伝えたい。
 悟は何とか方法が無いかと考えだし、またもやお互いに黙り込んでしまい変な空気になる。

 ―――プルプルプルルプルンプルプル

 考えている最中に先ほどからスライムがいつも以上にプルプルと震えていることに気が付いた。悟はそれを怯えていると判断し、いざというときに何時でも逃げられる用に抱え直した。

(安心してくれ。何があってもスライムさんだけは命に変えても守りぬくからな)

 そんな決意をして、この化け物集団に万が一襲われたとしても何時でも逃げられるように"準備"をする。すると―――

 ―――ゴトン

 突然、集団の方から硬く重い物が落ちたような音が発せられた。見ると化け物集団が持っているこん棒のような物が落ちた音だ。恐らくその者達の武器であるそれを次々と手放していく。
 訳の分からないまま悟が見ていると次の場面では―――

 ―――化物の集団が全員、ひざまづいていた。




 何がどうなっているんだ。
 なんでこいつらは跪づいているんだ?意味がわからん。

「ヴォオォオ!ヴォヴォッヴォオオォ!!」

 本当に意味が分からねぇな・・・
 何て言っているんだ?こいつら。
 何が何だかわからなすぎて普通に怖いんだが。

「あー、とりあえず皆さん落ち着いてください。とりあえず、立ち上がって貰えますか?」

「ヴォオ!!」

 ―――バッ!

 何でそんなに張り切っているんだよ、立つだけなのにいきおいつけすぎだろ。
 俺、何かしたか?挨拶と害がないアピールしただけなんだが・・・
 というか俺の言葉が通じてる・・・のか?一応、立ってくれという要望には答えてくれたが、向こうが何を言っているか解らないからどうも判断がつかんな。

「え、えーっと・・・ここら辺に俺みたいな人間が居るところを知っていますか?」

 とりあえず、気になることを質問してみた。
 向こうに俺の言葉が通じてるのかの確認と、人間について聞いてみる。俺は未だに現実には存在しないと思われるびっくり生物しか会っていない。
 もう外国とかというより世界そのものが違う所に来てしまった、と思い始めてる。バカげた話だが目の前の生物やスライムさんの事を考えるとその方が高い。そのため是非、人間の有無は確認しておきたい。
 そして出来ればこの異世界?に人間は存在していてほしい・・・

「ヴォオヴォ!?ヴォヴォヴォオオオヴォヴォォ!」

 集団の内の1体が草原の何も無い方向にゆびして何か言っている。これは、向こうに人間が居るって事を教えてくれてるという解釈で良いんだろうか?
 まぁ、次はどこに向かえば良いか分からなかった所だ。次の目的になる情報を貰えたのはとてもありがたい。
 たとえ、仮に人間がいなくても何かしらはあるだろう。考えなしに指を指した訳ではなさそうだったからな。

「そうですか、貴重な情報をありがとうございました。では、俺はこれで」

 お礼を言い、軽く手を上げてそそくさとその場を立ち去る。これ以上関わるとややこしい事になりそう、とか思っているのでやや早足でその場から離れる。教えてくれた事に対し、お礼をきちんと言ったから俺がこれ以上関わる必要もないだろう。
 一時はどうなることかと思ったが特に襲われることもないし、情報も貰えたし普通に良い奴らだった。少し不気味ではあったが。

 ん?何だ後ろから足音が聞こえる。まさか・・・いや、でも何故だ?
 疑惑ぎわくを明確にするために、真実を確認するために振り返る。
 するとそこにはさっきの集団がついて来ていた。

「ヴォ!」

 いや、何でだよ。何で、付いていてくるんだよ。俺は何かしました?
 そして何だ、その謎の眼差まなざしは!?
 なんかこう、「一生ついていきます!」みたいなキラキラとした目で見てくるのだが・・・

「・・・何でついてきているんだ?」

「ヴォ!ヴォオヴォヴォオォオ!」

「・・・・・」

 全然意味が分からん。
 う~ん。見た感じとても友好的?で、別についてくるのは嫌ではない、道案内をしてくれるというのは大変有難い。だから嫌ではないのだが、これは面倒くさそうだ。

「はぁ・・・まぁいいか」

 諦めたように化物の集団を受け入れる。
 付いてくるなら道中に少しでもこいつらの事を知る事ができれば、色々と新たな情報がえられるかも知れない。一応、メリットはある。

 そして俺は溜め息を吐きながら人間がいるであろう場所を目指し歩いて、行った。
 後ろに化物の集団を引き連れて。


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