死んだこともない癖に!〜第2の人生は人の心を癒してスローライフ〜

ノベルバユーザー227037

『人生』とは『死』である

 「命は大切にしなくてはいけない」って、小さい頃から教えられると思う。

 「死ぬくらいなら、死ぬ気でやれ」って、小さい頃から教えられると思う。

 けれどその『常識』は、本当に正しいのだろうか。その『常識』は誰によって作られどういう意味で伝えられたか、考えずに鵜呑みにしていないだろうか。



 僕は、そんな人間達を見ていると、なんだか可哀想に思えてくるのである。

 生きる為に必死で辛いことをして、病気になって苦しんで。それでどれだけ頑張っても死んで無になる。

 それって、虚しくない?
 どれだけ頑張っても、社会の糧となって知らない間に忘れられていくのだ。
 そんなの、悲しくない?



 どうせ、こんな適当な『常識』なんてものは、『これからの社会の糧となってもらわなくてはならない若者』をどうにか生き残らせる為に偉い人が作った呪縛ではないだろうか?

 
 現代の人類は、そんな呪いに呪われ、身動きが取れなくなっているのである。

 ほら、途端に可哀想に思えて来たろ?



 だから僕は、そんな呪縛から逃れる為に、生老病という苦しみから逃れる為に、この身に『死』を宿すのだ。

 どうか、放っておいてほしい。

 ここで死んだって、80歳で死んだって、どうせ50年もしたら完全に忘れられるんだ。

 50年後に忘れられなかったとしても、その2倍や3倍の年月が経ったら忘れられるんだ。

 なあ、君はひいひい曾祖父さんの名前と人生を覚えているかい?

 


 僕はここに、死ぬ事を誓う。

 自分の『常識』について考えたことのないお前らと、決別してやる。

 僕の事を分かろうとしない奴らに構っている暇はない。だから、次もし生まれてくるのなら、お前らみたいな馬鹿に生まれるか、孤児として生まれて来たい。

 だからどうか、放っておいてくれ。



         ○月△日 鈴村すずむら凛太りんた

 

◆◆◆◆◆



 大通りとは広い道というもので、その道は、時に、全世界の様々な人種が歩いている事がある。

 中国人だったり、白人や黒人、メスチソだって居ると思う。
 
 大通りとは、そういう『他の場所とその場所』の橋渡しのような役割をする。

 
 だからメインストリートなんて呼ばれるし、様々な人がいるというものだ。



 ーーーーーだから。ここはおそらく、大通りなんだろう。


 白人?のような真っ白な肌の男女や、焼けた肌のボディービルダーのような人もいる。

 ただ、黄色人と思われるような人は居なくって、けれど聞こえてくる声は全部日本語で。そんなどこか曖昧で適当な雰囲気が、ここが日本ではない事を象徴している。

 しかも、ここが日本でない事を示す大きなものが、俺の目を疑ってしまうほど大人数、それもさも普通のことのように街に馴染んでいるのである。

 
 ーーーーーー硬い鱗の『竜』のような顔をした人間が、まるで笑っているかの表情で、楽しそうに歩いている。
 

 


 僕は今、その大通りの交差点のような場所に、座っていた。もちろん地面に直接座っているわけじゃなくて、台のようなものに腰掛けているのだ。


 どうやら今座っていたのは、噴水の台のようであった。
 大通りが五本交わる、大通りのそれも中心の噴水のようであった。

 そのため、噴水の中には周りの風景には不相応な程目立つ純白の大きな銅像が建ててあった。



 左右を見渡すと、かなりの数の人の奥には、何やら店が見える。

 八百屋とか、青果店とか、とにかくいろんな店でごった返している。



 ーーーーーだけどそこで果物を買っているのは、『竜』の首の鱗人間。



 いや、いやいやいやいや、さすがにおかしいでしょこれは?
 僕は確か、近所のマンションの屋上から飛び降りたよな?それで確実に死んだはず……………


 だとしたら、この妙に生々しい感覚はなんだ?ここが天国や地獄だというのなら、なんでこんなにリアルなんだ?

 それでもってなんで僕はーーーー





 ーーーーーなんで女の子になってるんだろう。

 嘆くように俯くと、今僕が女の子になっている事がすぐに理解できた。


 まず、服装が違う。確か僕は、死ぬ時はTシャツに短パンという格好だったはずだ。
 なのになぜか今は、白い巫女?のような、少しオシャレ?な格好をしている。


 そしてその格好のせいで大胆に開いてしまっている胸元からチラリしているのは、2つの慎ましい山。

 女の人のソレと言うには少し控えめ過ぎるような気がするが、確かに2つ膨らみがあるのである。



 大きく垂れ下がって、無駄に長くなっている袖から覗く小さな掌で、胸を触ってみる。


 ムニムニ、と僕の手を柔らかに押し返してくる感触が、掌にじんわりと伝わって来た。


 …………股間も確認しなくてはいけないだろうか?しかし、もう既に僕を取り巻く環境全てが、僕は女の子だと言っている。
 
 …………心が持つか分からないから、このまま触らないでおこう……………





 ーーーーーーしかし。ここから僕は、どうすればいいのだろうか?何を目的として何をすればどうなるのだろうか?



 僕は一回死んだ。飛び降りて、自殺したんだ。『生』と言う苦しみから逃れることのできる『死人』となったのだ。

 そのはずなのに。


 僕は、こうして生きている。
 『生』から逃れるはずが、またもや『生』をやり直す事になったのだ。



 ーーーーーこれは、何かの罰だろうか?
 人生を全うする前に死んだから?お世話になった人に、迷惑をかけたから?

 …………なんで死んでからも罪を受けなくてはいけないんだ?それから逃げるために死んだって言うのに………………

 ーーーーーでも、この際それを考えても答えが易々と出てくるとは思えない。


 だから、まずは何をするべきか、目の前のことを考えるべきなのだと思う。
 第一、それ以外の方法は思いつかなかった。

 とりあえず立ち上がる。周りを見渡して、ここがどこなのか考えるーーーーー

 ーーーーーが、分かるはずもなく、やっぱり座り込んでしまう。

「どうしたもんかなぁ…………」
 1人の時というのは不安になるためか、思わず独り言をゴチてしまうのである。

 けれど、その不安を吹き飛ばす為に発した一言は、想像より2オクターブくらい高くて、その場でびくりしてしまう。

 急に耳元で可愛らしい女の子の声がするのだ、驚かないわけがない。



 とはいえ、結局それだけだ。驚いて、終わり。その場で身震いして思わず肩を抱いてしまうが、それも数分、またもや何もする事がなくなってしまう。


 しかし、何故女の子なんだ?もしこんな異世界に来るんだったら、普通はそのまま転生するものじゃないのか?

 女の子になった理由が全く分からなくて、熟考していた時だった。



「あぁ!やっと見つけましたよ新米心療士さん!!どこほっつき歩いてたんですか!?」
 この喧騒の中でもはっきりと聞こえるほどの高くてハッキリとした声。

 人を敬うために作られた敬語という日本の文化を、使いこなす真面目な言葉。

 だけど、どこか間抜けであった。

 

 俺は、『へぇ、ここの女の子って、日本人ぽい見た目しているんだな』なんて考えながら、視界の端にしか映っていない女の子をもう忘れて、またもや思考の海に潜った。


「ん?なんで無視するんですか?おーい、寝てるんですか?でも目が開いてますよ?」
 

 ……………全然ここから去る気配がしない。考えるのに支障をきたしてしまうほどバカ明るくて、バカうるさい。

 何をしてるんだ心療士とやら!こんな美人なお姉さんのことを無視するなんて!なんて事を考えながらまたもや思考の海にダイブ。



「おーい、なんで無視するんですかぁ?寝たふりならせめて目を閉じて下さいよー」
 そう言ってお姉さんが叩いたのはーーーー



 ーーーーー僕の肩。

「へ?な、僕ですか?」

「そうですよー!なんで無視するんですか?」

「えーっと……………何かの間違いじゃないんですか?」

「何を仰いますか!貴方様こそ、あの心療士でしょう!?その服を着ておいて、よもや違うとは言わせませんよぉー!」

 そう言ってお姉さんは俺の肩丸出しの巫女服?をつんつん、と指差す。



「いやなんと言いますか…………その、この格好は着たくて着ているわけじゃないって言うか…………」

 だって、気がついたら着ていたんだし。

 というか、こんな色んなところが丸出しな服、男である僕が着たいわけがない。

 が、しかし。そんな思いがまさか伝わるはずもなく、このお姉さんが引く様子はなかった。


「なんて事をっ…………!この試験に受かりたくて血反吐を吐きながら努力をする淑女達を踏み台にしておきながらっ!!」

 ……………どうやら僕は、このお姉さんを怒らせてしまったようである。

 ……………頬を膨らませて腰に手を置いているこのお姉さんは、到底怒っているようには思えないが。

「えーっと…………うーん、まず何で僕は怒られているのか分からないんですが………」

 僕は、まだここに来て数分。ここがなんていう国で、どういう世界なのかまだよく知らないのである。

 だから、その『試験』とやらの大切さも、いまいちピンとこなかった。

「もう!まあとにかく、行きますよ」

「えっ?どこに?」
 お姉さん強引に腕を引かれ、強制的に立ち上がらせられる。

 立ってみると思ったよりお姉さんは大きくて、少し威圧されてしまった。

「どこにって、決まっているでしょう?」
 そう言ってお姉さんは、ニッコリと笑う。


 元々綺麗に整っていたお姉さんの顔は、柔らかに歪んだ状態でもなお、芸術品のように美しくて、あたかも額縁で縁取られているかのような錯覚を起こしてしまった。


 まるで、太陽が、僕の目の前に現れたような、それくらいの眩しさであった。



「王様の所ですよ」
 

 

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